環境科学会誌
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13 巻, 3 号
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  • 原口 紘〓, 伊藤 彰英, 紀 杉, 藪谷 智規
    2000 年 13 巻 3 号 p. 313-328
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
    天然水(湖沼水,海水)中の微量元素をキレート樹脂(Chelex-100)で濃縮後,ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分析法)およびICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)によって多元素定量を行う分析法を開発した。このキレート樹脂濃縮/プラズマ分光法(ICPAES,ICP-MS)による分析法を河川水標準物質(日本分析化学会頒布)および海水標準物質(カナダ国立研究所頒布)について適用し,信頼性を評価するとともに,琵琶湖水,沿岸海水の分析に応用した。さらに,天然水中の微量元素の溶存状態を明らかにするために,限外ろ過(分画分子量10,000Da)濃縮後,SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)/UV吸収検出/ICP-MS複合分析システムによる化学形態別分析を行った。その結果,琵琶湖水や池水中に,分子量300,000Da以上(Peak1)と10,000-50,000Da(Peak2)に相当する高分子態有機物との錯体として多くの微量金属イオンが存在することが明らかになった。海水についても,分子量10,000Da以上の高分子態有機物錯体の存在が,限外ろ過法の併用によって確認された。これらの研究から,Peak1に相当する成分はAl,Feの水酸化物コロイドを核として有機物や金属イオンが吸着した有機-無機,複合コロイド粒子である可能性が高く,このような複合コロイド形成のモデルとしてstring-ballmodel(糸巻きボールモデル)を提唱した。
  • 棟居 洋介, 高橋 潔
    2000 年 13 巻 3 号 p. 329-337
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     地球温暖化による世界の自然植生分布の変化は,大気大循環モデルによる大気中のCO,濃度倍増時の平衡実験の結果から将来の気候帯の変化を推定し,生物気候学の分類と結び付けることによって予測されてきたが,平衡状態における分布予測であり,気候変化に対する自然植生の現時点から将来への漸次的な適応は考慮されてこなかった。そこで,本研究では森林植生に焦点をあて,平衡状態における世界の潜在的自然植生分布変化の予測と過去の気候変動時における樹木種の移動速度を組み合わせることにより,気候変化への森林植生の適応を取り入れたシミュレーションモデルを開発し,2100年における世界の森林植生への影響予測を試みた。その結果は従来の予測結果とは大幅に異なり,気候変動に関する政府間パネル(IPCC)IS92c,IS92a,IS92eの3シナリオで温室効果ガスが排出される場合には,2100年までに世界の全陸地面積の2%から9%の地域で森林が消失し,3%から12%の地域で森林の枯死の危険をともなう樹木種の変化が起こり,それらの地域はユーラシア大陸北部と北米大陸に集中することが示された。また,それらの地域の森林について2100年における経済的価値の損失額を試算し,森林の消滅により年間500億ドル(1994US$)から2200億ドルの損失が発生し,非平衡状態の森林が枯死する極端なケースを想定する場合には,年間1070億ドルから5860億ドルの損失が発生することを推計した。
  • 松村 寛一郎, 中村 泰人
    2000 年 13 巻 3 号 p. 339-349
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     アジア各国における食料供給を植物性食品と動物性食品に分類する。前者は,農地面積と肥料投入により説明されるものとした。農地面積は,土地利用モデルより与えられ,肥料投入量は所得の関数であるとした。動物性食品は,アジア各国ドルベースにおける一人あたり平均所得からの乖離が,その各国における供給量を決定しているものとした。既に構築されたアジア各国食料需要モデル,アジア各国土地利用モデル,今回構築された食料供給モデル組み合わせ,需給量をカロリー換算することにより,実勢値を表現可能なモデルが得られたことを確認した。各国毎に,予想経済成長率,予想就業者人口比率,1994年時点の為替レートを用いた場合に2010年までのカロリーべ一スによる一人あたり食料需給予測を試みた。
  • 竹内 裕一, 飯田 洋子, 中嶋 信美, 二階堂 修
    2000 年 13 巻 3 号 p. 351-355
