日本臨床外科医学会雑誌
Online ISSN : 2189-2075
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55 巻, 12 号
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  • 佐藤 達夫, 出来 尚史, 佐藤 健次
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3005-3011
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
  • 平松 義文, 中川 学, 中川 明彦, 畑井 陽二, 横田 直美, 中村 夏子, 久保 弘, 小林 いづみ, 松尾 美保, 藤本 奈津江, ...
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3012-3017
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    食道癌根治手術や胃癌胃全摘術施行症例に対する在宅経腸栄養法(HEN)の意義と問題点について検討を加えた. HEN施行群は未施行群に比して体重減少の程度が有意に少なく, %標準体重比も有意に良好な値で維持された.また血清アルブミンと末梢血リンパ球数も良好に維持され,小野寺のPNIや, BuzbyのNRIは, HEN未施行群では術後1年後では術前値より悪化したが,施行群では術前値より好転した. HENの代謝上の合併症としては腹満/下痢/腹痛が0.31回/症例(18%)の頻度に,カテーテルの挿入や留置に伴う合併症としては固定糸の脱落,カテーテルの自己抜去/閉塞/破損が3.29回/症例(189%)に見られたが,重篤な合併症は認められなかった.食道癌や胃癌手術症例に対するカテーテル空腸瘻を用いたHENは,術後経口エネルギー摂取量が不足する症例に対し,良好なperformance statusを維持し, QOLを向上させるための有用な補助的栄養法の一つであることが示唆された.
  • 岩田 尚士, 山下 芳典, 高島 郁博, 西山 正彦, 平井 敏弘, 峠 哲哉
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3018-3022
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    消化器癌術後に好発するMRSA腸炎を予防する目的で,酸によるMRSAの発育阻止条件を実験的に検討し,さらに胃癌,食道癌術後における希塩酸注入法を試みた.酸がMRSAに対し殺菌効果を発現するのはpH2.5以下であり, pH2.0では30分間, pH1.5では5分間の接触で99%以上の発育阻止が認められた.臨床応用ではpH2.0の希塩酸20ないし40mlを胃ゾンデより排ガス日まで術後8時間毎に注入し,消化管内容および便の培養結果と臨床症状について検討を加えた. MRSAの検出率は胃癌で注入群2/30 (6.7%),非注入群で7/30 (23.3%),食道癌では各々1/21 (4.8%), 7/21 (33.3%)であった.また術後腸炎を併発した症例は胃癌で注入群1/30 (3.3%),非注入群4/30 (13.3%),食道癌ではそれぞれ1/21 (4.8%), 6/21 (28.6%)と,いずれも希塩酸注入群で低い傾向が認められ, MRSA腸炎予防における希塩酸注入法の有用性が示唆された.
  • 生田 肇, 浜辺 豊, 白石 勉, 西田 勝浩, 松浦 俊彦, 大澤 正人, 山本 正博, 斎藤 洋一
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3023-3028
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胸部食道癌非治癒切除例の予後因子を検索する目的で教室で扱った53例のうち3年以上生存例8例と3年未満死亡例44例(1例は現在1年6月生存中)の臨床病理項目を比較検討した.非治癒切除例の1年生存率, 3年生存率, 5年生存率はそれぞれ47.7%, 18.2%, 13,0%で,臨床病理項目の比較では3年以上生存例にEf3が有意に(p<0.01)多かった. 3年以上生存例のうち2例がa3n0で術前後に放射線療法が行われていた.他の6例はn3が5例, n4が1例で3年未満死亡例のn3, n4症例21例と比較して,リンパ節転移領域で後者の61.9%が複数領域転移であったのに対して,前者では6例全例が1領域転移であり(p<0.05),リンパ節転移個数では後者の95.2%が3個以上であったが,前者では6例中5例が単発転移であった(p<0.01).非治癒切除例の予後改善のためには個々の症例に応じた術前後療法の追加が必要である.
  • 各種画像診断法の比較検討
    鈴木 孝雄, 落合 武徳, 天野 穂高, 神津 照雄, 有馬 美和子, 奥山 和明, 軍司 祥雄, 中島 一彰, 磯野 可一
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3029-3032
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胃癌術前リンパ節転移診断におけるdynamic computed tomography (以下CT), abdominal ultrasonography (以下US), endoscopic ultrasonography (以下EUS) の有用性を検討した.対象は胃癌切除78例であり, CT施行30例, US施行78例, EUS施行44例の検査所見と摘出リンパ節の組織所見を対比した.リンパ節は1, 3, 5番の小蛮群, 2, 4, 6番の大蛮群, 7, 8, 9, 11番の腹腔動脈群に分類した.小蛮群の転移診断ではEUSがsensitivity 69%, accuracy 80%とすぐれていた.しかし,大蛮群では最も良好であったCTでもsensitivity 50%, accuracy 87%であり, USはsensitivity 8%にすぎず,画像診断の盲点と思われた.一方,腹腔動脈群ではCTがsensitivity 67%で最も良好であった. CT, US, EUSを組み合わせた総合診断が必要であるが,画像診断の限界も理解した上での術式選択が重要である.
  • 佐藤 貴弘, 西村 元一, 藤村 隆, 杉山 和夫, 神野 正博, 米村 豊, 三輪 晃一, 宮崎 逸夫, 山口 明夫
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3033-3038
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    直腸癌は術後局所再発が多く,一旦再発すればその診断は容易でなく,予後はきわめて不良である.今回1975年より当科で切除しえた直腸癌局所再発症例15例の検討を行った.初回手術より再手術までの期間は平均2年であり,再発時の主訴は痔痛が最も多く,次いで消化器症状,血便,血尿であった.術式としては直腸切断術8例,骨盤内蔵全摘術5例,腫瘍切除1例,膀胱全摘1例であり,うち3例に対して仙骨合併切除を施行した.術後, 15例中11例において全身状態改善を認め,愁訴も軽減された.予後を検討したところ,再手術後の1年生存率は46.2%であり,肉眼的に切除しえた症例のうち3例が現在も生存中であり,最長は13年8カ月生存中である.直腸癌局所再発例において,切除可能例では積極的に切除することにより症状を軽減させることが示唆された.
