日本泌尿器科學會雑誌
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71 巻, 11 号
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  • 第1報 複合糖質 (特に酸性ムコ多糖類を中心に)
    欄 芳郎, 三宅 弘治, 三矢 英輔
    1980 年 71 巻 11 号 p. 1255-1270
    発行日: 1980/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    今回われわれは無精子症および乏精子症と診断された特発性男子不妊症23例と, 停留精巣, 類宦官症, 先天性両側精管欠損症, 精管結紮後の無精子症の各4例と, 各疾患手術時に生検して得た6例の正常精巣の計33例の精巣組織を用いて研究した. 生検は Charny の方法により実施し, 採取された組織は以下の3方法により固定した. 1) カルノア液 (室温で2時間) 2) 1%塩化セチルピリジン (CPC) を含むカルノア液 (室温て2時間) 3)53℃2時間尿素―CPCて処理後, 1%CPCを含むカルノア液 (室温で2時間). 以上3種の固定液て固定後, パラフィン包埋しヘマトキシリンーエオジン染色および, 以下の組織化学的方法を実施した. 1) アルシアン青 (AB) 染色 (pH 1.0). 2) アルシアン青 (AB) 染色 (pH 2.5). 3) 透析鉄フェロシアニド (D1-FCY) 法. 4) Periodic acid-Schiff (PAS) 法, そしておのおのの中性, 酸性ムコ多糖の同定を目的とし, 組織化学的染色の前にご以下のような酵素にこて処理し染色した. 酵素消化法. a) シアリダーゼ〔AB (pH 2.5)染色前に〕. b) 放線菌ビアルロニダーゼ〔AB (pH 2.5)染色前に〕. c)睾丸ビアルロニダービ〔AB (pH 1.0, 2.5)染色前に〕. d) コンドロイチナーゼABC〔AB (pH 1.0, 2.5)染色前に〕. e) コンドロイチナーゼAC〔AB (pH 1.0, 2.5) 染色前に〕. f) α-アミラーゼ (PAS染色前に) 以上の酵素消化法の実施にこより以下のような結果を得た. 1) 正常および特発性男子不妊症の精巣において精細管壁, 間質には酸性ムコ多糖が存在する. 2) AB pH 1.0および2.5染色とコンドロイチナーゼABCおよびAC消化法の結果より, 正常および特発性男子不妊症精巣の精細管壁には, コンドロイチン硫酸A, Cが存在した. 3) そして, 間質にはコンドロイチン硫酸Bが存在した. 4) α-アミラーゼ消化法を併用したPAS染色の結果より, 正常精巣の精上皮, セルトリ細胞よりも特発性男子不妊症のそれらにこより多くのグリコゲンが存在した.
  • 第2報 複合糖質(ガラクトース残基の局在を中心にして)
    欄 芳郎, 三宅 弘治, 三矢 英輔
    1980 年 71 巻 11 号 p. 1271-1280
    発行日: 1980/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    特発性男子不妊症の精巣組織において, 正常精巣組織と比較して光顕組織化学的方法て複善合糖質の研究をした. われわれの研究では Peroxidase-labelled-Ricinus communis agglutinin-diaminobenzidine (PO-RCA-DAB), Concanavalin A-Peroxidase-diaminobenzidine (Con A-PO-DAB), Con A-PO-DAB-periodic acid-m-aminophenol Fast black salt K (PA-AP-FBK) 反応と蛋白反応を実施した. 正常および二次的な不妊症の精巣組織にこおいては, 精細管, 間質は認めうる量のα-D-glucoseとα-D-mannoseを含んでいた.
    特発性男子不妊症にこおける精細管と間質では, 組織化学的に重要なことは, 含まれている複合糖質中ガラクトースが欠乏していることてある. また蛋白質においてもSS基とSH基を含む蛋白質がわずかな量となつていた. この結果はPO-RCA-DAB反応が特発性男子不妊症の診断に有用であることを示している.
  • X線透視下尿道内圧測定を中心として
    並木 徳重郎
    1980 年 71 巻 11 号 p. 1281-1292
    発行日: 1980/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    排尿障害を主訴として前立腺の明確な良性腺腫を有しない50歳以上, 最高年齢84歳, 平均69歳の高齢者40例の排尿障害患者に対して uroflowmetry, X線透視下尿道内圧測定を行つてその排尿能力を, 主としてTURによる後部尿道の抵抗除去の前後て比較検討して報告する.
