日本栄養・食糧学会誌
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最新号
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総説
  • 田中 一成, 宮田 裕次
    2025 年78 巻4 号 p. 191-197
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/22
    ジャーナル フリー

    長崎県では多種多様な農林水産物が収穫 (収獲) されているが, その中には一部だけ利用されているものや必ずしも有効に利用されていないものもある。そこで筆者らは, 未利用の県産農産物に着目し, これら素材の有効活用に取り組んだ。未利用のビワ葉と緑茶三番茶葉を利用した新たな茶の製造に着手し, 味や香りに優れる高品質の発酵茶を開発した。この発酵茶はヒトの内臓脂肪面積減少作用を有することが明らかになり, 機能性表示食品として販売している。次に, ビワ葉に代えて五島列島産の未利用のツバキ葉を活用した発酵茶を製造開発し, 紅茶風味の飲みやすい発酵茶が完成した。ミカンの栽培において未熟なミカン果実 (摘果ミカン) の大部分は廃棄されているが, この摘果ミカンを用いた発酵茶を商品化した。この発酵茶にはヒトにおいて種々の健康機能性が確認され, 機能性表示食品として登録されている。地元特産の素材を活用した新たな発酵茶は順調な売り上げを示し, 地域活性化に結びつく貴重な取り組みとして評価されている。

  • 永尾 晃治
    2025 年78 巻4 号 p. 199-204
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/22
    ジャーナル フリー

    「佐賀海苔」は, 世界有数の潮の干満差を誇る有明海での支柱式養殖により生産される高品質な佐賀県の特産品である。スサビノリ (Pyropia yezoensis) に含まれる糖質・タンパク質・ビタミン・ミネラルについての富栄養性や機能性について様々な報告があるが, 脂質成分はエイコサペンタエン酸が主要な構成脂肪酸として極性脂質 (糖脂質・リン脂質) に結合しているという特徴を持っている。筆者らは, 海苔から抽出したノリ脂質を肥満モデルマウスに摂取させ, 病態発症に及ぼす影響について評価している。本稿では, トランスクリプトーム解析・一次代謝物解析・脂質メディエーター解析・リピドーム解析といった複数の網羅解析を用いて, ノリ脂質の健康機能の包括的な評価を試みた知見を紹介する。

  • 山口 昌俊
    2025 年78 巻4 号 p. 205-212
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/22
    ジャーナル フリー

    日向夏ミカンは宮崎県を中心に栽培されている柑橘類であり, 白い綿状のアルベド部分を食する点が特徴である。卵巣摘出ラットに日向夏ミカンのホモジネートを投与したところ, 骨密度が上昇することを見出した。そこで, ラット破骨前駆細胞を用いた評価を行ったところ, 活性成分は水溶性であり, 低分子画分と高分子画分に破骨細胞形成抑制作用が認められた。低分子画分はヘスペリジンであると推定し, 高分子画分は, 最終的にアラビノガラクタンであることが確認された。ヒト試験では, 閉経後の女性被験者にアラビノガラクタン含有ジュースを服用してもらい, 血中の骨代謝マーカーを検討したところ, 酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ (TRACP5b) と, Ⅰ型プロコラーゲン-N-ペプチド (P1NP) が抑制された。プラセボ対照2重盲検試験でも, 同様にTRACP5bとP1NPが抑制され, 骨代謝を正常化することが判明した。これらのことから, 日向夏由来アラビノガラクタンは骨代謝回転に影響を与えることが示された。

  • 長谷 (田丸) 靜香, 坂口 優紀, 井元 樹里
    2025 年78 巻4 号 p. 213-219
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/22
    ジャーナル フリー

    植物発酵エキス (酵素ドリンク) とは, 多種の野菜, 果物, 穀物などの原料を混合し, 微生物の添加により発酵・熟成して製造される飲料の総称である。本飲料は発酵食品に分類されると考えられるが, 認知度が低く, 基本特性や機能性に関する学術的報告が非常に少ない発展途上の食品である。植物発酵エキスの飲用により, 原料由来の酵素を摂取して体内の消化酵素を補給するとの考え方があるが, エビデンスが十分ではない。一方, 植物発酵エキスは多種の原料由来もしくは発酵により産生した機能性成分を豊富に含み, それら成分を効率よく摂取できるという観点からは, 健康効果が大いに期待できる。そこで我々は, 植物発酵エキスが発酵食品の一つとして正しく認識されることを目的とし, 地域企業との産学連携により, 成分特性の解明や機能性評価に取り組んでいる。本稿では, その事例として代表的な植物発酵エキスについて紹介し, 合わせて最近の研究動向の一部を紹介することで認知度向上に資することとする。

