日本臨床外科医学会雑誌
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52 巻, 5 号
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  • 迫 裕孝, 中根 佳宏, 沖野 功次, 西原 和郎, 松下 美季子, 目片 英治, 小玉 正智
    1991 年 52 巻 5 号 p. 937-944
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    頸部腫瘤は多種多様で,日常の診察に際して診断に窮することが多い.そこで,過去12年間に生検または手術にて組織診が得られた頸部腫瘤のうち,甲状腺・上皮小体疾患を除いた108例を臨床病理学的に検討した.原因別では,腫瘍が79例73.1%と多く,炎症17.6%,先天性疾患9.3%であり,悪性疾患は15.7%であった.発生部位別では,前頸部では正中頸嚢胞,側頸部では唾液腺腫瘍,リンパ節疾患,後頸部では粉瘤,脂肪腫,石灰化上皮腫が多かった.主な疾患の内訳は,唾液腺腫瘍25例では,耳下腺腫瘍が20例と多く,多形腺腫12例, Warthin腫瘍3例,脂肪腫1例,扁平上皮癌2例であった.また顎下腺腫瘍5例は全例多形腺腫であった.神経鞘腫は舌下神経2例,横隔神経1例の発生であった.リンパ節疾患33例は,単純性リンパ節炎39.4%,癌転移24.2%,悪性リンパ腫および類似疾患18.2%,結核性リンパ節炎9.1%,その他であった.先天性疾患では正中頸嚢胞6例,側頸嚢胞3例,嚢胞状リンパ管腫1例であった.
  • 伊藤 等, 片桐 誠, 吉川 啓一, 山根 康彦, 一本杉 聡, 三宅 一昌, 博多 尚文, 園尾 博司, 原田 種一, 津嘉山 朝達
    1991 年 52 巻 5 号 p. 945-947
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    甲状腺結節に対して穿刺吸引細胞診は非常に有効な診断法とされている.このうちclass III症例の取り扱について検討した.
    対象症例は1986年1月から1988年12月までの3年間に当科で手術した162例のうちの147例である.良性腫瘍79例では,全例ともclass I・II・IIIであった.悪性腫瘍68例では, class Iは認めず, class IIが4例, class IIIが11例(16.2%), class IV・Vが53例であった.誤陽性例は認められなかったが,誤陰性例は15例(10.2%)存在した.悪性腫瘍でclass IIIと診断された症例のうち,乳頭癌の8例はretrospectiveに見ればclass IVと診断できた.しかしその他の癌,特に濾胞癌では診断が困難であった.従って, class III症例は手術を行い組織診断を行う必要があると思われた.
  • 神崎 正夫, 中谷 雄三, 町田 浩道, 鳥羽山 滋生, 戸田 央, 小島 幸次朗, 小助川 克次, 清水 進一, 小林 寛
    1991 年 52 巻 5 号 p. 948-954
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    1987年4月から1989年12月まで当院で手術を行った乳癌197例について術前診断の問題点について検討した.乳癌診断には,臨床診断に加えて,マンモグラフィー(MMG),超音波検査(US),穿刺吸引細胞診(ABC)の補助診断法を併用し,最終的な診断は,確診79%,疑診20%,良性1%であった.臨床診断にて確診されなかった62例中20例(32%)が補助診断法の併用により確診され,残り42例は最終的に生検により確診された. MMGは,乳腺実質量により腫瘤描出率が影響され, 29%が診断不能であったが,微小石灰化像の診断は最も優れていた. US診断能は,超音波像の腫瘤周辺所見を左右する肥満度と腫瘤の脈管侵襲により影響されていた. ABCは,生検法に代わる補助診断法として,最も貢献度が高く, USとの併用により小腫瘤診断に高い正診率を示した.非浸潤癌の診断には生検法が不可欠であり,乳頭異常分泌例の生検適応決定に分泌液中のCEA値測定が有用であった.
  • 永野 耕士, 山野 元, 呉 正信, 正岡 博, 大久保 春男
    1991 年 52 巻 5 号 p. 955-959
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    早期乳癌における画像診断について臨床的に検討する.
    (1) 超音波診断
    (1) 浸潤癌の腫瘍径と診断率との関係は,日立EUB2D 7.5MHzになってから,正診率は, T 1.0cm以下90.9%, 1.1~2.0cm 92.0%. False negativeは, T 1.0cm以下9.1%, 1.1~2.0cm 8.0%と格段の進歩がみられ,又腫瘍像を描出出来なかったのは,皆無である(0.5cm以上).
    (2) 非浸潤癌では腫瘍像描出可能率は, 84.6%,正診率は69.2%である.
    (2) 乳房撮影診断
    (1) 浸潤癌では,正診率は, T 1.0cm以下47.1%, 1.1~2.0cm 80.7%. False negativeは, T 1.0cm以下52.9%, 1.1~2.0cm 19.3%であり, T 1.0cm以下の診断率は,悪い.非浸潤癌は,正診率57.1%であまり良くない.
    (2) 腫瘍像の描出能は,浸潤癌T 1.0cm以下52.9%, 1.1~2.0cm 83.0%と1.0cm以下では描出が難しい.非浸潤癌では, 57.1%,大部分管内性増殖例では, 64.7%である.
    (3) 微細石灰化像の出現率は,浸潤癌T 1.0cm以下23.5%, 1.1~2.0cm 43.2%,非浸潤癌50.0%である.
    (4) 腫瘤陰影陰性で微細石灰化像のみ陽性症例は, T 1.0cm以下25.0%, 1.1~2.0cm 26.7%,非浸潤癌33.3%であった.
