家兎子官には性周期が明らかでなく, 交尾により排卵, 妊娠が成立し, しかも着床時内膜上皮には多核細胞やsymplasmaが出現するなど極めて特異で, 細胞の生態観察に好適な資料の一つであり, 電顕的研究を行なった.
内膜上皮の被覆細胞と腺細胞のいずれにも線毛細胞と非線毛細胞がみられたが, 主な成分である後者について研究した. すなわち, 性静止期の上皮細胞は所見に乏しいが, 排卵後には増大するとともに細胞小器官の増加など分泌像を呈し, 妊娠とともにその程度が増強された, 特に着床前後に多数の多核細胞と好オスミウム顆粒の出現が特異的で, 妊卵の着床と発育維持に密接に関与することが推察された. 去勢後内膜上皮は萎縮するが性静止期と著差はない. これにestrogenを投与すると, 増大と分泌像がみられ, progesteroneを追加すると, 内腔の拡大した小胞体や大形の糸粒体などの増加が著明で, 多核細胞も見られ, progesterone単独でも長期投与では多核細胞が出現し, これら性ステロイドに対する内膜の反応の差異が微妙な点にいたるまで明らかにされた.
一方腺上皮は, ほぼ被覆上皮と同時の変化を示すが, 妊娠時およびprogesterone投与時には特異な反応を示し, 着床前期より妊娠後期にかけて, 単核細胞がなお多数みられ, 小器官に富み, 活発な分泌像を呈した. progesterone投与時にも同様の傾向が認められた.
以上の実験結果により, 着床前期より初期にかけての被覆上皮の小器官に富む多核細胞の出現に, 妊卵の着床に対する準備反応であり, 他方腺上皮における着床前期より妊娠後期にわたる旺盛な分泌像は活発なuterinemilkの産生により着床過程の妊卵への栄養補給に関与するのみでなく, その後の妊卵の発育維持にも関与するものと推定された.
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