日本栄養・食糧学会誌
Online ISSN : 1883-2849
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76 巻, 5 号
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総説
  • 田中 清, 桒原 晶子, 青 未空, 上西 一弘
    2023 年 76 巻 5 号 p. 283-290
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    骨はコラーゲンを中心としたたんぱく質基質に, リン酸カルシウムが沈着して生成する。カルシウムは骨の重要な構成成分だが, 生体の重要な機能を担い, 血清カルシウム濃度は, 副甲状腺ホルモン・活性型ビタミンD・FGF23などによって厳密にコントロールされている。ビタミンD不足 (欠乏よりは程度が軽い) は, 骨折はじめ種々の疾患リスクとなる。ビタミンKは血液凝固因子だけではなく, 骨基質たんぱく質にも欠かせない。骨粗鬆症は骨折リスクの増加した状態であり, 骨折リスクは骨密度・骨質により規定される。葉酸・ビタミンB12・ビタミンB6不足によって起こる高ホモシステイン血症は, 骨質劣化を介して, 骨折リスクとなる。日本人の食事摂取基準において, 骨折予防は生活習慣病の発症予防を目指す目標量の対象ではなく, これら栄養素に対して, 目標量は定められておらず, 骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインにおける必要量とは数値が異なる。

  • 石見 佳子
    2023 年 76 巻 5 号 p. 291-296
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    大豆イソフラボンは大豆やクズに多く含まれているポリフェノールの1種である。大豆イソフラボンは全粒大豆1 g当たり平均1.4 mg程度含まれており, その種類はダイゼイン, ゲニステイン, グリシテインと各々のグリコシル, アセチル, マロニル, サクシニル配糖体の全15種類である。日本人の1日当たりのイソフラボン摂取量は, 50パーセンタイル値で18 mgである。大豆イソフラボンは, ヒトが摂取した場合, 腸管内で配糖体が切断されてアグリコンとなって吸収され, 弱い女性ホルモン様作用や抗酸化作用を発揮する。ダイゼインは, 腸内細菌により, よりエストロゲン活性の強いエクオールに代謝される。アジア人では約30‐50%がエクオール産生者といわれている。イソフラボンは弱いエストロゲン様作用を示すことから, 骨代謝をはじめ, 脂質代謝, ホルモン依存性のがん, 更年期症状等との関連が報告されている。本稿では大豆イソフラボンの摂取と健康との関連について, 特に骨代謝を中心に解説する。

  • 藤田 聡
    2023 年 76 巻 5 号 p. 297-303
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    加齢に伴う筋量と筋機能の低下 (サルコペニア) は高齢者の機能的自立を奪い, 要介護状態を引き起こす。サルコペニア対策として, タンパク質摂取は欠かすことができない。タンパク質に含まれる必須アミノ酸の中でも, 特にロイシンがmTORC1を介して骨格筋タンパク質の合成作用を高める効果を有している。サルコペニア予防に向けたタンパク質摂取においては, 1日の総摂取量のみならず, 3食の各食事でのタンパク質の摂取量にも注意を払う必要がある。レジスタンス運動は日常生活において唯一, 積極的な筋肥大を促すことが可能な介入手段であり, 運動効果を最大限に高め, 筋肥大を促すには適切なタンパク質摂取は必須である。さらに, ビタミンDの不足・欠乏状態はサルコペニアのリスクを高めることから, 高齢者を対象とした場合, 運動介入と組み合わせて複数の栄養素の状態を介入・モニタリングする必要性も想定される。

  • 青井 渉
    2023 年 76 巻 5 号 p. 305-312
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    骨格筋は血液中から取り込んだ栄養素を代謝し, エネルギーを産生するとともに, 構成タンパク質を合成することで身体活動を支持する。また, 骨格筋は生理活性物質マイオカインを分泌することで全身の機能に干渉する分泌臓器としての役割が知られるようになった。マイオカインは, 腸のホルモン分泌や免疫, 発がんリスクに影響を与え, 運動による生理機能の応答, 適応, ひいては健康効果とも密接に関係することが示唆されている。一方, 骨格筋の代謝能は, 腸に由来する様々なシグナルによって干渉を受ける。腸は栄養素の消化・吸収を担い, 基質の供給に寄与する一方で, 体内への異物進入を防御することにより過剰な炎症応答, 代謝攪乱を防いでいる。また, 腸内細菌から産生される物質が, 直接あるいは間接的に代謝を制御することもわかってきた。そのため, 健全な腸機能を維持することは, 骨格筋の代謝を制御し, 疾患やフレイルの予防に寄与するとともに, 運動機能の維持・向上において重要である。骨格筋と腸のクロストーク“筋腸連関”のサイエンスは新しい食, 運動の捉え方につながる。

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