  • 余喜多 史郎, 福田 洋, 大西 隆仁, 石川 正志, 原田 雅光, 和田 大助, 田代 征記
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3039-3045
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    肝細胞癌肝切除症例のうち主腫瘍径5cm以下,術後6カ月以上経過例65例を対象とし,単発群(ST群, n=46),多発群(n=19)に分け,多発群をさらに肝内転移群(IM群, n=10),と多中心性発生群(MT群, n=9)に分け治療成績から手術適応の検討を行った.術死は1例(1.5%),術後合併症は21例(32.2%)にみられた.全体の累積生存率は1年86.1%, 3年72.3%, 5年44.7%であり, ST群では各々89%, 78%, 52%であった. MT群は3生率86%でIM群の42%に較べ有意に良好であった.さらにST群を腫瘍径別に検討すると3cm以下群の1年, 3年, 5年生存率は各々87%, 69%, 40%で予想に反して不良であった.再発は全体で28例(43.1%)に認め,各群間で再発率に差は認めなかった.以上から多中心性発生例は積極的に手術適応とすべきであるが,小型肝細胞癌では予後を悪くしているのは癌死ではなく,肝不全死や術後合併症などであることから,肝機能良好(TR2.4以下)な症例を手術適応にすべきであると思われた.
  • 瀬川 徹, 南 恵樹, 成田 一之, 田中 邦彦, 梶原 義史, 井沢 邦英, 兼松 隆之
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3046-3050
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    肝癌切除例75例を対象に術前CTより脾体積を算出し,脾体積と肝切除の手術危険度および肝癌切除後の遠隔成績との関連性にっき検討した.脾体積を120cm3以下(A群), 120~300cm3 (B群), 300cm3以上(C群)の3群に分類した. A, B, C群の順に肝硬変併存率,食道静脈瘤合併率は増加し血小板数は逆に減少した.術前ICGR15値は3群間に差はなかった.術中出血量はC群がA, B群より多い傾向であったが有意差は認めなかった.術後の合併症発生率はA群52.0%, B群41.7%, C群57.0%と3群間に差はなかった.肝癌切除後のA, B, C群の5年累積生存率は各々49%, 54%, 68%であり有意差はないが脾腫に伴い高くなる傾向であった.したがって脾腫が肝癌切除に及ぼす影響は少ないと考えられた.
  • 三方 律治, 今尾 貞夫, 堀江 重郎
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3051-3054
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    膀胱癌102症例の臨床的検討を行った.男女比は3.9:1,年齢は29~89歳(平均66)であった. 89例は血尿を主訴としていた. 62例が喫煙の習慣を持っていた.合併癌は12例であった. 98例は移行上皮癌であった. 87例がG2またはG3で56例がT1であった.外科的初回治療法はTUR-BTが78例,膀胱全摘除術が19例であった. 3~5年生存率は77%で,平均生存期間は1,882日であった.生存率は組織分化度の高い症例ほどに高く,表在性癌は浸潤性癌に比べ生存率は高かった.
  • 迫 裕孝, 沖野 功次, 阿部 元, 小玉 正智, 中根 佳宏
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3055-3058
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    甲状腺分化癌の家族内発生がみられた2家系を経験したので報告する.
    家系1 (57歳と31歳の母娘に発生した分化癌):母:腫瘍は左葉の径4.4cmの高分化型乳頭癌で,リンパ節転移がみられ,亜全摘と左側のmodified neck dissection (MND) を施行した.娘:腫瘍は左葉の径3.5cmの低分化型の微小浸潤型濾胞癌で,リンパ節転移はなかった.左葉切除とI~IV群リンパ節郭清術を施行した.
    家系2 (78歳と38歳の母娘に発生した分化癌):母:腫瘍は峡部に再発した後2.8cmの低分化型乳頭癌で,全摘, I~IV群リンパ節郭清と気管層状切除術を施行した. 2年後再発し,喉頭,気管を切除し永久気管孔を造設した.娘:腫瘍は左葉峡部寄りの径0.9cmの高分化型乳頭癌でリンパ節転移はなかった.亜全摘とI~IV群リンパ節郭清術を施行した.
  • 石田 敦久, 勝村 達喜, 藤原 巍, 正木 久男, 田渕 篤, 菊川 大樹, 籏持 淳
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3059-3063
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は41歳男性.複視を主訴に来院.低身長,白髪,高音嘆声,皮膚腓腫腫様皮疹,尿道下裂,白内障手術の既往,糖代謝異常,脂肪肝を認めWerner症候群と診断.血管造影では,両側頸動脈の狭窄,左鎖骨下動脈の狭窄,左外頸動脈の完全閉塞を認めた.冠動脈は正常であった.一過性脳虚血症状を伴う大動脈弓症候群と診断し,頭蓋外頸動脈血行再建術の適応があると判断した.
    左鎖骨下動脈狭窄部血栓内膜摘除後,同部位と大伏在静脈グラフトを用いて左内頸動脈にバイパス術を施行した.術後経過は良好である.
    本症例は腹部皮膚培養でも特徴的所見が得られた.本症候群に対する頭蓋外頸動脈血行再建術として本邦初の症例である.
    本疾患の特異性から動脈硬化の進行は早く厳重な経過観察が必要であると考えられる.
