わが国の多くの乗合バス事業者は,厳しい経営状況下にあり,中央政府および地域自治体は,これらの事業者に対して補助金を与えて事業を維持・運営している.乗合バス事業をより効率的に運用するには,当該事業を含む総合的な交通政策を実施することが必要である.そのため,本研究では,乗合バスの需要量と乗合バス・鉄道・自家用乗用車,タクシーとの間の自己価格,交差価格,消費支出の各種弾力性をAIDSモデルのSURE法により推定する方法を提案し,既存の統計データを用いて,全国レベルと日本を9地域に分割した地域レベルでの弾力性を求めた.この実証分析の結果から,日本の地域別の乗合バス需要の特性が明らかになり,乗合バスを主軸とした交通機関の政策のあり方に対して交通政策への提言を行った.
本研究では,都府県及び北海道4ゾーンの50ゾーン間の純流動等のデータを利用して,先行研究で指摘される輸送密度の経済性を考慮した枠組みの下で国内航空旅客市場について需給曲線を同時推定した.推定の結果,多くの先行研究で指摘/考慮される供給側の輸送密度の経済性についてはその存在が統計的に有意な結果として確認され,航空旅客市場を分析する上で当該経済性を考慮することの重要性が示される.限界費用関数で考慮される羽田や伊丹/関空,新千歳など主要空港ダミー変数の係数は正の場合が多く,主要空港は地方管理空港に比べて相対的に空港使用料の高さや混雑などが反映された結果である可能性が指摘される.
ロシア連邦サハ共和国では,冬季に河川や湖沼が凍結し,その上を冬道路として利用している.しかしサハ共和国は地球温暖化の影響を強く受ける地域のひとつで,IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4 次報告書では今後100年間で5~6℃の気温上昇が予測されており,この冬道路の利用可能性への影響が懸念される.本研究では,現地のヒアリング調査や冬道路を管理するための基準書を基に,サハ共和国における冬道路の建設,管理,利用の実態について明らかにした.次いで河川の氷と大気との間の熱のやり取りをモデル化し毎日の氷の厚さと積載可能重量の計算を行い,気温上昇が起きた時の使用可能日数を求めることにより,温暖化による冬道路への影響に関する分析を行った.