老年歯科医学
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26 巻, 3 号
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総説
原著
  • 塚本 末廣, 黒木 まどか, 日高 三郎
    原稿種別: 原著
    2011 年26 巻3 号 p. 291-297
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/04/10
    ジャーナル フリー
    口腔内の石灰化に対する影響を調べるために, 口腔乾燥症に適用される9種類の漢方製剤を用いてin vitroリン酸カルシウム沈殿物形成反応に対する効果をpH低落法で研究した。十全大補湯®だけが無定形リン酸カルシウム (ACP) 形成速度を抑制した。麦門冬湯®と白虎加人参湯®以外の7種類の漢方製剤は, ACPからハイドロキシアパタイト (HAp) への転換反応速度を対照の20~52%の範囲で抑制し, 誘導時間を2.0~7.1倍に延長させた。麦門冬湯®と白虎加人参湯®は誘導時間のみを1.5~1.7倍延長させた。エチドロン酸との比較から, 9種類の漢方製剤の歯磨剤や洗口剤に含まれる抗歯石剤としての可能性が示唆された。
  • 河合 利彦, 山内 義之, 舘村 卓
    原稿種別: 原著
    2011 年26 巻3 号 p. 298-307
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/04/10
    ジャーナル フリー
    寝たきり高齢者に対する口腔ケア中の循環動態は, 意識状態の良否や口腔周囲における過敏反応の有無によって変化することが想像されるものの, 検討された報告は, われわれが渉猟し得た範囲では見当たらなかった。口腔ケア中の循環動態が意識障害の程度および過敏反応の有無によって変化するか否かを, 収縮期血圧, 脈拍数, Rate Pressure Product (以下RPP) を用いて検討した。対象は, 一日中ベッド上で過ごし, 排泄, 食事, 着替えにおいて介助を要する障害老人の日常生活支援度 (寝たきり度) ランクCの高齢者とした。指示に従える従命可能群 (以下A群), 従命が不可能で口腔ケアに過敏な反応のない群 (以下B群), 従命が不可能で口腔ケアに過敏な反応がある群 (以下C群) に分類した。初回時口腔ケア中の収縮期血圧および脈拍数を連続測定しRPPを算出した。各群での口腔ケアの所要時間と循環動態の最大変動値の相関を調べた。A群は循環動態に大きな変動がなかった。しかしながら, B群は, 収縮期血圧およびRPPが減少し, C群では, 各々増加する傾向にあった。すべての群で脈拍数に大きな変動は認められなかった。C群において収縮期血圧の最大変動値と口腔ケアの所要時間に相関が認められたが, その他は認められなかった。寝たきり高齢者に対しての口腔ケアは, 従命が可能な場合には循環動態に対して大きな負担となることは少ないと考えられた。意識障害患者の場合は, 過敏反応がない患者では最初は緊張しているものの, 徐々に慣れていくことが考えられたが, 過敏反応がある場合には, 急激に血圧が上昇する可能性が高く, 偶発症に留意して行う必要性が示唆された。
  • 江刺 香苗, 菊池 雅彦, 下西 充, 岩松 正明
    原稿種別: 原著
    2011 年26 巻3 号 p. 308-318
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/04/10
    ジャーナル フリー
    高齢者における口腔内カンジダ菌と口腔衛生に関する各種要因との関連について検討することを目的に, 本研究を実施した。対象者は, 訪問診療を含む歯科診療を受診した70歳以上の高齢患者200名 (平均79.1±6.6歳, 男性82名, 女性118名) とした。カンジダ菌の検出には, カンジダ菌検出用簡易試験液·ストマスタットを使用した。頬粘膜を滅菌綿棒で擦過して採取した検体を37°Cで24時間培養後, 培地の色から陰性, 疑陽性, 陽性のいずれかに判定した。一方, 口腔衛生に関する要因として, 年齢, 性別, 住居および仕事の状況, 口腔に関する要因, 通院·歩行に関する要因, 全身疾患に関する要因の各項目について調査を行った。結果として, 口腔内カンジダ菌の検出に, 年齢や性別の影響は認められなかった。カンジダ菌は, 施設入所者, 仕事や身の回りのことをしない人, 口腔清掃不良者, 義歯装着者や現在歯数が少ない人, 通院·歩行が困難な人, 認知症や他の全身疾患がある人で多く検出された。しかし, 多変量解析によりカンジダ菌の検出に特に影響を及ぼす有意な要因として抽出されたのは, 口腔清掃状態, および仕事や身の回りのことを行う自立度と歩行能力であった。一方, カンジダ菌の重要なリスクファクターと考えられてきた義歯装着や, 認知症をはじめとする全身疾患は, カンジダ菌検出との間に強い関連が認められなかった。
  • 小田川 拓矢, 山本 健, 門松 伸一, 奥野 典子, 中川 洋一, 森戸 光彦
    原稿種別: 原著
    2011 年26 巻3 号 p. 319-326
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/04/10
