日本栄養・食糧学会誌
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76 巻, 6 号
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総説
  • (令和5年度日本栄養・食糧学会学会賞受賞)
    小田 裕昭
    2023 年 76 巻 6 号 p. 331-342
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    栄養学は主に「何をどれだけ食べるか」について研究を行ってきた。一方, 栄養が充足される以前から人間の知恵として「規則正しい食生活は健康に秘訣だ」と考えられてきた。体のすべての細胞がその時計システムを備えており, 時計遺伝子による生物時計の制御機構が明らかとなった。さらに体内時計が食事により同調を受けることがわかり, 食事のタイミングは, 多くの代謝リズムを制御している。そして, 不規則な食生活をすると, 脂質代謝異常を誘発して, 肥満やメタボリックシンドロームなどに結びつくことがわかった。食事のタイミングによって形成される体内時計は個人の「体質」である。概日リズムをはじめとするさまざまな生体リズムの総体をリズモーム (rhythmome) としてとらえると, 健康を維持するため個人化対応した栄養学 (「プレシジョン栄養学」) の基盤データとしてとらえることが可能になる。時間栄養学を考えることにより, メタボリックシンドロームや生活習慣病, ロコモティブシンドロームを予防することが期待できる。

  • (令和5年度日本栄養・食糧学会学会賞受賞)
    佐藤 匡央
    2023 年 76 巻 6 号 p. 343-348
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    脂質摂取およびその代謝は生活習慣病の発症に関わる。おもに動脈硬化症を中心に4方向のアプローチで行ってきた。すなわち (1) 脂質による遺伝子発現の調節および脂質代謝に関わる遺伝子変異の発見と病態との関係を追求し, 高コレステロール血症を発症するラットを用いて, その遺伝子同定と, その遺伝子と三大栄養素代謝との関連を明らかにした。 (2) 脂肪酸の必須性およびその生体挙動と病態との関係では, 動脈硬化症の横断研究において, ヒト血清中のリン脂質の脂肪酸組成を測定し, 病態との関係を明らかにした。 (3) 食事および生体に存在する微量脂質成分と病態では, 微量成分として, 酸化コレステロールの生理的意義について研究を行っている。なかでも肥満の発症抑制をもつ酸化コレステロールを発見した。 (4) 脂質代謝に関連して発症する病態の改善作用を有する機能性成分の研究において, プロバイオティクス菌による肥満改善効果等を発見した。

  • (令和5年度日本栄養・食糧学会学会賞受賞)
    藤原 葉子
    2023 年 76 巻 6 号 p. 349-356
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    脂質摂取は肥満に起因する生活習慣病の予防に重要であり, その適切な量と質が問われる。著者らは, 生体機能を調節する多価不飽和脂肪酸の作用と生体内代謝への影響を研究してきたが, 異なる植物油を摂取したときの生体への影響は, 脂肪酸組成のみでは説明できないことから, 油脂や食品に含まれる微量成分についても研究を進めてきた。ここではその中から, ビタミンEについて研究してきた結果を概説する。パームに多く含まれるトコトリエノールは, 高脂肪食摂取時にインスリン分泌能を維持する作用を持つこと, また非アルコール性脂肪肝炎 (NASH) 進展の初期段階でトコトリエノールが線維化を抑制する可能性のあることを示した。また, ビタミンE多量摂取による骨粗鬆症リスクについて, 栄養学的観点から様々な条件から検証を行った。これら一連の研究から, 適切な脂質の栄養指導を行う上では, 脂肪酸組成だけでなく食品の微量成分の影響も考慮する必要性が示唆された。