  • 松島 伸治, 川本 雅司, 家所 良夫, 小泉 潔, 五味渕 誠, 日置 正文, 秋丸 琥甫, 池下 正敏, 田中 茂夫, 庄司 佑
    1991 年 52 巻 5 号 p. 960-965
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    過去10年に当教室で経験した縦隔腫瘍110例について,その治療成績及び予後などを各腫瘍別に検討を行った.症状の有無に関しては,有症状の71.2%が悪性で占められ症状を伴った縦隔腫瘍の場合悪性の可能性が高いことが明らかであった.組織型別頻度は,胸腺腫が31例と最も多く,次いで胚細胞性腫瘍,神経性腫瘍,気管支嚢腫,胸腺嚢腫,胸腔内甲状腺腫,リンパ腫の順であった.全縦隔腫瘍に対する悪性腫瘍の占める割合は110例中39例, 35.5%で,胸腺腫は90.3%,リンパ腫は75.0%と高頻度であった.高度浸潤型胸腺腫に対して上大静脈再建及びバイパス術を要した症例は5例で,最長生存期間は3年5カ月であるが,この様な症例にも可及的切除に努め,術後放射線,化学療法を加えることにより症状の改善,延命効果が得られ予後の向上に期待がつなげた.
  • 小川 勇一郎, 福田 篤志, 由茅 宏文, 佐々木 幸治, 田中 真二
    1991 年 52 巻 5 号 p. 966-972
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    食道胃静脈瘤に対する選択的シャントにおける人工血管(PTFE)の応用に関して,遠位脾腎静脈吻合人工血管法48例と同原法51例,左胃-下大静脈吻合人工血管法9例と同原法9例の臨床成績を比較検討した.
    遠位脾腎静脈吻合人工血管法では,手術時間,術中出血量の有意の減少,シャント開存率の向上,静脈瘤に対する効果の有意の改善が得られたが,術後脳症の発生頻度は若干高率であり,年齢とICGに関する手術適応の縮小が必要と思われた.
    左胃-下大静脈吻合人工血管法では,手術時間,術中出血量の有意の減少が得られたが,シャント開存率・静脈瘤に対する効果は原法と同程度であり,これを向上させるためには8mm以上の人工血管を吻合することが望ましいと考えられた.
    以上,適切な症例選択を行えば,人工血管応用の効果はさらに高まるものと思われる.
  • 孝冨士 喜久生, 橋本 謙, 安元 健二, 矢野 正二郎, 田中 裕穂, 武田 仁良, 掛川 暉夫
    1991 年 52 巻 5 号 p. 973-978
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    ss胃癌を亜分類別に検討するとともに,同期間に切除したpm癌(n=57), se癌(n=329)と比較検討を行った. 1979年から1988年までの10年間の切除胃癌総数938例中ss胃癌は104例(11.1%)を占め,亜分類別では, ssα: 28例, ssβ: 33例, (ssγ): 4例, ssγ: 39例であった. pm・ss癌は,肉眼型では2型,組織型では分化型が多かったが, se癌は3型,未分化型が多くを占めた.リンパ節転移率はpm癌: 49.1%, ss癌: 50.0%, se癌: 79.9%で, se癌で有意に(p<0.01)高く, ss癌の転移率は亜分類間で差がなく,腫瘍長径, ss浸潤距離に比例して増加した. 5生率は, pm癌: 82.3%, ss癌: 75.0%, se癌: 34.7%で, ss癌はse癌より有意に(p<0.01)良好であった.またss癌の亜分類間で5生率に差はみられなかった.以上, ss癌の肉眼型,組織型,リンパ節転移率,治療成績はse癌よりもpm癌に近かった.また, ss癌の悪性度を検討するにはINFを勘案した亜分類だけでは不十分であり,腫瘍長径, ss浸潤距離も考慮する必要があると思われた.
  • 藤本 三喜夫, 内田 直里, 道後 正勝, 栗栖 佳宏, 河毛 伸夫, 中井 志郎, 増田 哲彦
    1991 年 52 巻 5 号 p. 979-984
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    過去約10年間に当科で経験した残胃の癌23症例を検討して以下の知見を得た.
    1) 残胃の癌は高齢の男性に多く発生していた.
    2) 初回悪性腫瘍症例では初回良性疾患例に比し短期間のうちに残胃の癌が発生していた.
    3) 初回手術の再建法での検討では, Billroth II法再建例に吻合・縫合部に残胃の癌が発生する傾向を示し,残胃内への胆汁酸の逆流の関与が推定された.
    4) 初回手術後5年以内に発生した残胃の癌症例においては,同時性多発胃癌症例等も含まれている可能性があり,術前・術中のより慎重な配慮が必要であると考えられた.
    5) 残胃の癌の予後は全体に不良と言わざるを得ないが, Stage I症例では長期生存が十分期待でき,初回病変の良・悪性を問わず,術後のきめ細かいfollow upの重要性を再認識した.
  • 鈴木 康之, 宮崎 直之, 石田 常之, 小野山 裕彦, 竹山 宜典, 黒田 嘉和, 大柳 治正, 斎藤 洋一
    1991 年 52 巻 5 号 p. 985-989
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    過去11年間に経験した胃癌手術に伴う膵体尾部合併切除術施行例178例を対象として,術後膵液瘻の発生に関与する術前及び術中の因子について検討を加えた.また膵液瘻発生予防として,膵断端フィブリン糊塗布の有用性についても検討した.術後膵液瘻合併症例は43例, 24.2%であった.術前に耐糖能異常や肝機能障害を有する症例や,胃癌の進行した症例,また術中膵断端の膵管を結紮しなかった症例に,術後膵液瘻の発生頻度が高かった.一方術中膵管結紮例135例のうち,フィブリン糊塗布を行わなかった122例中30例, 24.6%に膵液瘻が発生したのに対し,フィブリン糊を塗布した13例では1例, 7.7%に発生したのみであった.以上の結果より膵液瘻発生に関与する因子を総合的に評価し,術前から術後にかけて発生予防に努力する必要がある.特に術中膵断端の膵管を結紮した後に,フィブリン糊を塗布する試みは,膵液瘻発生予防に有効であると思われた.