  • 西園 祥子
    2025 年78 巻4 号 p. 221-227
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/22
    ジャーナル フリー

    モリンガ (Moringa oleifera) は, 北インド原産の樹木であり, 赤道周辺の熱帯・亜熱帯地域に広く分布・栽培されている。その葉や根, 種子は, インドや東南アジアで古くから食用・薬用に利用されてきた。日本では, 2006年に熊本県天草地方で初めて栽培が開始され, 現在では九州・南西諸島地域を中心にその栽培域が拡大している。モリンガは耐寒性に乏しく, 国内では毎年植え替えによる周年栽培が行われている。我々は, 1年目の若葉の収穫時期および乾燥処理方法に工夫を加えることで, 高品質な九州産モリンガ製品の差別化を図ってきた。本総説では, モリンガのこれまでの研究成果を概観し, とりわけ栄養機能性および生理機能性に焦点を当てて論述する。加えて, on-line HPLC-DPPH法を用いた分析により, 九州産モリンガ葉に含まれる主要な抗酸化成分がクロロゲン酸類であることを明らかにし, 抗酸化能に優れた「バージンモリンガ」を開発・商品化した事例を紹介する。さらに, モリンガを活用した機能性表示食品の開発動向と, 今後の実用化に向けた展望についても述べたい。

報文
  • 奥 裕乃, 野田 聖子, 石井 志穂, 山田 麻子, 中岡 加奈絵, 松井 貞子, 五関‐曽根 正江
    2025 年78 巻4 号 p. 229-235
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/22
    ジャーナル フリー

    高脂肪食摂取時のカルシウム制限がアルカリホスファターゼ (ALP) 活性に及ぼす影響について検討した。11週齢の雄性ラットを基準食 (Cont.) 群, カルシウム制限食 (CaR) 群, 高脂肪食 (HF) 群, 高脂肪・カルシウム制限食 (HFCaR) 群の計4群に分けて28日間飼育し, カルシウム制限と高脂肪を二要因とした二元配置分散分析で比較した。その結果, カルシウム制限 (CaR, HFCaR) 群の血清ALP活性はカルシウム充足 (Cont., HF) 群に比べて有意に高値を示した。また, 高脂肪食 (HF, HFCaR) 群の肝臓のALP比活性は普通脂肪食 (Cont., HF) 群に比べて有意に高値を示した。一方, カルシウム制限 (CaR, HFCaR) 群の十二指腸のALP比活性はカルシウム充足 (Cont., HF) 群に比べて有意に高値を示した。小腸のALPは, 腸内細菌由来のリポ多糖 (LPS) を脱リン酸化して解毒することが知られており, カルシウム制限が小腸ALP活性を上昇させて腸の恒常性維持に関与している可能性が示唆された。

  • 岸村 康代, 青江 誠一郎
    2025 年78 巻4 号 p. 237-246
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/22
    ジャーナル フリー

    本研究では, 食物繊維が豊富なおからパウダーの摂取がヒトの腸内細菌叢および短鎖脂肪酸産生に及ぼす影響を調べることを目的にした。実験1のヒト介入試験では, 無作為化プラセボ対照二重盲検試験によりおからパウダーを健康な日本人女性24名に4週間摂取させ, 腸内細菌叢の変化と短鎖脂肪酸産生に及ぼす影響を調べた。実験2では, 4名のヒト新鮮糞便を用いて48時間の糞便培養試験を行い, 短鎖脂肪酸産生量を調べた。実験1の結果, おからパウダー摂取によりFirmicutes門/Bacteroidetes門比 (F/B比) の低下, およびBacteroides属とBarnesiella属の占有率の有意な増加が見られ, α多様性の指標の有意な増加が見られた。また, 実験2の結果, おからパウダーにより酪酸産生菌の占有率が増加する傾向が見られ, 短鎖脂肪酸の中でもn-酪酸を多く産生する可能性が示された。以上のことから, おからパウダーは日本人女性の腸内細菌叢を変化させ, 多様性を増加させること, および腸内発酵性の食物繊維を含むことが示された。

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