老年歯科医学
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31 巻, 1 号
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ガイドライン
原著
  • 前田 豊美, 黒木 まどか, 貴島 聡子, 知念 正剛
    2016 年 31 巻 1 号 p. 9-17
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2016/07/23
    ジャーナル フリー

     とろみ調整剤の保湿能力を評価する目的で,とろみ調整剤と口腔保湿剤の水分保持能力をin vitroで比較した。とろみ調整剤つるりんこQ®,キサンタンガム,デキストリン,口腔保湿剤のウェットケア®,オーラルリフレジェル®を用いて,粘度測定はSV-10とViSmartで行い,水分保持能力はろ紙試験法で評価した。濃度範囲1.5~3.0%(w/v)のとき,つるりんこQ®,キサンタンガム,デキストリンの粘度は,それぞれ60.8~210 mPa・s,526~1,307 mPa・s,0.76~0.82 mPa・sであった。口腔保湿剤のウェットケア®とオーラルリフレジェル®の粘度は,それぞれ1.19 mPa・sと1.37 mPa・sであった。残存水分量変化カーブから蒸留水,ウェットケア®,0.3%(w/v)デキストリン,3.0%(w/v)デキストリン,1.5%(w/v)ヒアルロン酸がパターンⅠ,0.3%(w/v)つるりんこQ®,0.3%(w/v)キサンタンガム,オーラルリフレジェル®がパターンⅡ,3.0%(w/v)つるりんこQ®がパターンⅢ,3.0%(w/v)キサンタンガムがパターンⅣであった。水分保持能力はパターンⅠ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳの順に強くなった。また,3.0%(w/v)つるりんこQ®の残存重量率は1.3%であった。これらの結果から,濃度1.5~3.0%(w/v)のつるりんこQ®はウェットケア®とオーラルリフレジェル®の,それぞれ51.1~176倍,44.4~153倍の非常に高い粘度で,それらよりも強い水分保持能力を有し,乾燥残留物は僅少である可能性が示唆された。

  • 白部 麻樹, 平野 浩彦, 小原 由紀, 枝広 あや子, 渡邊 裕, 吉田 英世, 大渕 修一
    2016 年 31 巻 1 号 p. 18-27
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2016/07/23
    ジャーナル フリー

     近年,高齢者の現在歯数は増加傾向にあり,それに伴い罹患するリスクが高くなる歯周疾患に関する調査は重要であると考えられるが,地域在住高齢者を対象とした報告は少ない。そこで,本調査は都市部在住高齢者を対象に歯周疾患の実態を把握し,Community Periodontal Index(地域歯周疾患指数,以下CPIと記す)のコードが高値に判定される要因を検討することを目的とした。対象は東京都I区の来場型健診を受診した65歳以上の都市部在住高齢者206名(男性76名,女性130名,平均年齢72.7±5.4歳)とした。調査項目は,現在歯数,CPI,歯周病原菌検査などの歯科項目,歯磨き習慣や歯科医院受診の有無などの歯科関連情報,全身疾患および服薬状況,喫煙習慣,認知機能評価(MMSE)などであった。調査の結果,CPIコード4の者が26.7%,CPIコード3の者が48.1%であった。現在歯数を20歯で分け,CPIコードが高値と判定される要因について検討したところ,20歯未満群では,糖尿病の既往と舌苔の付着が,20歯以上群では,高血圧が独立した関連要因として挙げられた。したがって,現在歯数が20歯未満の者に対しては,歯面に付着したプラークのみならず舌苔も含めたセルフケア確立の重要性,20歯以上の者に対しては,高血圧などの全身疾患の既往に配慮した歯周疾患アプローチが必要であることが示唆された。

  • ―高齢者介護施設職員と歯科衛生士ボランティアの比較―
    横塚 あゆ子, 隅田 好美, 福島 正義
    2016 年 31 巻 1 号 p. 28-38
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2016/07/23
    ジャーナル フリー

     特別養護老人ホームにおける施設職員および歯科衛生士による口腔清掃の時間分析と清掃効果を比較評価した。東京都内A施設の施設職員5名(介護職員4名,看護師1名)および歯科衛生士6名を口腔清掃実施者とし,入居者18名(年齢68~101歳)を口腔清掃対象者とした。入居者の要介護度は4~5であった。口腔清掃実施者に対して口腔清掃に関する質問紙調査を行い,さらに口腔清掃の様子をビデオ撮影して清掃過程の時間を分析した。口腔清掃対象者に対しては口腔診査を行い,口腔清掃前後の口腔清潔度を多項目唾液検査システム(AL-55,ライオン社製)によるアンモニア量で評価した。統計分析にはt検定を用い(有意水準5%),相関の分析にはPearsonの単相関係数を求めた。質問紙調査では全員が口腔清掃の目的は誤嚥性肺炎の予防と回答した。口腔清掃の自己申告時間は歯科衛生士のほうが長く,口腔清掃の自己評価点は介護職員が低かった。口腔清掃の実測総時間は施設職員が1分33秒~3分59秒,歯科衛生士が3分57秒~15分52秒であった。歯科衛生士は口腔内観察を必ず行っていた。全職種による1回の口腔清掃前後のアンモニア量は有意に低下していたが,職種間で差はなかった。これらの結果より,施設職員より歯科衛生士のほうが口腔清掃にかける時間が長かった。全職種が行う口腔清掃に効果はあったが,職種間に差はなかった。