  • 大村 健二, 疋島 寛, 森田 克哉, 加藤 明之, 道伝 研司, 浦山 博, 岩 喬
    1991 年 52 巻 5 号 p. 990-994
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    最近14年間に,金沢大学第1外科および関連施設にて手術をうけた急性腸間膜動脈閉塞症(以下本症と略)は17例であり,その中で心血管系疾患の既往を有する症例は14例(82.4%)であった.全例に腹痛がみられたが,本症に特有な臨床症状はなかった.画像診断では,腹部超音波検査の有所見率が70.6% (12/17)と高かった.術前に本症と正診できた症例は11例(64.7%)であった.壊死腸管切除術を16例に,上腸間膜動脈の血栓内膜摘除術1例に行ったが, 13例(76.5%)を救命できた.発症から手術までの時間が20時間未満の症例(12例)は全例救命できた.本症の治療成績向上には,早期診断・早期治療が絶対条件であると思われた. high risk症例をひろいあげ,画像診断を駆使した迅速な診断を行うことが肝要である.
  • 牛島 聡, 花立 史香, 若狭 林一郎, 村田 修一, 清崎 克美
    1991 年 52 巻 5 号 p. 995-1000
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    過去13年間に小腸穿孔13例,大腸穿孔18例を経験した.小腸穿孔では外傷が9例(69%)と多く大腸穿孔では大腸癌・大腸憩室が合わせて11例(61%)と多くを占めた.腹部X線写真による遊離ガス検出率は低く,小腸穿孔で8% (1/12),大腸穿孔で53% (9/17)であった.小腸穿孔は単純閉鎖または腸管切除で満足すべき結果を得た.大腸穿孔では50% (9/18)に人工肛門付加手術が行われた.穿孔から12時間以内に手術できた14症例は全例救命できた.術後合併症は小腸穿孔では15% (2/13),大腸穿孔では50% (9/18)にみられ有意差(p<0.05)を認めた.手術死亡は小腸穿孔では十二指腸破裂の1例(8%),大腸穿孔は3例(17%)に認められた.高齢,ショック,白血球減少といった危険因子を有する大腸穿孔例は多臓器不全,手術死亡の危険性が高く術前からの抗生剤投与,蛋白分解酵素阻害剤投与を含む抗ショック療法,人工肛門付加手術,徹底的な腹腔内洗浄が必要である.
  • 癌占拠部位別の発育形態および治療成績
    上野 雅資, 太田 博俊, 関 誠, 西 満正, 柳沢 昭夫, 加藤 洋
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1001-1006
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    大腸癌イレウス症例の臨床的特徴を明らかにする目的で,当外科にて手術を行った大腸癌イレウス症例73例の占拠部位別の臨床病理学的所見,治療法,治療成績について比較検討を行い,以下の知見を得た. (1) 右半結腸では,内腔占拠型の狭窩形式が多く,非治癒切除や再発例の大半が腹膜播種性進展を示した.これに対し,左半結腸では,締め付け型の狭窄が多く,血行性転移が多かった. (2) 非治癒切除の頻度は高率で,特に,右半結腸に多かったが,治癒切除例の予後は良好であった. (3) 右半結腸,左半結腸,直腸のいずれの部位においても,一期的切除例と二期的切除例の間に合併症や5年生存率に有意差なく,条件さえ許せば,左半結腸や直腸でも一期的切除が可能であると考えられた.
  • 松井 成生, 吉川 宣輝, 土屋 裕一, 河原 勉
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1007-1011
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    大腸他臓器重複癌の臨床的な特徴について検討した.対象は,昭和50年から昭和63年までの14年間に経験した大腸癌手術症例1,037例である.このうち大腸他臓器重複癌は74例, 7.1%にみられた.
    大腸癌の占拠部位は,右側結腸に多い傾向にあった.重複臓器は胃が40.5%と最も多く,次いで子宮15.2%,以下乳腺,肝がともに10.3%の順となっていた.重複癌の発見時期は,全体では大腸癌の術前2年から術後10年までの期間に多く,胃を始めとする消化器癌は,同時重複が多かった.一方,子宮癌は殆どのものが大腸癌に先行しており,重複までの期間は平均16.3年と長くなっていた.その原因として,放射線照射による誘発癌が考えられた.これらの結果より,大腸癌の術前から術後のfollow upにおいては胃に重点をおいた検索が必要であり,予宮癌のうち放射線照射後5年以上経過したものには,何らかの定期的な大腸のsurveillanceが必要であると考えられた.
  • 川上 恭司, 大野 祥生
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1012-1016
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    一次性下肢静脈瘤の手術療法として, Saphenous veinの高位での結紮と抜去, communicating veinの結紮,そして皮膚切開による表在拡張静脈の摘出が一般に行われている.ところがこれら全てを確実に行うためには,手術時間が長時間に及ぶことが多く,皮膚切開も多数必要とする場合があり,臨床上大きな問題の一つとなっている.
    今回われわれは表在拡張静脈処理に対し表皮より直接,静脈を結紮,血栓化を促すmultiple ligation methodを試みた. ligationは1号braided silkを用い,静脈に直接接触させることにより血栓化を促すvertical ligationと,静脈血流の遮断により完全な血栓化を得る目的で行うhorizontal ligationの2種類を行った.これらは1~2cm間隔で結紮し,術後,静脈内血栓形成の予測される3~5日後に抜糸を行った.本法は,手術も簡単で手術時間も短く,美容上にも優れた非常に有用な方法と思われた.
  • 西村 正, 今分 茂, 喜納 美津男, 田中 靖士, 板倉 丈夫, 尾崎 かつ子, 南 一弘, 高谷 直知
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1017-1023
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    イレウス解除後,腸炎型MRSA感染症で死亡した1例を経験した.
    症例は75歳男,胃とS状結腸の異時性重複癌のため2度の根治術を受けた.その後,癒着性イレウスのため手術を受け,縫合不全から小腸瘻を形成した.半年後開腹し,瘻孔部の腸管切除を施行し空腸に減圧チューブを留置したが,腸内腔に繁殖したS. aureusによる多量のinfectious floraのためチューブが閉塞し,内減圧ができずに腸管脆弱部が穿孔, DICにて死亡した. MRSA腸炎では,下痢,発熱などの症状が主であるが,このような経過をとった例は極めて稀である.今後, S. aureusのcoagulaseが術中に腸管内に貯った血液に作用してdebrisを形成し, infectious floraとなりドレナージ不良を引き起こすことも念頭において術後管理にあたるべきと考える.
