環境科学会誌
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24 巻, 5 号
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一般論文
  • -多摩川を事例に-
    飯塚 史乃, 原科 幸彦
    原稿種別: 一般論文
    2011 年 24 巻 5 号 p. 409-421
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/16
    ジャーナル フリー
    河川行政施策において,市民団体と行政の連携の必要性は議論されてきたが,その連携の具体的な方策は明らかにされていない。今後,具体的な方策を検討するために,市民団体と行政の長年の関わりがどのように変化し,その変化の要因を明らかにすることは有用であると考える。本研究では,市民団体と行政の関わりに長い歴史がある東京西部の多摩川を事例に,河川環境の管理活動における市民団体と行政の関わりのプロセスを明らかにすることを目的とした。そのため両者の行為に着目し,各行為を市民団体からの監視と提案,行政からの説明と要請とした。その結果,以下の結論を得た。第一に,市民団体からの監視と行政からの説明が中心の関わりから,しだいに市民団体からの提案と行政からの要請もみられるようになった。これは,両者の管理活動への協力的な関わりを示しており,関わりが発展したといえる。第二に,行政側の関わりの発展要因には,行政が市民団体との関わりについて内規を定めたことと,この内規に基づき市民団体に対して説明責任を果たすようになってきたことが確認された。第三に,市民団体側の関わりの発展要因には,市民団体の中で知識と経験を有する窓口役が主に監視と提案を行い,これが後任にも継承されてきたことと,他の市民団体の協力で監視や提案を行うことがあったことが確認された。
  • 山田 久美子, 柳下 正治
    原稿種別: 一般論文
    2011 年 24 巻 5 号 p. 422-439
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/16
    ジャーナル フリー
    技術革新や経済社会構造の変革のみならず,人の価値観・意識変革・行動変革をも必要とされる気候変動問題に関する政策を実効あるものとするためには,その意思決定等への市民の関与に対する期待が大である。我が国においては,京都議定書交渉への対応のための国内政策からポスト京都議定書対応に向けた国内政策に至るまで,この10年間余りに,国家レベルでの気候問題の政策形成への市民参加としては,行政府が市民関与の場を設定(行政アプローチ)するパブリック・コメント等の関与手法が用いられてきた。しかしながら,有効な民意の形成,及びその政策決定への反映といった観点からは,これらの手法が充分機能しているとは言い難い。これまで,気候政策に関して適用されてきた意見公募や世論調査等においては,民意を掬取する手法としての系統的な情報整理や,調査された実態に基づく有効な議論の展開が為されてこなかったのではないか。
    そこで本稿では,気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)における日本の対応方針の意思決定からCOP15 のポスト京都議定書の温暖化ガス削減目標の日本案意思決定までの複数の気候政策事例を取り上げ,それらの政策意思決定における市民関与の形態や機会数,関与レベル等に注目し,関与手法の系統的評価の基礎となる情報を収集した。さらにこれらの事例における関与の実態を時系列で整理した上で,市民関与のレベル評価と傾向分析を行ない,我が国における気候政策決定への有効な市民関与の実現に向けての課題を考察した。なお,関与レベルについては,市民関与の類型として定着しているアーンスタインの8階梯モデル,原科の5段階モデル,佐藤らのエレベータ・モデル等を用い,関与の強さや応答の双方向性に関する評価に焦点を当てた。その結果に基づけば,パブリック・コメント等で収集された市民意見の情報処理,民意把握の点での課題が残されているものの,総体として,我が国の気候変動政策への行政アプローチによる市民関与は,緩やかではあるが発展の傾向にあることも観察された。
  • -日本における実証分析-
    小俣 幸子
    原稿種別: 一般論文
    2011 年 24 巻 5 号 p. 440-448
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/16
    ジャーナル フリー
