老年歯科医学
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29 巻, 1 号
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原著
  • 東岡 紗知江, 比嘉 仁司, 本田 剛, 中道 敦子, 本釜 聖子, 永尾 寛, 市川 哲雄
    2014 年29 巻1 号 p. 3-10
    発行日: 2014/07/22
    公開日: 2014/08/15
    ジャーナル フリー
    加齢や服薬に伴う唾液分泌能の低下は摂食・嚥下障害や誤嚥性肺炎につながる深刻な問題であり,有効な対策が求められている。本研究では,柑橘系のにおい刺激と顎顔面周囲への温熱刺激の併用によって唾液分泌を改善する方法を試みた。今回の試験では,スダチのにおいを実際の患者の食事に応用するにあたって,量産可能な代替香料の有効性(実験1),および作用の持続(実験2)について検討した。対象者は,健常成人94 名(実験1:68 名,男性37 名,女性31 名,平均年齢24.3±2.1 歳,実験2:31 名,男性23名,女性8名,平均年齢25.5±3.9歳)とした。 におい刺激剤としてスダチ果皮より抽出したスダチ精油と,スダチの香気成分資料をもとに精製したスダチ風人工香料を用いた。温熱刺激には,使い捨て温熱アイマスク(めぐリズム蒸気でホットアイマスク®無香料,花王株式会社)を用いた。におい刺激の有無と温熱刺激部位別に8 条件を設定し,1 時間の唾液分泌量の変化を比較した。唾液分泌量の測定にはワッテ法を用いた。 安静時を基準とした唾液の増加率において,スダチ精油とスダチ風人工香料間で有意な差は認められなかった。刺激後1 時間の唾液分泌量の変化より,におい刺激は刺激当初に,温熱刺激は徐々に唾液量の増加を促すことが示された。食事時のリハビリテーションへの応用には,食事のタイミングや食事時間を考慮した刺激の組み合わせが有効であることが示唆された。
  • ―舌背,歯,頰粘膜―
    小笠原 正, 川瀬 ゆか, 磯野 員達, 岡田 芳幸, 蓜島 弘之, 沈 發智, 遠藤 眞美, 落合 隆永, 長谷川 博雅, 柿木 保明
    2014 年29 巻1 号 p. 11-20
    発行日: 2014/07/22
    公開日: 2014/08/15
    ジャーナル フリー
    要介護者の口腔粘膜にみられる付着物は,痰,痂皮,剥離上皮と呼ばれているが,上皮成分を主体とした付着物を剥離上皮膜と定義づけ,本研究にて,要介護高齢者の口腔内に形成された剥離上皮膜を部位別に形成要因を検討した。調査対象者は,入院中の患者のうち 65 歳以上の要介護高齢者 70 名であった(81.1±7.7 歳)。入院記録より年齢,疾患,常用薬,寝たきり度を調査し,意識レベル,発語の可否,介助磨きの頻度は担当看護師から聴取した。歯科医師が口腔内診査を行い,膜状物質の形成の有無,Gingival Index などを評価した。形成された膜状物質は,歯科医師がピンセットで採取した。粘膜保湿度(舌背部,舌下粘膜)は,粘膜湿潤度試験紙(キソウエット®)により 10 秒法で評価した。採取された膜状物質は,通法に従ってパラフィン切片を作製し,HE 染色とサイトケラチン 1 による免疫染色で重層扁平上皮か否かについて確認し,重層扁平上皮由来の角質変性物が認められたものを剥離上皮膜と判断した。剥離上皮膜形成の有無を従属変数として,患者背景・口腔内の 14 項目,疾患の 15 項目,常用薬の 32 項目,合計 61 項目を独立変数として部位ごとで決定木分析を行った。 すべての部位で剥離上皮膜の形成に最優先される要因は「摂食状況」であり,経口摂取者には,剥離上皮膜がみられなかった。第 2 位は舌背部で舌背湿潤度,頰部で開口,歯面の第 3位が開口であり,口腔粘膜の乾燥を示唆する結果であった。以上,剥離上皮膜の形成要因には口腔乾燥があり,保湿の維持が剥離上皮膜の予防につながると考えられた。
  • 青柳 佳奈, 佐藤 裕二, 北川 昇, 岡根 百江, 角田 拓哉, 高山 真理
    2014 年29 巻1 号 p. 21-28
    発行日: 2014/07/22
    公開日: 2014/08/15
    ジャーナル フリー
    質の高い全部床義歯治療のためには,義歯の維持・安定が重要である。従来からの義歯の維持力の評価方法は,大がかりな装置が必要であり,チェアサイドでの評価が困難であった。そこで,維持力を測定できるコンパクトな装置を開発した。 本報では,天然歯列者の口蓋床に,種々の介在液を応用し,維持力を測定することで,新たに開発した維持力測定装置の再現性を明らかにすることを目的とした。 金属スパチュラにひずみゲージを付与した維持力測定装置を開発した。被験者は健常な有歯顎者 14 名とした。被験者の口蓋床を製作し,口蓋と口蓋床の間に介在液として人工唾液・リキッドタイプ・ジェルタイプの三種類の保湿剤を使用した。10 秒以上口蓋床を口腔内に圧接し,一定の速度で牽引を行った。測定は各 5 回行った。口蓋床が脱離した時の荷重量を維持力とした。 維持力は,人工唾液,リキッド,ジェルの順で増加し,維持力は 0.9〜17.7 N までの値を示した。個人内の介在液別の測定値のSDは比較的小さくばらつきは少なかった。 三元分散分析で被験者間,被験者と介在液を比較したところ,有意な差が認められた(p<0.05)。繰り返しは,有意な差は認められなかった(p=0.346)。 大小さまざまな維持力が測定可能であることが示された。開発した維持力測定装置の口腔内での再現性は良好で,チェアサイドで使用可能であることが示唆された。