  • 岩瀬 克己, 大谷 享, 辻村 享, 稲垣 朝子, 宮川 秀一, 川瀬 恭平, 三浦 馥
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1024-1028
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    甲状腺濾胞癌術後に肺・肝・骨転移を来し,転移腫瘍細胞から分泌されるトリヨードサイロニン(T3)により機能亢進症を呈した稀な症例を経験した.
    患者は初診時42歳女性. 38歳より頸部腫瘤を触知,大きさ7×5cm,弾性硬,表面平滑で,リンパ節腫大なく甲状腺機能異常も認めなかった.腺腫の術前診断で左葉切除を施行,術後濾胞癌の診断を得た. 3年後,左頸部リンパ節再発に対し郭清術を施行. T3・T4投与によるTSH抑制療法も加えた. 7年後,肺・肝転移を来し,残存甲状腺全摘をし,その後3年間に131I内照射療法を2回,さらに仙骨転移による殿部痛に対し放射線外照射を施行. T325μg, T4100~200μg/day投与で経過観察したが,再発巣は次第に増大. 11年後にT3上昇とTRab陽性上昇を示し,さらに1年後心悸亢進が出現.甲状腺機能の正常化にはT3・T4の投与の中止のみならず, MMI 30μg/dayの投与を要した.患者はその後肺転移巣増大による呼吸不全にて死亡した.本例における機能亢進発症の機序としては,転移腫瘍細胞におけるT3を主とするホルモン産生と腫瘍増殖に伴う血中への放出が主因と考えられ,また自己免疫的因子の関与も推定された.
  • 杉山 茂樹, 東出 慎治, 西出 良一, 津田 基晴, 笠島 学, 山本 恵一, 伊藤 達雄, 加藤 義治
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1029-1033
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    上皮小体腺腫(副甲状腺腺腫)は高カルシウム血症が多くの場合発見動機となり,頸部腫瘤として触知される例は比較的少なく,特に巨大腫瘤として触知される場合は癌腫を念頭においた診療が必要となる.また,上皮小体腺腫の場合,まれに腫瘍梗塞を来し臨床症状の軽快する例も報告されているが,それにより上皮小体機能低下を来す症例は稀である.今回,上皮小体機能亢進症と診断され入院したが,経過中腫瘍梗塞により著しい低カルシウム血症を呈したと思われる症例を経験したので報告する.
    症例は39歳,男性.高カルシウム血症,および頸部腫瘤が認められ,上皮小体腺腫と診断され来院した.入院直後よりテタニー症状を呈したが,入院前の診断より上皮小体腫瘍を疑い摘出術を施行した.術後の病理組織学的診断では上皮小体腺腫の梗塞所見が得られた.これより術前機能性腫瘍であったものが経過中に特発性腫瘍梗塞を来し, hungry bone状態であったために低カルシウム血症となり,一過性にテタニー症状を示したものと考えられた.
  • 中村 弘樹, 森本 健, 中谷 守一, 南村 弘佳, 木下 博明
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1034-1039
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    下垂体腺腫に合併した乳癌の1例を報告する.症例は44歳女性. 22歳頃に末端肥大症が出現した. 43歳時,左乳房腫瘤に気付き,翌年来院し,末端肥大症を伴った乳癌と診断された.それで動注化学療法,左拡大乳房切断術,下垂体腺腫亜全摘術が行われた.乳癌の組織型は硬癌で,エストロゲンレセプター(以下, ERと略す)は陽性であった.術後病期はT4bn0M0 Stage IIIbで,術後2年の現在再発を認めていない.また,下垂体腺腫の組織型は好酸性腺腫であった. human growth hormoneがヒト乳癌やERに及ぼす作用は現在のところ不明である.しかし,女性の末端肥大症における乳癌の特殊性を示唆すると考えられる報告があり,末端肥大症と乳癌の合併が偶発合併以上に発生する可能性があるのではないかと思われた.
  • 前田 茂人, 黒田 豊, 本郷 碩, 中安 清, 倉田 悟, 酒井 秀則, 島田 正, 金田 好和, 藤原 隆, 亀井 敏昭
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1040-1043
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    乳腺原発の腺様嚢胞癌を経験した.症例は70歳,女性であり,主訴は右乳房痛であった.右乳房の外上部に,示指頭大の境界不鮮明な硬結を触知した.超音波検査では形が不整で,内部エコー不均一であり,悪性腫瘍を否定できず,生検を施行したところ腺様嚢胞癌であった. Patey手術を施行したが,腋窩リンパ節への転移は認めなかった.組織学的には腫瘍細胞は篩状構造を伴った小嚢胞腔がみられ,嚢胞腔には硝子様物質を認め, PAS染色陰性または弱陽性,アルシアン青染色陽性であった.一方,散在性に認められる小管腔ではPAS染色陽性,アルシアン青染色陰性または弱陽性であった.また免疫組織化学的には小管腔構造の内腔にCEAおよびsecretory componentが陽性となり,小嚢胞腔では陰性であった.
  • 葛西 猛, 川越 一男, 広沢 邦浩, 小林 国男
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1044-1048
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    外傷性心嚢破裂に合併する心ヘルニアは極めて稀な損傷である.著者らは,過去3年間に本損傷の2例を経験した.症例1は32歳の女性.墜落にて搬送され,肺損傷の診断で緊急開胸した際,たまたま本損傷が発見された.症例2は25歳,男性.オートバイ事故にて搬送され,術前の胸部単純X線所見により本損傷と診断された.いずれの症例も脱出心を心嚢内に環納した直後より血圧の上昇が認められた.本損傷の診断上,胸部単純X線写真が最も有用であり,心尖部の左方偏位,右側胸椎の描出,心嚢内気腫,肺動脈起始部の圧痕などの所見が特徴とされている.著者らが経験した2症例の胸部X線写真をretrospectiveに再検討した結果,上記した所見に加えてアコーデオン様に退縮した心嚢によって描出されると推測される曲線陰影が認められた.本所見について言及した論文はないが,本所見は心ヘルニアのX線診断上,特異的なものではないかと考えている.著者らが経験した2症例は幸いにして救命することができたが,心嚢により肺動脈起始部,大動脈起始部あるいは冠動脈前下行枝が締めつけられて心筋虚血や心不全を呈する場合は,極めて緊急性が高く,早期に診断して開胸しなければ患者を救命することは難しいとされている.