    日本では,2001年4月から始まった化学物質排出移動登録制度(Pollutant Release and Transfer Register; PRTR制度)によって,投資家は企業の化学物質の排出量と移動量に関連する潜在的なリスクを知ることが可能となった。この情報が入手可能になれば,投資家は化学物質の排出量・移動量の多い企業の価値を低く評価し,少ない企業の価値を相対的に高く評価する可能性がある。市場が化学物質の排出量と移動量をどのように評価するのかを明らかにした先行研究の分析結果は,必ずしも同じ結論に至っていない。このように分析によって結論が異なるのは,分析方法に問題があったために生じたのかもしれない。すなわち,いくつかの先行研究では化学物質のリスクに対する除去変数のバイアスを考慮していない。また,その他の先行研究では,化学物質の排出量と移動量を合計した変数を使っている。排出量は環境中に排出された化学物質の量であるため,環境汚染の要因となるかもしれないが,移動量は主に廃棄物として工場外に移動された量であるため,環境汚染のリスクは小さい。このため,市場は排出量と移動量を区別して評価しているにもかかわらず,それを区別せずに分析することで,誤った結論が導かれるかもしれない。本稿は,企業レベルのデータを用いてこれらの先行研究の欠点を修正した。具体的には,排出量と移動量を区別して分析し,操作変数法を用いて分析を行った。その結果,排出量の増加は,企業の市場の評価を低下させるが,移動量の増加は,市場の評価に影響を与えないことが示された。また,先行研究と同様に排出量と移動量を合計した排出総量は市場の評価に影響を与えないという結果を得た。これより,市場による化学物質のリスクの評価を分析する場合,排出量と移動量を区別しなければ,分析結果を誤る可能性があることが示唆された。
  • 加賀 昭和, 鶴川 正寛, 近藤 明, 井上 義雄
    原稿種別: 一般論文
    2011 年 24 巻 5 号 p. 449-461
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/16
    ジャーナル フリー
    化学物質の環境動態を記述するマルチメディアモデルにおいて,移動・蓄積を支配する各物理過程の一般的記述法については検討が進んでいるが,モデルを実際に適用するとき,それらの過程に含まれている各パラメータの具体的な値を決めることが必要である。パラメータのうち,適用対象地域に固有なものは,対象地域のスケールと対象化学物質の物性によってもっとも重要となるパラメータが異なり,その推定方法についての検討は進んでいない。本研究では,流域のスケールで,POPsなどの高疎水性物の環境動態をマルチメディアモデルにより記述するときに重要なパラメータとなる,土壌粒子の降雨流出量を推定する方法を提案し,それを用いたモデルが化学物質の環境動態をどの程度適切に表現できるかを検証しようとした。土壌粒子流出にかかるパラメータを,局地性のあるSS濃度観測値との比較により決定するために,分布型水文モデルによる流出計算を利用し,得られた結果から流域全体を代表するパラメータを推定した。推定したパラメータを用いたマルチメディアモデルにより算出された,ダイオキシン類を対象とした環境濃度の計算結果は観測値とよく整合しており,モデルは,有機物への吸着能の高い化学物質や,環境中で粒子としての存在割合が高い水溶性の低い金属類などの,対象流域における環境動態の記述に有用と考えられた。モデルに用いられているパラメータの不確かさが計算結果に与える影響の大きさを検討するための感度解析,同様の手法を他の流域にも適用することで,本研究で提案したパラメータ推定法の有用性を示すこと,などが今後の課題である。
  • 飯野 洸, 周 勝, 下ヶ橋 雅樹, 中島田 豊, 大川 泰一郎, 寺田 昭彦, 細見 正明
    原稿種別: 一般論文
    2011 年 24 巻 5 号 p. 462-471
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/16
    ジャーナル フリー
    本研究では飼料イネ(リーフスター,クサホナミ,ハマサリ)及び食用イネ(日本晴)の各部位を原料とした高温メタン発酵特性を調べると共に,飼料イネの粉砕程度によるメタン生成ポテンシャル,メタン生成速度及びメタン発酵が起こるまでの遅延期への影響を評価した。その結果,3品種の飼料イネ及び食用イネからのメタン生成特性を把握できた。特に,茎のデンプン含有量が多いほどメタン生成がはやく起こることや機械的な粉砕はメタン生成ポテンシャルに影響がないことが分かった。また,単位面積当たりのメタン生産性はリーフスター,クサホナミ,ハマサリ,日本晴の順で高く,食用イネと比較して飼料イネはメタン発酵原料として優れていた。一方,飼料イネの乾式メタン発酵の可能性について反復回分培養実験において確認でき,アンモニアの蓄積が起こりにくいことが確認された。
研究資料
  • 白木 洋平, 近藤 昭彦, 渡来 靖
    原稿種別: 研究資料
    2011 年 24 巻 5 号 p. 472-479
