老年歯科医学
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37 巻, 4 号
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総説
原著
  • 近藤 佳苗, 藤井 航, 田村 暁子, 近藤 祐介, 正木 千尋, 細川 隆司
    2023 年 37 巻 4 号 p. 288-297
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル フリー

     目的:本研究は,非経口摂取患者における口腔衛生管理後の口腔湿潤度を経時的に測定し,その経過と全身状態や服用薬剤などの関連について明らかにすることを目的とした。

     対象:北九州市内の急性期総合病院に2020年9月から2021年3月に入院した患者のうち,非経口摂取患者で安静時の開口と口腔乾燥の所見が認められた103名(男性55名,女性48名,平均年齢84.5±8.6歳)とした。

     方法:口腔水分計ムーカス®を用いて,口腔衛生管理前,口腔湿潤剤塗布直後,塗布1時間後,塗布2時間後,塗布3時間後に口腔湿潤度を計測した。対象者の基本情報は,電子カルテより抽出した。経時的な口腔湿潤度の評価を行うとともに,口腔湿潤度の変化に関連する因子について,二項ロジスティック回帰分析を用いて検討した。

     結果:非経口摂取患者において,口腔衛生管理後の口腔湿潤度は,時間が経過するに従って低値を示した。二項ロジスティック回帰分析の結果,利尿剤(p=0.012)と去痰剤(p=0.033)は口腔湿潤度を低下させる因子であることが示された。

     結論:非経口摂取患者において口腔衛生管理後の口腔湿潤度は,時間が経過するに従って低値を示した。利尿剤と去痰剤を使用している場合は口腔湿潤度の経過に注意が必要であることが示唆された。

  • 原田 真澄, 森田 浩光, 牧野 路子, 中島 正人, 小島 寛, 平塚 正雄
    2023 年 37 巻 4 号 p. 298-304
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル フリー

     目的:回復期脳卒中患者の摂食嚥下障害の重症度と口腔環境との関連性を検討することを目的とした。

     方法:対象は,2016年3月1日~2020年1月31日までの期間に回復期リハビリテーション病棟に入院した脳卒中患者299名とした。調査項目は,年齢,性別,脳卒中の病型,摂食嚥下能力のレベル(Food Intake LEVEL Scale:FILS),Functional Independence Measure(FIM),Body Mass Index(BMI),血清アルブミン値(血清Alb値),Oral Health Assessment Tool(OHAT)とした。入院時のFILSにより摂食嚥下障害の重症群(FILS<7)と軽症群の2群に分けて比較した。

     結果:摂食嚥下障害の重症群は,軽症群に対して入院時のOHAT合計スコアは有意に高値であり(p<0.05),FIM,血清Alb値は有意に低値であった(p<0.05)。OHATによる口腔環境の評価では,重症群は軽症群に対して口唇,舌,歯肉・粘膜,唾液,口腔清掃の各スコアが有意に高値であった(p<0.05)。多重ロジスティック回帰分析の結果,入院時の摂食嚥下障害の重症度に関連する因子は,OHAT,FIMおよび血清Alb値であり,OHATのオッズ比は5.170(95%信頼区間2.239~11.941),FIMのオッズ比は9.806(95%信頼区間:4.164~23.095)であった。また,入院時のOHAT下位項目のうち摂食嚥下障害の重症度に関連する因子は,口唇と舌であり,口唇のオッズ比は7.846(95%信頼区間:3.771~16.325),舌のオッズ比は5.751(95%信頼区間:2.850~11.605)であった。

     結論:本研究の結果から,回復期脳卒中患者の摂食嚥下障害の重症度に関連する因子として,入院時のFIMと口腔環境が関連していることが示唆された。

調査報告
  • ―社会医療診療行為別統計との比較―
    佐藤 裕二, 古屋 純一, 畑中 幸子, 内田 淑喜
    2023 年 37 巻 4 号 p. 305-311
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル フリー

     抄録:目的:当診療科では,2018年4月から2022年9月までの4年半にわたり,積極的に口腔機能低下症の検査・管理を行ってきた。そこで,社会医療診療行為別統計と,当科における算定状況とを比較することで,口腔機能低下症の検査・管理を充実させるための基礎データを得ることを目的に本調査を行った。

     対象と方法:2019年,2020年,2021年,2022年の6月に発表された社会医療診療行為別統計および2018年4月以降の当科における口腔機能低下症の検査(咬合力,咀嚼能力,舌圧)・管理の算定状況を調査した。