  • 有田 毅, 多田 出, 竹内 裕昭, 安田 一弘
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3064-3067
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胃癌根治術後2年7カ月目に横行結腸の嵌頓による汎発性腹膜炎を併発した成人のBochdalek孔ヘルニアを経験した. 37歳の男性が,胃癌術後のfollow-up中に急性腹症で入院した.イレウスの疑いで保存的治療中,腸管穿孔による腹膜炎を併発し,緊急手術を施行した.手術所見で, Bochdalek孔に嵌頓した横行結腸が絞拒されて穿孔したものと診断された.本症例は,入院時に的確に診断され根治術が成されていれば,腹膜炎の併発は予防できたと考えられた.
  • 川島 邦裕, 臼杵 尚志, 平井 隆二, 曽我 浩之, 清水 信義
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3068-3071
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胃軸捻転症を伴った巨大な食道裂孔ヘルニアの1例を経験したので報告する.症例は数年来持続する咳漱に悩まされていた71歳の女性で,激しい咳と呼吸困難発作を主訴に当科を受診した.初診時胸部レントゲン写真で後縦隔にニボーを有する胃泡を認めた.上部消化管造影では,胃は臓器軸性に捻転し,大蛮側を頭側にして胃前庭部から遠位体部が胸腔側へ脱出し,いわゆるupside down stomachの形態を呈していた.また食道胃接合部は正常に位置し,胃の捻転にもかかわらず内腔の閉塞所見はなかった.傍食道型食道裂孔ヘルニアに続発した胃軸捻転症と診断し,開腹による修復術を施行した.術後2年経過した現在,特に症状を認めず,良好に経過している.
  • 雛川 真, 小山 博記, 稲治 英生, 甲 利幸, 今岡 真義, 日下部 博, 岩永 剛, 吉野 邦俊
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3072-3076
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    頸部食道癌の初発症状は,ほとんどが嚥下痛,嚥下困難をはじめとする嚥下障害である.今回われわれは前頸部腫瘤を初発症状とし,その臨床像から急性化膿性甲状腺炎との鑑別に難渋した頸部食道癌の1例を経験した.難治性前頸部膿瘍などの所見より急性化膿性甲状腺炎の診断をつけた頃,嚥下障害が現れ始めた.食道造影を行った結果,頸部食道の狭窄と,狭窄部位から前頸部に向かう痩孔の存在が認められ,生検の結果頸部食道癌と診断された.前頸部の難治性膿瘍は食道病巣部位から生じた痩孔による炎症のためであり,頸部食道癌の初発症状としては文献上探索し得る限りでは初めての症例である.難治性前頸部膿瘍はこのように頸部食道癌による痩孔を介して生じる可能性があることを念頭に精査をすれば,このような初発症状を呈する頸部食道癌の早期発見に寄与できると思われた.
  • 廣本 雅之, 井野口 千秋, 越智 誠, 真田 修, 松田 知雄, 横崎 宏
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3077-3082
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    比較的まれな胃innammatory fibroid polyp (以下IFP),および隆起型異型上皮巣(以下ATP, adenoma)を併存した胃癌の1例を経験したので報告する.
    症例は81歳,女性,腹部膨満感と水様性下痢を主訴に来院.上部消化管造影・内視鏡において,十二指腸球部へ浸潤した幽門部の2型癌,そのやや口側に山田III型ポリープに類似する球状の粘膜下腫瘍,さらに体部小脅に小さな半球状の隆起性病変を認めた.胃亜全摘術を施行.病理組織学的検索では,それぞれ,中分化型胃癌(tub2,ss), IFP, ATPであった.
    胃IFPと胃癌との合併例の報告は,本邦において現在までに22例であり,比較的まれなものである.年齢は平均62.4歳で,やや男性に多くIFPの多くは1cm以下であり,胃癌は早期癌が多くみられた.両者の合併については,種々の説があるが,胃癌の粘膜背景を考える際,示唆に富む症例と思われた.
  • 鈴木 泰志, 櫻井 俊宏, 草野 満夫
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3083-3087
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    今回早期胃癌と診断後, 7年間内視鏡的観察が可能であり,その間大きな形態的変化を認めず手術を施行した1例を経験したので報告する.
    症例は61歳男性, 1985年人間ドックにて胃内視鏡を施行.胃前庭部大轡に周囲に発赤のある小隆起を伴う直径約7mmの浅い陥凹性病変を認めた.生検でGroup IVと診断されたが本人が手術を望まず,その後毎年内視鏡にて経過観察していたが,形態的には著変を認めなかった.又,内視鏡は生検のみで他は施行せず, 7年後の1992年の生検でGroup Vと診断,本人納得し,手術目的に入院した. 1992年5月20日,胃亜全摘術およびリンパ節郭清(R1) Billroth I法にて再建術施行. P0H0N0S0のStage I,摘出標本は深達度mのIIc+IIaであった.
  • 吉富 秀幸, 本田 一郎, 藤田 昌宏, 渡辺 一男, 渡辺 敏, 山本 宏, 宮内 充, 山本 尚人
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3088-3093
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    近年,癌患者に第2,第3の悪性腫瘍が発生する頻度は増加する傾向にある.今回われわれは胃癌と悪性黒色腫の同時性重複癌の稀な1例を経験したので報告する.
    症例は68歳,男性. 1990年7月胃体部大脅側を中心に広がる4型胃癌に対し脾合併切除胃全摘術を施行した.肉眼的進行程度(旧分類)ではP0H0N4(+)S2 Stage IVであった.術後1カ月目に左鼠径部リンパ節の腫脹を認め,摘出術を施行した.組織所見は悪性黒色腫であった. EAP療法を中心とする化学療法を行ったが1992年1月に悪性黒色腫皮膚転移が出現,同年6月右大脳転移を認め7月死亡した.
