特殊教育学研究
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49 巻, 1 号
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資料
  • ―1958年度から1962年度にかけての実践に着目して―
    丹野 傑史, 安藤 隆男
    2011 年 49 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/21
    ジャーナル フリー
    東京都立光明養護学校で1958年度から1962年度にかけて行われた「言語の克服指導」および「言語治療」に着目し、教育課程上の位置づけや実施者、実施内容等から、その展開過程や成果について明らかにした。「言語の克服指導」では、岡本梅や佐藤千代子が中心となり、教科指導の観点から指導を行うとともに、教科指導の前段階として機能訓練を行った。光明養護学校では、1959年度に言語治療室の設置や専門医として田口恒夫の招聘など、機能訓練を行う環境が整った。そして、機能訓練を重視するために、「言語の克服指導」から「言語治療」へと移行した。「言語治療」は田口の指導のもと、看護婦と専任教員の松本昌介による機能訓練が行われた。また、松本昌介は、教科指導の観点から、読むことに重点をおいた指導も行った。教科指導から出発し、教科指導と機能訓練を一体的にとらえて指導が行われた点が、光明養護学校の「言語治療」の特徴としてあげられた。
  • 井坂 行男
    2011 年 49 巻 1 号 p. 11-19
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/21
    ジャーナル フリー
    聾学校児童生徒の語彙獲得の実態を分析するために、1989年度と2007年度に絵画語い発達検査を実施した。その結果、両年度の聾学校児童生徒の語彙年齢の平均は、語彙年齢が8・9歳代の児童生徒については増加していたが、実施年度による有意差は認められなかった。しかしながら、両年度のいずれも学年別の有意差が認められ、具体的な語彙から抽象的な語彙に置き換えられていく語彙の獲得が促されていた。この結果は手話や文字の活用による効果と推測された。また、語彙年齢が2歳代の児童が増加傾向を示しており、具体的な語彙の獲得を促すための方法を検討する必要もあると考えられた。
  • 田中 真理, 小牧 綾乃, 滝吉 美知香, 渡邉 徹
    2011 年 49 巻 1 号 p. 21-29
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/21
    ジャーナル フリー
    本研究は、特別支援教育コーディネーター(以下、Co)が自分自身との対話の中でコーディネーション行動を自己内調整する「内的調整」の機能を明らかにすることを目的とした。Coに指名された小学校教師1名を対象として、構造構成的質的研究法に基づきグラウンデッド・セオリー・アプローチを適用し、約1年間にわたるコーディネーション行動について分析を行った。その結果、「抑制する力」と「柔軟性のある意思表示」というカテゴリーが得られた。これらは、Coが働きかける対象によって内容が変化することが示された。主要教師に対しては「引き際」と「提案を含むリード」の連続した判断が行われ、保護者に対しては「受容」と「支援方向見極め」の同時進行が行われた。また、Co自身に対しては、「自己モニタリング」と「蓄積された実践」の循環性が働くことが明らかにされた。
  • 伴 光明, 藤野 博
    2011 年 49 巻 1 号 p. 31-39
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/21
    ジャーナル フリー
    特別支援学校(知的障害)の教員に、コミュニケーション指導について質問紙法による意識調査を行った。その結果、特別支援学校教諭免許の有無、所属する学部、教育経験のある障害種などの差異に応じた意識の違いがあることが明らかになった。また、因子分析により、「コミュニケーション指導のスキルと知識」「新しいコミュニケーション指導法への意欲・関心」「参加につながるコミュニケーション指導の目標」「コミュニケーション指導への組織的な取り組み」の4つの因子が抽出された。さらに、共分散構造分析により因子間の因果関係について分析したところ、「組織的な取り組み」と「意欲・関心」が「スキルと知識」に、「スキルと知識」は「参加につながる目標」に影響していることが明らかとなった。
  • ―未指導文の読みの改善を含めた検討―
    後藤 隆章, 熊澤 綾, 赤塚 めぐみ, 稲垣 真澄, 小池 敏英
    2011 年 49 巻 1 号 p. 41-50
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/21
    ジャーナル フリー
    本研究では、視覚性語彙の形成を目的とした読み指導を行い、その指導効果と有意味単語の読みの音読反応時間の変化との関係について検討を行った。対象は、通級指導教室に通うLD児10名とした。ひらがな文の音読に特異的な読字障害を伴うLD児に対する指導の結果、未指導の課題文でモーラ数が多い文節において、流暢に読むことができた文節の数は増加し、読み指導の効果が大きいことを指摘できた。本研究の課題文は、動物に関する説明文を用いており、単語と単語の関係性が明確であるため、視覚性語彙による指導効果が未指導の課題文に波及した可能性が指摘できた。
実践研究
  • 土屋 忠之, 武田 鉄郎
    2011 年 49 巻 1 号 p. 51-59
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/21
    ジャーナル フリー
