環境科学会誌
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22 巻, 2 号
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  • 永井 孝志, 恒見 清孝, 東海 明宏
    2009 年 22 巻 2 号 p. 61-72
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     アンチモンのヒト健康リスク評価を目的として大気中濃度の推定とヒトへの曝露評価を行った。大気中濃度は大気拡散モデルAIST-ADMERを用いて全国5kmグリッドに分けて推定した。アンチモンの排出源としては事業所,火力発電所,廃棄物処理場,自動車を考慮し,各排出量を各種統計情報に基づいて面的に配分した。大気中濃度の推定結果をこれまで報告されている測定結果と比較し,沿道以外はおおむね良好に推定できることを確認した。沿道については自動車からの寄与により局所的に高濃度になると考えられるため,ADMERサブグリッドモジュールを用いて100mグリッドでの濃度推定を行った。サブグリッド解析による沿道推定濃度と沿道地点の実測濃度を比較すると,5kmグリッド解析による結果と比べてより実測値を良好に再現できるようになり,沿道濃度の推定に効果的であることが明らかとなった。推定された曝露濃度と人口の分布はリスク評価に活用される事が期待される。
  • 棟居 洋介, 増井 利彦
    2009 年 22 巻 2 号 p. 73-90
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     筆者らは先行研究において,IPCCの「排出シナリオに関する特別報告書(SRES)」の4つの社会・経済シナリオにもとづいて,世界184力国を対象に国内の栄養不足人口を2.5%以下にするために必要な一次生産レベルの食料(96品目)を2100年までの長期にわたって推計した(棟居・増井,2008)。本研究では,その中から農作物54品目の推計値を用いて2000年から2100年における世界全体の食料用の農地必要量を計算し,1)長期的な食料必要量の変動要因と世界全体の農地必要量の関係を明らかにすること,および2)将来の農作物の単収の持続的な増加の見通しについて,農業生態学的な根拠にもとづいた複数のケースを想定し,世界全体の農地必要量の減少の可能性の範囲を定量的に示すことを目的として分析を行った。分析にあたっては,現在の気候条件のもとで,各国の農作物生産量の世界シェアが2000年レベルで維持されることを仮定した。また,将来の農作物の単収の持続的な増加の見通しについては,単収の年増加量の最大値を20世紀後半の実績値とし,単収の上限値については,国際応用システム分析研究所(IIASA)の世界農業生態地帯(GAEZ)分析で推計された国・農業技術レベル別単収の値を用いて,これらの組み合わせにより4つのケースを想定した。これに,単収が2000年レベルから増加しないケースをあわせて5ケースについて推計を行った。 分析の結果,SRESシナリオで想定されている将来の社会・経済条件のもとでは,以下のことが予測された。・今世紀末までの世界全体の農地必要量の変化の主因は,世界人口の増減である。・農作物の単収が2000年レベルから増加しない場合,世界全体の農地必要量は2100年までに,世界人口120億人のレベルにおいて,最大26億6,900万ヘクタールに達する可能性がある。・農作物の生産に適した土地面積は,世界全体として農地の最大必要量を十分に上回るだけ存在する。しかしながら,森林の保全,他の土地利用との競合により農地の大幅な拡大は制約を受けると考えられる。・農作物の単収は,超多収品種の導入によって,技術的には既存の品種の1.5倍程度まで高められる可能性がある。これによって,世界全体の農地必要量を大幅に減少させることができるが,経済的な要因や,気候変動淡水資源の制約などの栽培環境の変化により,20世紀後半に達成したような単収の大幅な増加は今世紀においては難しくなることが見込まれる。・2000年の農地面積(15億3,300万ヘクタール)において扶養できる世界人口は,単収が1961年から2004年の年増加量の半分のペースに減少した場合には80億人,また単収が2000年レベルから増加しない最も厳しいケースでは70億人が限度である。 これらのことから,農地拡大による森林破壊を引き起こすことなしに飢餓問題を解決していくためには,食料の供給サイドにおいては,農作物の単収を増加させるための技術開発への投資を促進し,食料生産のための土地利用を優先させる対策をとるとともに,食料需要サイドにおいては,開発途上国における国内の食料配分の不平等を改善し,世界人口を早期に安定化させるための政策を促進する必要があることが推察された。
  • 都筑 良明, ファルク・ アーメッド, MDマフイツァー・ ラーマン
    2009 年 22 巻 2 号 p. 91-102