     結果:咬合圧検査以外は件数および65歳以上の算定率も増加した。しかし,社会医療診療行為別統計における前年からの増加率は2020年(約2倍)と比較して2021年では小さかった(約20%)。65歳以上の初診患者数における割合は口腔機能管理で2%を超えていたが,3種の検査では2%以下であった。65歳以上の初・再診数における割合は,すべて0.5%以下であった。当科においては,2020年はやや減少したものの咬合圧検査以外は増加してきていた。2022年における初診患者数に対する比率は,咀嚼能力検査(12.8%)は社会医療診療行為別統計の29倍,舌圧検査(14.9%)は14倍,口腔機能管理(20.4%)は7倍程度であった。当科における1人の患者への検査・管理の繰り返し算定回数は1~2回がほとんどであった。

     考察:口腔機能低下症の検査・管理は普及しつつあるが,社会医療診療行為別統計よりもかなり算定率が多い当科ですら,口腔機能低下症の有病率と比べて,算定状況はいまだかなり少ない。

     結論:検査・管理の算定率は,医療保険導入4年半後には増加したものの,その増加率は低下してきており,いまだ口腔機能低下症の有病率と比べて少なく,継続的な検査・管理も不十分であることが示された。

  • ―自記式質問票による全国調査―
    田坂 樹, 日髙 玲奈, 岩佐 康行, 古屋 純一, 大野 友久, 貴島 真佐子, 金森 大輔, 寺中 智, 松尾 浩一郎
    2023 年 37 巻 4 号 p. 312-319
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル フリー

     目的:回復期リハビリテーション(リハ)において,口腔問題解消と摂食機能向上のためには,適切な口腔機能管理が不可欠である。今回われわれは,回復期リハ病棟における歯科の関わりを明らかにするため全国調査を実施した。

     方法:回復期リハ病棟協会会員の1,235施設を対象に,歯科との連携に関する自記式質問調査を実施した。質問内容は,歯科との関わり方,連携による効果などから構成された。回答を記述統計でまとめ,歯科連携体制によって回答に相違があるか検討した。

     結果:319施設(25.8%)から得られた回答のうち,94%の施設で入院患者への歯科治療が実施されていたが,そのうち院内歯科が26%,訪問歯科が74%であった。常勤の歯科医師と歯科衛生士の人数の中央値は0であった。院内歯科がある施設のほうが,訪問歯科対応の施設よりも歯科治療延べ人数が有意に多く,歯科との連携による効果として,患者や病棟スタッフの口腔への意識の向上との回答が有意に多かった。

     結論:本調査より,限定的ではあるが,院内歯科がある施設では,常勤の歯科専門職は少ないが歯科との連携の効果を実感している施設が多くあった。一方,本調査の回答率から,回復期リハ病棟を有する病院では,歯科との連携がなされていない施設が多くあることも考えられた。今後,回復期リハにおける医科歯科連携強化に向けて,エビデンスの創出や診療報酬の付与が必要であると考えた。

  • 大野 友久, 岩佐 康行, 梅田 慈子, 金森 大輔, 貴島 真佐子, 阪口 英夫, 松尾 浩一郎, 元橋 靖友, 尾崎 研一郎, 水口 俊 ...
    2023 年 37 巻 4 号 p. 320-328
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル フリー

     目的:病院歯科はさまざまな役割をもち,高齢者歯科医療にも貢献できるが数は少ない。病院歯科の普及のために,歯科を併設している病院長の歯科業務に対する認識を明らかにする目的で質問紙調査を実施した。

     方法:2022年3月7日~3月25日の間,病院歯科に関する質問紙調査を実施した。対象者は日本老年歯科医学会会員である歯科医師が常勤で所属する病院の院長とした。質問項目は,病院歯科に最も期待する歯科業務,歯科があることの最も重要な利点,改善してほしいこと,病院歯科の必要性など,病院歯科に関する14項目とした。

     結果:232名の病院長に質問紙を送付し86名から回答が得られた(回答率:37.1%)。病院歯科に最も期待する歯科業務は,医科入院患者の一般歯科治療・口腔衛生管理であった。歯科があることの最も重要な利点は,医療の質の向上への貢献が最も多く,最も改善してほしいこととしては,収益性の向上であった(25.6%)。歯科の必要度の中央値は10[8-10]であった(0:まったく必要ない~10:必要不可欠)。病院歯科を増やすために必要なものは,診療報酬による裏付け,次に病院歯科の有効性を示すデータという回答が多かった。

     結語:回答者の多くは歯科が必要であると考えていた。医科入院患者の一般歯科治療・口腔衛生管理への対応を歯科に期待しているため病院歯科業務として取り入れ,収益性の改善と病院歯科の有効性をデータで示すことが病院歯科の普及に必要と考えられた。

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