樹木の立ち枯れとシカ採食による更新阻害により草地化が進行するブナ林域で高木種の更新の可能性を検証するため,丹沢山地の衰退ブナ林に設置後10~20年程度経過した柵で,樹高30 cm以上の出現個体の密度および樹高を調査した。ササ型以外の植生型では,柵内の高木種密度は,開空度が50%より大きいと低く小高木種が優占したが,25~50%で4,500~33,250本/ha,25%以下で2,750~100,750本/haとなった。ササ型林床では高木種の密度は低かった。分散距離はブナが最も短く,ニシキウツギが最も長かった。開空度50%以下では分散距離が短いブナを含む高木種が樹高成長しており,高木種による林冠閉鎖を期待できる。開空度が50%より拡大すると,高木種の更新は分散距離が長い樹種を含め期待できず,風衝地低木林を構成する小高木種主体の森林になると予想される。ササ型林床では,小高木種主体の森林になるか,ササを主体とした草地になると予想される。シカ採食影響と風衝影響があるなかで,ブナ林が草地化した場所に高木林を更新させるには,ササ型以外の植生型では開空度50%以下の段階で対策する必要があると考えられる。
コンテナ移植後のスギ毛苗の成長に与える元肥の影響を明らかにするため,元肥の溶出タイプ(100,180,360日タイプ)とそれらの濃度(3,6,12 g/L)を変えた培地(計3×3処理区)で育苗し,1成長期における培地の電気伝導度(EC),苗長,地上部/地下部(T/R)比,および葉の窒素濃度を調査した。100日タイプ区に比べ,360日タイプ区では5,6月の伸長成長量が小さく,9月以降に成長量が増加した。180日タイプ区では7月までは100日タイプ区と成長量が変わらず,8月以降に成長量が増加した。成長量と葉の窒素濃度は元肥の濃度が高い処理区で大きかった。成長期末の個体サイズは180日タイプ-12 g/L区の苗で最大であったが,林野庁が定める標準規格5号を満たす苗は20%に留まった。成長期前半のスギ毛苗には100~180日タイプの肥料が,後半には180~360日タイプの肥料が成長を促進し,その効果は元肥の濃度に応じて高まった。このことから,180日タイプの肥料を用いるほか,異なる溶出タイプの緩効性肥料を組み合わせて用いることで,成長期全般を通して成長が促進される可能性が示唆された。
全国158の森林計画区において都道府県によって策定される地域森林計画について,2022年時点の最新計画およびその5年前,10年前の計画を収集し,記載されている主伐材積,間伐材積,人工造林面積の5年間の計画量および実績量を分析した。実績量や計画量は計画間や8地方間で差が大きかった。計画量に対する実績量の比である実行率は,人工造林面積において特に低かった。地域森林計画の計画量には全国森林計画からの各計画への割り当て量が強く影響していると考えられるが,各項目の実行率と予定増加率は反比例の関係にあり,計画量に対する直近の達成度合いとあまり関係なく次期の計画量が決定されているといえる。地域森林計画には林業活動の実態に関する統一的・継続的な指標を示すという意義もあるが,計画としての実効性を高めるためには,適切な計画量・計画指標の採用や実行率の明示などを行うことが考えられる。
日本森林学会第135回大会(開催地:東京農業大学世田谷キャンパス)にて,日本森林学会ダイバーシティ推進委員会による企画である「若手雇用問題についての情報交換」をランチョンミーティング形式で開催した。開催の背景には,2021年に男女共同参画学協会連絡会が開催した大規模アンケートの結果から,現在41~53歳頃の研究者が任期付き職を余儀なくされており,この状況が日本森林学会の会員においても同じであること,一方で,若手への支援が始まったことがあった。そこで,研究者の雇用問題に詳しい講師から最新情報について学ぶとともに,ポスドク経験者と採用側から各2名に話題提供をしていただき,その後,パネルディスカッションによる討論を行った。本企画により,研究者の雇用の現状が明確になるとともに,ポスドク経験者がどのように困難を乗り越えて来たかや,大学と国立研究機関の採用の現状について情報共有することができた。