    胃癌を含む重複癌の発生頻度は2~3%とされ特に相手臓器としては消化管に発生する率が高いとされるが,悪性黒色腫との重複癌の報告は少なく,稀な1例と考えられた.癌の治癒率の向上や,社会の高齢化に伴い重複癌は増加傾向にあるとされ,今後はこれらに対する注意も必要であると考えられた.
  • 白子 隆志, 森 茂, 米山 哲司, 二村 学, 山本 秀和, 岡本 亮爾, 横尾 直樹
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3094-3098
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    消化管重複症は比較的稀な先天性疾患であるが,近年診断技術の向上に伴い,術前診断が下される症例も増加している.しかしながら,症例によっては多彩な症状を呈し,診断に苦慮する症例も少なくない.今回われわれは下血を主訴として来院した6カ月の女児に対し,注腸・腹部超音波検査・腹部CT検査を行い術前に小腸重複腸管を強く疑って開腹術を施行した.手術所見では回腸末端から70cm口側の小腸間膜側に4×3×3cmの嚢胞性腫瘤を認めた.内容は黒色の凝血塊であり,割面では筋層を隣接腸管と共有し,嚢胞粘膜に潰瘍性病変を認めた.組織学的には嚢胞内は異所性胃粘膜でおおわれており,小腸に発生した重複腸管と診断した.乳児期の消化管出血の鑑別診断として頻度的には稀ではあるが消化管重複症も念頭に置くことが大切であり,腹部超音波検査,腹部CT検査などの画像診断も有用であると考える.
  • 中村 徹, 碇 秀樹, 石橋 経久, 菅村 洋治, 國崎 忠臣
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3099-3101
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    明らかな腹部外傷の既往がなく,腰椎体間に空腸が嵌頓しイレウス症状を呈した症例を経験したので報告する.
    症例は69歳男性.腹痛・嘔吐を主訴とし来院.イレウスの診断にて保存的治療を行ったが軽快せず開腹手術を施行した.手術所見では,空腸が第3・4椎体間に嵌頓し同部がイレウスの原因であった.空腸壁が一部挫滅していたので空腸部分切除術を施行した.
    椎体間への腸管の嵌頓によるイレウスは文献上数例報告されているが,いずれも鈍的腹部外傷後に発症しており,本例は明らかな外傷の既往はなくその原因は不明である.
    その診断は困難であるが腹部外傷後に腸閉塞状態がみられた場合,椎体問への腸管の嵌頓という機械的な閉塞の可能性も念頭におく必要があると思われる.
  • 坂田 好史, 岡村 光雄, 栗本 博史, 尾野 光市, 上西 幹洋
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3102-3106
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    成人腸重積症4例を経験したので報告する.症例1は79歳,男性で右下腹部痛・下痢を主訴に来院した.入院後,注腸透視,腹部超音波検査,腹部CT検査にて回盲部腸重積症を疑い,手術を施行した.手術所見では,回盲部で,回腸が上行結腸に嵌入し,重積していたため,右半結腸切除術を施行した.先進部は回腸末端から14cm口側の回腸であったが,腸重積の誘因となる病変は認めなかった.症例2は33歳の女性.盲腸悪性リンパ腫により,回盲部腸重積症となっていたため右半結腸切除術を施行した.症例3は52歳の男性.上行結腸癌による結腸型腸重積症であったため右半結腸切除術を施行した.症例4は63歳の男性.直腸癌による結腸型腸重積症であったため低位前方切除術を施行した.
    以上われわれが経験した4症例に文献的考察を加え報告する.
  • 中川 国利, 桃野 哲
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3107-3110
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    大腸脂肪腫の多くは2cm以下であり,腸重積症や腸閉塞症を来たす例は稀である.今回われわれは,腸重積症を来たした大腸脂肪腫症例に対して,腹腔鏡下手術を応用した手術を施行したので報告する.症例は64歳の男性で, 1年前より軽度の右上腹部痛を繰り返し,便潜血反応陽性を指摘されて来院した.腹部超音波検査やCT検査にて右上腹部に径5cmの腫瘤を先端とした腸重積像を認めた.また注腸造影検査や大腸内視鏡検査でも,横行結腸肝轡曲部近くに,表面平滑,境界鮮明な腫瘤を認めた.色調が黄色で, CT値が脂肪と同じであることより大腸脂肪腫と診断した.そこで手術侵襲を少なくするため,腹腔鏡下に腫瘤を中心に結腸を約25cmほど遊離した.次に腫瘤直上に6cmの皮膚切開を置き,腫瘤を含めて結腸を10cm切除した.腫瘤は5.4×5.0×5.Ocmの大きさで,組織学的には成熟脂肪細胞からなる脂肪腫であった.術後の痔痛は軽く,経過は良好であった.
  • 三枝 奈芳紀, 田中 寿一, 土屋 俊一, 山口 敏広, 柳沢 真司, 北方 勇輔, 小田 健司
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3111-3114
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    S状結腸間膜より発生したhemangiopericytomaの1例を経験したので報告する.症例は62歳の男性で,排尿困難・下腹部腫瘤を主訴に来院, CT・血管造影によりS状結腸間膜由来の腫瘍と診断,開腹切除した.組織学的には良性のhemangiopericytomaと診断され,現在経過観察中である.
