廃棄物資源循環学会誌
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35 巻, 4 号
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巻頭言
特集:化学物質のどこに着目するか―難分解性・移動性の環境脅威―
  • 渡辺 信久
    2024 年35 巻4 号 p. 241-247
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/10/21
    ジャーナル フリー

    化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)と残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs 条約)のいずれも,毒性を有する化学物質による環境汚染を防ぐ目的でありながら,難分解性・蓄積性・移動性等の環境的性質から調べ,規制対象リストに組みこむ(化学物質に札(ふだ)をかける)スキームとなっている。最初に難分解性を第一義に取りあげたのは化審法であり,POPs 条約は2種類の移動性(半揮発性物質の寒冷極地への濃縮,水溶性・揮発性による生物摂取可能性の上昇)の重要性を示している。これら環境的性質に着目し,毒性を迂回する理由は,「毒性が難しい」ためである。疫学データ(例: ベンゼン)が最も明確な毒性の根拠であるが,それは,長い年月にわたった多数の被害に基づくものであり,繰り返すことは容認されるものではない。近年は,生命科学的手法による根拠も採用されるようになってきたが,やはりそれらを補完し,予防的意味もあることから,環境的性質によって「化学物質に札(ふだ)をかける」ことは,今後も必要である。さらに複雑なことに,札をかけられた化学物質の使用の可否は,毒性だけではなく,リスク・ベネフィットによって判断(例: DDT と水銀)されることがある。また,毒性が明らかになっていても,長く受容されている例(ひ素)もある。

     最後に,本稿においては社会問題化している PFAS 問題への望ましい姿勢を述べた。

  • ─子どもの健康と環境に関する全国調査─
    磯部 友彦
    2024 年35 巻4 号 p. 248-255
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/10/21
    ジャーナル フリー

    子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)は環境省主導で実施されている出生コホート研究であり,全国の約10万組の親子を対象として2011年から長期間にわたって子どもの健康とそれにかかわる環境要因の関連解析を目的とした追跡調査を実施している。エコチル調査では,主に胎児期や小児期の化学物質曝露が子どもの成長や発達にどのように影響するか解明することを目的に,生体試料濃度を曝露の指標として健康アウトカムとの関連を解析しており,生体試料の採取数等の点で世界的にも最大規模の出生コホート研究の一つとなっている。本発表では,エコチル調査について,研究デザインと進捗状況,これまでに得られた結果の一部について紹介する。

  • ── PFAS を例として ──
    原田 浩二, 藤井 由希子
    2024 年35 巻4 号 p. 256-264
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/10/21
    ジャーナル フリー

    有機ふっ素化合物のうち,結合するふっ素が多い,ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物,per- and polyfluoroalkyl substances(PFAS) は20世紀半ばから,生活用品の撥水剤,工業製品,燃料火災用の泡消火剤,ふっ素樹脂の製造助剤等として幅広く利用されてきた。ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)とペルフルオロオクタン酸(PFOA)の2物質が代表的な PFAS であった。これらは環境中で分解せず,生物に蓄積することから将来的なリスクが懸念された。過去に使用された PFAS が環境に残留し,水道水等の汚染を引き起こし,住民の PFAS 曝露につながっている。昨年,米国や欧州では水道水濃度や血中濃度についての勧告が相次いで公表されている。その示された水道水中 PFAS の勧告値のいくつかは現在の日本においても達成できないほど厳しい。それらの根拠となった知見について解説する。

  • 遠藤 智司
    2024 年35 巻4 号 p. 265-270
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/10/21
    ジャーナル フリー

    欧州では Persistent(難分解性),Mobile(移動性),Toxic(毒性)物質(PMT 物質)の規制に向けた取り組みが進められている。新たにハザード評価項目として導入されるのはM,すなわち移動性である。本稿では,移動性とは何か,移動性が注目されるに至った背景,移動性の基準値や化学物質規制全体への意味について議論する。PMT 物質が水源汚染のポテンシャルをもつことから,将来にわたって安全な飲料水を確保するための対応を検討する必要があると考える。

  • 大山 将, 平尾 壽啓
    2024 年35 巻4 号 p. 271-280
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/10/21
    ジャーナル フリー

    近年,ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)による環境中への拡散が懸念され,国内においても河川,地下水等から PFOS,PFOA および PFHxS が幅広く検出されている状況にある。河川・地下水等に拡散した PFAS の除去技術として,比較的低コストで取り扱いが容易な粉末活性炭による吸着処理を検討した。実際の河川水を用いた吸着試験では,PFOS のような比較的炭素数の多い PFAS が吸着除去し易いことが判明した。また,pH を酸性雰囲気に調整して吸着処理することで,短鎖を含む PFAS の吸着量が増大することを見出した。

     一方,PFAS 吸着後の粉末活性炭(廃活性炭)は,適切かつ確実な分解処理が求められる。そこで,1,100 ℃以上の高温域を確保できる高温過熱水蒸気に着目し,さらに,燃料燃焼由来の CO2 排出量低減を目的として,水素燃焼式高温過熱水蒸気分解処理の試験装置を新規開発した。PFOS 等を吸着した粉末活性炭スラリーを用いて PFAS 分解の実証試験を実施したので,これらの取組内容について紹介する。

  • 冨田 真裕, 松岡 康彦
    2024 年35 巻4 号 p. 281-286
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/10/21
    ジャーナル フリー

    ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)は10,000 種を超える有機フッ素化合物の総称で,その中のペルフルオロオクタン酸(PFOA),ペルフルオロオクタンスルホン酸 (PFOS),ペルフルオロヘキサンスルホン酸 (PFHxS) は,難分解性,高蓄積性,長距離移動性およびヒトや生物への有害性が懸念され,残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約) で規制されている。近年,欧州では PFAS の難分解性や生物蓄積性,移動性への懸念から,すべての PFAS を一括で規制する提案がなされている。しかし,FCJ(日本フルオロケミカルプロダクト協議会)は,PFAS 全体を有害物質として規制するのは科学的根拠に欠けるとし,個々の物質や代表的な物質群ごとにリスクを定量的に評価すべきと主張している。また POPs 条約で規制される物質を「特定PFAS」と定義し,その他の PFAS と区別することを提案している。

     FCJ の参画企業はフッ素化学品を製造しており,その事業活動における環境負荷の最小化と,製品を通じた環境影響の抑制に努めている。今回,その一例として PFAS リサイクルの取り組みを紹介する。

令和6年度廃棄物資源循環学会・春の研究討論会
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