老年歯科医学
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33 巻, 3 号
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学会の沿革
総説
原著
  • 木戸田 直実, 相田 潤, 三浦 宏子, 小坂 健
    2018 年33 巻3 号 p. 335-343
    発行日: 2018/12/31
    公開日: 2019/01/31
    ジャーナル フリー

     本研究では,介護老人保健施設を対象に管理職である施設長,事務長の口腔健康管理に対する関心度と口腔衛生管理体制加算の算定状況との関連性について検証した。

     1,806施設に対し,自記式質問票を郵送し,ポアソン回帰分析で,施設長または事務長が口腔健康管理に関心がある施設で口腔衛生管理体制加算を算定しているかのprevalence ratio(PR)を算出した。入所定員数,平均要介護度,敷地内の歯科の併設の有無,歯科医師・歯科衛生士の配置,口腔ケアマニュアルの有無,職員の口腔ケア研修の参加・実施,歯科検診を受ける機会,歯科訪問診療の利用を共変量として調整をした。

     510施設から回答を得た(回収率28.2%)。口腔健康管理に施設長が関心「あり」の場合では67.4%,事務長が関心「あり」の場合では67.7%の施設で口腔衛生管理体制加算の算定をしていた。ポアソン回帰分析の結果,施設長が関心「あり」の場合ではPR=1.32(95%CI:1.07~1.63),事務長が関心「あり」の場合ではPR=1.29(95%CI:1.08~1.53)であり,施設長または事務長が口腔健康管理に関心がある施設で加算算定率が有意に高かった。

     口腔衛生管理体制加算の算定には,口腔健康管理への関心がある施設長,事務長がいる,敷地内に歯科の併設がある,歯科衛生士の配置がある,歯科検診を受ける機会を有していることが有意に関連しており,施設長,事務長の口腔健康管理への関心が特に重要であることが示唆された。

  • ―信頼性と妥当性の検討―
    原 修一, 三浦 宏子
    2018 年33 巻3 号 p. 344-349
    発行日: 2018/12/31
    公開日: 2019/01/31
    ジャーナル フリー

     目的:後期高齢者歯科健診などの地域歯科保健活動での活用を目指して,タブレット端末を用いたオーラルディアドコキネシス(ODK)の評価アプリケーションを開発し,信頼性と妥当性を検証した。

     対象と方法:アプリケーションの開発においては,集団歯科健診にも活用できるように,iPadでのプログラムとし,集音においてはiPadの内蔵マイクと外部マイクのどちらでも集音可能な設計とした。このアプリケーションの信頼性は,同一ODK音声の繰り返し測定による精度を用いて確認した。妥当性の検証は,高齢者を対象とし,ICボイスレコーダーで集音し音声分析ソフトで解析したODK(IC法)との比較により行った。

     結果:10回の繰り返し測定による精度は,±1回の範囲内(標準偏差±0.0~0.52)であった。一方,開発アプリケーションとIC法で測定したODK回数の級内相関係数(ICC)は,/pa/では0.68,/ta/では0.79,/ka/では0.85と,おのおの有意な相関が認められた(p<0.001)。また,タブレット端末に外部マイクを付加した場合のICCは,/pa/で0.86,/ta/で0.92,/ka/で0.86と,高い相関が得られた(p<0.001)。

     結論:これらの結果より,開発したODK評価アプリケーションは簡便性に優れ,集団健診などの高齢者歯科保健活動において,十分な信頼性と妥当性を有することが示唆された。

調査報告
  • 尾崎 由衛, 梶原 美恵子, 柴田 佳苗, 梅本 丈二
    2018 年33 巻3 号 p. 350-357
    発行日: 2018/12/31
    公開日: 2019/01/31
    ジャーナル フリー

     目的:口腔機能低下症の定義と診断基準が発表され,機能低下へのアプローチの必要性が広く認識されてきた。今回,高齢者施設利用者を対象に検査を行い,現在定められている基準での要介護高齢者における口腔機能低下症罹患率の検討を行った。また,検査が実施できた者と実施が困難であった者の比較検討を行った。

     方法:高齢者施設利用者88名を対象として,患者の属性を示す基本項目の聴取と口腔機能精密検査7項目を実施した。各項目の実測値が評価基準に該当する場合を「該当」とし,検査の実施が困難であった場合を「不可」とした。現在の診断基準に従い全7項目中3項目以上該当した者を口腔機能低下症とし罹患率を算出した。また,「不可」を含む群と含まない群の日常生活自立度,栄養状態(BMI)を比較検討した。

     結果:「不可」を1項目以上有する者は25名(28.4%)であった。「不可」の項目を「非該当」とした場合,口腔機能低下症の罹患率は89.8%となり,「不可」の項目を「該当」とした場合には98.9%となった。結果に「不可」を含む群は含まない群よりも要介護度の高い者,日常生活自立度が低い者の割合が有意に高かった(p<0.001)。

     結論:高齢者施設を利用している要介護高齢者の多くが口腔機能低下症に該当していることが確認された。今後,対象者に合わせた検査法の選択や実施が困難であった場合の結果の処理法の検討が必要と考えられた。

  • 久松 徳子, 三串 伸哉
    2018 年33 巻3 号 p. 358-365
    発行日: 2018/12/31
    公開日: 2019/01/31
    ジャーナル フリー