  • 坂本 啓彰, 小柳 泰久, 青木 達哉, 中島 厚, 加藤 孝一郎, 馬島 亨, 大野 正臣, 寿美 哲生
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3115-3118
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    消化管に発生する神経鞘腫は比較的稀であるが,中でも大腸に発生する神経鞘腫は極めて稀である.今回われわれは,上行結腸に発生した神経鞘腫を経験したので報告する.症例は64歳男性,主訴は血便.注腸にて上行結腸に約35mm大の隆起性病変を認め,大腸内視鏡検査を施行したところ,頂部には白苔を有する潰瘍性病変を伴っていた.同部の生検およびその免疫染色(S-100蛋白陽性, Desmin陰性)にてNeurogenic tumorが疑われ文献的にmalignancyの合併も否定できない為,右半結腸切除術を施行した.摘出標本の病理学的検索にて腫瘍は紡錘型細胞よりなり, S-100蛋白染色強陽性, Desmin陰性であった.また,核分裂像の認められないこと,細胞密度の高くないことなどから,良性の神経鞘腫と診断した.術後1年を経過し再発の兆候なく外来通院加療中である.
  • 相沢 修, 小棚木 均, 吉岡 年明, 柴田 裕
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3119-3122
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    デスモイド腫瘍を合併したGardner症候群を経験したので報告する.症例は24歳の女性,血便にて発症した.精査の結果,大腸ポリポーシスと頭蓋骨腫の診断で結腸全摘術,直腸粘膜抜去術, J型回腸嚢肛門吻合術を施行した.家旅歴に大腸ポリポーシスはなかった.術後1年3カ月で腹壁切開創に弾性硬の腫瘤が出現,摘出後の組織検査ではデスモイド腫瘍であった.また,現在,小児頭大の軟部腫瘍が後腹膜腔に認められており,これもデスモイド腫瘍と考えられる.デスモイド腫瘍に対する治療は外科的完全切除が最も有効と考えられるが,完全切除が不可能な例に対する治療の効果が不確定なこと,また,腫瘍による症状がないことから現在この後腹膜腫瘍に対しては治療を行っていない.
  • 金子 聰, 吉崎 巌, 秋山 七千男, 長谷部 浩亨, 三枝 好幸, 柳衛 宏宣, 武田 泰隆, 美甘 晋介, 藤井 祐三, 江里口 正純
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3123-3126
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は72歳女性. 1985年8月横行結腸癌にて右半結腸切除術を受け, 1988年5月孤立性小腸転移によるイレウスのため回腸切除術を施行されている.今回, 1993年10月貧血とCEA高値のため精査入院となった.下部消化管内視鏡では,異常所見は得られなかったが,上部消化管内視鏡では,胃大轡後壁に結腸に穿通する巨大潰瘍の形成を認めた.胃癌の診断にて開腹し,胃幽門側切除及び横行結腸合併切除を行った.病理組織的には,結腸癌の再発(孤立性腹膜播種)と診断された.結腸癌による胃結腸痩の本邦報告例は, 18例あるが初発例のみであり,自験例の様に孤立性小腸転移をきたした後に,孤立性腹膜播種再発により発症した症例の報告例は,文献的に認めない.
  • 中崎 隆行, 中越 享, 澤井 照光, 安武 亨, 宮下 光世, 草野 裕幸, 清水 輝久, 富田 正雄
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3127-3131
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    興味ある腸管形態を示した大腸多発癌の1例を経験したので報告する.症例は44歳,女性.主訴は血便.注腸検査では直腸上部の限局潰瘍型の癌と,その口側に正常な粘膜を介して約10cmのcobble stone様の所見を呈する全周性の狭窄を認めた.内視鏡検査でも同様の所見であり,生検では直腸病変はgroup 5, S状結腸病変はgroup1であった.直腸癌とびまん浸潤型大腸癌の診断にて手術を行った.直腸癌の組織像は中分化腺癌で深達度pmであった. S状結腸の病変は,一部粘液癌を伴う中分化腺癌で,その病変の大部分はリンパ管侵襲によるものであり,粘膜面にはごくわずかに露出していたのみであった.直腸癌とS状結腸癌との間の腸管にリンパ管浸潤のないこと,また両者のDNA ploidyが異なることより多発癌と診断した.
  • 高橋 広喜, 小泉 雅典, 石井 洋, 鈴木 博, 中嶋 和幸, 小山 純
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3132-3135
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    Leser-Trélat徴候を呈した早期大腸癌の1例を経験した.症例は68歳,女性で,平成3年4月に頸部,体幹部を中心に淡褐色~黒色の掻痒感を伴った丘疹を認め当院皮膚科を受診した. Leser-Trélat徴候を疑われたが放置していた.平成5年1月,腹部不快感が出現し, S状結腸に4.5×4.0×4.Ocmの有茎性ポリープを認め,生検で大腸癌と診断され, S状結腸部分切除術を施行した.組織学的には,高分化型腺癌, sm, n0であった.また,皮膚の生検組織所見は老人性疵贅であった.術後,疵贅は減少し皮膚掻痒感も改善した.悪性腫瘍の早期発見および早期治療の面から,本徴候は臨床的に有意義なものと思われた.
  • 小川 吾一, 光吉 貢, 内田 隆寿, 蒲原 行雄
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3136-3142
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    S状結腸癌による腸重積症の2例を報告し,文献的考察を加えた.症例1は80歳,女性.主訴は粘血便,イレウス症状. US, CT,大腸内視鏡検査等にて術前診断を行い,手術を施行した.結腸一直腸型重積症で,整復後にS状結腸切除術を行った. S状結腸に1型腫瘍 (2.8×2.5×1.6cm) が認められた.症例2は91歳,女性.主訴は肛門からの腸管脱出.肛門から約15, 6cmにわたり腸管が脱出し,その先端に1型腫瘍 (2.8×2.7cm) が認められた.手術は腰麻下に経肛門的にS状結腸切除術を行った.自験例を含む本邦報告例ではS状結腸癌による腸重積症は52例で,そのうちの23%に肛門外脱出が認められ,肛門外への脱出は決して稀ではなかった.なおその際,肛門括約筋弛緩等の直腸脱発生の要因も関与していると思われた.手術方法については癌の場合,整復せずに根治手術を行うことが望ましいが,必ずしも可能ではなく,各症例に応じた適切な手術が選択されるべきである.
