食品の成分には, ミネラル, ビタミンおよび植物性機能物質などが含まれている。これらは微量ではあるが, 糖・脂質・タンパク質代謝, 骨代謝, あるいは複数の代謝系を調節する重要な作用を有している。著者らは, 植物エストロゲンの臨床研究応用を目指した時間分解蛍光免疫測定法 (TR-FIA) を開発し, 自身の基礎研究にも応用した。フラボノイドの代謝には腸内環境が影響することから, プレバイオティクスとの併用摂取による代謝変動と骨粗鬆症モデルに対する効果を検討した。イソフラボン代謝産物のequolには鏡像異性体が存在し, (S) 体の方が (R) 体よりも生体利用率が高く, 骨量減少抑制作用も強いことが示唆された。柑橘系フラボノイドのhesperidinは, コレステロール合成経路を介して骨量減少抑制することが推察された。抗炎症作用を有する含硫化合物のsulforaphaneは, 従来の破骨細胞分化因子の抑制に加え, 破骨細胞融合分子の抑制を介し, 破骨細胞分化を制御することを明らかにした。鉄欠乏状態では脂質過酸化は起こりにくいとされて来たが, これまでの定説とは逆の鉄欠乏が惹起する生体内酸化メカニズムの一端を明らかにした。さらに, 鉄欠乏時のβ-カロテンおよびα-トコフェロールの代謝変動は, これらビタミン代謝に関与する鉄含有酵素により引き起こされる可能性を示唆した。
『日本人の食事摂取基準』は, 厚生労働省が公開しているガイドラインのひとつであり, 食事・栄養に関するわが国で唯一の包括的ガイドラインである。本稿では, 総論のなかで今回の改定 (2020年版) で特に強調された点を紹介するとともに, 今後の食事摂取基準の策定も見据えて, 栄養学研究の役割や食事摂取基準との関係性について, 考察を加えることにする。今回の改定では, 数値の改定は最小限に留まっているものの, 指標の定義が再整理され, その詳細が説明されている。また, 食事摂取基準活用時に必要となる食事アセスメントに関する知識や知見などについても詳述されている。さらに, 食事摂取基準の策定方法に関する課題, 特に系統的レビューならびにメタ・アナリシスの利用における課題についても触れられている。総論の中でもっとも注視すべき記述は, 「我が国における当該分野の研究者の数と質が食事摂取基準の策定に要求される能力に対応できておらず, 近い将来, 食事摂取基準の策定に支障を来すおそれが危惧される。」という一文であろう。栄養学研究に携われる者がこの問題を真摯に取り上げ, 積極的に対応することを期待したいところである。なお, 本稿は政府の公式見解を述べたものではない。
味覚は, 栄養素を感知する機能を介してエネルギーや栄養素の摂取量の調節に大きな役割を果たしている。本研究の目的は, 味覚感受性が季節変動を示すかどうかを明らかにすることである。女子大学生を対象に, 夏期 (7月下旬‐8月上旬) と冬期 (1月下旬‐2月上旬) の2回にわたって, 塩味, 酸味, 甘味, うま味, 苦味の基本5味の刺激閾値と認知閾値について測定した。その結果, 刺激閾値は塩味と甘味について夏期よりも冬期の方が有意に上昇していた。認知閾値についても, うま味以外の4つの味 (塩味, 酸味, 甘味, 苦味) について夏期より冬期の方が有意に上昇していた。以上より, 冬期には味覚感受性が全般的に低下していることが示唆された。