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     太陽からの全放射中にしめる紫外線の割合が異なる2地点,札幌(北緯43°)および沖縄西表島(北緯24°)において,野外でキュウリの黄化子葉に紫外線を曝露した。子葉からDNAを抽出し,DNA中に形成された損傷産物,シクロブタン型ピリミジン2量体(CPD)と(6-4)光産物の量をそれぞれに特異的なモノクローナル抗体を用いたELISA法によって定量した。札幌および沖縄の両地点で太陽紫外線に曝露した子葉では明らかなDNA損傷産物の形成が認められ,(6-4)光産物量は太陽放射量の増加にともない増加した。また,同じ太陽放射量の時,札幌より沖縄での損傷産物量が多い傾向が見られた。このことは両地点におけるオゾン量の違いによると考えられる。以上のことより,野外における太陽紫外線は植物のDNAに損傷を与えるレベルであること,ならびにオゾン層破壊による紫外線放射量の増加により野外に成育する植物のDNA損傷量が増加する可能性があることが示された。また,一日を通じてのCPDと(6-4)光産物量の変化を比較したところ,前者では夕方量が減少したが,後者では減少が観察されなかった。この違いはキュウリ黄化子葉における両者の光修復活性の違いによるものと考えられる。
  • 越川 義功, 大槻 晃, 萩原 清司, 柵瀬 信夫
    2000 年 13 巻 3 号 p. 357-367
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     横浜市南部の平潟湾において行われた水路の遮水壁撤去が環境や生物相に及ぼす影響について調査を行った。遮水壁撤去により湾奥,水路で塩分の上昇,底質の酸化還元電位の上昇などが確認された。また,底生生物相は定在性の多毛類優占からアサリなど二枚貝優占に変化した。遮水壁の撤去は海水流況の変化と底質の好気化をもたらし,浮遊幼生の供給や二枚貝の分布制限要因である酸化還元電位の改善によって二枚貝類が増加したと考えられる。
  • 藤森 英治, 市川 賢治, 石原 泰智, 浅井 勝一, 千葉 光一, 原口 紘〓
    2000 年 13 巻 3 号 p. 369-381
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
     産業廃棄物焼却炉から排出された焼却飛灰について溶出試験を行い,溶出液中の主成分元素から超微量成分元素の多元素測定を行った。測定には,高感度で多元素分析が可能である誘導結合プラズマ発光分析法および誘導結合プラズマ質量分析法を用いた。本法により,焼却飛灰溶出液中数十mg/Cm3 ~サブng/cm3 の9桁におよぶ濃度範囲で溶存している約50元素について,精度よく測定することができた。飛灰中各元素の溶出率は溶出操作後の溶出液のpHに大きく依存し,そのpH依存性は化学的性質が類似した元素ごとにそれぞれ類似した特徴を示すことが明らかとなった。また,酸化物が安定な元素は溶出率が低いという傾向も見出された。飛灰中元素の溶出挙動は,各元素の化学的性質や溶液中での安定性に加えて,飛灰中での存在形態に大きく依存していることがわかった。
  • 山内 俊彦, 峰原 英介, 菊沢 信宏, 早川 岳人, 沢村 勝, 永井 良治, 西森 信行, 羽島 良一, 静間 俊行, 亀井 康孝, 猪 ...
    2000 年 13 巻 3 号 p. 383-390
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
     赤外レーザー(CO2 レーザー及び自由電子レーザー)を8塩化ダイオキシン類(OCDD及びOCDFの混合)試料20ngに照射した。自由電子レーザーの波長22μmと25μmでは照射による変化は見られなかったが,CO2 レーザーの波長10.6μm(10W)の照射によりダイオキシンの分解に成功した。8塩化ダイオキシン試料は,4-7塩化ダイオキシン以外に分解していることが分かった。
  • 平岡 喜代典, 高橋 和徳, 中原 敏雄, 寺脇 利信, 岡田 光正
    2000 年 13 巻 3 号 p. 391-396
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     岩国飛行場地先において,アマモ場内の裸地(水深0,1,2m)にアマモ草体を移植することにより,アマモの生育制限要因を検討した。水深0mのアマモ場対照地では,株密度は春から夏の高波浪時に減少し,水深1,2mと異なる季節変化を示した。水深2m(アマモの分布下限付近)の水中光量は,年間平均で3E/m2 /dayと推定され,光量がアマモの生育制限要因と考えられた。水深0mの移植株は,台風襲来後波浪による攪乱によって消失したが,水深1,2mでは株密度は対照地とほぼ同水準で推移し,移植後致命的な攪乱がなかったことを示した。また,アマモ場の生育地と近接する裸地は,底質が同様であっても底質内部の貝殻の出現状況に違いがあった。これらの結果から,波浪による攪乱,水中光量及び底質中の物理的性質がアマモの分布に影響する主要な要因と考えられた。
