日本栄養・食糧学会誌
Online ISSN : 1883-2849
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77 巻, 1 号
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総説
  • 長岡 利
    2024 年 77 巻 1 号 p. 5-11
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/22
    ジャーナル フリー

    コレステロール (CHOL) 代謝改善ペプチドであるラクトスタチン (IIAEK) を牛乳β-ラクトグロブリンから世界に先駆けて発見した。ラクトスタチンはヒト肝臓細胞HepG2において, 新規Caチャネル関連シグナルを介してCHOL分解系の律速酵素CHOL 7α-水酸化酵素 (CYP7A1) 遺伝子を活性化した。IIAEKは腸アルカリ性ホスファターゼを受容体としてCHOL吸収抑制作用を発揮した。新規リン脂質結合大豆ペプチドを含有する特定保健用食品は高CHOL血症患者のCHOL代謝を改善した。世界初の大豆由来CHOL吸収抑制ペプチド (ソイスタチン: VAWWMY) を発見し, ペプチドアレイによる高機能化に成功した。牛心臓タンパク質由来の新規CHOL代謝改善ジペプチドFPを発見した。FPはペルオキシソーム増殖因子活性化受容体のリガンドとなり, PepT1を媒介してCHOL代謝改善作用を発揮した。プロタミン由来の新規CHOL代謝改善トリペプチドRPRは抗肥満作用や抗脂肪肝作用を発揮した。CHOL代謝改善ペプチド研究のより一層の発展のためには, ヒト試験, 作用機作の分子レベルでの解明 (標的分子特定を含む) や製品化が必要である。

  • 比良 徹
    2024 年 77 巻 1 号 p. 13-19
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/22
    ジャーナル フリー

    消化管ホルモン Glucagon-like peptide-1 (GLP-1) の分泌は主に食後に増大し, これによるインスリン分泌促進を介した食後高血糖の緩和をはじめ, 多様な生理応答をもたらす。私たちは, 動物試験により種々の食品タンパク質・ペプチドがGLP-1分泌促進を介して血糖上昇を抑制できることを示してきた。また, GLP-1産生細胞株において, ジペプチドライブラリーを用いたGLP-1分泌試験により, 11種の新たな活性ペプチドを見出し, 中でもTrp-Tyrという配列が強力なGLP-1分泌作用を持つことを明らかにした。食品タンパク質の摂取は食後熱産生を強く誘導する。ラット, マウスにおいて, タンパク質経口投与による直腸温 (深部体温) 上昇は, GLP-1受容体の阻害およびノックアウトにより消失した。これらにより, GLP-1の新たな生理作用として, 食品タンパク質による食後熱産生誘導に関わる可能性を見出した。本稿では, 多様な生理作用を持つペプチドのGLP-1分泌促進作用を中心に, そこから見出されたGLP-1の新たな生理作用ついても紹介する。

  • 本多 裕之
    2024 年 77 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/22
    ジャーナル フリー

    食品タンパク質由来の生理活性ペプチドの製品化には, 酵素処理したタンパク質加水分解物の中から, 多段階の工程を経て, 分離濃縮する必要がある。我々は, ペプチド混合物の中から, 特定の物理化学的性質を持つペプチドを容易に分離可能な焼成多孔性シリカゲル (Heat-Treated silica gel ; HTSG) を開発した。HTSGは, 周りの環境 (pHなど) によって物理化学的性質の異なるペプチドを吸着できる。例えば, 酸性条件では疎水性のペプチド, 中性条件では塩基性のペプチドを吸着するため, 中性条件で苦味ペプチドを選択的に除去できることを明らかにした。また, pH条件を変えると吸着特性が変わることを利用して, 胃のpHではHTSG内部に吸着し, 腸内pHではリリースする腸送達ペプチドも探索できる。さらにはpH条件を変えて吸脱着処理することで特定のペプチドを選択的に濃縮することもできる。本研究では, この吸脱着処理により, 可食性タンパク質由来で食事由来コレステロールの腸管への吸収を抑制するコレステロール吸収抑制ペプチドの探索や選択的濃縮について調べたので報告する。

  • 松井 利郎
    2024 年 77 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/22
    ジャーナル フリー

    認知症は増加の一途であり, 健康寿命延伸に対して大きな障壁となっている疾患のひとつである。2050年には世界では罹患者数が現在の約3倍 (1億3千万人以上) になるのではとも推定されている。認知症の約7割を占めるアルツハイマー型認知症では, その発症に脳内でのアミロイドβの蓄積が関わっているとされ, アセチルコリンなどの神経伝達因子が障害を受ける。しかしながら, 認知症発症は数十年前からの無症状段階から徐々に進行するとされるため, 発症リスクを回避, 予見するため超早期での確定診断法の樹立が望まれている。他方, ヒトあるいは動物試験によると, ペプチド摂取の認知機能改善効果を示唆する知見が報告されており, 食品因子による認知症予防が期待できる。なお, ペプチドの直接的な脳機能改善作用を実証するには, そのままの形で血液脳関門 (Blood-Brain Barrier) を透過し, 脳実質へと移行, 蓄積すること, 要するに生体利用性を明らかにする必要がある。そこで本稿では, ペプチドの脳移行性を中心に概説する。

資料
  • 土井 玲奈, 小林 実夏, 小川 浩平, 森崎 菜穂, 左 勝則, 藤原 武男
    2024 年 77 巻 1 号 p. 37-48
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/22
    ジャーナル フリー

    「妊産婦のための食事バランスガイド」を用いた食事アセスメントとその妥当性を検討することを目的とし, 首都圏に在住する妊産婦 (初期194名, 中後期153名) の食事記録調査 (DR) と食物摂取頻度調査 (FFQ) のデータから「妊産婦のための食事バランスガイド」に示されているサービング数 (SV) とエネルギー摂取量を算出した。その後, 遵守度を数値化して評価するための遵守得点の算出を行い, 妥当性を検討した。遵守得点の合計点数の相関係数は妊娠初期r=0.316, 妊娠中後期r=0.439であった。また, 遵守得点合計点の三分位間でクロス集計を行った結果, 同一カテゴリーに分類された者が妊娠初期で74名 (38.1%), 妊娠中後期で71名 (46.4%) であった。DRとFFQから算出された「妊産婦のための食事バランスガイド」の遵守得点の相関係数とカテゴリー一致度の結果より, 日本人妊婦の食事を総合的に評価するための指標として, 「妊産婦のための食事バランスガイド」を用いることの有用性が示された。

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