  • 李 力行, 瀬戸 泰士, 花岡 農夫, 工藤 保, 大内 慎一郎, 田中 雄一
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3143-3147
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    大腸癌手術1年後に肝・肺同時転移再発例に対して肝・肺転移部切除を成しえた症例を経験したので報告する.症例は53歳,男性.大腸癌術後経過観察中腫瘍マーカーの上昇を認め検索の結果,腹部CTで前区域に孤立性転移を認め,さらに入院時胸部X線で右下肺野にコイン状陰影を1つ認めた.肝S5亜区域切除,右下葉肺部分切除を施行した.大腸癌研究会集計(1987年)によると肝・肺同時転移は血行性転移の10%を占めている.しかしながら肝・肺同時転移再発に対しての手術適応,治療成績についての詳細な報告は少なく今後,症例の集積とその解析が期待される.
  • 横山 登, 森 秀樹, 小池 康, 町田 彰男, 津嶋 秀史, 高橋 望, 日下部 輝夫, 桑原 竹一郎
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3148-3152
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は60歳,男性.左膝蓋骨骨折にて入院中,肝機能障害を指摘され,超音波検査で肝前上区域(S8)に直径15mmの内部低エコーを示す腫瘤性病変を認めた.Dynamic CTにて同部位にhigh density massを示した.エコー下針生検にてfocal nodular hyperplasia (以下FNH)の診断をえたが, AFPが高値を示し,血管造影にて異常血管増生像と腫瘍濃染像を認め肝細胞癌も否定しえないため手術を施行した.切除標本の肉眼所見では,境界不鮮明でその割面は軽度膨隆しており,結合織性の被膜形成は認めなかった.病理組織学的には,軽度核異型のある細胞が散見され, adenomatous hyperplasia (以下AH)と診断された.今回われわれは,肝細胞癌と鑑別困難であったAHを経験したので若干の考察を加え報告する.
  • 堀内 淳, 平田 賢一, 上田 重春
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3153-3156
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例1は54歳女性. 7年前に急性胆嚢炎の既往があり,右季肋部痛を訴えて入院.軽度の黄疸がありERCPを施行したところ三管合流部に結石を認めた.症例2は72歳男性. 15年前に胆石を指摘され,黄疸が出現し入院. CTにて合流部結石と診断した. 2例ともに胆嚢の萎縮と周囲への癒着が著明であったので,胆管空腸吻合術を施行し,術後経過は順調であった.
    合流部結石は胆嚢結石が徐々に胆嚢管から押し出されたもので, Mirizzi症候群がさらに進展した形式であると考えられており,その診断や治療は慎重に行われなければならない疾患である.
  • 西部 俊哉, 加藤 紘之, 佐藤 幸作, 平野 聡, 田中 栄一, 宗村 忠信, 道家 充, 奥芝 俊一, 下沢 英二, 小川 肇, 宮坂 ...
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3157-3160
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    切除不能胆嚢癌の胆管閉塞および門脈狭窄に対しinterventional radiology (IVR) によるexpandable metallic stent (EMS) の留置を行い,低侵襲かつ効果的にそれらの病態を改善できた症例を経験したので報告する.胆管は左右肝管から下部胆管まで閉塞,狭窄していたが,経皮経肝的ドレナージチューブを通して3個のGianturco-Roesch biliary Z-stent (Z-stent) を留置することにより内瘻化が可能であった.門脈は本幹が高度狭窄していたが,経皮経肝的に門脈に挿入したカテーテルを通してZ-stentを留置することにより解除できた. EMS留置による合併症はなく,患者は約3カ月程度自宅で日常生活を過ごすことが可能であった.
  • 林 克実, 平城 守, 山下 裕一, 黒肱 敏彦, 君付 博, 渡辺 次郎, 掛川 暉夫
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3161-3165
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    血中AFPが34.230.9ng/mlと異常高値を示した胆嚢癌の1例を経験した.症例は71歳女性で腹部腫瘤を主訴として入院した.諸検査の結果胆嚢癌と診断し拡大胆嚢摘出術を施行した.病理組織学的検討において腫瘍は大半が髄様増殖を示すhepatoidな管状腺癌であった.抗AFP染色を行うとhepatoidな部分に優位に陽性像を認めた.また抗PIVK-II染色においても陽性像を示した.術後血清AFP値は正常化し臨床的,組織学的にAFP産生胆嚢癌であることが証明された.またAFP糖鎖のレクチン親和性による分析では本症例のAFPパターンは肝外の消化器癌におけるAFPと異なる肝細胞癌パターンを示した. AFP産生胆嚢癌は稀でありその予後は非常に悪くAFP産生能との関連など今後の検討が望まれる.
  • 柳衛 宏宣, 吉崎 巌, 武田 泰隆, 藤井 祐三, 美甘 晋介, 秋山 七千男, 三枝 好幸, 野中 泰政, 金子 聡, 長谷部 浩亨, ...
