本研究は, 口腔がん術後患者へ有効とされる舌接触補助床 (PAP;Palatal Augmentation Prosthesis) の装着・未装着時の嚥下時舌運動動態を, 超音波画像診断装置を用いて検討することを目的とした。
対象は, 日本歯科大学附属病院口腔介護・リハビリテーションセンター受診患者2名 (症例1;口底がん術後・47歳男性, 症例2;下顎右側歯肉がん術後・77歳女性) である。対象者に, PAPの装着・未装着時に, 垂直座位姿勢で水1ccの嚥下を行わせ, 超音波画像診断装置 (東芝メディカル社製Nemio 17, SSA-550A) を用いて嚥下時舌運動の前額断描出を行った。解析項目は, 1) 舌中央部陥凹深度, 2) 古中央部陥凹時間, 3) 嚥下時総舌運動時間とし, 統計処理はWilcoxon順位和検定を用いた。また, 嚥下困難感, 日本語100音節発話明瞭度検査を行い, PAPの有効性を比較検討した。
その結果, PAP未装着時に比べて装着時は, 症例1, 2共に舌中央部陥凹時間が有意に (p<0.05) 延長を示した。また, 症例2では陥凹深度が有意に (p<0.001) 浅くなった。さらにPAPの装着によって, 両症例とも嚥下困難感と口本語100音節発話明瞭度が改善した。
切除手術による口腔内容積の増加に対し, PAP装着により腔内が適切に修復され, 嚥下機能の改善が認められた。この改善には舌中央部の陥凹形成の変化が影響している可能性がうかがわれた。
本研究の結果から, PAPの装着は, 嚥下時舌運動に有効であることが示された。またPAP装着時の評価手段の一つとして, 超音波画像診断装置の応用の可能性が考えられた。
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