    このうち膀胱頚部を中心に器質的な変化を有し, TURの適応のあつた25例の切除効果は (前立腺の小腺腫, 膀胱頚部硬化症をふくめて), いずれも術後はその排尿効果が明らかに改善されたが, その効果は切除重量の大小と関係なかつた.
    更に uroflowmetry で軽度の排尿障害を有しながら, とくに膀胱頚部を中心とした後部尿道に明らかな器質的変化のみとめられなかつた10例の排尿障害の原因および治療法などについても個々に記載した.
    又UPP曲線によつてかこまれた部分の面積が必ずしも前立腺腺腫の大きさに比例しない理由および膀胱頚部での曲線の高まりが必しも膀胱頚部硬化症に特異的でないことなどについてもX線透視下尿道内圧測定によつて検索して報告した.
    最後に老年排尿障害患者においては, たとえその後部尿道の器質的な変化が小さいものであつても, 排尿障害となる抵抗が証明されさえすれば, その治療方針としてTURによる切除によつて根治的に治療することが最上の策と考えている.
  • 病理と水力学
    徳中 荘平
    1980 年 71 巻 11 号 p. 1293-1312
    発行日: 1980/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    巨大尿管症の病理と水力学
    先天性拡張尿管 (32症例) を水力学的, 病理組織学的に検討した.
    14年間に経験した症例をTable 1に示した. 手術の際 pressure flow study (PFS) を行い, 尿管末端を Waldeyer's space にそつて剥離し, 膀胱より切離して, 尿管末端と拡張部を光顕, 電顕的に検索した.
    膀胱内液量の如何にかかわらずはつきりした通過障害を示したのは3小児例だけで, それ以外は全例, 膀胱空虚時には通過障害を示さず, 膀胱充満時には通過障害を示した.
    組織学的には deep sheath が refluxing MUては発達が悪いのに non-refluxing MUてはよく発達していた. 尿管自体の筋は narrowed segment ては殆んど走向異常を示した. 拡張部てはおおむね正常であつた. 超微構造的所見も尿管全長にわたつて一様に正常であつた. この一般的な尿管筋の特徴の例外は5例の小児と1例の成人でみられ, 拡張部ては筋は結合織中にまばらに散在し, 個々の筋で thick filament を欠損するのが特徴的であつた. narrowed segment の構造はおおむね正常であつた.
  • 森下 英夫
    1980 年 71 巻 11 号 p. 1313-1327
    発行日: 1980/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    1977年4月から1978年9月までの18カ月間に, 新潟大学病院で分離した Serratia marcescens 222株について, 細菌学的検討を行い, 次の結果を得た.
    1) 尿由来122株, 喀痰由来44株およびその他56株であり, 1978年は1977年より分離株数が増加していた.
    2) 195株 (87.8%) が血清型別可能であり, 尿ではO-2, O-3, 喀疾ではO-8, その他ではO-2とO-8が多かつた.
    3) 色素産生性の20株とPC耐性の13株でファージを分離し, その型別を試みた. しかし由来や血清型とファージ型の間に著明な相関性はみられなかつた.
    4) 26種類の薬剤に対する感受性を全菌株について調べたが, 尿由来株は耐性化傾向が強くみられた. 一般的に Serratia は PCG, MCIPC, CET, CEZ に耐性であり, AMK, GM などの Aminoglycoside 系には感受性であつた. しかし1978年の菌株では Aminoglycoside 系に対する耐性化傾向がみられた.
    5) Cephalosporinase はほぼ全株で産生されたが, Penicillinase は尿由来の90%, 喀痰由来の17%, その他の25%で産生されていた. CPの Acetyltransferase は, CP高度耐性の1株でみられた.
    6) Serratia から Escherichia coli への耐性伝達は, PC, SM, TCとCPで行われ, その伝達率は1×10-5であつた. また Ethidium bromide により約80%で耐性の脱落がみられた.
    また S. marcescens 相互間の耐性伝達についても検討した.
  • 第一編 基礎編, 膀胱頚部切開と排尿効率の変化
    浜 年樹, 安田 耕作, 中山 朝行, 香村 衡一, 北村 温, 島崎 淳
    1980 年 71 巻 11 号 p. 1328-1334
    発行日: 1980/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    膀胱頚部切除術 (TUR-Bn) の術後通常の泌尿器科的検査では膀胱頚部, 後部尿道は十分に切除され狭窄等認められないにもかかわらず, かえつて術前より排尿障害が悪化する例を時々経験する. TUR-Bnではその切除部位によつては排尿力を減少させるのではないかと考え以下の如き実験を行なつた.