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
     ダッカ(バングラデシュ)において表流水の水質を中心とする水環境に関するフィールド調査と文献調査を2006年に行った。バングラデシュにおける水環境の分野では,洪水と旱魃,飲料水のヒ素汚染が最も重要な問題となっている。ダッカ周辺においては,都市水道用水の水源を考えると,表流水の水質保全,水質改善が重要であると考えられた。なぜならば,ダッカ市の上水道の水源は地下水が約85%,表流水が約15%であり,地下水のくみ上げ量は急激に増加していて,地下水の過剰くみ上げにより,ダッカ市の地下水位は年間約1.0~3.Om低下しているため,水源の表流水への転換等が必要であると考えられるからである。シタラカヤ川はダッカ市上水道の表流水水源の1つであり,バル川の水質の影響を受けている。現地調査結果から合流部の上流の水質もバル川の水質の影響を受けていることが示唆され,これは潮汐の影響があるためであると考えられるとともに,水源水質管理のためにはダッカ周辺河川システム全体の水質管理が必要であると考えられた。水資源管理の分野では,数理モデルを用いた研究が進められている。しかしながら,水質等に関する水環境についての情報の多くは公開されていない。水環境に関する情報提供を含めて,水質保全分野における市民参加の可能性について検討が必要である。
  • 伊藤 豊, 馬奈木 俊介, 寺園 淳
    2009 年 22 巻 2 号 p. 103-112
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     環境経済学は環境問題に対して経済学の観点からアプローチする学問である。本稿では環境経済学における重要な課題として,企業のCSRに対する評価と国際的な廃棄物の問題について経済学的な視点からの分析を行った。
  • 荒巻 俊也
    2009 年 22 巻 2 号 p. 113-117
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     環境システム解析とは,対象とする環境問題を複数の構成要素とその関連性から捉え,それを物理的あるいは数理的に表現し,さまざまな手法を用いて分析,評価する行為が該当するものと考えられる。具体的には,気候変動などの地球環境問題から土壌汚染のような局所的な汚染,自然のプロセスから人々の選好などの社会経済的なプロセス,数値解析から模型によるシミュレーションなどその意味する範囲は広く,多くの研究事例が存在する。本報では,環境システム解析についてどの程度まで研究が進展してきており,また今後どのような方向に展開していくべきかを論じることを目的とした。特に,どの程度まで研究が進展してきたかについては,波及していくさまざまな影響を包括的に捉え,実際の環境政策などの意思決定に役立てていこうとする研究事例をいくつか紹介してその到達点と今後の方向性を論じた。
  • 田崎 智宏
    2009 年 22 巻 2 号 p. 119-131
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     本稿では,これまでの3R・廃棄物研究を振り返るとともに,今後の研究展望を行った。まず,過去の廃棄物処理の歴史をたどりながら,どのような視点での研究が進められてきたかを整理した。1900年代は工学によるエンドオブパイプ的な研究が重要な役割を果たしたが,3Rの重要性が認識されてきた1990年代以降の3R・廃棄物研究は学際的かつ多彩な傾向を強めてきていることが確認された。次に,対策の優先順位における対策の種類すなわちリデュース,リユース,リサイクル,適正処理や新しいキーワードなどの視点に着目し,これまでの研究分野と今後発展させるべき研究分野を論じた。リデュースに関わる研究としては廃棄物発生要因,対策効果,対策設計の3つの研究群,また,リユースに関わる研究として技術,品質確保,意識・行動などといった6つの研究群リサイクルについては技術開発,制度実態,制度設計などといった4つの研究群を主な研究群として捉え,それぞれの現状や課題等を考察した。キーワードとしては,例えば,政策的にはビジョン提示型やマネジメント,参加型アプローチといった研究,技術的には高度化,低コスト化,システム志向といった研究が重要になってくると考えられた。その一方で,学会等の連携は必ずしも十分でないことを指摘した。
  • 亀山 康子
    2009 年 22 巻 2 号 p. 133-136
