本研究では,抗血栓療法患者に対して抗血栓薬内服継続下で抜歯を行った際の止血状態を調査した。対象は平成 21 年 4 月から平成 22 年 12 月までに笠岡第一病院歯科を受診した患者 41 名(抗凝固療法単独 15 名,抗凝固療法と抗血小板療法の併用 7 名,抗血小板療法単独19 名)とし,合計 94 回,157 本の抜歯を行い,後出血の件数を調査した。抜歯直前に測定した PT-INR 値は 1.0〜1.49が7件,1.5〜1.99 が 18 件,2.0〜2.49が8件,2.5〜2.99 が 5 件であった。3.0 以上は認めなかった。すべての抜歯において内服の減量および中止は行わず,抜歯窩へのゼラチンスポンジの挿入,縫合および圧迫止血を行った。全抜歯 94 件のうち,抗凝固療法単独症例で 1 件,抗凝固療法と抗血小板療法の併用症例で 1 件の計 2 件において後出血を認めた。抗血小板療法単独症例での後出血は認めなかった。いずれも圧迫止血および止血用シーネの使用により 30 分程度で止血可能であった。抗血栓薬の中止により,死亡例を含む血栓塞栓症のリスクが高まることが示されており,平成 22 年に歯科では初めてとなる「抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン」が作成され,血栓薬内服継続下での抜歯が推奨された。本研究の抜歯手技はそれに準じているが,抜歯後出血の割合はごくわずかで,起こった場合でも容易にかつ短時間で止血可能であったことから,ガイドラインにのっとり,抗血栓薬内服継続下での抜歯が可能であることが示唆された。
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