日本栄養・食糧学会誌
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75 巻, 6 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説
  • (令和4年度日本栄養・食糧学会学会賞受賞)
    青江 誠一郎
    2022 年 75 巻 6 号 p. 261-265
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー

    日本人の主食である穀物, 特に大麦と全粒小麦の摂取意義を検証するために, これら穀物に含まれる食物繊維がヒトの肥満関連指標に及ぼす影響を明らかにし, 次いで動物実験により大麦の作用メカニズムを明らかにする一連の研究を行ってきた。ヒト介入研究で明らかにした研究は以下の4項目である: (1) 食後血糖値の上昇抑制作用 (大麦ご飯, 小麦全粒粉パン), (2) 満腹感の持続作用 (大麦配合食品), (3) 内臓脂肪蓄積抑制作用 (大麦ご飯, 小麦全粒粉パン), (4) 腸内環境改善作用 (小麦フスマおよび大麦配合食品)。動物実験の結果, 高分子と低分子の大麦β-グルカンはいずれも肥満関連指標改善効果を示したが, 前者は粘性による食餌脂質の吸収抑制作用が, 後者は腸内発酵による短鎖脂肪酸の作用が主体であること, 大麦粉の耐糖能改善効果は, 短鎖脂肪酸がグルカゴン様ペプチド-1 (GLP-1) 分泌を促進したことが要因であることを証明した。

  • (令和4年度日本栄養・食糧学会学会賞受賞)
    亀井 康富
    2022 年 75 巻 6 号 p. 267-274
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー

    骨格筋はヒトの体重の約40%を占める人体で最大の組織であり, タンパク質の形でエネルギー貯蔵を行っている。骨格筋は環境の変化に順応する可塑性があり, 適切な運動トレーニングと十分な栄養によって肥大し, 寝たきりや加齢などによって萎縮する。筋萎縮が生じると, エネルギー消費減少 (肥満) や, 糖取り込み能の低下・血糖値上昇 (糖尿病), そして生活の質の低下へと向かう。FOXO1は筋萎縮を誘導する主要な転写調節因子であり, 作用機序の理解が進んでいる。一方, 運動の作用は, 骨格筋だけにとどまらず, さまざまな臓器に影響する。運動時におけるPGC1α (核内受容体の転写共役因子・転写調節因子) によるミトコンドリアの増加や赤筋化など, 筋機能改善に関する代謝変化の分子機序が明らかになりつつある。本稿では, 筆者らの研究データも含めて, 骨格筋機能における遺伝子発現制御について整理する。

  • (令和4年度日本栄養・食糧学会学会賞受賞)
    津田 孝範
    2022 年 75 巻 6 号 p. 275-283
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー

    植物色素成分等の食品由来因子の肥満・糖尿病の予防作用と新たな分子機構の解明に関する以下の内容を概説する。不安定で健康機能とは無縁と認識されていたアントシアニンが配糖体のままで吸収されること, 代謝物 (分解物) が生体内で生成すること, 体脂肪蓄積抑制作用や耐糖能改善作用とその機構を世界で初めて報告した。高生体内吸収性クルクミン製剤の耐糖能改善作用および褐色脂肪細胞化誘導とその機構等を解明した。プロポリス成分の褐色脂肪細胞化誘導とその機構, クルクミンとの併用による効果増幅, uncoupling protein 1非依存性の経路を介する熱産生機構の関与を初めて明らかにした。さらにアミノ酸混合物摂取と運動併用による相乗的な褐色脂肪細胞化誘導とその機構を解明し, 運動効果を増幅する食品因子という新たな研究の方向性を提示した。以上の成果は食品由来因子の新たな機能研究の推進と発展の基盤となっている。

  • (令和4年度日本栄養・食糧学会奨励賞受賞)
    今井 絵理
    2022 年 75 巻 6 号 p. 285-290
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー

    フレイル予防は我が国における重要な課題である。これまで, フレイル低下要因については種々の報告があるが, 食事に焦点を当てた報告は少なく, 食文化や疾病構造が日本とは異なる欧米諸国が中心であった。筆者はフレイル予防に有効な食事を明らかにすることを目的とした栄養疫学研究を行ってきた。地域在住高齢者を対象とした前向きコホート研究では動物由来たんぱく質の高摂取が7年後の高次生活機能維持に関連していることを明らかにした。また, フレイルのリスク要因である貧血に着目し, 動物性食品や動物性食品を中心とした食事パターンが貧血リスク低下と関連することを明らかにした。さらに近年にかけて急速に平均寿命が延びてきた滋賀県に注目し, 複数の食事・生活習慣要因を組み合わせるほど, 死亡率が低いことや主観的健康感が高い者が増加することを明らかにした。これらの知見は, より早期の段階での動物性たんぱく質を中心とした食事と複数の生活習慣要因の組み合わせがフレイル予防に寄与する可能性を示している。