  • (令和5年度日本栄養・食糧学会奨励賞受賞)
    井上 菜穂子
    2023 年 76 巻 6 号 p. 357-362
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    骨格筋は体内の糖の大部分を代謝する重要な糖代謝器官である。2型糖尿病患者では, 骨格筋に過剰に蓄積する脂質がインスリン抵抗性にかかわることが知られており, 骨格筋に存在する脂質が筋の機能に重要な役割を担っていると考えられている。しかし, 骨格筋は脂質代謝特性の異なる速筋線維と遅筋線維が混ざり合って存在し, 組織抽出物を用いた解析では詳細な脂質組成を明らかにできなかった。そこで筆者は組織切片上で脂質の局在解析を可能にする質量分析イメージングの手法を骨格筋に応用し, 脂肪酸鎖長や不飽和度の異なる脂質を個々に局在可視化することに成功した。その結果, 速筋線維・遅筋線維は異なる細胞膜リン脂質によって構成されていることを明らかにし, 運動トレーニングに伴う筋肥大や高脂肪食負荷に伴う筋萎縮, さらには食餌によって引き起こされる筋肥大によって骨格筋中のリン脂質が変動することを明らかにしてきた。

  • (令和5年度日本栄養・食糧学会奨励賞受賞)
    田辺 賢一
    2023 年 76 巻 6 号 p. 363-369
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    難消化性糖質とは, ヒトの消化管において消化・吸収されない, あるいは, きわめて消化・吸収されにくい糖質を意味している。低分子の難消化性オリゴ糖は, 消化管下部に棲息する腸内細菌によって発酵を受け, 健康の保持・増進に関与している。筆者らは, 難消化性オリゴ糖の生体利用性ならびに生体調節機能を明らかにするため, ラットやヒト小腸粘膜酵素を用いた消化実験, 動物実験ならびにヒト試験を実施し, それらの有効エネルギー値, 一過性の高浸透圧性下痢の最大無作用量を評価してきた。また, 実験動物を用いて難消化性オリゴ糖の腸内細菌叢改善効果を介した老年性骨粗鬆症予防効果や, 近年では, 腸内細菌由来の水溶性ビタミン産生増強効果がビタミン欠乏予防に寄与する可能性を示した。さらに, 難消化性糖質の定量法に生理学的手法を取り入れ, 難消化性オリゴ糖の物理化学的性質や生理機能を正確に評価できる改良定量法を開発し, その具体化に取り組んでいる。本稿では, 上記の研究成果を紹介する。

  • (令和5年度日本栄養・食糧学会奨励賞受賞)
    山根 拓実
    2023 年 76 巻 6 号 p. 371-376
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    褥瘡の予防や管理対策の整備は重要な課題である。褥瘡は寝たきり高齢者に頻発する病態であり, 局部に一定の圧力が持続的に加わることで組織が壊死し, 一般的に床ずれと呼ばれる皮膚潰瘍が形成される。褥瘡の発生と治癒遅延には栄養障害が根底にあり, 食の改善が必要不可欠である。褥瘡の治癒は特にタンパク質栄養と密接に関連しているが, 基礎研究のエビデンスは多くはない。また, 高齢者や入院患者は食欲不振等により食事の摂取量が低下しているため, 食事の「質」に着目したアプローチが重要である。筆者はこれまでに, アミノ酸スコアの低い小麦グルテンを摂取した創傷モデルラットでは, コラーゲン沈着が減少し, 治癒の遅延が引き起こされることを明らかにした。本研究成果をもとにした栄養療法は褥瘡患者にとって効果的な治療戦略の一つであり, 早期に適切な栄養ケアを行い, 合併症の減少とともに入院日数を減らすことは医療経済的にも重要である。