    体験的な活動を伴う学習(以下、体験的な学習)は、自然や社会や人々とのかかわりの中で行われ、社会性や生きる力を育む重要な役割がある。治療や病状のため、さまざまな制限のある小児がんや慢性疾患の児童生徒は、入院中、日常的な体験が乏しくなるため、自然や社会体験を補う必要がある。そこで、病院内にて教育を行っている学校や学級の体験的な学習を調査し、考察を行った。調査結果から、病院内では種々の制限のため、自然や社会の体験的な活動を健常児と同様に行うのは難しいことが明らかになった。一方、制限への対策として、学校が病院の協力を得て「内容・方法・場所の工夫」「治療・処置の調整」、病院や外部の「施設や人材の活用」等を行うことにより、病院内教育にてさまざまな体験的な学習ができることや、活動の必要性が示唆された。また、学校が病院と「病状や配慮事項」「活動内容」等の情報を共有・調整し、協力や相互理解により、活動できるようになることも示唆された。
  • 笹原 未来, 川住 隆一
    2011 年 49 巻 1 号 p. 61-71
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/21
    ジャーナル フリー
    本研究では、事物操作に困難を有するRett症候群者とのかかわり合いから、ブロック玩具に対する探索的操作行動の展開過程と、その促進にかかわる諸条件について検討を行った。かかわり合い当初、対象者にはブロック玩具に対して“近づいて見る”行動が頻発していたが、それ以上の展開にはなかなか至らず、事物操作のガイダンスに対しても緊張状態を示した。そこで、対象者の発現可能な運動によって操作が可能となるような状況設定を行ったところ、対象者にタワー状のブロックを押し倒すあるいは押し潰すといった操作行動が発現し、さらにガイダンスによるブロックの組み立てが展開するに至った。以上の結果から、回避可能な状況を保障し自発した接近をとらえて働きかけを行うこと、“今”発現可能な運動を探索的事物操作の糸口とすること、ガイダンスの受け入れを可能にするような関係のあり方について検討することの重要性について、それぞれ考察を行った。
  • ―臨機応変に組織されたチームでの小学校学級担任・国際教室担当者へのコンサルテーション―
    樋口 和彦
    2011 年 49 巻 1 号 p. 73-83
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/21
    ジャーナル フリー
    小学校通常学級に在籍する読み障害が疑われるニューカマー児童に対し、小学校学級担任・国際教室担当者・特別支援学校教諭が連携して包括的な援助を行った。学級では他児童との関係を良好に保ちながらの全体指導、国際教室では読字・書字や認知の指導、特別支援学校では気持ちの受け入れや読字・書字・描画等の指導などを行った。これらの包括的援助を通して、以下の点が示唆された。(1)自分の認知スタイルに合った適応方法をとっているときには、それを生かして援助にあたることが重要であること、(2) ニューカマー児童の読み能力と音声コミュニケーション能力との関連の検討と、ニューカマー児童が読み障害か否かの判断基準を明らかにするための研究が必要であること、(3) 学校の援助システム構築に際して、状況に合わせて臨機応変に組織された援助チームを基盤にすることは有効であること、(4)コンサルテーションにおいては、コンサルタントとコンサルティの信頼関係を構築してから教材等を具体的に示し、指導方法等の伝達を行うことが重要であること。
  • 裴 虹, 渡部 匡隆
    2011 年 49 巻 1 号 p. 85-94
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/21
    ジャーナル フリー
    本研究は、知的障害養護学校の中等部に在籍する3名の知的障害のある生徒を対象に、選択行動の指導方法について検討した。事前に生徒の好みの活動に関するアセスメントを行い、続いて社会スキル活動の授業時間に、場面間マルチベースラインデザインを用いて、自由遊び、買い物、カラオケの3つの活動の指導を行った。介入1ではパソコンおよび実物の歌集を、介入2では写真・文字カードを用いて指導を行った。いずれも、系統的なプロンプト・フェイディングと強化操作を行った。選択行動の形成に関するプロンプトレベルに加え、標的とした活動への参加状況に関する主観的評価、学校場面における選択行動の変化、生活の質(QOL)の変化を測定した。その結果、3名の生徒とも事前に比べ選択行動の形成に関するプロンプトレベルが全般的に減少した。また、指導の波及効果を評価するための4つの活動についても選択行動が変化した。生活の質に関する指標にも変化が認められた。知的障害のある生徒への選択行動の形成に関する指導方法と、その教育的な意義について示唆された。
研究時評
  • ―小児がん患児に行うインフォームドコンセントの心理的影響を通して考える―
    泉 真由子
    2011 年 49 巻 1 号 p. 95-103
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/21
    ジャーナル フリー
    欧米諸国では子どもを含めすべての人に病気の説明を行うため、患児自身へのインフォームドコンセントの問題は、わが国特有の問題である。本論文では、小児がん患児の心理的問題とインフォームドコンセントにかかわる調査研究を紹介しながら、慢性疾患を抱える子どもに必要とされる心理的サポートの在り方について考察した。筆者の調査結果によると、患児に行う病気の説明は患児の精神的健康に悪影響を及ぼすことはなく、むしろその「質」によってはよい影響をもたらす可能性が高いことが示唆された。小児がん患児に限らず、さまざまな種類の慢性疾患をもつ子どもにとって、自己の病気を理解すること、受け入れることは、その後の心理発達や社会適応に大きな影響があることが指摘されており、今後、さらに疾患の種類を広げながら、子どもへのインフォームドコンセントの効果と心理的適応について検討を行うことが望まれる。
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