  • (令和4年度日本栄養・食糧学会奨励賞受賞)
    北風 智也
    2022 年 75 巻 6 号 p. 291-296
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー

    生体外異物であるダイオキシン類による毒性はアリール炭化水素受容体 (AhR) を介した作用であるため, AhRの活性化を抑制することが毒性の緩和につながる。ダイオキシン類の毒性の緩和は転写因子nuclear factor-erythroid 2-related factor 2 (Nrf2) を介した薬物代謝第Ⅱ相酵素の誘導も有効である。Nrf2の活性化はダイオキシン類の暴露以外の環境ストレスに対する生体防御機能も高める。そのため, AhRを抑制しNrf2を活性化する食品因子の探索を行ってきた。筆者はこれまでに, フラボノイドであるルテオリンとケンフェロールの共作用がAhRの活性抑制効果を増強すること, 日常的な食事から摂取可能な量のルテオリンがNrf2を活性化することを明らかにした。また, AhRの活性化が引き起こす肝臓への脂肪蓄積が, 概日リズムの乱れに起因することと, ルテオリンとケンフェロールによる抑制効果を見出した。これらのことから, ルテオリンとケンフェロールは薬物代謝系を介した生体外異物に対する生体防御機能に関して, 有効性が明らかとなった。

  • (令和4年度日本栄養・食糧学会奨励賞受賞)
    米代 武司
    2022 年 75 巻 6 号 p. 297-304
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー

    褐色脂肪組織 (BAT) は寒冷刺激に応じて活性化して熱産生を行い, 体温と体脂肪量の調節に寄与する。ヒトのBATは加齢とともに機能低下して肥満の一因になるが, 慢性的な寒冷刺激により再活性化が可能で, その結果, 体脂肪が減少する。寒冷刺激の効果は, 温度感受性TRPチャネルの刺激活性を有する食品成分を経口摂取することで模倣できる。TRP刺激活性を有するカプシノイドや茶カテキンなどを単回摂取するとBAT熱産生が活性化し, 慢性摂取することによりBATの再活性化・増量が可能である。また, BATの熱産生活性を制御する因子として, 基質選択性の重要性が明らかになってきた。BATの主なエネルギー基質は脂肪酸と糖であることが古くから知られるが, これに加えて分岐鎖アミノ酸の選択的な代謝分解が不可欠である。これらの知見は, 臨床応用可能な栄養学的介入によるBAT活性化法の確立, ひいては新たな生活習慣病予防法の考案に役立つ。

  • (令和4年度日本栄養・食糧学会技術賞受賞)
    大澤 一仁, 横越 英彦
    2022 年 75 巻 6 号 p. 305-309
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー

    近年, 世界中における高齢者の増加に伴い, 認知機能維持に役立つ安全で安心な食品の開発が期待されている。発酵乳は古くから健康に良い効果を持つと考えられ, その生理機能に関する研究が行われてきた。我々は, Lactobacillus helveticusを用いて脱脂乳を発酵させた酸乳に着目し, 認知機能への影響を検証した結果, 記憶力改善作用を見出し, 活性本体として牛乳βカゼイン由来の19残基ペプチドNIPPLTQTPVVVPPFLQPE (ラクトノナデカペプチド, 以下LNDP) を同定した。食品用途への応用を進めるべく, LNDP含有食品が健常者の認知機能へ与える効果について, 対象, 摂取期間, 神経心理評価を変えた臨床試験にて検証した。その結果, LNDP (2.1-4.2 mg/日, 8-24週間) を含有する飲食品の摂取により, 注意力, 情報処理能力, 記憶力などの認知機能維持が認められた。これらの研究成果を基に, LNDP含有食品は機能性表示食品として実用化されており, 高齢化社会における人々の健康維持, 増進に貢献できるものと考えている。

  • (令和4年度日本栄養・食糧学会技術賞受賞)
    高橋 祥子, 齋藤 憲司, 賈 慧娟, 五十嵐 麻希
    2022 年 75 巻 6 号 p. 311-316
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー

    ヒトの全ゲノム解析が完了したことで, ゲノム情報を活用した研究が可能になり, その成果が多数報告されている。またゲノム解析技術の発展により, 一般個人向けにゲノム解析を提供し, 個人が自らのゲノム情報を持つというサービスが登場している。ここでは開発したパーソナルゲノムサービスのゲノムデータベースの仕組みや研究活用の可能性と, 実際にデータベースを活用した研究事例のうち, 栄養・食品分野に関する研究成果を紹介する。また, パーソナルゲノムサービスを活用したインターネット・コホートの利点についてや, 生命科学のビッグデータを活用した先に待っている未来の可能性についてパーソナルゲノムサービスを提供する中で見えてきた知見や考察を紹介する。

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