  • (令和5年度日本栄養・食糧学会技術賞受賞)
    阿野 泰久, 福田 隆文, 金留 理奈
    2023 年 76 巻 6 号 p. 377-382
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    超高齢社会において, 加齢に伴い生じる脳の機能低下は大きな社会課題となり, 日常生活での予防・健康づくりに注目が集まっている。近年, 牛乳や乳製品摂取が認知症発症リスクを低減するという日本人対象の疫学報告がなされ, 発酵・熟成の進んだカマンベールチーズによるアルツハイマー病予防効果が非臨床試験で確認された。発酵乳製品に含まれる認知機能改善成分として, Trp-Tyr配列を有したβラクトペプチドとその主要成分であるβラクトリン (Gly-Thr-Trp-Tyr) が新たに有効成分として見出された。βラクトリンは摂取後, 脳へ届き, 前頭皮質や海馬のドーパミン神経を活性化することで認知機能を改善する。また, 健常中高齢者を対象としたランダム化比較試験で記憶想起機能や選択的注意機能といった認知機能を改善することが示されている。さらに, βラクトリンはワーキングメモリー課題中の背外側前頭前野の脳血流を増大することがfNIRSを用いたランダム化比較試験で確認されている。前頭前野の脳血流は加齢に伴い低下することが知られており, 脳血流を改善するβラクトリンの継続摂取によって, 脳神経細胞が活性化し, 加齢に伴い低下する認知機能の改善が示唆される。現在, βラクトリンは機能性表示食品として飲料, 乳製品, サプリメント等で提供されている。認知機能の維持には, 食事だけではなく, 運動や認知トレーニングなど多因子による行動変容継続が重要となる。今後, 毎日続けることが可能な脳の健康習慣醸成によって, 超高齢社会における社会課題の解決に寄与することが期待される。

  • (令和5年度日本栄養・食糧学会技術賞受賞)
    卯川 裕一, 工藤 眞丈, 沢田 翔一, 石輪 俊典, 中島 賢則
    2023 年 76 巻 6 号 p. 383-390
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    ウロリチンは, ザクロに含まれるエラジタンニンやその加水分解物であるエラグ酸が, ヒトの腸内細菌によって代謝されて生成する機能性ポリフェノールである。我々はウロリチンC生産菌とウロリチンA生産菌との共培養システムにより, エラグ酸を出発物質としてウロリチンAを1ポットで生産することに成功した。これらの技術をベースに共培養によって安定的にウロリチンAを発酵生産できるプロセスを開発して工業レベルでの製造プロセスを確立し, ウロリチンAを10%含む食品素材を2021年5月に製品化 (ウロリッチ®) した。ウロリチンAはマイトファジー促進作用の他にも抗酸化作用, 抗炎症作用が報告されている。我々はウロリチンAが脂肪滴蓄積抑制, 破骨細胞分化抑制, ヒト表皮角化細胞に対する作用や抗アレルギーなどの機能性を有することを明らかにした。さらに, 血管内皮機能に関し, ヒトでの評価を実施し, メカニズム解明を行った。ウェルビーイングが求められる時代に沿った機能性素材としてウロリチンが, 人々の健康維持増進に貢献できるものと考えている。

報文
  • 清水 友紀子, 山中 沙紀, 牛田 悠介, 菅沼 大行, 佐藤 郁夫, 石田 裕美
    2023 年 76 巻 6 号 p. 391-401
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    高血圧予防のための行動変容において, 減塩のみには限界がある。食塩摂取目標量までの減塩が難しい時に, 増カリウム (K) 食を取り入れ, ナトリウム (Na) とKの摂取バランスを整えることが血圧管理に有効となり得るか, 血圧との正の相関が知られている尿Na/K比を指標に検証した。若年女性を対照食群, 減塩食群, 増K食群に分け, 各試験食を1日3食, 2週間摂取してもらい, 摂取期間前後に24時間蓄尿のNa/K比を測定した。なお, 対照食は現状から目標量に向け50%程度減塩した食 (Na 3,277 mg), 減塩食は目標量まで減塩した食 (Na 2,559 mg), 増K食は対照食を基にKをNaと同程度まで増量した食 (K 3,277 mg) とした。その結果, 増K食群では尿Na/K比が有意に低下した (2.8±1.2→1.9±0.6) 。減塩食では平均値は下がったが有意な変化ではなかった (3.2±2.0→2.5±1.0) 。摂取期間前の尿Na/K比が2以上の者を対象に3群間の比較をした結果, 増K食群は対照食群と比べ摂取期間前後の尿Na/K比の低下量が有意に大きかった。したがって, 減塩のみならず, 増K食の利用も尿Na/K比の改善, ひいては高血圧予防に有効と示唆された。

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