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 唾液分泌量低下と自律神経活動量との関連を検索するために, 心拍変動 (Heart Rate Variability ; HRV) により評価した自律神経活動量と, 唾液分泌量に関連性がみられるかを検証することである。
    健常成人14名 (男性9名, 女性5名, 平均年齢30.6±3.8歳) を被験者とし, 同一被験者間で15分間の安静時唾液量と, 10分間の刺激唾液量を測定した。その際, 条件A : 安静時唾液量測定開始直後3分間, 条件B : 安静時唾液量測定終了直前3分間, 条件C : ガムテスト測定開始直後3分間, 条件D : ガムテスト測定終了直前3分間の計4条件にてHRV測定を行い, 唾液分泌量とHRV周波数解析結果との相関を検討した。また, 自律神経系活性を反映するHRV周波数解析から得たTotal power (TP), Low Frequency (LF), High Frequency (HF), LF/HFならびに分泌量への影響が考えられるBMIを説明変数とし, 唾液分泌量を従属変数とした重回帰分析 (ステップワイズ法) を行い, 唾液分泌量に影響する因子を検討した。安静時唾液量測定終了直前3分間, ならびにガムテスト測定終了直前3分間においてLF/HFに唾液分泌量との有意な相関が認められた。健常成人では唾液分泌量とLF/HFとの間に正の相関がみられた。HRVにより自律神経活動量が唾液分泌量に与える影響を評価できる可能性が示唆された。
  • -口腔機能向上プログラムの評価項目について-
    渡邊 裕, 枝広 あや子, 伊藤 加代子, 岩佐 康行, 渡部 芳彦, 平野 浩彦, 福泉 隆喜, 飯田 良平, 戸原 玄, 野原 幹司, ...
    原稿種別: 原著
    2011 年26 巻3 号 p. 327-338
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/04/10
    ジャーナル フリー
    われわれは平成22年度老人保健健康増進等事業「予防給付及び介護給付における口腔機能向上サービスの推進に関する総合的研究事業」において, 口腔機能向上のプログラムに運動器の機能向上, 栄養改善の各プログラムを組み合わせ提供した。そして各プログラムの効果への影響を検証したところ, 複合プログラムは単独プログラムに比べて, 要介護度の軽度化の割合が高く, 転倒骨折, 誤嚥性肺炎等の要介護状態となるリスクを低減し, 介護予防効果が高いことが示唆された。
    そこで複合プログラム提供時の口腔機能向上のアセスメント項目を集約し, サービス提供事業所の業務の効率化を図る目的で, 単独プログラムと複合プログラムに共通する特徴的な評価項目を仮説発見型の情報解析手法によって検討した。
    結果, 咬合圧とオーラルディアドコキネシスの/ta/の1秒間の回数, およびRSSTの積算時間の1回目, 口腔に関する基本チェックリストと口腔関連QOL尺度が共通した評価項目として検証された。以上の結果から, 口腔機能向上プログラムの実施に際しては, これらのアセスメント項目を用いることで複合プログラムの効果を効率よく抽出可能であることが示唆された。またこれにより看護師等専門職の負担が軽減し, 効果の高い複合プログラムの普及が期待される。
  • -改訂版長谷川式簡易知能評価スケールとの関連について-
    梅本 丈二, 坪井 義夫, 古谷 博和, 酒井 光明, 北嶋 哲郎, 喜久田 利弘
    原稿種別: 原著
    2011 年26 巻3 号 p. 339-345
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/04/10
    ジャーナル フリー
    レビー小体型認知症 (DLB) は, 認知症とパーキンソン症状を呈する疾患である。DLBの進行に伴い高頻度に出現する嚥下障害について, 詳細に調査した報告は少ない。そこで今回, DLBの認知機能障害と嚥下障害の関連性について検討した。対象は, 2009年7月からの3年間に嚥下機能を評価したDLB患者 (男性11名, 女性11名, 平均年齢77.9歳) とした。最大舌圧値は, 口腔内プローブを用いた簡易舌圧測定装置で測定した。また, バリウム含有ゼリー約3 gを嚥下させた嚥下造影検査 (VF) 映像から口腔通過時間を測定し, 嚥下障害スケールを用いて口腔期 (37点満点) と咽頭期 (60点満点) を評価した。認知機能は改訂長谷川式簡易知能評価スケール (HDS-R) によって評価した。舌圧を測定できた15名の平均最大舌圧値は16.1 kPaで, 22名の平均口腔期スコアは11.7点, 平均咽頭期スコアは13.4点, 平均口腔通過時間は25.6秒, HDS-Rの平均値は12.7点であった。HDS-Rと口腔期スコアの間には有意な相関関係を認めたが (R=-0.452, p=0.038), HDS-Rと咽頭期スコアの間には認めなかった (R=-0.236, p=0.279)。DLB患者は認知機能の低下と摂食·嚥下機能の低下が関連することが示唆され, 両機能を評価し食事摂取方法を調整する必要があると考えられた。
臨床報告
  •     
    尾口 仁志, 軽部 康代, 山本 健, 森戸 光彦
    原稿種別: 臨 床 報 告
    2011 年26 巻3 号 p. 346-353