    雑種雌成犬を用い, 膀胱頚部, 近位尿道に下記の如く三方向に切開を加え排尿効率の変化を検索した. 排尿効率を表わす指標として排尿時膀胱内圧/最大尿流率 (排尿時抵抗) を用いた.
    1. 6時12時膀胱頚部縦切開. 切開によつて排尿時抵抗は減少した.
    2. 3時9時膀胱頚部縦切開. 切開によつて排尿時抵抗は増加した.
    3. 近位尿道横切開. 切開によつて排尿時抵抗は増加した.
    又, 組織学的検索で膀胱頚部において膀胱外縦走筋が3時9時を中心として尿道の輪状筋へ移行して行くのが観察された. 3時9時切開ではこの筋が切断されており, 切開によつて排尿時抵抗が増加したことより, この構造が排尿時膀胱頚部を開大させつつ排尿力を尿道へ伝える働きの重要な部分を成していると考え, TUR-Bnにおいて3時9時切除を行うと排尿効率を低下させる可能性が有ると考えた.
  • 第III報 カルシウム結石症におけるカルシウム代謝と上皮小体機能について
    郡 健二郎
    1980 年 71 巻 11 号 p. 1335-1348
    発行日: 1980/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    尿路結石症の原因の1つにCa代謝異常があるとの考えの下に, Ca代謝と関係深い電解質並びに内分泌の両面から, 結石症のCa代謝について調べた. その結果, (1) 結石群 (男性のみ109例) の尿中Ca排泄量 (U-Ca) は158±98mg/dayで対照群 (男性のみ37例) の134±77mg/dayに比べ多かつた. そこで対照群 (CG) の平均±2SDの値の288mg/dayをもつて結石群を高Ca尿症群 (HC)(16例) と正常Ca尿症群 (NC)(93例) の2群に分け, 検討を進めた. (2) HCでは尿 cyclic AMP (U-cAMP), 血清PTH値, 及び%TR Ca++はCGやNCに比べ低く, %TRPは逆に著しく高かつた. これよりHCでは何らかの機序で上皮小体機能が抑制されているものと考えられた. (3) CGではU-cAMPとU-Caとの間に負の相関関係があつたが, NCでは相関はなかつた. そこでNCの個々の症例において3日連続測定したこの両排泄量の関係からNCは次の3型に分類し得た. 第I型は両排泄量が対照群同様, 負の傾きを示す群で, この症例 (81例) だけでは両排泄量は負の相関があり, この群の上皮小体はCa値の変化に対し反応すると考えられ, 一方第II型は上皮小体機能亢進症のように正の傾きを示す群で, この症例 (7例) だけでは正の相関を認め, 上皮小体機能に主体性があると推察された. 第III型 (5例) はいずれにも属さない群であつた. (4) 第I型では%TRCaとU-Caとは強い負の相関があつたが, 第II型ではなかつた. (5) 腎組織内c-AMP濃度はU-cAMPやU-Caとの間に各々正及び負の相関があつた. また骨皮質内濃度は髄質より高値であつた.
  • 第IV報 カルシウム制限および負荷試験による高カルシウム尿症における病態生理の研究
    郡 健二郎
    1980 年 71 巻 11 号 p. 1349-1363
    発行日: 1980/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    前報のごとくCa摂取量がほぼ日常通りの条件下で, 尿路結石症のCa代謝について知り得ることには限界があつたため, Ca制限及びCa負荷によるCa摂取量に条件を加え検討をした. (1) 1日200mg以下のCa制限食を4日間したCa制限試験では, 尿中Ca排泄量 (U-Ca) は高Ca尿症群 (HC) においてのみ著明に低下, 尿中 cyclic AMP (U-cAMP) もHCにのみ有意な低下をみた. (2) 1g相当のCa負荷試験ではU-Ca, 血清Ca値は対照群 (CG), 正常Ca尿症群 (NC), HCの3群共に極めて大きい上昇をみたが, HCの上昇は他の2群よりも有意に大きかつた. この事からHCの原因は日頃のCa摂取量が多い他に, 腸管Ca吸収率が異常に多いことが推察された. Ca値の上昇と共にCGやNCではU-cAMPやPTHは低下したがHCでは低下せず, この理由はHCでは前報のごとく上皮小体機能が抑制されているため, たとえCa値が上昇しても余り低下しないものと考えられた. またその代償として, 血清Ca値を下げる目的で血清カルチトニン値が, HCにおいてのみ有意に上昇したものと推察される. (4) HCの中にはCa制限にてもU-Caが低下せず, U-cAMPも上昇しない症例がみられた. この症例は他のHCに比べ, U-cAMPやPTHが高く, 血清Caが低かつた. またCa負荷ではU-cAMPが著しく低下した. この事からこの症例では腎尿細管Ca再吸収量が高Ca尿症の原因で, いわゆる「腎Ca喪失型」と考えられ, その結果続発性上皮小体機能亢進症の状態を呈し, 一方他の大半のHC症例は「腸管吸収型」と考えられた.
