従来, 小腸における食物繊維の生理作用は, 同時に摂取した栄養素と食物繊維との消化管内における相互作用を反映した結果から論じられ, 食物繊維の消化管自体に対する作用を研究した例は限られていた。本総説では, 食物繊維摂取時の小腸杯細胞応答とムチン分泌量について, 主に食物繊維の嵩と粘性から解析した結果について紹介し, 小腸由来ムチンが発酵代謝産物である短鎖脂肪酸を介して宿主‐腸内細菌の相利共生関係を下支えする内因性食物繊維として機能することについても言及する。さらに, 植物細胞壁由来の古典的食物繊維にくわえ, 近年, 新しい食物繊維素材として注目されている消化抵抗性デンプンや難消化性デキストリン類の消化管内動態を推定する上で, 現行のProsky消化を基本とする食物繊維定量法を用いることの妥当性を議論した。
腹部大動脈瘤は, 腹部大動脈の進行的な拡張を特徴とする疾患である。腹部大動脈瘤の詳細な発症メカニズムは不明であるため, 有効な治療薬の開発には至っていない。我々は, ヒトおよび腹部大動脈モデルマウスに破骨細胞が存在することを世界で初めて発見し, この破骨細胞が動脈瘤の発症に関与することを明らかにした。また, 高血糖は動脈瘤発症のネガティブリスクファクターであることが知られているが, 本研究ではその詳細な解析を明らかにした。糖尿病モデルマウスに動脈瘤形成を誘導化したところ, 高血糖によりマクロファージ活性化が抑制されたことにより, 動脈瘤形成は有意に抑制され, これらのメカニズムにLiver x receptorが関与することを明らかにした。さらに, 破骨細胞の分化を抑制するクズイソフラボンであるプエラリンを動脈瘤モデルマウスに投与すると動脈瘤形成は有意に抑制された。これらの知見により, 今後は破骨細胞を標的とした腹部大動脈瘤の治療のための臨床研究や食品・栄養成分による予防法の確立が期待される。
近年, 食品の三次機能である生体調節機能を持つ食品成分に注目が集まっている。筆者は, 多様な機能性を有することが明らかにされているポリフェノールのうち, プロシアニジンやテアフラビンなどの縮合型タンニンの生体調節機能の検証を行ってきた。これらのポリフェノールは, ほとんど体内に吸収されない難吸収性であり, 生体利用性が低いと考えられている。本稿では, 難吸収性のポリフェノールの特性に着目して, 消化管を起点とする新規な生体調節機能として, 消化管ホルモンであるグルカゴン様ペプチド-1 (GLP-1) の分泌促進を介した肥満・高血糖予防作用とその作用機構について解説する。また, 難吸収性ポリフェノールによるGLP-1分泌促進作用は, 血管内皮型一酸化窒素合成酵素の活性化を介した血管機能の向上にも寄与することも紹介する。さらに, プロシアニジンの生体調節能と体内時計の関係についても触れる。これらのことから, 難吸収性のポリフェノールは多臓器間のシグナルネットワークを介してさまざまな生体調節機能を発揮しうることと, 機能を発揮するのに適したタイミングがあることがわかった。