  • ―歯科疾患実態調査による―
    那須 郁夫, 中村 隆
    2016 年 31 巻 1 号 p. 39-50
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2016/07/23
    ジャーナル フリー

     1957年から2011年までの厚生労働省歯科疾患実態調査資料を用いて,日本人の1人当たり永久歯歯数の推移を記述疫学的に観察するとともにAge-Period-Cohortモデルによるコウホート分析を実施した。

     歯数の65歳における等計量線は,1957年から1975年調査までは,男性で13~15本,女性で9~10本であったが,2011年では男女とも20本を超えた。40歳以降の他の年齢階級でも,1987年調査まで3~5本男性のほうが多かった成人歯数の性差は,2011年にはほとんどなくなった。

     コウホート分析から,年齢効果は3効果のうちで最もレンジが大きく,歯数と年齢とは関係が深かった。時代効果は,1975年から1987年調査を底にその後増加傾向にある。この傾向は女性のほうが強い。コウホート効果は,1900年以前に生まれた世代で低く,1930年生まれ以降1975年生まれ世代まで高い水準で推移する。ここでも女性のほうが改善幅が大きかった。

     以上,歯数の減少は年齢効果によるものが大勢を占めるものの,1993年調査以降,全年齢層にわたって調査が進むにつれて歯数の増加改善が観察された。この改善の速度は女性のほうが男性より速かった。このため,2011年時点における成人の歯数は男女の差はなくなり,今後この傾向が続けば,成人男女の歯数は逆転して女性のほうが多くなることが予測される。したがって,ここでわが国が取るべき歯科保健施策は,ポピュレーションアプローチとして,特に男性の歯科保健への関心を高め歯数維持を実践するための施策を打ち出すことであると考えられる。

     加えて高齢者の歯数の増加傾向により,歯科保健・医療の質的のみならず量的変化がもたらされることが予想される。

臨床報告
  • 乾 明成, 伊藤 良平, 小山 俊朗, 田村 好拡, 長内 俊之, 佐竹 杏奈, 野口 貴雄, 石崎 博, 小林 恒
    2016 年 31 巻 1 号 p. 51-57
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2016/07/23
    ジャーナル フリー

     65歳以上の高齢者における顎関節脱臼の特徴を明らかにするために,2004年4月から2014年3月までの過去10年間に当科を受診した顎関節脱臼51例に対して臨床統計的に検討を行った。全症例のうち若年層は26例で,平均年齢は32.0歳であった。高齢者は25例で,平均年齢は78.1歳であった。性別は若年層で男性11例(42.3%),女性15例(57.7%)であり,高齢者で男性5例(20.0%),女性20例(80.0%)であった。来院経路は若年層,高齢者ともに医科からの紹介が最も多く,それぞれ14例(53.8%),17例(68.0%)であった。若年層は急性脱臼が8例(30.8%)であり,発症契機は欠伸が10例(38.5%)を占めた。高齢者は脱臼様式では習慣性脱臼が23例(92.0%),発症契機は不明が17例(68.0%)を占めた。なんらかの全身疾患を有していた者は,若年層で13例(50.0%),高齢者で23例(92.0%)であった。高齢者は精神神経系疾患が13例(52.0%)と最も多く,脳血管障害が7例(28.0%)であった。治療法は若年層では徒手整復後の経過観察が25例(96.2%),高齢者ではチン・キャップによる開口制限が12例(48.0%)で最も多かった。いずれも治療後は良好な経過を得られた。

調査報告
  • 佐野 淳也, 中根 綾子, 高島 真穂, 戸原 玄, 武藤 徳男, 小野 武也, 栢下 淳
    2016 年 31 巻 1 号 p. 58-65
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2016/07/23
    ジャーナル フリー

     目的:要介護高齢者は摂食嚥下障害を有する人が多く,摂取可能な形状が限られるため低栄養に陥りやすい。嚥下調整食の調理では,食品に水を多く含有させて軟らかく仕上げるため栄養が希釈されてしまう。そこでたんぱく質含有量が多いが高齢者が摂取しにくい肉や魚に対し,効率的なエネルギー源である油脂を添加してテクスチャーを調整した嚥下調整食品の咀嚼特性に関して,物性測定,官能評価,筋電図測定を用いて検証した。

     方法:肉と魚より鶏肉とかまぼこを選び,それぞれ油脂を添加した試料(油脂あり),添加しない試料(油脂なし)を調製した。物性は硬さ,凝集性,付着性を,官能評価は食べやすさに関する6項目を評価し,筋電図測定より咀嚼回数,咀嚼時間,咀嚼周期,嚥下回数を求め,油脂の有無による差を解析した。

     結果:物性測定では,鶏肉,かまぼこともに油脂ありが油脂なしより有意に軟らかくなった(p<0.05)。官能評価では,鶏肉,かまぼこともに,油脂ありが油脂なしより有意に軟らかく,なめらかで,まとまりやすく,飲み込みやすいという評価を得た(p<0.05)。筋電図測定では,鶏肉の油脂ありが油脂なしに比べて,咀嚼回数,咀嚼時間,咀嚼周期が有意に減少した(p<0.05)。

     結論:本研究結果より,食品に油脂を添加することで咀嚼への負担が軽減されることが示唆された。今後,咀嚼困難者を対象とした嚥下調整食の調製方法として油脂の応用が期待される。

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