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/16
    ジャーナル フリー
    近年,都市化が進展している関東地方ではヒートアイランド現象の影響による気温の高温化が年々顕著になっており,社会的な関心を集めている。このヒートアイランドの実態を把握する手段の一つとして,同時期同時刻の観測データを面的に取得することが可能な衛星リモートセンシングより推定される地表面温度データを利用する方法がある。そこで,本研究ではNOAA12およびNOAA14のAVHRRから作成した地表面温度のコンポジット画像を用いることで,関東地方におけるヒートアイランド現象の実態把握を行った。対象期間は1997年から2001年の5年間,ヒートアイランドが顕著に発生する冬季明け方(1月,2月の午前3時から午前6時を対象)と,比較対象として夏季明け方(7月,8月の午前3時から午前6時を対象)を選定した。次に,関東地方の地表面温度は都市の影響を最も受けていると考えられることから,都市域の分布と地表面温度の関係についても評価を行った。
    その結果,夏季明け方の地表面温度分布の形成には都市域の分布が大きな影響を与えていたが,冬季明け方の地表面温度分布の形成には都市域のみならず関東地方を取り巻く山地の斜面中腹に発生している斜面温暖帯が大きな影響を与えていることがわかっ
シンポジウム論文
  • 宮崎 貴裕, 杉浦 純平, Rafael BATRES
    原稿種別: シンポジウム論文
    2011 年 24 巻 5 号 p. 480-492
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/16
    ジャーナル フリー
    本稿では,バイオマス資源の収集から製品への変換,変換された製品の供給過程までを含む,バイオマス利活用システムを生成するための方法論を提案する。地域に広く分散して存在するバイオマスは,変換プラントへと収集され,変換技術により様々な付加価値製品へと変換される。変換された製品は複数の顧客へと供給される。以上のようなバイオマスの収集から変換プロセスの設計,変換された製品の顧客への供給,適切な変換プラントの配置,各区間のバイオマスおよび製品の輸送経路に至る全体像を設計することは,設計パラメータが多く,最適な設計は困難である。そこでバイオマス利活用システムを生成するための2層構造,すなわち,プロセス合成の層と輸送経路・配置設計の層から構成された方法論を提案する。プロセス合成では,変換プラントに設置する各種の設備を設計し,最適な組み合わせを生成し,与えられた原料から,要求された製品へと変換する一連のプロセスを自動的に設計する。一方,輸送経路・配置設計では,バイオマスの輸送経路,変換プラントへ入力されるバイオマスの量,変換プラントの設置場所,製品の供給経路と各顧客への輸送量を決定する。この方法論を検証するために,バイオマス利活用支援システムを実装し,バイオマスから電力へと変換するケーススタディーを通して,提案する方法論の有効性を示す。
  • 松田 智
    原稿種別: シンポジウム論文
    2011 年 24 巻 5 号 p. 493-502
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/16
    ジャーナル フリー
    今世紀に入り「バイオ燃料」ブームの到来とともに,石油危機後に続き再び注目を浴びるようになったバイオマス資源の利活用策について,そのあるべき姿を追究した結果を述べる。「バイオマス・ブーム」が主にバイオ燃料を中心とするエネルギー利用に関連することから,エネルギー源としてのバイオマスが環境問題に貢献するかどうかに考察の力点をおく。バイオマスを評価する視点として,まず単位面積・単位投入量当りなどの「質的」視点からの評価例をいくつか示した。エネルギー産出・投入比とともに,バイオ燃料の「カーボンニュートラル」性の評価指標として,CO2削減比率νを提案した。また,太陽エネルギーからの電力供給手段としてのエネルギー生産密度,同じバイオマスをエネルギー源として自動車を走らせる場合のエネルギー利用効率等の評価例も示した。次いで「量的」な評価視点として,バイオマスの供給可能量と需要量の比較を試みた。次に,次世代のバイオ燃料資源として注目されている「ヤトロファ」について,フィリピン・インドネシア等での現地調査に基づいて行った実用可能性評価の結果をまとめた。
    これらの評価結果より,バイオマスをエネルギー利用するのであれば、石油代替をめざす液体燃料化ではなく,木質系バイオマスを中心とした直接燃焼による地産地消型の利用システムが望ましいことが明らかになった。また,国内バイオマス資源の大半を占める木質系バイオマスの有効利用を図るための方策について検討し,提言をまとめた。
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