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3166-3170
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    最近の分子生物学的見解より,嚢胞腺癌は嚢胞腺腫からの悪性転化によると言われてきており,嚢胞腺腫と嚢胞腺癌との鑑別は必ずしも容易ではなくなってきた.今回,われわれは膵頭部主膵管と下頭枝の嚢胞状拡張を呈し,術前に粘液産生膵癌と鑑別が困難であった粘液嚢胞腺腫の1症例を経験したので報告する.症例は53歳男性.右季肋部痛を主訴とし, US, CTにて膵頭部にlow density areaが認められた. ERPでは乳頭開口部の開大,膵頭部主膵管のびまん性拡張と下頭枝の嚢胞状拡張,および嚢胞内の粘液透亮像を認めた.以上より膵頭部の腫瘍性嚢胞を最も疑い,粘液産生膵癌も否定できないため,膵頭十二指腸切除術を施行した.病理学的には異型を伴った乳頭状増殖(atypical papillary hyperplasia) を示し,異型細胞に一致して抗CEA抗体にて染色され,粘液嚢胞腺腫と診断された.粘液産生膵癌の前駆病変として過形成や嚢胞腺腫は注目されてきており,さらに細胞,遺伝子レベルでの検討が必要と思われる.
  • 植松 正久, 冨永 純男, 坂野 茂, 頼 文夫, 滝 吉郎, 端野 博康
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3171-3177
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胃膵重複癌は稀な疾患で,予後も不良とされてきた懸念がある.今回,われわれは,胃癌根治術後に急速に進行した膵癌に対し,膵頭十二指腸切除を施行し,良好な結果を得たので報告するとともに,胃膵重複癌の本邦報告25例についての文献的考察を行った.症例は65歳男性で,胃角部早期胃癌の診断で,幽門側胃切除が施行された.術5ヵ月後に増強する黄疸を主訴に再入院となった.諸検査の結果,膵頭部癌との診断のもと,膵頭十二指腸切除が施行された.現在,膵癌根治術後3年を経過し,無再発生存中である.
    胃膵重複癌では,胃癌は早期癌のことが多く,根治術可能な場合が多いが,膵癌は術前診断が困難で,根治術不能な場合が多い.したがって,同重複癌の予後は膵癌の状況により規定されると思われる.以上より,たとえ癌が早期であるにしても,他臓器の検索を十分に行い,厳重なる経過観察により予後は向上するものと期待される.
  • 松井 祥治, 杉本 武巳, 西田 勝浩, 中沢 健, 福田 裕, 藤本 彊
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3178-3182
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    64歳女性のIm食道癌症例に対して胸部食道全摘術を施行した.術後開胸創の感染,呼吸不全,高ビリルビン血症に引き続いて急性腎不全をきたしたためにCVVHを8日間施行した.以後腎機能は著明に改善し術後87病日に軽快退院となった.
  • 天野 実, 宮田 昭海, 井上 啓爾, 前田 潤平
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3183-3186
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    極めて稀な子宮内外同時妊娠の1例を報告した.症例は29歳,妊娠3カ月の女性で,右下腹部痛を訴えて来院した.虫垂炎との鑑別が困難で,開腹手術を行ったところ,卵管妊娠破裂と判明した.右卵管切除と,患者側の希望で子宮内容除去術を行った.病理組織学的に両者の妊娠を確認した.
    近年,排卵誘発剤や体外受精の普及により,子宮内外同時妊娠は増加しているとの警告がなされている.そして以前は困難とされた子宮外妊娠の早期診断も,最近は付属器の観察に有利な経膣超音波検査や腹腔鏡の使用により,容易かつ確実となってきている.更に治療の面でも,従来の開腹による卵管切除に変わって,腹腔鏡下にある種の薬剤を卵管内に注入する,非侵襲的な治療法が開発されている.
    腹部症状を有する妊婦の診察に当たっては,子宮外妊娠の合併も念頭において診断をすすめるべきであろう.
  • 本邦報告例44例の検討
    竹内 英司, 佐橋 清美, 山瀬 博史, 川合 正行, 住田 啓, 川村 憲市, 鳥居 重彦, 竹内 誠次郎
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3187-3191
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例1は, 77歳女性. 1989年1月12日より下腹部痛が出現し腹部全体に筋性防御と性器出血を認め,膣診および内診で子宮頸癌2b期と診断した.急性汎発性腹膜炎の診断で開腹すると子宮体部前壁が米粒大に穿孔し膿汁の流出を認めた.子宮頸癌による子宮留膿腫穿孔と診断し単純子宮全摘術ならびに両側付属器摘出術を施行した.症例2は, 86歳女性. 1993年9月5日突然上腹痛が出現し,腹部単純X線写真で骨盤腔を中心に小腸ガスを認めたが, freeairはなかった.翌日,下腹部の筋性防御が出現したため,腹部造影CTを施行し,子宮の内部に不均一な低吸収域とその周囲に液体の貯留を認めた.急性汎発性腹膜炎の診断で開腹すると子宮体部前壁がpinhole大に穿孔し膿汁の流出を認め,子宮留膿腫穿孔と診断し単純子宮全摘術を施行した. 2例ともfreeairを認めなかった.造影CTでは,子宮の内部に不均一な低吸収域を認め本症例の診断に有用であると考えられた.
  • 森末 淳, 篠原 央, 大西 英胤, 米川 甫, 栗原 博明, 桜井 与志彦, 古川 俊治, 野沢 直史, 岩瀬 弘忠
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3192-3194
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は38歳の男性で膀部の発赤,痺痛のため来院した.臍炎と診断し,排膿及びセフォチアムの経口投与を行ったが,症状は増悪した. CT,エコーにて臍下部に嚢胞を認めた.更にイレウス症状が出現し,イレウスチューブ挿入を要したが造影上は消化管の閉塞部位は明らかではなかった.腸閉塞を合併した臍奇型の診断にて手術施行したところ,臍下方に嚢胞があり,それに連続する索状物が膀胱と連絡していた.嚢胞と周囲組織に強度の癒着を認めた.化膿性尿膜管嚢胞と癒着性腸閉塞と診断し,臍・腫瘤・剥離不能な小腸,横行結腸間膜の一部を一塊として切除した.膀胱へ続く索状物は可及的に膀胱近くで切離した.術後経過良好で軽快退院した.