  • 林 載鳳, 向井 省吾, 中島 康, 四方 裕夫, 末田 泰二郎, 浜中 喜晴, 石原 浩, 松浦 雄一郎
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1049-1055
    発行日: 1991年
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    われわれは三尖弁輪の右室寄りに交通孔のみられた弁下型左室右房交通症の1例を経験した.心室中隔欠損症(VSD)様の荒い収縮期雑音を聴取し,胸部X線で右房拡大が,心エコーで左室- 右室の短絡流がみられた. 心カテーテル検査では右房にて酸素分圧の上昇がみられ,左室造影にて左室から右房への短絡が確認された.本症は稀な心疾患であるので本邦63例の報告を集計分析し,疾患の特徴を明らかにした.
  • 矢野 洋, 小池 明, 城所 仁, 服部 龍夫
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1056-1059
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    上行大動脈に用いた人工血管が, candida albicans感染により著しい血栓性狭窄をきたした,極めて稀な症例を経験した.症例は61歳男性で, DeBakey I型解離性大動脈瘤に対して,上行大動脈にリング付グラフトを内没した.術後,前胸部の正中創に瘻孔を生じ, candida albicansが培養されたが保存的に寛快した.遠隔期に間欠性跛行をきたし, Yグラフト置換術を追加したが,その後強い左心不全が続き, MOFとなった.大動脈造影によりリング付グラフト内に著明な血栓性狭窄を認めたため,血栓摘除術を試みたが失った.血栓は, candida albicans感染による細菌性血栓で,徐々に発育しグラフト内腔を埋めるに至ったと考えられた.本症例は,診断の遅れにより救命できなかったが,胸部大動脈置換術後,創部に感染を生じた症例では,グラフト感染の可能性を考え,不可逆的合併症をきたさないよう慎重なfollow-upが必要であると考えられた.
  • 杉山 和義, 木所 昭夫, 八木 義弘, 霜多 広, 石 和久, 渡部 幹夫, 田中 淳
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1060-1065
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    症例は41歳の女性で右下腹部痛と下肢の浮腫を主訴に来院した.超音波検査・CT検査・血管造影検査等により胆石症・後腹膜腫瘍と診断されたが下大静脈造影検査及びMRI検査で後腹膜腫瘍の下大静脈浸潤あるいは下大静脈腫瘍が示唆された.手術は胆石症が合併していたため,まず胆嚢摘出術を施行した.腫瘤は肝下面,右腎内側上方に位置し直径約6cmの黄白色充実性で,下大静脈より突出するように存在した.下大静脈壁の一部と腫瘤切除および右腎静脈の剥離が困難であったため右腎臓の合併切除を施行した.下大静脈断端は2列連続交差縫合を施行した.補助療法として化学療法を併用した.術後経過は順調で, 4カ月を経過した現在も外来にて経過観察中である.また下大静脈原発平滑筋肉腫の報告はわれわれの検索し得た限りでは本邦で18例目であり非常に稀な疾患であると考え,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 江口 武史, 佐々木 信義, 原 普二夫, 大和 俊信, 柴田 和男, 山川 洋右, 正岡 昭
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1066-1069
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    肺分画症は嚢胞性肺疾患のなかで比較的稀な疾患である.教室では現在までに6例の肺分画症を経験しているので,臨床的検討を試みた.
    年齢分布は新生児1例,乳児1例,学童2例,成人2例であった.肺葉内分画症5例,肺葉外分画症1例で,左右別では左側3例,右側3例であった.
    初発症状は,繰り返す肺炎や血痰,喀血などの感染症状が4例,呼吸困難が1例のほか,無症状で胸部レントゲン写真により偶然発見されたものが1例あった.
    血管造影を施行した4例のうち3例は術前診断が可能であったが,他の3例では,他の嚢胞性疾患や腫瘍性疾患との鑑別が困難であった.
    治療は全例に手術を施行したが,肺葉外分画症の1例を除き肺葉切除あるいは区域切除が行われた.肺葉外分画症の1例は同側下葉にCCAM (Congenital Cystic Adenomatoid Malformation)が存在し,分画肺もCCAMであった.
  • 本邦42症例の検討
    高木 純人, 山口 宗之, 竹内 節夫, 加瀬 肇, 中村 博志, 渡邊 聖, 平野 敬八郎
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1070-1075
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    われわれは比較的稀な小児原発性小腸捻転症5例を経験し,全例治癒し得た.症例は11歳と7歳の女子学童2例,そして新生児の女児3例で,学童2例は腸捻転整復のみで治癒し得たが,新生児3例は全例腸切除を必要とした.
    また自験例5例を加えた本邦小児例を42例集計,その内新生児例は31例(74%),学童例は僅か7例(16%)であった.本症の治療では,腸捻転整復のみは18例(42%),腸切除は20例(48%)であった.本症は絞扼の程度が強く,比較的早期に壊死を起こしやすいため,早期診断による緊急の外科的治療が必要である.
  • 田辺 博, 今井 直基, 渡辺 進, 加納 宣康
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1076-1078
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    汎発性腹膜炎を呈した原発性小腸捻転症の1例を経験したので報告する.症例は54歳,男性.突然の腹痛を訴えて某医を受診,保存的治療をうけるも改善せず当院を紹介された.腹部は膨満し筋性防御, Blumberg signを認めた.
    汎発性腹膜炎を呈していたことから,緊急手術を施行した.開腹すると広範に壊死におちいった小腸を認めた.これを探索すると,腸間膜根部が時計まわりに約360°捻転していた.壊死腸管を切除し腸管吻合を施行し,残存腸管は約1.2mとなった.腹腔内に索状物,癒着を認めず原発性小腸捻転症と診断した.