  • 高橋 厚, レ ティハイレ, 田辺 信介
    2000 年 13 巻 3 号 p. 397-404
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     北海道産ウミスズメ類3種10検体について有機塩素化合物(OCs)を分析したところ,検出濃度はPCBsが最も高く,ついでDDTs,CHLs,HCB,HCHsの順であった。一方ブチルスズ化合物(BTs)の濃度は,エトピリカではCHLsやHCB,HCHsと同程度,ケイマフリとウトウはDDTsに近い値を示した。ウミスズメ類のOCsとBTs濃度及びコプラナPCBsから算出したTEQ値(2,3,7,8-TCDD毒性等量値)について,日本周辺および北太平洋上に分布する他の魚食性鳥類と比較したところ,いずれも1~2桁低値であった。今回調査したウミスズメ類のコプラナPCBsについてのTEQは,ニワトリ卵胚の最小有害作用量(LOAEL,10pg/gTEQ)より低値であった。PCB汚染によるウミスズメ類の個体数減少の可能性は低いと考えられた。
  • 松橋 啓介, 森口 祐一, 寺園 淳, 田辺 潔
    2000 年 13 巻 3 号 p. 405-419
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     環境影響の総合評価手法を開発するには,統合化プロセスの改善が必要である。アメリカ環境保護庁の"Comparative Risk"法を参考にした会議実験を通じて,統合化の枠組みを提案し,市民参加による重み付けを試行した。まず,環境問題専門家による討論を経て,日本における環境問題全体を,原因から影響に到る系統性にしたがって整理した。その結果,類似の環境問題をまとめた15種類の問題領域と,まもるべき環境の本質である4つの保護対象からなるマトリクスを得た。この枠組みに基づく専門家による重み付けでは,有害化学物質汚染による健康への影響が最も重要と判断された。次に,6種類の主要な問題領域を対象に,市民参加による重み付けを試みた。科学的知見の提供と参加者間の意見交換に時間を割くことで,市民と専門家の共通認識を深めた。その結果,市民と専門家の重み付けの差異は大きくないことが分かった。この枠組みは,影響の観点からの重要性の判断に利用可能であることが示唆された。
  • 只木 良也, 河口 順子, 小松 康彦, 池上 博身
    2000 年 13 巻 3 号 p. 421-426
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     あるまとまった地域の植物の現存(炭素貯留)量と二酸化炭素吸収固定量を推定し,それらの地域内水平的分布を標示する以下の手順を試案として提示した。最新植生図をメッシュ化し,航空写真と照合しつつ,各メッシュ内の地表状況割合を判定する。地表状況が森林の場合,森林簿(地域森林計画基本台帳)から当該森林の単位面積当たり幹材積量と成長量を読み取り,これらを乾重単位の林分現存量と現存量増加量に換算し,さらにそれらを炭素量(貯留量,吸収固定量)に換算する。森林以外のものについては,現存量には既往資料からの概数を与え,現存量増加量は0とした。地域内全メッシュの数値を平面図化した。また全域集計した。
  • 清水 雅美, 安齋 育郎
    2000 年 13 巻 3 号 p. 427-432
    発行日: 2000/08/31
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     都内の市場で購入した,9種類,95試料の食用キノコに含まれる137 Cs,134 Cs,40 Kの放射能濃度を分析した。137 Csの放射能濃度は,乾燥したキノコ(干し椎茸,キクラゲ)ではく2.23~37.1Bq/kg,生のキノコではく0.223~7.76Bq/kgであった。40Kは全てのキノコで検出されたが,134 Csは全て検出限界以下であった。各キノコの年間消費量から,キノコ類の摂取に起因する137 Csと40Kの年間摂取量(Bq・y-1 ・person-1 )を求め,内部被曝線量をICRPの実効線量計数を用いて評価した。137Csの年間摂取量は,4.33~5.01Bq・y-1・person-1(算術平均,下限は「検出限界以下」を0とした場合,上限は「検出限界以下」を「検出限界値」とした場合),3.76Bq・y-1 ・person-1 (幾何平均)となり,被曝線量は各々5.6×10-5~6.5×10-5 mSv・y-1 ,4.8×10-SmSv・y-1 となった。これは平均的な日本人が一年間に40 Kから受ける実効線量当量約0.2mSvの0.02~0.03%に相当する。従ってキノコによる被曝の寄与は相対的に小さいといえる。
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