廃棄物資源循環学会誌
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32 巻, 5 号
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巻頭言
特集:地球規模での水銀循環とその管理を目指して
  • 𠮷﨑 仁志
    2021 年 32 巻 5 号 p. 327-335
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー
    「水銀に関する水俣条約」 は,2013 年に採択され,2017 年に発効した。水銀の産出から廃棄に至るまでライフサイクル全般を規制する。わが国では,水銀汚染防止法等に基づき,条約に基づく措置を担保するだけでなく,条約を上回る措置を講じている。条約の締約国会議では,これまでに条約の運用に必要な各種のガイダンス文書等が採択されてきており,今後の主な議論の対象として,条約に基づく措置が人の健康や環境の保護にどれだけ貢献しているかの有効性評価があげられる。条約の有効性については,発効から 6 年以内に初回の評価を実施することとされており,現在その詳細について議論が進んでいる。わが国としても,これらの国際的な議論の動向に適切に対応し,議論をリードできるよう努めていきたい。
  • 日下部 武敏, 高岡 昌輝
    2021 年 32 巻 5 号 p. 336-346
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー
    水俣条約により導入された対策が有効に機能し,水銀大気排出量の削減が期待される。本稿では,水俣条約附属書 D に掲げられている 5 発生源を対象に,大気排出量の推計に必要な排出係数や技術,対策の最新動向をまとめた。石炭燃焼分野では,高効率化,燃料転換,CO2 分離回収技術の導入等の気候変動対策によるコベネフィットが大きく,電気集じん機のバグフィルターへの更新や活性炭吹き込みによって排出量の大幅な削減が期待できる。非鉄金属分野での水銀削減技術は,Boliden-Norzink 法や活性炭吸着がメインであり,湿式製錬への転換でも排出量の削減が見込める。セメント分野では,系内を循環している水銀をどのように系外に出すかが鍵で,今後選択を迫られることになる。廃棄物分野では,気候変動対策と調和させつつ,今後はバグフィルターと活性炭吸着の組み合わせが主流となっていく。今後の技術選択のためには,最終処分までを含めたコスト推計が極めて重要となる。
  • 野田 直希
    2021 年 32 巻 5 号 p. 347-353
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー
    大気汚染防止法の改正に伴い水銀排出施設では,定期的な排出ガス中水銀の測定が義務づけられ,環境省告示に排出ガス中水銀の測定法が規定されている。この方法は,排出ガス中の粒子状水銀をろ紙で,ガス状水銀を吸収液で捕集する方法であり,それぞれの試料採取装置を用いて測定する。この方法以外にも,国内外には,吸収剤を用いる方法や連続測定法等のさまざまな排出ガス中水銀の測定方法が規定されている。現在,環境省告示の測定法は,国外の測定法を参考に粒子状水銀とガス状水銀を 1 つのノズルを用いて同時に採取する方法の追加が検討されており,JIS K 0222 も環境省告示の測定法と整合を図るための改正作業が進められている。本稿では,国内外で規定される排出ガス中水銀の測定法の概要と特徴,ならびに見直しが進められている JIS K 0222 の測定法の改正内容を概説する。
  • 山末 英嗣, 光斎 翔貴, 柏倉 俊介
    2021 年 32 巻 5 号 p. 354-360
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー
    人力小規模金採掘 (ASGM) は世界において最も高い水銀大気排出量を示しており,南米やサハラ以南アフリカでは 70~80 % にも及ぶ。国内に注目すると,ASGM は存在しないものの金属素材産業において鉄鋼産業からの水銀大気排出量が非鉄産業より高い値を示している。したがって,水俣条約の批准国において,これらの産業における有効性評価の実施を含めて条約の着実な履行とさらなる水銀削減策の強化が必要とされる。本稿では,ASGM および鉄鋼産業と水銀とのかかわりについての文献調査を行なった結果を紹介し,現状の課題と今後の対策について紹介する。
