40名 (男性27名, 女性13名) の糖尿病性膀胱機能障害 Diabetic Cystopathy (DCP) を対象として尿流動態検査, レ線検査, 膀胱内圧のタイプと内科的因子の相関, 治療等について臨床的検討を加えた. 糖尿病罹病期間の最長は21年 (平均5.7年) であつた.
1) 膀胱内圧測定の結果, DCPの特徴とされる低緊張型は13名 (33%) に認めた. 高緊張型は9名 (23%) で, 内8名は脳血管障害を合併していた. 正常型は18名 (45%) であつた. DCPにおいて核上型損傷例が予想外に多い事実は注目に値する.
2) 最小尿意における膀胱容量と最大尿意におけるそれとの差を検討した. この差が100cc以下に減少した症例は全体の55%を占め, 膀胱知覚障害の存在を示唆する重要な新しいパラメーターである.
3) 尿道内圧波形 (UPP) による最高尿道内圧, length of continence zone, total profile length は正常群との間に統計的有意差を認めなかつた.
4) 尿波形検査 (UFM) では平均尿流率, 量大尿流率共に正常群より低下し, 尿線中絶を示す努責排尿例も存在した.
5) 男性の残尿量は平均78cc, 女性は129ccと有意に存在した.
6) 排尿時膀胱尿道撮影を7例で施行した. 6例では膀胱頚部は十分に開大した. 膀胱像は4名が弛緩型, 3名が正常型を示し膀胱尿管逆流は1例も存在しなかつた.
7) 膀胱内圧測定での低緊張型は糖尿病罹病期間が長い程多く出現しさらに内科的薬物治療を要する重症例に多く認めた. 膀胱内圧曲線のタイプと空腹時血糖値, Insulinogenic Index, 糖尿病性神経症・腎症・網膜症との間には相関を認めなかつた.
8) DCPの治療法は, まず下部尿路の病態を十分に把握し, 検査データに基ずき下記のいずれかを単独又は組み合わせて選択する. 頻回の排尿習慣, 自己間歇導尿法, α-adrenergic blocker の投与, 副交感神経抑制剤又は刺激剤の投与. 膀胱頚部のTUR. カテーテル留置は厳に慎むべき方法である.
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