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/04/10
    ジャーナル フリー
    体感異常症 (セネストパチー) は本来精神科の疾患であるが, 症状が口腔内に出現することから身体科である歯科を受診する機会が多く, 何らかの対応が求められる。最近経験した高齢者のセネストパチーと考えられた2症例から, 歯科医師における本疾患に対する対応について考察する。
    症例1 : 78歳, 男性。主訴は, 歯の裏側のエナメル質が溶けゴムのように伸びる透明なものが次から次に出るで, 精神科での治療を強固に拒否した。傾聴, 受容を中心として訴えを否定することなく本疾患の病像を具体的に説明し, 歯科領域にもあることを説明したところ, 症状に対する不安が解消した。薬物療法を併用したが病態自体に変化がなく, これ以上の歯科での治療には限界があることを伝え, 最終的にはスムーズに心療内科での治療を承諾し治療を依頼した。
    症例2 : 76歳, 男性。主訴は, 口の中から螺旋状のバネ, 毛, 棒のようなものが出てくるであった。脳外科, 耳鼻科, 歯科などを受診しているが, いずれも異常なしと言われていた。同様に本疾患について説明したところ, 話を聞いてもらえたとのことで当科での治療を希望した。3カ月後には, 気づき, 洞察が得られ治療を終了とした。
    本疾患に対する歯科の対応としては, 精神科医などとの密なリエゾン療法, または患者の了解が得られた段階で, 早期に精神科などに治療を依頼すべきであると考えている。そのためにも, 歯科医師の精神科的疾患に対する理解と心身医学の習熟が重要であると考えられた。
調査報告
  • -総合病院および福祉施設での口腔機能調査-
    山本 公珠, 長塚 明, 竹内 一夫, 宇佐美 博志, 宮前 真, 川村 重雄, 三原 こころ, 池戸 泉美, 村上 弘, 服部 正巳
    原稿種別: 調 査 報 告
    2011 年26 巻3 号 p. 354-361
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/04/10
    ジャーナル フリー
    全部床義歯装着者の咀嚼機能を明らかにすることを目的に, 咬合力と咬合接触面積および調査票を用いた主観的咀嚼能力と義歯使用状況を調査した。
    調査は医療法人社団S病院および社会福祉法人S会が運営する福祉施設群において, 上下無歯顎者 (男性35名, 女性90名, 平均年齢84.7±8.1歳) を対象に行った。そして, 義歯使用状況, 咀嚼についての評価, 義歯への総合評価, Dental Prescaleで測定した咬合力と咬合接触面積, および30品目から構成される調査票を用いた咀嚼能力について調査した。
    その結果, ほとんどの人が義歯を使用し, また義歯使用年数は平均約10.7年と長く, 咀嚼についての評価と義歯への総合評価は比較的高かった。咬合力の平均は127.8±95.9N, 咬合接触面積の平均は3.7±3 mm2と小さく, 義歯の長期使用による咬耗の影響が示唆された。また, 咀嚼についての評価および義歯への総合評価との関連性はみられなかった。調査票による咀嚼能力では, かめる食品数の平均は21品目と比較的高く, さらに, 咀嚼についての評価および義歯への総合評価が高いほど有意にかめる食品数が増え, その関連性が明らかになった。
  • 鶴巻 浩, 勝見 祐二, 黒川 亮
    原稿種別: 調 査 報 告
    2011 年26 巻3 号 p. 362-368
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/04/10
    ジャーナル フリー
    歯科口腔外科を有する病院併設の施設入所者に対する歯科治療について実態調査を行い, 今後の適切な治療提供体制や方向性について検討を行った。対象は2007年1月から2009年12月までの3年間に新潟中央病院歯科口腔外科を初診した病院併設の介護老人保健施設入所者63名 (男性19名, 女性44名)。受診者の平均年齢は83.2歳で, 男性が75.6歳, 女性が86.4歳であった。期間中新規入所者の受診率は58.0%と半数以上を占めていた。全身疾患については, 高血圧症や心疾患などの循環器疾患が57.1%と過半数にみられており, 次いで脳血管疾患が42.9%にみられた。なお, 抗血栓薬を内服している患者は34.9%であった。受診理由は義歯不適合が圧倒的に多く, その他, 義歯破損, 義歯紛失など義歯に関連するものが多くを占めていた。治療内容については, 義歯の修理ないし調整処置を要した患者は81.0%で, 義歯新製に関しても55.6%に行われていた。歯冠修復は31.7%, 歯冠補綴, 根管治療はともに20.6%に行われていた。歯周治療は50.8%に行われたが, 有歯顎者についてみると約8割の患者で行われていた。抜歯は63.5%に行われていた。認知症等により意志の疎通が十分ではない場合でも, 治療に対してある程度の協力性が得られる傾向がみられた。治療途中で中断となった患者は20.6%であった。入所期間の長期化等の社会情勢を鑑みれば, 今後, 施設入所の要介護者に対しても予後を考慮した歯科治療の提供を心がける必要性が高まるであろう。
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