     近年,日本は高齢化が加速し,急性期病院での高齢患者の受診,入院の割合も増加している。今回,嚥下機能評価目的にどのような診療科が紹介するのか,4大死因のうち心疾患・肺炎・脳血管疾患での紹介状況や食事摂取状況をみる目的で調査を行った。また老年医学会や老年学会での提言:准高齢者,高齢者,超高齢者での分類により,どのような傾向がみえるのか検討した。

     年齢別紹介人数より,超高齢者の受診も確実に増加傾向であった。診療科別紹介人数では,超高齢グループが高齢による誤嚥リスク上昇のため紹介が多かったと思われる。入院から1週間以内での紹介の診療科は,脳血管疾患や肺炎に関連する診療科が多い傾向にあるが,超高齢グループでは肺炎に関連せず,皮膚科・アレルギー科,腎臓内科,消化器内科などで,超高齢による誤嚥リスクに対する慎重な対応の結果と思われる。紹介までの日数が長かったのは,担当診療科の加療に時間を要し,長期経口摂取を行っていなかったためと考えられる。また,超高齢グループで他グループより短期間での紹介が多かったのは,診療科の加療に比較的時間を要さない症例が多かったことによると考えられる。年齢区分別グループでの疾患の分布状況は,高齢になるほど多くの全身疾患を有していることを反映していた。死亡退院であっても嚥下機能評価により適切な食形態で摂取することが,最期まで口から食べることをサポートできたことにつながったと思われる。

  • 森野 智子, 戸畑 温子, 溝口 奈菜
    2018 年33 巻3 号 p. 366-372
    発行日: 2018/12/31
    公開日: 2019/01/31
    ジャーナル フリー

     口腔機能の低下を防止することにより,身体フレイル予防効果が期待されている。しかし口腔機能向上訓練は単調であるうえ評価が困難であり,その継続には支援が必要である。そこで,美味しく楽しく医療費のかからない訓練飴を口腔機能向上訓練へ適用することを考え,健常者を対象に飴舐め訓練の口腔機能向上効果を検証するパイロットスタディを実施した。

     研究対象は協力企業社員50歳以上男性職員30人で,はじめに基礎情報と口腔状況を調査した。口腔状況調査項目は,口腔不潔,口腔乾燥,舌口唇運動機能低下,低舌圧,嚥下機能低下である。被験者中から無作為に選んだ15人(介入群)に2週間介入を実施した。介入方法は毎日1本の飴舐め訓練である。被験者介入群への飴舐め訓練指導は,歯科衛生士が著者らの提案した飴舐め法を紙面で示し,実際に舐めてもらう個別指導形式で実施した。残り15人(対照群)には通常どおりの生活を送ってもらい,2週間後両群の口腔状況を調べた。二元配置分散分析の結果,実験条件(介入群と対照群)と測定時期(介入前と介入2週間後)に交互作用はなく,介入群と対照群に有意な差が認められたのは舌圧であった(F=6.510,p=0.01)。介入前舌圧値がこれまで報告されている低舌圧の基準値より高かったにもかかわらず,飴舐め訓練で短期間に機能向上が得られたことは注目に値する。舌圧の維持改善は,咀嚼,嚥下,コミュニケーションに重要であることから,訓練飴を用いた口腔機能訓練で舌圧が維持改善されることは,全身の健康に寄与することが期待できると考える。

活動報告
  • ―無歯顎の入院患者に対する粘膜ブラシの効果―
    仲程 尚子, 武井 典子, 新垣 智子, 比嘉 良喬, 石井 孝典, 高田 康二, 深井 穫博
    2018 年33 巻3 号 p. 373-377
    発行日: 2018/12/31
    公開日: 2019/01/31
    ジャーナル フリー

     近年,病院や施設において口腔ケアの重要性の認識が高まっているが,その有効な方法についての検討は少ない。無歯顎の入院患者や要介護者に対しては,ガーゼやスポンジブラシを用いた「口腔清拭」が行われており,粘膜ブラシを用いた「口腔清掃」は行われていないのが現状である。そこで今回,急性期病院における口腔衛生管理法の確立を目指して,無歯顎の入院患者を対象に口腔清拭から口腔清掃に変更してその効果を検討した。

     対象者は,無歯顎の入院患者で入院後から看護師による口腔清拭を行っていた患者61名(男性14名,女性47名,64~102歳,平均年齢89.1±7.1歳)である。口腔清拭から口腔清掃へ変更した効果は,①細菌カウンタによる細菌数,②シルメル試験紙による唾液湿潤度検査,③訪室した際の口唇閉鎖の有無により検討した。初回の評価は,病状が落ち着き,医師より歯科衛生士による検査などの介入の了解が得られた入院13.5±18.3日後に行った。その後,歯科衛生士が指導を行い,口腔清拭から粘膜ブラシを用いた口腔清掃に変更して2週間経過後に介入後の評価を行った。

     その結果,①細菌カウンタによるレベル4以上の患者数が減少(p<0.01),②唾液湿潤度が改善(p<0.01),③口唇閉鎖の状態の改善傾向がみられた(NS)。今回の結果から,病状の安定後において看護師による粘膜ブラシを用いた口腔清掃が有効である可能性が示唆された。

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