硬膜外導出法によって, 球海綿体反射によるヒト脊髄誘発電位を検討した. 仙髄以下が保存されている頚胸髄損傷患者10名からは, 導出電極を硬膜外腔で仙髄分節の高さに置くと, 再現性のある分節性脊髄誘発電位を得ることができた. また, これら10名の患者のうち6名に urodynamic study を施行したところ, 6名ともDSDを伴なう detrusor hyperreflexia を示した.
分節性脊髄誘発電位は特徴的な波形を有し, 最初の陽性波 (P
1波), 次の陰性波 (N
1波) および最後の陽性波 (P
2波) から構成されていた. P
1波は末梢潜時9.8msec, 持続時間1.20msecを示し, 小さなスパイク状電位であった. N
1波は末梢潜時13.4msec, 中枢潜時3.6msec, 持続時間6.1msecを有するシャープな陰性波であった. P
2波は末梢潜時25.8msec, 中枢潜時15.8msecで出現する大きな陽性電位で, 持続時間が28.0msecともっとも長く, 緩徐な変動を示した.
これら成分波の陰茎電気刺激強度に対する反応はおたがいに異なり, P
1波は閾値がもっとも低く, 20Vの弱刺激でも容易に記録された. 一方, N
1波は刺激強度増加に対しその振幅がほぼ直線的に増大したが, P
2波は刺激電圧60V付近から飽和しそれ以上増加しなかった.
各成分波に関する以上の性質は, 四肢の末梢神経刺激時に得られる脊髄誘発電位の性質と同じであり, この場合に確立されている成分波の起源 (すなわち, P
1波が後根に流入する活動電位, N
1波が介在ニューロンの興奮, P
2波が1次求心性線維の脱分極をそれぞれ反映するという考え方) を, 今回我々が検討した球海綿体反射の脊髄誘発電位にもそのまま適応できるものとおもわれる.
一方, 仙髄以下に障害のある患者2名はいずれも detrusor arenexia を示したが, このうち仙髄自体が損傷された症例では脊髄誘発電位を記録することができなかった. 残りの1例は直腸癌の術後に発生した末梢神経障害で, 成分波のうちP
1波だけが遅れた潜時で記録された.
以上より, 硬膜外導出法による脊髄誘発電位の記録は, 脊髄からの情報量が多く, 従来と異なった視点から下部尿路機能を検討することが可能となり, 今後, 神経泌尿器科領域で重要な位置を占めるものとおもわれる.
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