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     国際関係論(International Relations)において,環境というテーマは比較的新しいが,近年では,環境関連の研究が国際関係論の中でも進展しつつある。本稿では,国際関係論全般の歴史を概観し,その中での環境研究の意義と到達点について考察する。 国際関係論とは,国家と国家の間の関係に関する学問である。しかし,環境問題は,(1)被害の及ぶ範囲が国境を越える,(2)解決に向けた国際的議論において,国内アクターの参加が求められる,という2点において,従来型の国際関係論で前提となっていた国際問題と異なる・そのため,新たな理論が必要となってきた。現在,国際関係論の主な環境研究として,(1)国際環境条約の交渉過程の分析,(2)国際環境条約の効果に関する分析,(3)複数の国際環境条約のリンケージに関する分析,(4)ある特定の国の外交政策の一部としての環境外交,(5)国内アクターの国際的活動等がある。 地球環境問題をテーマに掲げる国際関係専門家の数が増えるにつれ,学会においてもその勢力は急速に増している。欧米では,早くから(2)の中でも環境研究者が1990年代以降勢力を拡大した。これと比べると,日本ではまだ発展途上にある。 環境科学会において,今後,国際関係論との関係はますます密になっていく可能性がある。国際関係論のように学問分野内での環境研究者のフォーラムが未発達の場合,環境科学会のように,すべての学問分野に門戸を開き続ける学会の存在は今日でも貴重といえる。また,環境科学会では,政府関係者,自治体関係者,産業界,市民団体,学生,が集う場を提供しているため,多様な立場の個人の意見交換の場としての機能が今後も期待される。
  • 増井 利彦
    2009 年 22 巻 2 号 p. 137-142
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     地球環境を対象としたモデリングは,統合評価モデルとして環境だけではなく社会・経済活動も含めた広範囲な対象を記述することが求められており,モデリングの基礎となる様々な学問分野の知見と環境政策とのインターフェイスとしての役割が期待されてきた。これまでにもIPCCのSRESをはじめ,MA(ミレニアムエコシステムアセスメント),UNEP(国連環境計画)のGEO(世界の環境見通し),OECDの環境見通しなど,将来シナリオを描く際に,環境政策の効果を定量的に評価したり,将来の社会・経済活動と環境変化の間の整合性を確認するために,定量的なモデルは利用されてきた。今後は,個々の学問分野における新たな知見に基づいて,モデルを構成する各部分が改良されるとともに,モデルで表現される社会像と現実社会とのギャップをこれまで以上に埋めることが課題となる。また,問題の複雑さに比例して巨大化・複雑化するモデルはブラックボックスと批判されることもあり,モデルの透明性を高めることが,モデルの環境政策への適用という視点から重要となる。一方,モデリングと一体で行われているシナリオ開発では,IPCC第5次評価報告書に向けた作業が開始されており,様'々なモデルの連携や途上国からの情報発信(人材育成を含む)が期待されている。
  • ―琵琶湖集水域における土地利用解析を事例として―
    山本 佳世子
    2009 年 22 巻 2 号 p. 143-154
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     GIS(Geographic Information Systems:地理情報システム)は,データベース作成ツール,情報解析ツール,情報提供・共有化ツール,意思決定支援ツールとしての機能を持ち,環境科学研究において多面的に利用されている。本研究は,環境科学研究で最も利用されている情報解析ツールとしての機能に着目し,琵琶湖集水域のマザーレイク21計画における適正な土地利用に対して情報提供を行うことを意図した土地利用解析を事例として,環境情報システムとしてのGISの到達点と今後について示すことを目的とした。そのためには,琵琶湖集水域の概要について説明したうえで,土地利用の特性把握,土地利用規制の評価における情報解析ツールとしてのGISの利用例についてそれぞれ紹介し,琵琶湖集水域における土地利用解析を事例として,環境情報システムとしてのGISの到達点と今後について示した。 本研究の成果は,以下の2点に要約することができる。(1)環境情報システムとしてのGISの利用意義と到達点として,GISの情報解析ツールとしての諸機能を利用することにより,琵琶湖集水域の土地利用に関する政策判断へ従来よりも有効な情報提供が可能になることを示した。具体的には,GISを利用して琵琶湖集水域における土地利用解析を行った研究成果をもとに,この地域のマザーレイク21計画における適正な土地利用に対して,どのように情報提供を行うことができるのかについて示した。(2)琵琶湖地域における情報解析ツールとしてのGISの今後の重要な研究課題として,集水域の人間活動の成果が最も顕著に現れる土地利用と湖内環境との関連性について,GISを利用して把握することをあげた。また環境情報システムとしてのGISの今後の展開として,複数の機能の併用により,地域の各主体間での協働活動を推進できる可能性があることを示した。
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