日本栄養・食糧学会誌
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77 巻, 6 号
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総説
  • (令和6年度日本栄養・食糧学会学会賞受賞)
    曽根 博仁
    2024 年77 巻6 号 p. 377-385
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/20
    ジャーナル フリー

    糖尿病, 肥満, 高血圧などの生活習慣病は, 多様な合併症により寿命と健康寿命を短縮する。その発症と重症化には遺伝と生活習慣の両方が関与するため, 対策には, 人種や国ごとの大規模データに基づく科学的エビデンスが必須である。筆者らは様々な日本人大規模データ解析により, 肥満度と糖尿病との複雑な関連, 特に肥満が僅かであっても糖尿病発症リスクになること, 高齢糖尿病患者においてはやせが死亡率を高める一方, 中年肥満糖尿病患者においては, 体重減少が糖尿病寛解に寄与することなどを明らかにした。また, 糖尿病食事療法の観点からは, 炭水化物やタンパク質の摂取比率, 食塩, 野菜・果物, 食物繊維の摂取などと糖尿病合併症リスクとの関連を解明し, 運動療法との併用やICT技術の活用も含め, それらエビデンスの現場応用の有効性なども示した。このような栄養疫学エビデンスに基づく取り組みが, 将来のより効果的な食事療法につながることが期待される。

  • (令和6年度日本栄養・食糧学会学会賞受賞)
    松井 利郎
    2024 年77 巻6 号 p. 387-395
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/20
    ジャーナル フリー

    アミノ酸の重合体であるペプチドには健康性を維持する機能があるとされ, 高血圧予防や糖尿病予防作用, 認知症などの疾患に対する予防効果が報告されている。筆者らが研究開発してきた高血圧改善作用を有する特定保健用食品「サーデンペプチド」はその好例である。他方, 生理作用発現と相関するペプチドの生体利用性に関する研究は大いに立ち遅れている感がある。その要因のひとつとして適切な分析化学的評価系の欠如が考えられる。これまでに, 蛍光誘導カラムスイッチングHPLC法やアミン誘導体化LC-MS/MS法, さらにはペプチドの組織分布を可視化して評価できるMS分析法に基づくイメージング分析の最適化を図ってきた。これら分析法をもとに, 血漿からピコモルレベルでのペプチド検出に成功し, 循環血液系にそのままの形で吸収されることを明らかにしている。本稿ではペプチドの生体調節作用とペプチドの生体利用性に関するこれまでの研究について概説する。

  • (令和6年度日本栄養・食糧学会学会賞受賞)
    山地 亮一
    2024 年77 巻6 号 p. 397-406
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/20
    ジャーナル フリー

    骨格筋の量と質の低下は身体活動の低下を招き, 生活習慣病に罹患するリスクを高めるだけでなく, 高齢者では寝たきりのような不活動をもたらす。骨格筋の健康は日々摂取する食品成分によって調節されるため, 食品成分がどのような分子機構で骨格筋の健康に有益に作用するかを紐解く研究を進めてきた。ここでは以下の3つの食品成分で得られた結果を概説する。 (1) イソフラボン:ダイゼインがメスマウスにおいてエストロゲン受容体βを介して脱ユビキチン化酵素USP19の発現を抑制することで骨格筋量を増加させた; (2) プロビタミンAとビタミンA:β-カロテンとβ-クリプトキサンチンが寝たきりモデルと老化モデルのマウスにおけるヒラメ筋の萎縮をそれぞれ抑制した。さらにビタミンA応答遺伝子として同定したトランスグルタミナーゼ2が分泌タンパク質としてβ-カロテンによるヒラメ筋量増加に関与した; (3) 脂肪酸アミド:オレアミドが座りがちな生活による運動不足を模倣するモデルのマウスで起こる前脛骨筋の萎縮を抑制した。

  • (令和6年度日本栄養・食糧学会奨励賞受賞)
    井上 博文
    2024 年77 巻6 号 p. 407-413
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/20
    ジャーナル フリー

    これまでに健康長寿に関するタンパク質は複数報告されているが, これらは性ホルモンの影響を受けるため, 雌雄での増減が異なり, 詳細な解析が困難であった。そこで筆者は, 性ホルモン非依存的に加齢とともに発現量が減少するタンパク質Senescence Marker Protein 30 (SMP30) に着目し, この発現を制御する食品成分の探索を行ってきた。その結果, SMP30発現を増加させる非栄養素成分として, エピガロカテキンガレート (EGCG) およびレスベラトロール (RSV)) を同定し, またビタミンC合成能が欠如したODSラットにおいて, 肝障害に伴いSMP30が肝臓から血清エクソソーム内に分泌されることを明らかにした。これは, 体内ビタミンC量の低下に伴う炎症によりSMP30が血清エクソソーム内へ移行する新たな制御機構であると推察された。以上, SMP30を指標とした抗老化研究の推進は, 「健康寿命の延伸」を目指す上で効果的な戦略の一つとなるため, 現在の老化度合を数値として表すバイオマーカーとしてSMP30を応用する侵襲・非侵襲的な評価手法の確立を目指していきたい。