  • 人工尿中イオン化カルシウムと燐酸カルシウムの沈澱に対するクエン酸の効果について
    桑原 正明, 神部 広一, 景山 鎮一, 折笠 精一
    1980 年 71 巻 11 号 p. 1364-1370
    発行日: 1980/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    尿中イオン化カルシウム (Ca++) の基礎実験として人工尿Ca++を中心にイオン選択性電極による測定値とコンピューターによる計算値との比較検討を行なつた. 人工尿における実測Ca++の総カルシウムに対する割合はpH5.7で42%であり, 5名の非結石者症尿の平均では39% (平均pH6.0) であつた. 計算値では人工尿のそれはpH6.0では53%であつた. 実測値と計算値との差異についてはなを検討を要するが全般的には実測値と計算値は良く相関した. 人工尿成分の中ではクエン酸塩, 硫酸塩, 燐酸塩の順でCa++減少効果がみられた. 他の成分にもCa++減少効果がみられたがマグネシウムは例外的にCa++を増加させた. カルシウムと燐酸を含む溶液では上pHを増加させると沈澱が生じるが, この時同時に急激なCa++減少がみられ沈澱をCa++の減少からとらえられることが判つた. 計算値からは沈澱に関する情報は得られなかつた. クエン酸塩のCa++減少効果はpHの増加に伴つて著明となりpH8ではほぼ最大値を示した. 尿中でカルシウムと complex をつくつているものの大半はクエン酸との complex であり, さらにクエン酸塩は燐酸カルシウムの沈澱をアルカリ側に移動させる効果のあることが確認された. 以上の実験結果から尿路結石に対するクエン酸の影響について論じた.
  • 森山 信男, 伊藤 一元
    1980 年 71 巻 11 号 p. 1371-1383
    発行日: 1980/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    膀胱腫瘍患者10例に膀胱内ブレオマイシン加温水灌流療法 (温水ブレオ療法) を施行し, 治療前後に腫瘍を生検し, その光顕的, 電顕的変化を検索した. 内視鏡による臨床効果は腫瘍消失4例, 縮小4例, 無効2例であつた. 内3例は以前に膀胱内ブレオマイシン注入療法 (ブレオ注入療法) が施行されており, 全例腫瘍の縮小をみているが, その時の電顕的変化も本研究に含めた.
    温水ブレオ療法およびブレオ注入療法後の電顕的変化は程度の差はあるが, 質的にはほぼ同様であつた. 細胞体は膨化し, 電子密度が低下した. 細胞内小器管, とくに粗面小胞体やゴルジ装置は減少し, 膨化したミトコンドリアや空胞状小器管が胞体内に散見された. ライソゾームや微細線維束は増加していた. 核のクロマチン顆粒が減少し, 核質が明るくなり, 核小体は消失するか, 逆に腫大を示した〓○ 仁糸 (nucleolonema) は主に線維成分からなり網状に発達していた. 腫大した nuclear body もみられた. 濃縮した胞体・核をもつた細胞も散見された. 細胞間隙は拡大し, 細胞の剥離もみられた. bleb 形成が細胞の遊離表面に存在した. 低分化型腫瘍では治療後の腫瘍細胞の電顕的変化は同様であつたが, 臨床的には無効であつた. 温水ブレオ療法による腫瘍の縮小は, 腫瘍細胞の退行性変性と剥離によるものと推定された. これは本治療法が径10mm以下の小乳頭状腫瘍に有効であるという臨床的経験に一致する.