  • 木戸 和樹
    2021 年 32 巻 5 号 p. 361-368
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー
    水俣病を経験した日本のみならず,世界的にも水銀の環境汚染や健康被害が確認され,水銀の適切な管理および将来における環境汚染や健康被害の防止が国際的に求められる状況のもと,水銀の環境への人為的な排出を抑制するために水俣条約が 2013 年 10 月に採択され,2017 年 8 月に発効された。水俣条約により新たな水銀規制が追加され,水銀の適正な管理,処分が一層求められる状況下で,1973 年の創業以来,日本国内の水銀廃棄物の適正処理に取り組んできた野村興産 (株) の役割は非常に重要と考える。
     本稿では,当社が行なっている水銀廃棄物処理事業の概要と焙焼や水銀の安定化・固型化プロセス等の処理技術を紹介するとともに,国際的な水銀廃棄物管理への貢献について紹介する。
  • 武内 章記, 丸本 幸治
    2021 年 32 巻 5 号 p. 369-375
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー
    水銀は地球環境汚染物質である。地球規模の水銀汚染問題の解決や,水銀に関する水俣条約の有効性評価を実施するためには,環境中の水銀含有量を推計し,その動態を把握する必要がある。本稿では,異なる環境中の水銀含有量とフラックスに関する情報を整理して,滞留時間を比較した。大気と海洋表層は,比較的水銀含有量が低い環境であるが,産業革命以後に排出された人為由来水銀の影響を特に受けている。一方,陸域や深海に存在する水銀の大部分は,長い地球の歴史の中で蓄積した天然由来の水銀が大部分を占め,少しずつ人為由来水銀が蓄積している状況である。また,生物への蓄積が懸念されている海水中のメチル水銀の推定滞留時間も比較的長く,排出削減の効果を評価するためには中長期的な取り組みと監視が必要である。
  • 中島 謙一, 花岡 達也, 南斉 規介, 程 英超
    2021 年 32 巻 5 号 p. 376-383
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー
    国連環境計画 (UNEP) では,海洋・土壌への水銀蓄積の増大を指摘するとともに,その最大の原因として人為的な水銀の排出・放出の影響を指摘している。『水銀に関する水俣条約』(2017 年発効) が適切に履行されることで,世界的な水銀の需要・供給の削減,さらには,水銀の排出・放出の削減が期待される。しかし,将来の社会経済の状況や対策の履行状況を考慮すると,主要排出源 (石炭等の燃焼部門,ASGM やセメント製造を含む鉱工業部門等) において,大幅な水銀排出量の増大が懸念される。したがって,水俣条約の批准国において,有効性評価の実施を含めて条約の着実な履行とさらなる水銀削減策の強化が必要とされる。本稿では,水銀の需給および人為的な水銀排出量と,その将来展望を解説するとともに,有効性評価の手法開発の支援を念頭に,著者らが取り組んでいるグローバル・シナリオモデルの開発状況を紹介する。
  • 林 岳彦, 河合 徹
    2021 年 32 巻 5 号 p. 384-391
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー
    水俣条約の有効性を評価する上での主要なアウトカムの一つは,水銀によるヒト健康への影響の変化である。ヒト健康への影響を予測するためには,水銀の全球レベルでの物理的な移動,さまざまな化学的・生物学的反応を受ける自然環境における水銀挙動に加えて,人為的活動や水銀対策による影響を考慮した上での水銀曝露量の推定が必要となる。本稿の前半では,水銀のヒト健康影響および曝露経路についての既往知見をまとめ,本研究プログラム全体として優先的に評価すべき曝露シナリオと健康アウトカムの範囲を選定した。本稿の後半では,現在までに実施した,全球モデルを用いた海産物摂取経由での水銀曝露量を推定する手法の開発の解説を行なった。また,その計算法を適用した地域ごとの平均水銀曝露量等の推定結果とともに,今後の開発の方向についての紹介を行なった。
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