われわれは, 前立腺肥大症において膀胱内突出が排尿障害にどの程度関与しているのか, 経直腸的超音波断層法を用いて, 81症例の膀胱内突出の有無, 仮想円面積比, 残尿量の3つの関係から検討した. また, 別の41症例を対象として, 仮想円面積比, 膀胱内突出の程度, 前立腺推定重量の3つの関係を検討し, 81症例の検討結果と合わせて, 前立腺肥大症の膀胱内突出の成り立ちについて考察した.
以下に今回得られた知見を述べる.
1) 仮想円面積比が0.75未満の前立腺肥大症では, ほとんど肥大症の膀胱内突出は存在せず, 0.75以上となってはじめて膀胱内突出が出現することがわかった. 膀胱内突出の存在の有無は, 排尿障害の程度を示すパラメーターとして臨床的意義をもつと考えられたが, 仮想円面積比ほどの直接的なパラメーターになるとは考えられなかった.
2) 膀胱内突出の存在しない症例の重量の平均値は25.1g, 膀胱内突出が断層像上1断画存在する症例での平均は28.3g, 膀胱内突出が2断面以上存在する症例での平均は54.9gであった. 重量が50g以上あるような前立腺肥大症では, もちろん仮想円面積比も0.75以上と高く, mass としてかなりの膀胱内突出を示す場合が多い. また, 重量が20ないし40gの前立腺肥大症では, 膀胱内突出が存在するためには, 前立腺重量の大小はまったく問題ではなく, 仮想円面積比が0.75以上あることが必要条件であることを確認した.
3) 膀胱内突出の成り立ちに関しては, まず前立腺水平断面が肥大症の進行とともに丸くなり, 仮想円面積比が0.75以上と高くなってはじめて, 突出の出現する必要条件が満たされる. しかし, たとえ仮想円面積比が0.75以上でも膀胱内突出が出現するかどうかは, 外科的被膜の腺腫に対する成長の度合いや, 腺腫および外科的被膜の弾性率とも深い関係があり, 今後さらにこれらの物理的諸性質を検討することで, この問題が解明されていくものと考えられた.
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