    術後は中心静脈栄養, ED食等にて加療し50病日退院した.
    原発性小腸捻転症は発生頻度少ないが,重篤となるため注意を要する疾患と考えられた.
  • 赤見 敏和, 伊志嶺 玄公, 原田 善弘, 大内 孝雄, 栗岡 英明, 武藤 文隆, 池田 栄人, 西本 知二, 安 達行, 天池 寿, 谷 ...
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1079-1084
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    特有の臨床症状がないとされている小腸腫瘍の中で,平滑筋腫瘍は,下血・貧血を主訴とすることが多い.過去6年間に京都第一赤十字病院外科にて経験した小腸平滑筋腫瘍6例(肉腫2例,筋腫4例)につき臨床的検討を加えた.
    下血・貧血を主訴とし,上部消化管及び大腸に病変を見出せない症例に対しては小腸の精査が必要であり,血管造影は,腫瘍の大きさ,部位,多発性,周囲への浸潤,肝転移の有無など有用な情報が得られる検査であり,これにより早期発見も可能であると思われる.また,良悪性の診断では,核分裂像のみにとらわれることなく,腫瘍径などの他の因子も十分考慮することが必要であり,予後不良因子をもつ症例に対しては,注意深い経過観察を行うとともに,特に肝転移を中心にした積極的な治療が必要と思われた.
  • 李 典利, 裴 光男, 木下 博明, 木村 英二
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1085-1089
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    小腸平滑筋腫は,小腸良性腫瘍の中では最も頻度の高い疾患であるが,術前診断のつかないまま大量出血,腸閉塞,腹膜炎等のため緊急手術が行われることも少なくない.
    症例は心窩部痛,下血を主訴に来院した29歳,男性.消化管の出血源は上部消化管,大腸の検索で発見されず,小腸病変の検索に移る前に再び大量の出血によってショックに陥ったため緊急開腹手術を施行. Treitz靱帯から約190cm肛門側の空腸に径1cmの粘膜下腫瘍を認め,これを含め小腸壁を楔状切除したところ,病理組織学的には平滑筋腫と診断され,この腫瘍内出血が小腸腔内に穿破し,下血を来したと思われた.
  • 角田 明良, 安井 昭, 西田 佳昭, 熊谷 一秀, 渡辺 敢仁, 増尾 光樹, 鈴木 孝
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1090-1095
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    腸間膜線維腫術後の再発と思われる1例を経験した.症例は30歳,女性で, 2年前の第2子出産後に小腸間膜線維腫症で,腫瘤摘出術,小腸広範囲切除術が施行された.術後2年で右下腹部腫瘤に気付き,腸間膜線維腫術後の再発と診断し再手術を行った.腫瘤は小腸間膜より発生し,右尿管および大部分の小腸を圧迫,浸潤しており,腫瘤摘出術,小腸亜全摘術などを行い,残存小腸20cmの短小腸症候群となった.術後中心静脈栄養を離脱し外来通院可能となるも入退院を繰り返し術後1年後に全身状態悪化し死亡した.線維腫の発生誘因として手術などの外傷や妊娠の影響があるが,自験例も両者との関連性が示唆された.腸間膜線維腫に関する本邦の報告では,追跡期間が十分でないためか,再発に関する記載は無く,自験例は術後11カ月の早期再発例と思われた.
  • 長見 晴彦, 福田 貴好, 矢野 誠司, 内藤 篤, 田村 勝洋, 中瀬 明, 三浦 弘資
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1096-1100
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    今回,私達は50歳,男性のfocal nodular hyperplasia (FNH)の1症例を経験した.これまで本邦では文献上検索しえた範囲では57例のFNHの臨床報告例があるが,いずれも術前診断が困難であった症例が多く,肝細胞癌との鑑別を必要とする重要な疾患の1つである.実際に私達の場合も腹部超音波検査,腹部computed tomography (CT)検査,血管造影検査を行ったが,肝細胞癌との鑑別が極めて困難であった.
    FNHの確定診断には組織診断が重要であり,私達の場合も術後切除標本の組織診断によってFNHと診断しえた.
    本疾患は良性疾患と考えられているが,中には悪性化したり,また腹腔内破裂を合併することもあることからその治療としては積極的に外科的切除を行うべきであると考えられている.
  • 小木曽 清二, 山瀬 博史, 所 昌彦, 駒田 康成, 洪 洋史, 岡本 好史, 宋 敏鎬, 浅野 英一, 岡本 一男
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1101-1105
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    大腸癌の異時性肝転移は術後3年以内に認められることが多く, 3年以降の再発は比較的少ないとされている.今回, S状結腸癌術後8年6カ月目に発見された肝転移再発を切除し得たので報告する.
    症例は60歳,男性. 1980年10月, S状結腸癌でS状結腸切除術を受けている.原発病変は3.5×3.0cm, 2型,中分化管状腺癌であった.術後経過は良好であったが, 1988年8月, CEAが130ng/mlと高値を示し,翌年4月には261ng/mlとさらに上昇したため当科へ紹介された.腹部超音波検査, CT,血管撮影から,右前区域を中心に,後区域と内側区域にもおよぶ腫瘍を認め,拡大肝右葉切除術を施行した.腫瘍はS状結腸癌の組織像と類似した中分化管状腺癌で,肝転移と診断した.術後長期間経過した症例においても, CEAと画像診断による定期的な経過観察が必要であると思われた.
  • 才川 義朗, 馬場 恵, 綿引 洋一, 丸尾 啓敏, 葛岡 真彦, 北條 正久, 小坂 昭夫
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1106-1109
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    胆嚢捻転症は比較的稀な疾患で,緊急手術を必要とされる.今回われわれは腹膜刺激症状を呈し,腹部超音波検査にて急性胆嚢炎を疑い手術を施行した胆嚢捻転症の1例を経験したので報告し,更に胆嚢捻転症の診断について考察を加えた.
