うつ疾患, 不安障害, 認知症などの精神疾患の患者数は, 厚生労働省が指定した5大疾病の中で最も多く, 深刻な問題となっている。一方, 食品タンパク質の酵素消化により生成するペプチドや低分子オリゴペプチドの中には多彩な生理作用を示すものがある。近年, それらのペプチドの中から脳神経系に作用するものが見出されている。本研究では, 医薬品のスクリーニングに使用される動物行動学的手法により, 低分子ペプチドの中からうつ様行動, 不安様行動, 認知機能の調節に対し有効なものを見出した。構造—活性相関解析や体内動態解析により活性成分候補を特定した。また, メカニズム解析により, それらの情動調節作用には神経新生促進やモノアミン, γ-アミノ酪酸のシグナル経路活性化などが関与することが明らかになった。以上の研究成果より, 食品由来低分子ペプチドが経口投与で有効かつ強力な脳神経調節作用を有する可能性を示し, 膨大な分子種からなるペプチドと脳神経系との相互作用の一端を明らかにした。
我々は弊社独自のプロバイオティクスLactobacillus casei Shirota株 (LcS) の腸内環境改善作用に着目し, 脳腸軸を介する機能に関する研究を進めてきた。これと並行して, 脳腸軸に対するLcSの効果を最大限に引き出す発酵乳飲料を開発するため, 使用原料や培養技術等の改良を行い, これまでの飲料に含まれるLcSの菌数・菌密度をさらに向上させることに成功した。そこで, 学術試験の受験による心理的ストレスを感じている健常な医学部生を対象とした二重盲検並行群間比較試験にて, 高菌数および高密度化したLcS発酵乳飲料の効果を検証した。その結果, LcS飲料はプラセボ飲料に比べ, 学術試験が近づくにつれ増加するストレスの体感を軽減し, 唾液コルチゾール濃度上昇を有意に抑制した。また, LcS飲料の摂取は, 睡眠の質を向上させることにより学術試験ストレスに伴う睡眠状態の悪化を軽減することを見出した。以上の成果を活用し, 「機能性表示食品」として届出を行い, 商品の保健機能表示が可能となった。
ビタミンKは緑色野菜や発酵食品に多く含まれており, ヒトの血液の凝固や骨の代謝に関与している機能性分子である。身近な食品において植物油にはフィロキノン (ビタミンK1) が主に含まれ, 牛乳にはフィロキノンに比べメナキノン-4 (ビタミンK2) が多く含まれている。また育児用調製粉乳や液状乳には乳児の生育を補助するためフィロキノンとメナキノン-4が添加されている。ビタミンKの分析を行う上では脂質抽出液からシリカゲルカラムを用いてビタミンKと夾雑物の分離を行う必要があるが, 多量のシリカゲルや有機溶媒を使用する点や処理時間が長くかかる点など作業効率や環境負荷の面に課題があった。本報ではシリカゲル粒径の微細化による前処理系のダウンサイジングを目的とした検討を行い, 作業時間を短縮し環境負荷を低減した効率的な改良法の開発を行った。
本研究では, トランス脂肪酸摂取量を推定するための食品成分表を作成することを目的とした。さらにこの成分表を用い, 実際の摂取食品についてトランス脂肪酸量を推定し得るか, 食事記録調査結果を対象に確認を行った。23文献に報告のある280食品のトランス脂肪酸量は平均値を求め, 食品成分表記載の各食品の脂質を乗じ可食部100 g当たりに含まれるトランス脂肪酸量を算出した。文献に報告のない食品の内, 312食品は置き換え法にて対応, 計592食品のトランス脂肪酸含有量を決定した。その食品成分表を用い, 糖尿病境界型の男女35名が実施した食事記録から1日平均のトランス脂肪酸摂取量を算出した。本対象集団が摂取していた可食部100 g当たりの脂質量が1 g以上の食品延べ4,539食品の内, 4,535食品 (99.9%) のトランス脂肪酸量が算出し得, 1日当たりの平均トランス脂肪酸摂取量は0.66 g (エネルギー比率: 0.33%) であった。本成分表は, 置き換え法による食品数の占める割合が高いこと等の限界に留意する必要があるものの, 多数の食品に対して数値を求めていることから, 異なる日本人集団や食事記録以外の食事調査法での応用も可能なものと考える。