  • (令和6年度日本栄養・食糧学会奨励賞受賞)
    三谷 塁一
    2024 年77 巻6 号 p. 415-421
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/20
    ジャーナル フリー

    慢性的な肥満状態は2型糖尿病や心血管系疾患, 認知機能低下などの肥満関連疾患の発症リスクを上昇する。肥満の原因は食習慣の欧米化や運動不足による脂肪細胞の肥大化と過形成であり, これらを抑制することが肥満の効果的な予防策と考えられてきた。その一方で, 脂肪細胞の形成不全はホルモン産生バランスの変調を来すことから, 肥満予防と健康維持には脂肪細胞の「量的制御」だけでなく「質的制御」も重要であると考えられる。筆者は, 嗜好飲料に含まれる呈味成分のメチルキサンチン類に着目し, これらが脂肪細胞を量的と質的の両側面から制御する分子メカニズムを明らかにすることに成功した。また, アフィニティ精製を応用することで, 脂肪細胞において機能性を発揮するためのメチルキサンチン類の標的タンパク質をいくつか同定することに成功した。以上の研究成果から, 呈味成分が抗肥満効果を持つ食品成分であることが明らかとなった。

  • (令和6年度日本栄養・食糧学会技術賞受賞)
    境野 眞善, 佐野 貴士, 青木 亮輔, 加藤 俊治, 仲川 清隆
    2024 年77 巻6 号 p. 423-429
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/20
    ジャーナル フリー

    食用油脂の劣化は食品の味や香りを損なう要因となるが, そのメカニズムは複雑で, 完全な制御技術は確立されていない。劣化を測定する指標の1つである酸価はISOで『油脂1 g中に含まれる遊離脂肪酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数』と定義されている。この酸価は, 油脂の主要成分であるトリグリセリドの加水分解を測定する指標として広く認識されてきた。特に日本の調理現場では, フライ油を廃棄基準として酸価が利用されてきたため, 酸価は最も重要な劣化測定指標の1つとされている。このような背景の中, 我々は加熱した菜種油の分析を通じて, 遊離脂肪酸以外に酸価に影響を及ぼすカルボン酸として, oleoyl-linoleoyl-(8-carboxyoctanoyl)-glycerolやdioleoyl-(8-carboxyoctanoyl)-glycerolを初めて特定した。さらに, これらのカルボン酸が遊離脂肪酸とともに酸価の上昇に大きく寄与することを定量的に示した。本稿では, 以上の検討結果に加えて, 得られた知見に基づいた応用事例として, フライ油管理のオペレーション支援や酸価の上昇を抑えるフライ油について紹介する。

研究ノート
  • 横山 嘉子, 斎藤 楓, 加治 和彦, 岩崎 有希, 久保 宏隆, 白石 弘美, 加納 和孝
    2024 年77 巻6 号 p. 431-438
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/20
    ジャーナル フリー

    タモキシフェン (TAM) はエストロゲン感受性乳癌の治療に汎用されるが, 白血球など他細胞においてもアポトーシスを誘導し, 細胞数を減少させる。本研究では, TAMの細胞毒性と生体成分である脂質の影響に焦点を当て, ヒト単球白血病細胞 (U937細胞) を用いて, 飽和脂肪酸であるパルミチン酸 (PA) の影響を検討した。DEVDase活性, 核の凝集・断片化を調べた結果, TAMはU937細胞にアポトーシスを誘導する一方で, PAによってその効果が顕著に阻害されることが明らかになった。対照的に, オレイン酸 (OA) ではこの阻害作用は弱かった。17β-エストラジオール (E2) はTAMによるアポトーシスに影響せず, 自身もアポトーシスを誘導しなかった。ミトコンドリアを用いた解析では, PAがTAMによる呼吸鎖複合体 (I, II) (CI, II) の活性阻害を解除することが示された。これらの結果から, PAが, TAMに引き起こされるエストロゲン受容体 (ER) 非依存性の細胞毒性を軽減する可能性が示唆された。

資料
  • 赤澤 葉月, 東泉 裕子, 由田 克士, 瀧本 秀美
    2024 年77 巻6 号 p. 439-450
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/20
    ジャーナル フリー

    健康的な食品選択のため, 栄養素により食品を区分またはスコア化する栄養プロファイルモデルが諸外国で活用されており, 我が国においても日本版栄養プロファイルモデル策定のための研究が行われている。そこで, 本研究では, 日本版栄養プロファイルモデル策定に資する基礎資料として, 既に活用されている諸外国のモデルの閾値基準設定方法と, その根拠となる情報を整理した。食品カテゴリーごとに閾値を定めた18個のモデルを対象に情報収集を行ったところ, 各食品カテゴリーに対してWorld Health Organization (WHO) や各国が定める食事摂取基準等に一定の割合を定め, 閾値とする国が半数以上であった。一方でアジア諸国では, 流通している食品の栄養素を基準とし, それらの食品の一部が基準を満たすよう閾値を定める傾向にあった。日本版の策定においては, 日本人の食事摂取基準や流通する食品の栄養素, また諸外国との調和の観点から基準の設定を行う必要があると考えられた。

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