日本森林学会誌
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107 巻, 4 号
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論文
  • 吉田 奈央, 伊西 萌香, 西尾 健吾, 肥後 睦輝
    原稿種別: 論文
    2025 年107 巻4 号 p. 71-77
    発行日: 2025/05/31
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル オープンアクセス

    湧水湿地という過湿な環境で生育するヘビノボラズの個体群維持機構を明らかにするため,ヘビノボラズの分布,幹の発生や生存について2017年~2020年にかけて岐阜県土岐市の北畑池湿地で調査した。前生幹(2016年調査区設定時に生育していた幹)は不連続に分布しており,木本植物の被覆率が高い部分ほど密度が高かった。調査区全体での前生幹,実生,萌芽を合わせた全幹本数は2017年の748本から4年間で114本(15.2%)減少し,特に前生幹は2017年の608本から4年間で241本(39.6%)減少した。一方で,調査区全体での実生あるいは萌芽で新規に発生した幹本数は2017年の140本から127本(90.7%)増加した。前生幹,実生,萌芽を合わせた全幹本数に占める本数割合は,各調査年とも実生に比較して萌芽の方が高く,また年々増加していた。また,生存率は萌芽の方が実生より有意に高く,成長も実生に比べて萌芽の方が明らかに速かった。以上の結果より,ヘビノボラズは萌芽により幹本数の減少を補填することで湧水湿地において個体群を存続させていることが明らかとなった。

  • 弓削 直樹, 田村 美帆, 武津 英太郎, 渡辺 敦史
    原稿種別: 論文
    2025 年107 巻4 号 p. 78-84
    発行日: 2025/05/31
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    本研究では,宮崎県延岡市の鬼の目山に分布するスギ(Cryptomeria japonica)個体群を対象としてDNA分析に基づき本個体群の遺存集団としての可能性の検証を試みた。調査地内の個体の胸高直径(DBH)と樹高を計測した結果,DBHは40年前に実施された調査結果よりも成長していたが,樹高には明確な成長は認められなかった。調査地の個体ごとの地理座標を取得した結果,約40年前に行われた調査結果と厳密に個体を対応させることはできなかったものの,個体数の著しい減少は認められなかった。本個体群の適正な保全を行うためにも個体単位での定期的な調査が必要であると考えられる。本個体群を対象にDNA分析を行った結果,ヘテロ接合体率は供試した他スギ集団と同程度であり,個体群内には明確な遺伝構造は存在しなかった。さらに,本個体群は他のスギ集団と比較して異なる遺伝構造を示し,さし木苗の植栽や在来品種の積極的な利用の痕跡は認められなかった。本個体群は以前の報告で九州に遺存するスギ集団の可能性が高いと結論づけられたが, DNA分析の結果からも前報の結論を支持する。

  • 千葉 幸弘, 藤原 敏栄, 黒木 慶次郎, 川瀬 正輝, 坂井 敏純, 中村 毅, 沼田 正俊
    原稿種別: 論文
    2025 年107 巻4 号 p. 85-96
    発行日: 2025/05/31
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル オープンアクセス

    森林調査においてUAVレーザ計測(UAV Laser Scanning: ULS)が試みられ,高密度な点群による精細なDTMやDSMが取得できるが,森林内では点群が乏しく樹幹直径の計測等の検証が十分ではなく,計測可能なパラメータや計測精度等を明らかにする必要がある。本研究では,スギ人工林でULSによる計測を行い,UAVの飛行コース間隔および点群密度を変えた20通りの点群データセットによる立木データ(本数,樹高,樹幹直径)の計測精度を比較した。立木検出率および樹高については飛行コース間隔や点群密度の明確な影響が認められなかった。樹高推定値は4%前後の誤差であり実用的には許容範囲と考えられる。点群データの幾何学的特性によるフィルタリングにより,樹幹点群の集合体「樹幹クラスター」を検出したが,ほとんどの樹幹クラスターは胸高よりも上部で検出されており胸高直径の推定方法の検討が必要である。高密度な点群データによる計測精度の向上の可能性など,本研究結果を踏まえ,森林計測で求められる計測精度を確保するための飛行コース間隔および点群密度等について検討し,ULSによる森林計測の技術指針の必要性を指摘した。

  • 櫻井 哲史, 小林 勇介, 小川 秀樹
    原稿種別: 論文
    2025 年107 巻4 号 p. 97-102
    発行日: 2025/05/31
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル オープンアクセス

