老年歯科医学
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27 巻, 1 号
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原著
  • ―咬合・咀嚼リハビリテーションのための義歯床サイズ提案―
    皆木 省吾, 柴田 豊文, 前田 直人, 坂本 隼一, 曽我 恵子, 兒玉 直紀, 西川 悟郎
    2012 年 27 巻 1 号 p. 3-9
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2012/08/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,口腔関連適応能力が低下した患者に対する下顎総義歯,咬合・嚥下床の床縁の長さに関する臨床的指標を具体的数値として得るために,口唇,頰および舌運動時に動揺することのない基礎床の広さを計測し,その特徴を報告することを目的とした。対象は,平成 22 年 1〜3 月の間に岡山大学病院補綴(咬合・義歯)科を受診した無歯顎患者(男性 4 名,女性 8 名,平均年齢 77.8±5.5 歳)および医療法人柴田病院に入院している無歯顎患者(男性 7 名,女性 9 名,平均年齢 85.8±6.9 歳)の計 28 名とした。各被検者について,舌尖での切歯乳頭圧迫,大開口,ならびに唇尖らし運動の3つの運動時に下顎基礎床が口唇,頰粘膜あるいは舌によって押し上げられることがないようその辺縁を削除調整した後に,床縁の長さを計測した。計測は,下顎正中部,左右側の頰小帯部,および左右側の臼歯部(頰小帯とレトロモラーパッドとの中点)の計 5 カ所において,歯槽頂から唇頰側床縁までおよび歯槽頂から舌側床縁までの床縁長を計測した。義歯頰舌(唇舌)径は男性では正中部で 8.4 mm,頰小帯部で 10.2 mm,臼歯頰側部で 13.7 mm であり,女性では正中部で 8.8 mm,頰小帯部で 11.0 mm,臼歯頰側部で14.7 mm であった。これらの値はいずれも男女間で有意差を認めず,平均値の差は最大でも 1mm以下であり,男女間で類似した値をとることが示された。
臨床報告
  • ―口腔所見,日常生活動作と生活意欲の経年的変化―
    小松 知子, 髙野 知子, 岡部 愛子, 李 昌一, 宮城 敦
    2012 年 27 巻 1 号 p. 10-17
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2012/08/20
    ジャーナル フリー
    関節リウマチ(RA)は,長期にわたる薬物療法が行われ,歯科治療時にはその副作用や併発疾患に注意が必要である。今回,長期口腔管理を行った1症例について,口腔所見および日常生活動作(ADL),生活意欲の経年的変化について評価したので報告する。35 歳の時に RA を発症し,56 歳で当科を受診した。初診時の口腔所見として開口障害があり,う蝕等のため要処置歯 11 本を認め,喪失歯は 2 本であった。頻回の通院が困難なため入院下集中治療にて処置および口腔衛生指導を行った。その後,歯科治療は必要に応じて行い,口腔衛生指導・管理は,患者および介助者の負担と口腔衛生状態から判断し,半年に 1 度,継続的に行った。関節の可動域を考慮して歯磨きの持ち方等を工夫し,自立磨き支援を行うことで,口腔清掃状態の改善を図った。75 歳現在,日常の口腔清掃は自立して行われ,下顎の義歯使用は困難なものの,喪失歯は 7 本であり,疾患背景を加味して考えるとある程度良好に保たれていると考えられた。初診時より移動に関する動作は低下していたが,整容,コミュニケーションに関連する ADL と生活意欲は高く維持された。長期経過した RA 患者は,薬剤の副作用等による併発疾患の状態を把握しながら,定期的な口腔管理を継続することが重要であると考えられた。このような長期にわたる管理は口腔のみならず全身機能の維持につながる可能性が示唆された。
  • 金子 信子, 野原 幹司, 浅埜 正人, 阪井 丘芳, 光山 誠
    2012 年 27 巻 1 号 p. 18-24
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2012/08/20
    ジャーナル フリー