  • 伊豫田 明, 福内 敦, 西 常博, 堀 孝吏, 丸山 雄二
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3195-3200
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    褐色細胞腫と傍神経節腫が合併し,さらに家族歴に両側性褐色細胞腫を有する興味深い症例を経験したので報告する.症例は19歳男性, 1991年4月頃より右側腹部痛を自覚し10月当科受診.右側腹部に5cm大の腫瘤を触知したため精査加療目的に入院.父親と父方の大叔母が両側性褐色細胞腫.高血圧,頻脈を認めた.血中NA(ノルアドレナリン),尿中NA・VMA値が高値,左副腎部に5×4cm大,下大静脈分岐部の右前面に6×5cm大のMRI-T2強調画像にて高信号を呈する腫瘤を認めたため左褐色細胞腫および右傍神経節腫と診断した. Ca, CEA,カルシトニンは正常, MEN-2型など他の内分泌的異常は認めなかった.塩酸プラゾシンを投与後,左副腎摘除,右腫瘤摘除術を施行した.右副腎を含め他に腫瘤を認めなかった.病理学的所見では,両腫瘍ともに蜂巣状の構造を持ちグリメリウス染色陽性.両者とも内分泌活性を持つと判断したが,電顕像にて顆粒の性状に相異が認められた.
  • 片村 宏, 坂下 武
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3201-3203
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    極めて稀な大綱原発の腹部放線菌症の1例を経験したので報告する.症例は糖尿病の治療を行っていた68歳の女性で,平成4年9月より右下腹部の痛みがあり10月になり腫瘤を触知したため来院した.入院後の腹部CTでは右下腹部の腹壁直下に径6cmの腫瘤が存在し,辺縁は腹壁側で不整,腹壁は肥厚し直接浸潤が疑われた.一方最深部は平滑,腫瘤内部にcavityがあり,この中に壁在腫瘤を思わせる突出を認めた.腹部USでは右下腹部の腫瘤は低エコーで内部は不均一,一部に嚢胞様構造を示した.腹部所見も軽度で白血球増多を欠くこと,抗生物質の投与にも反応せず腫瘤が増大傾向を示しCT所見から腹壁に浸潤性に進展し悪性腫瘍との鑑別が困難で手術を施行した.摘出標本は腫瘤様組織を含む大網と腹直筋からなる7×7×5cmの充実性腫瘤で,淡黄緑色の膿を混じる肉芽腫で組織学的に放線菌塊を認め大網原発の放線菌症と診断した.
  • 鶴田 宏史, 若狭 基見, 今西 努, 米山 千尋, 西植 隆, 渡辺 信介, 坂本 力
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3204-3209
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は22歳の男性.イレウス症状が保存的療法にて軽快せず,遷延するため,近医より紹介された.腹部単純X線写真及び上部消化管造影検査にて,胃小蛮側部の腸管ガス像,胃壁外からの圧排像と,十二指腸第4部での途絶が認められた.腹部CT検査にて小腸ループが網嚢内に認められた.患者は,腸閉塞を伴った大網裂孔網嚢ヘルニアと診断され,緊急手術が施行された.開腹時,大網裂孔より,空腸が網嚢内に嵌入し,軽度に絞掘されているのが認められ,嵌入空腸の整復,裂孔閉鎖を行った.大網裂孔網嚢ヘルニアは稀な疾患であり,本邦では,自験例を含め,これまでに38例が報告されている.本疾患の術前診断は非常に困難であり,術前診断しえたとする本邦報告例は4例にすぎない.
  • 森屋 秀樹, 片山 時孝, 森岡 幹登, 竹内 靖雄, 三富 利夫
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3210-3214
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は40歳,男性.腹部膨隆を主訴に来院.超音波, CT検査等により仙骨前面に比較的境界明瞭な内部不均一な巨大腫瘍を認めた.膀胱,大腸への浸潤はなく,血管造影ではhypovasucularであった.後腹膜腫瘍の診断で開腹した.骨盤腔を占拠する腫瘍は,周囲臓器との癒着は軽度で完全摘出できた.病理組織学的所見から神経線維腫と診断された. von Recklinghausen病を合併しない単発性の後腹膜神経線維腫の報告は本邦文献上25例目である.骨盤腔と腎周囲に多く存在し,特異的な症状はなく,比較的大きくなるまで症状が発現しない.近年の画像診断の進歩により比較的小さいものも発見されているが,後腹膜腫瘍としての存在診断にとどまり,術後の質的診断はいまだ困難である.治療は唯一手術のみであり,多くは完全摘出が可能である.
  • 阪口 晃行, 渡辺 明彦, 澤田 秀智, 中野 博重
    1994 年 55 巻 12 号 p. 3215-3219
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    腸間膜血腫は,文献上比較的稀な疾患である.今回われわれは,腹部腫瘤を主訴とした外傷性腸間膜血腫の1例を経験したので報告する.症例は, 70歳の男性.単車走行中転倒し,頭部外傷の診断にて他院に10日間入院した.軽快退院したが,その後左上腹部に腫瘤を触知するようになり当科を受診した.外来精査中に頭痛が出現し,慢性硬膜下血腫と診断され穿頭術を受けた後当科に入院した. US, CT, MRI,注腸造影,血管造影などを施行し,腸間膜血腫も疑われたが,腫瘍性病変も否定できず開腹術を行った.小腸間膜に腸管と連続性のない大小2個の腫瘤を認め,約40cmの空腸と共に切除した.内部には凝血塊が充満し,壁には腫瘍性変化を認めず,腸間膜血腫と診断した.本症例のように腸管など他の腹腔内臓器の損傷を伴わず,また,腹痛もなく,腹部腫瘤を主訴とする外傷性腸間膜血腫の報告は稀である.
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