    放射性セシウムの食品基準値を下回るシイタケの原木栽培を行うためには,放射性セシウムが原木から子実体にどれほど移行するかを知ることが重要である。2018年4月~2020年12月に福島県内で伐採したコナラを原木に用いて,原木から子実体に移行した137Cs量を調査した。統計解析の結果,子実体の137Cs量は,内樹皮,辺材の137Cs量と有意な関係が示された。したがって,内樹皮,辺材から子実体に137Csが移行した可能性が示唆された。また,子実体の137Cs量は,原木の137Cs量に対して外樹皮の137Cs量の占める割合(外樹皮汚染率)と有意な関係が示され,外樹皮汚染率が高いほど子実体の137Cs量は低下する関係が示された。外樹皮汚染率が高いほど,福島第一原子力発電所事故初期に外樹皮に沈着した137Csが原木の中で占める割合が大きいと考えられる。原発事故初期に外樹皮に沈着した137Csが溶出しにくいことが報告されている。したがって,初期沈着した137Csは子実体に移行しにくい可能性が示唆された。

短報
  • 寺澤 和彦, 青木 菜々花, 時田 勝広, 酒井 賢一, 新井田 利光, 大野 泰之
    原稿種別: 短報
    2025 年107 巻4 号 p. 103-110
    発行日: 2025/05/31
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    J-STAGE Data 電子付録

    成長錐コアによる樹齢推定においては,特に大径木では心材腐朽などによりコアが髄を含まないことが多く,その場合には樹齢推定に大きな誤差を伴うことが知られている。髄を含まないコアから樹齢をその不確かさを含めて推定する方法として,推定過程の一部,すなわち髄の仮想的な位置と初期樹高成長速度の推定に確率論的な手法を用い,モンテカルロ法で得た樹齢推定値の分布から平均と95%包含区間を求める方法を試みた。北海道東部の広葉樹林内のミズナラ大径木15本と中径木6本の樹齢は,それぞれ198~436年,105~118年と推定され,その95%包含区間は,それぞれ18~96年,13~21年であった。不確かさの幅を考慮すると,サンプル木は4つの年齢グループで構成されると推察された。不完全なコアによる推定樹齢の情報からであっても,その不確かさの評価によって林分の過去の更新過程の議論がある程度可能であると考えられた。

  • 小川 秀樹, 櫻井 哲史, 齋藤 直彦
    原稿種別: 短報
    2025 年107 巻4 号 p. 111-117
    発行日: 2025/05/31
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル オープンアクセス

    原発事故後に萌芽更新したコナラの部位別の137Cs濃度およびカリウム濃度の季節変化を調査した。2022年6月から2023年2月までの期間で4回にわたり,調査木とした6本から葉,枝,幹の試料を採取し,葉,枝,幹の樹皮と木部の137Cs濃度および,葉と幹の木部のカリウム濃度を測定した。葉,幹の樹皮と木部の137Cs濃度には,季節的な変化がみられ,葉の137Cs濃度は初夏(6月)から秋(11月)にかけて低下し,幹の樹皮と木部の137Cs濃度は初夏(6月)から晩夏(9月)にかけて増加し,秋(11月)から冬(2月)にかけて低下する傾向を示した。また,葉と幹の木部のカリウム濃度は,137Cs濃度と同調的な変化を示した。枝や幹全体の137Cs濃度は,一年を通して変動が小さい可能性が示唆された。枝の137Cs濃度を測定することで,季節的な補正を用いることなく,コナラの幹の137Cs濃度を推定できる可能性が示唆された。

  • 利光 顕史, 北島 博, 逢沢 峰昭
    原稿種別: 短報
    2025 年107 巻4 号 p. 118-122
    発行日: 2025/05/31
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    関東平野では,ナラ枯れの防除対策を適切な時期に実施する際に必要となるカシノナガキクイムシ成虫の発生消長に関する知見が不足している。本研究では,関東平野北部の栃木県足利市のナラ枯れ被害林分に,2022年3月から12月にかけて衝突板トラップを設置して飛翔成虫数を調べるとともに,コナラとフモトミズナラの合計5本の穿入生存木の穿孔に脱出トラップを設置して脱出成虫数を調べた。その結果,飛翔は5月13日から11月末まで長期にわたってみられた。一方,連続的な脱出は6月24日に開始し,脱出成虫数も多かったが,9月以降はほとんどみられなくなった。このように本調査地では,飛翔開始日や連続的な脱出開始日と調査地の気温を基に推定した初発日(5月26日)にずれがみられた。また,9月以降は飛翔成虫数にピークがみられた一方で,脱出はほとんどみられなくなるという部分二化性の可能性が示唆される現象がみられた。

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