    施設入所中の摂食・嚥下障害のある高齢者が安全に食事を摂取し,健やかに日常生活を過ごすには,食事支援を行う職員の摂食・嚥下に対する適切な知識が不可欠である。しかし施設職員はさまざまな業務を抱えて多忙であり,食事介助と同時に違う業務もこなさなければならない。さらに人材が不足しているにも関わらず,比較的安全に食事摂取している入所者に対して必要以上に食事介助をしている場面も散見される。このようなことから,施設職員に摂食・嚥下障害者の重症度と具体的な食事支援方法を明示する必要があると考え,食札にタグを付ける取り組みを行った。方法は,嚥下チームが摂食・嚥下機能評価を行い,誤嚥・窒息・低栄養のリスクを判定し,食札にタグを付けて明示した。加えて,具体的な注意喚起のコメントもタグに記載した。タグ対象となったのは 32 名で,内訳はリスクが最も高い赤タグ8名,次にリスクが高い黄タグ 12 名,緊急性は低いが積極的な経過観察が必要な緑タグ 12 名,具体的な注意コメントは 10 種類となった。施設職員からはタグがあることで食事介助が必要な摂食・嚥下障害者と日常生活での注意点が分かりやすくなった,新入職の職員がよく見て対応しているとの意見があった。食事リスク判定タグは摂食・嚥下障害者と具体的注意点を明確にし,施設職員が適切な食事支援が提供できる一助になると考えられた。
  • 豊田 眞仁, 皆木 省吾
    2012 年 27 巻 1 号 p. 25-29
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2012/08/20
    ジャーナル フリー
    本研究では,抗血栓療法患者に対して抗血栓薬内服継続下で抜歯を行った際の止血状態を調査した。対象は平成 21 年 4 月から平成 22 年 12 月までに笠岡第一病院歯科を受診した患者 41 名(抗凝固療法単独 15 名,抗凝固療法と抗血小板療法の併用 7 名,抗血小板療法単独19 名)とし,合計 94 回,157 本の抜歯を行い,後出血の件数を調査した。抜歯直前に測定した PT-INR 値は 1.0〜1.49が7件,1.5〜1.99 が 18 件,2.0〜2.49が8件,2.5〜2.99 が 5 件であった。3.0 以上は認めなかった。すべての抜歯において内服の減量および中止は行わず,抜歯窩へのゼラチンスポンジの挿入,縫合および圧迫止血を行った。全抜歯 94 件のうち,抗凝固療法単独症例で 1 件,抗凝固療法と抗血小板療法の併用症例で 1 件の計 2 件において後出血を認めた。抗血小板療法単独症例での後出血は認めなかった。いずれも圧迫止血および止血用シーネの使用により 30 分程度で止血可能であった。抗血栓薬の中止により,死亡例を含む血栓塞栓症のリスクが高まることが示されており,平成 22 年に歯科では初めてとなる「抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン」が作成され,血栓薬内服継続下での抜歯が推奨された。本研究の抜歯手技はそれに準じているが,抜歯後出血の割合はごくわずかで,起こった場合でも容易にかつ短時間で止血可能であったことから,ガイドラインにのっとり,抗血栓薬内服継続下での抜歯が可能であることが示唆された。
  • 金森 大輔, 藤井 航, 伊藤 友倫子, 渡邉 理沙, 永田 千里, 加賀谷 斉, 才藤 栄一, 水谷 英樹
    2012 年 27 巻 1 号 p. 30-35
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2012/08/20
    ジャーナル フリー
    口唇口蓋裂患者では器質的な問題のみならず,摂食・嚥下障害や構音障害などの機能的な問題が存在するため,本邦では口蓋裂が残存したまま成人を迎えることは非常に稀である。今回,われわれは未治療高齢口唇口蓋裂患者の構音,摂食・嚥下機能の改善に可撤性補綴装置を用いた症例を経験したので報告する。症例は 82 歳男性,義歯を紛失したため新義歯製作希望にて来院された。右唇顎口蓋裂児として出生後,幼少期に口唇形成術を施行されるも,口蓋裂に関しては放置され口蓋形成術は施行されていなかった。構音機能は器質的構音障害を認め,会話明瞭度3,重度開鼻声であった。食事は軟飯軟菜食と液体調整なしを摂取し肺炎などの既往はなかった。嚥下造影検査(VF)にて 50% W/V の液体バリウム 10 ml の誤嚥を認めた。上下顎は無歯顎であった。問題点として器質的構音障害と摂食・嚥下障害が考えられた。器質的構音障害に対しては鼻咽腔閉鎖を得るための顎補綴,摂食・嚥下障害に対しては,口腔準備期,口腔期を改善するための総義歯および舌接触補助床が必要と考えられ可撤性補綴装置の製作を行った。構音機能は会話明瞭度?,中等度開鼻声まで改善を認めた。摂食・嚥下機能に関しては,VF および嚥下内視鏡検査(VE)において口腔準備期,口腔期,咽頭期の改善を認めた。可撤性補綴装置の製作に VF や VE といった機能検査を用いることで,機能的な可撤性補綴装置の製作が可能であった。
教育ノート
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