    症例は88歳の女性で,右下腹部痛を主訴とし,腹部超音波検査において壁の肥厚した腫大した胆嚢を認め,腹膜炎を併発した急性胆嚢炎と診断し保存的治療を開始した.しかし症状の改善が認められず,緊急開腹術を施行した.開腹所見は,腫大した胆嚢が胆嚢頸部において時計方向に900度(2回転半)捻転しており,捻転解除後,胆嚢摘出術,術中胆道造影を施行した.
    胆嚢捻転症は他の急性腹症との鑑別が困難であるが,今回,術前の超音波検査にて腫大した胆嚢内腔と総胆管との明かな途絶を認め,胆嚢捻転症を示唆する所見であり,腹部超音波検査は有用な検査であったと考えられた.
  • 水谷 郷一, 安田 聖栄, 桜井 与志彦, 幕内 博康, 田島 知郎, 三富 利夫
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1110-1113
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    近年,膵胆管合流異常が胆道癌の発生機序に関連して注目されている.われわれは膵胆管合流異常に早期胆嚢癌を合併した稀な1例を経験したので文献的考察を加えて報告した.
    症例は52歳女性.主訴は心窩部痛,腹部超音波検査,腹部CT検査で胆嚢腫瘍を認め,内視鏡的逆行性胆管膵管造影で非胆管拡張型の膵管型膵胆管合流異常を認めた.手術は胆嚢摘出術+肝床切除術を施行した.切除標本では胆嚢体部に25×15×10mmの乳頭型の腫瘍を認めた.病理組織学的検査では乳頭状腺癌で,深達度はpmの早期胆嚢癌であった.術後経過は良好で第21病日に退院となった.
    われわれが本邦報告例を調べえた限りでは,組織学的深達度を明らかに記載しているものは少なく,本症例が第7例目の報告と思われた.
  • 福 昭人, 谷村 弘, 佐々木 政一, 湯川 裕史, 森 一成
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1114-1119
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    Bilomaは何らかの原因で胆道以外に胆汁が漏出しても,広範な胆汁性腹膜炎を起こさずに限局した嚢胞を形成する病態である.今回Bilomaの自験2例の臨床経過と治療を中心に,本邦報告41例を併せて検討した.症例1は20歳の男性で,ハンドル外傷により生じたintrahepatic bilomaに対して,超音波誘導下ドレナージで治癒させた.症例2は71歳の男性で,総胆管結石の嵌頓によるextrahepatic bilomaに対して,開腹手術にて完治させた. Bilomaの確定診断は内容液の胆汁成分の証明であり,その治療はriskの高いtraumatic bilomaには超音波誘導下ドレナージがよいが, spontaneous bilomaには基礎疾患の治療も併せて開腹手術が必要である.
  • 河崎 能久, 木村 忠広, 吉崎 聰
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1120-1124
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    脾動脈瘤は比較的稀な疾患で,発生頻度(剖検例0.01%~0.04%であり,本邦での報告は170例余り認められる.今回われわれは脾嚢胞を併存した脾動脈瘤の1例を経験したので報告する.
    症例は62歳女性で,検診の際に脾腫を認められ精査目的の為入院.
    入院後超音波検査, CT断層撮影を施行,直径87×81mm大の脾嚢胞,直径20×28mm大の脾動脈瘤,肝硬変が認められた.選択的腹腔動脈造影では脾門部やや中枢側に石灰化を伴った動脈瘤を認めた.
    手術は動脈瘤を含めて膵尾部切除及び摘脾を施行した.本症は典型的な症状に乏しいが,門脈圧亢進症の合併が50%に認められ,脾腫,門脈圧亢進症を認めた場合は念頭におくべきであり,破裂例の死亡率が高い為早期に手術をするべきである.
  • 堀米 直人, 恒元 秀夫, 花崎 和弘, 宮本 英雄, 塩原 栄一, 梶川 昌二, 金子 源吾, 安達 亘, 飯田 太, 石井 恵子
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1125-1130
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    von Recklinghausen病患者に発生した,非機能性褐色細胞腫と後腹膜悪性神経鞘腫の1切除例を報告する.症例は48歳女性で,祖母,母,妹にvon Recklinghausen病の発症がみられている.発熱,腹部腫瘤を主訴に来院し,全身にcafé au lait spotsと多数の神経線維腫が認められた.腹部US, CT検査,血管造影検査の結果,右副腎原発の直径13cmの腫瘍と,大動脈腹側の後腹膜に鶏卵大の腫瘍が存在していることが判明した.副腎腫瘍は感染により膿瘍化し,内分泌学的検索で非活性腫瘍であった.両腫瘍の切除術を施行した.右副腎腫瘍は13×15×13cm,重さ694g,中央は壊死に陥り赤褐色膿様液を入れていた.大動脈腹側の後腹膜腫瘍は5×5×3cm,黄色充実性であった.病理組織学的検索により前者は悪性褐色細胞腫,後者は悪性神経鞘腫であることが判明した.
  • 勝木 茂美, 深町 信一, 小林 肇, 深町 信介, 坂本 隆, 田澤 賢次, 藤巻 雅夫, 佐野 友昭
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1131-1137
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    大網捻転症は比較的まれな疾患で,本邦では現在まで70例の報告がある.われわれはゴルフのスイングを契機に発症した嵌頓性右外鼡径ヘルニアに伴った大網捻転症の1例を経験したのでこれを報告し,また自験例を加えた71例を集計し検討した.
    症例は54歳,男性.右下腹部痛を主訴として来院した.臨床所見から腸管の部分的嵌頓もしくは虫垂穿孔による膿瘍形成を疑い開腹した.血性漿液性腹水に加え,手拳大に一塊となった大網を認めた.その先端は先細の状態で右内鼡径輪に嵌頓し,中枢側は細くなり反時計方向に3回捻転していた.虫垂突起には異常を認めず.健常部で大網を切除し,ヘルニア根治術,虫垂切除術を施行した.
    本邦報告例は,続発性45例(63%)特発性21例(30%),不明5例(7%)である.術前に大網捻転症と診断されたのは1例のみで, 49例(69%)が虫垂炎と診断されている.治療は絞扼大網の摘出で予後良好である.