  • 第1報 REM (rapid eye movement) 睡眠時勃起現象の臨床応用について
    前林 浩次, 野田 益弘
    1980 年 71 巻 11 号 p. 1384-1389
    発行日: 1980/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    勃起不全の要因として, 臨床的に器質的なものと機能的なものが想定されているが, その確定診断にあたり客観的な方法がなく, 良い診断方法の開発が望まれている. REM睡眠時に勃起現象を伴うことは古くから報告されているが, 今回我々は, 勃起不全症例においてREM睡眠時勃起現象の観察 (REM-Penogram 以下REM-Pとする) を行い, その臨床応用の可能性について検討した.
    終夜睡眠ポリグラフィー記録は, 正常人3名, 機能的な症例5名および器質的な症例5名を対象に行われたが, REM-Pは松本らの方法に従い, 活性炭の粉末をつめた Strain-gauge を陰茎根部に装着して施行した. それと同時にEEG, EOGなどで, 睡眠相の判定も行い次のような結果を得た.
    (1) 正常人および機能的勃起不全症例群では, 1例を除き各症例とも, REM睡眠は3~5回出現し, これに一致して完全勃起を伴う率は約85%であつた.
    (2) 器質的勃起不全と考えられる症例群では, 1例 (症例9) を除き, すべて完全勃起は観察されなかつた. なお症例9は, 経時的な観察を行ううちに勃起力を回復し, これをREM-Pにて追跡し得た症例である.
    以上の結果より, Karacan らの報告と同様に勃起不全の原因が器質的であるか否かの鑑別にREM-Pが応用できると考えられた.
  • 第2報 視床下部―脳幹系の異常について
    前林 浩次, 今川 章夫
    1980 年 71 巻 11 号 p. 1390-1397
    発行日: 1980/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    生理的な勃起現象の神経学的な検討はまだ充分になされていないが, 逆説睡眠時の勃起現象の観察(REM-P, 第1報参照) において勃起が観察される場合には少なくとも脳幹部以下の勃起に関する神経系および血管系に異常はみられないと考えている.
    頭部外傷後の後遺症発現に脳幹部障害が関与しているとの報告もあり, 勃起を伴う性行動の大部分は辺縁系と視床下部にて調節されており, 視床下部-脳幹系の障害による勃起不全も存在すると考えられる. このような考えのもとに, 36症例の勃起不全患者に対し, REM-Pおよび視床下部―脳幹系の検討(test of Brainstem-Function 以下BSF) を行い視床下部―脳幹系と勃起不全との関連性について検討した. なおBSFは, 視性眼振検査, 視標追跡検査および Adrenalin 負荷テストにて行つた.
    その結果, 36例中26例にBSF異常例がみられ, 器質的症例では機能的症例にくらべ, BSF異常群が高率に出現した. また機能的症例のうち, 完全型勃起を呈する症例群では不完全型のものに比較し, BSF異常例の出現が少い傾向にあつた.
    以上の結果より, 視床下部―脳幹系の異常の存在は勃起不全を形成しやすい準備状態の一つと考えられた.
  • 岡所 明
    1980 年 71 巻 11 号 p. 1398-1410
    発行日: 1980/11/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    片腎摘除術後, 対側腎に生ずる代償性肥大の機構を追求するために, 12~16週齢の Wistar 系雄性ラットを用いて実験した. 腹膜外にて右腎を摘除し, 1, 3, 5, 7日後に左腎を摘除し (腎摘群), また右腎周囲剥離のみ行つた偽手術群を作製し比較検討した. 腎摘群は各群15匹, 偽手術群は各群5匹を用いた. 摘除腎は皮質と髄質に分け, 皮質の一部からは尿細管を分離し, それぞれについて, deoxyribonucleic acid (DNA), ribonucleic acid (RNA), 蛋白含量を測定した. その結果, 腎重量は経日的な増加が認められ, 7日目には約20%の増加が認められたが, 皮質と髄質の重量比に変化は認められなかつた. DNA濃度は皮質, 髄質ともに1日目より減少し, RNA/DNA比, 蛋白/DNA比は皮質, 髄質ともに1日目より増加が認められ, 1日以内に hypertrophy すなわち細胞の肥大が始まると考えられた. 総DNA量は皮質においては3日目より増加が認められ, 1日目から3日目の間に hyperplasia すなわち細胞の増殖が始まると考えられた. 髄質における総DNA量の増加は皮質に比して軽度であり, 皮質の方が髄質より hyperplasia の要素が多いと考えられた. 尿細管ではRNA/DNA比の増加は認められるが, 蛋白/DNA比の増加は軽微であり, 主として hyperplasia が起つていると考えられた.
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