血液の酸塩基平衡状態は全体としてpHで数量的に表現されるが,これには呼吸性成分と代謝性成分とが含まれている。呼吸性変動は動脉血のPco
2により容易に知ることができるが,代謝性変動は近年まで適当な指標がなかった。最近Base Excessの概念が代謝性変動の指標として提唱されるとともに,測定装置の発達により酸塩基平衡の研究が容易になった。
手術侵襲による酸塩基平衡障害には多く因子が影響しているが,本研究では用手調節呼吸による成人の全身麻酔者の酸塩基平衡をおもに代謝性の面から調べ,また同時に血漿電解質をも調べた。麻酔終了後充分に覚醒させると呼吸性障害はみられないが,代謝性アチードジスが術中より術後にかけて進行する。しかしこの代謝性アチドージスは術後1日には一般に回復するが,術前に代謝性アチドージスを有するものはその回復が遅い。また術後4日まで炭酸ガス蓄積を伴わない軽度の低酸素症がみられた。麻酔剤の中で笑気とフローセンは代謝性アチドージスの影響はあっても軽度であり,エーテルは代謝性アチドージスの影響が強いが手術直後より積極的に体外排除を行なうと麻酔終了後には他の麻酔剤と回復は同じになる。3000
mlまでの術中輸血は合併症がなければ術中,術後の酸塩基平衡に影響を与えない。麻酔中低換気は過換気よりも代謝性アチドージスの影響が強いが麻酔終了後は差がない。術中より0.3 Mol T. H. A. M. 4~5
ml/
kgの投与は麻酔終了後の代謝性アチドージスの予防に有効であった。血漿電解質Na
+, K
+, Cl
-はいずれも麻酔終了後に正常範囲内の変動であるが濃度が低下し,なかでもK
+の低下はNa
+, Cl
-よりも大きい。また術後代謝性アルカロージスを示したものにK
+, Cl
-の低下が大きい。術後4日まで代謝性障害を有するものにpHの恒常性が乱れた状態を示した。
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