調査報告
  • 佐々木 健, 池田 和博
    2014 年29 巻1 号 p. 29-35
    発行日: 2014/07/22
    公開日: 2014/08/15
    ジャーナル フリー
    歯科訪問診療において,歯科医師が認知症患者対応に際し直面する課題や問題点を把握する調査を行った。北海道歯科医師会員から歯科医師 760 人を抽出(抽出率約25%)し調査対象とした。質問紙を用い,平成 22 年 1 月における歯科訪問診療実施の有無,歯科訪問診療対象患者に占める認知症患者の割合,他の医療・介護分野との連携状況,認知症患者への対応に際し直面する課題や問題点等などについてデータ収集した。同月に歯科訪問診療を実施した者のみを分析対象者とした。 分析対象者が実施した歯科訪問診療の対象患者の約 40%は認知症であった。 他の医療・介護分野との連携は,介護事業所・施設との間が 33〜35%,ケアマネジャーとの間が 16%であり,十分とは言いがたかった。 直面する課題や問題点については,「義歯関係の治療の場合,認知症のない方と比べかみ合わせの調整が難しい」75.3%,「言語によるコミュニケーションが難しい」70.0 %,「認知症を考慮した上で,療養上の指導を行うことが難しい」62.4%など,いずれの項目も頻度が高かった。 大半の歯科医師は認知症患者に手探りあるいは試行錯誤しながら対応しているものと推察され,歯科医療従事者向けに何らかの研修システムの導入が望ましいと考えられた。
  • 森崎 直子, 三浦 宏子, 薄井 由枝, 守屋 信吾, 原 修一
    2014 年29 巻1 号 p. 36-41
    発行日: 2014/07/22
    公開日: 2014/08/15
    ジャーナル フリー
    本研究は,在宅要介護高齢者の口腔機能について客観的指標を用いて現状を明らかにするとともに,舌尖口角付け運動能とその他の口腔機能評価との関連性を分析することを目的とした。 兵庫県在住の在宅要介護高齢者 183 名を対象に年齢,性別,要介護度,嚥下機能,舌圧,口唇力,舌尖口角付け運動能について調査した。嚥下機能は反復唾液嚥下テスト (RSST)で評価し,舌圧は JMS 社の舌圧測定器を用い,口唇力はコスモ計器の口唇力測定器リップデカムを用いて測定した。舌尖口角付け運動能については舌尖を左右の口角に繰返し交互に付ける動きを対象者に行ってもらい,5 秒間での実施回数を測定した。舌尖口角付け運動能と嚥下機能,舌圧,口唇圧との関連性は Pearson の相関係数および重回帰分析を用いて解析した。 RSST の平均値は 2.63±1.31,舌圧平均値は 23.11±10.89 kPa,口唇力平均値は 10.64±6.28 N であった。舌尖口角付け運動能の平均値は,6.13±2.78 回であった。舌尖口角付け運動能は RSST,舌圧,口唇力と有意な相関関係を認めた。さらに年齢,性別,要介護度の影響を調整するために重回帰分析を行ったが,相関分析と同様の関連を示した。 これらの結果から,在宅要介護高齢者において舌尖口角付け運動能は嚥下機能や舌圧,口唇力といった口腔機能評価項目と整合性が高いことが明らかとなり,舌尖口角付け運動能が口腔機能の簡便な評価指標として活用でき得る可能性が示唆された。
活動報告
  • ―在宅での VE を用いた摂食・嚥下障害の評価と胃エックス線装置のVF 装置への応用―
    齋藤 貴之, 原 豪志, 山崎 康弘, 小林 健一郎, 繁里 有希, 若狭 宏嗣, 吉岡 麻耶, 吉田 真由, 渡邉 真央, 大屋 喜章, ...
    2014 年29 巻1 号 p. 42-46
    発行日: 2014/07/22
    公開日: 2014/08/15
    ジャーナル フリー
    歯科医療従事者が在宅や高齢者施設において摂食・嚥下リハビリテーションの診療に携わる機会が増え,多職種間の連携,特に医科・歯科連携は不可欠となってきている。最近では胃瘻患者の定期的なスクリーニングテストの必要性が社会的にも取沙汰され,ますます連携の必要性が高まっている。 そこでわれわれは平成 25 年 11 月に提携医科クリニックと新小岩摂食・嚥下リハビリテーションセンターを設立し,協働で摂食・嚥下リハビリテーションの治療にあたることとした。現在設立から 3 カ月が経過し患者情報の共有,全身状態の管理や脱水,栄養の管理等で一定の成果がみられている。われわれの取り組みは,多くの医療機関に設置されている胃の造影用エックス線装置を VF 装置として応用したことや,後方支援機関の大学病院と連携して放射線技師等のスタッフに対して教育・研修を行い,摂食・嚥下リハビリテーションに対応できる人材を育成したことなど,既存の社会資源を活用したことが大きな特徴である。 このように従来の枠組みを少し変えるだけで摂食・嚥下障害の治療拠点を各地域に容易に設置できる可能性がある。今後各地域でこのような取り組みが実施されれば,摂食・嚥下障害を有する在宅療養者の定期的なスクリーニングテストと評価が可能になり,本来ある自身の摂食・嚥下機能を生かして,安心して口から食べることに寄与できる。
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