  • 土屋 繁之, 高田 忠敬, 安田 秀喜, 内山 勝弘, 長谷川 浩, 三須 雄二, 斉藤 康子, 岩垣 立志, 四方 淳一, 今村 哲夫
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1138-1142
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    Multicystic peritoneal mesotheriomaは極めて稀な腫瘍である.その組織像はcystic lymphangiomaと類似し鑑別は非常に難しく,肉眼像や通常の光顕的検索での確定診断は困難で,組織化学的,免疫組織化学的または電顕的検索により初めて両者の鑑別がなされるほどである.最近,われわれは本邦でははじめての本症の1例を経験したので報告する.症例は40歳の男性で腹部膨満感と腹部腫瘤を主訴とし入院.右季肋部から臍下3~4横指までの巨大な弾性軟の腫瘤を触知し, US, CTでは多房性嚢胞性病変を示唆する所見を得た. 1989年10月25日腫瘍摘出術を施行.大網原発の薄い透明な被膜に囲まれた多房性腫瘍で,内部に透明な漿液が充満し,所々にゼリー状の結節をみた.病理組織学的検索にてMulticystic peritoneal mesotheliomaと診断した.本例は術後経過良好で,術後8カ月の観察でも再発症状などの発現をみていない.
  • 進藤 俊哉, 登 政和, 田中 信孝, 針原 康, 青柳 信嘉, 今中 和人, 出口 順夫, 上野 貴史
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1143-1147
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    比較的稀なヘルニアとして,高齢者にみられる閉鎖孔ヘルニアがある.われわれはその中でもさらに稀と考えられる病態を呈した3例を経験した. 1例目は,左大腿内側の筋間膿瘍にて発症した. 2例目は,左閉鎖孔ヘルニアの手術後, 10年目に同側の再発を起こした. 3例目は,汎発性腹膜炎で発症したため,緊急手術を要した症例であった. 3例ともに,閉鎖孔ヘルニアの症状としては特殊であり,術前診断,及び治療に難渋した.
    閉鎖孔ヘルニアの診断として, i) まずその存在を疑う事, ii) 画像診断ではCT-scanが有用である事,また治療では, i) 閉鎖孔を,腹膜のみではなく,卵管等で被って補強する事,が重要であると考えられた.症例提示と,文献的考察を加えて報告する.
  • 柳沢 肇, 安斉 徹男, 飯島 哲夫, 坂田 義行, 金沢 稔, 泉雄 勝
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1148-1151
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    鎖骨下動脈起始部に限局した動脈瘤は,比較的まれな疾患である.また,鎖骨下動脈瘤に対する手術方法も,その動脈瘤の発生する部位により種々の術式が行われてきた.今回われわれは, 63歳男性の動脈硬化性左鎖骨下動脈瘤に対し, Y型人工血管を用いて,上行大動脈から左総頸動脈及び右大腿動脈に,一時的バイパスを用いて,左鎖骨下動脈瘤を切除した.左鎖骨下動脈の再建には,左総頸動脈にバイパスした人工血管を反転させて左鎖骨下動脈に吻合し再建した.この方法は,簡便であり術中の脳循環と下半身の血流を保つ上でも有用であった.
  • 郷良 秀典, 古川 昭一, 小田 達郎, 江里 健輔
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1152-1154
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    患者は51歳,女性で,うっ血性心不全で入院した.精査にて右総腸骨動脈瘤の腸骨静脈への破裂による動静脈瘻と診断された.
    手術では,動静脈瘻を切離し,静脈側瘻孔(8mm)を5-0 Proleneで縫合閉鎖した.右総腸骨動脈瘤は,切除後,径8mmのdouble velour woven Dacron graftで置換された.
    術後経過は順調であった.
  • 戸部 道雄, 河野 光紀, 星野 和実, 尾崎 直, 久保 誠秀, 佐藤 順
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1155-1158
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    切迫破裂をきたした多発性末梢動脈瘤に対して,人工血管置換術を行い,良好な結果を得た.症例は76歳男性で,主訴は右鼡径部拍動性腫瘤と疼痛であった.拍動性腫瘤は左鼡径部と右膝窩部にも認め,多発性動脈瘤であった.右大腿動脈瘤は圧痛が著明で切迫破裂と診断した.下肢末梢動脈の拍動は両側ともに触知した.手術は二期的に行い,まず両側大腿動脈瘤に対して瘤を切除後8mm E-PTFEグラフトを用いて人工血管置換術を施行した.大腿深動脈の血行は,右側ではその動脈瘤を合併していたため温存はできなかった. 3週後に膝窩動脈瘤に対し8mm E-PTFEグラフトを用いて人工血管置換術を行った.病理組織学的にはいずれの瘤も動脈硬化性であった.
    多発性末梢動脈瘤は増加傾向にある疾患であり,瘤内血栓による動脈塞栓症や瘤破裂後の予後は不良であるため,診断がつきしだい積極的に手術することが望ましい.
  • 術中血液浄化法が有効であった1例に基づいて
    松橋 亘, 原口 義座, 大沢 寛行, 梅津 荘一, 切田 学, 石原 哲
    1991 年 52 巻 5 号 p. 1159-1163
    発行日: 1991/05/25
    公開日: 2009/09/30
    ジャーナル フリー
    四肢急性動脈閉塞症に合併する代謝性障害であるmyonephropathic metabolic syndrome (MNMS)は,虚血肢から放出される有害因子によって発症するとされ予後不良の疾患である.これを予防する目的で患肢潅流法を行い,更に術中に患肢静脈血に対し血液浄化法(活性炭血液吸着)を施行した症例を報告し, MNMSの進行度分類と治療にも言及した.症例は84歳男性.左下肢の冷感,筋硬直にて来院した.既往歴に,心房細動,小脳梗塞がある.身体所見は鼠径部以下に急性虚血症状を認めた.緊急手術としてFogarty catheterによる血栓除去術,減張切開術を施行した.患肢の潅流後に行った活性炭カラムにより,流出したmyoglobinの23~60%が除去できた.当症例は臓器障害を呈する事無く救肢救命し得た.術中の活性炭による血液吸着法はMNMSの発症防止に有効と考えられた.
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