産婦人科の進歩
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69 巻, 4 号
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研究
症例報告
  • 宮本 瞬輔, 田中 智人, 寺田 信一, 古形 祐平, 芦原 敬允, 林 篤史, 寺井 義人, 大道 正英
    2017 年69 巻4 号 p. 355-359
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/30
    ジャーナル 認証あり

    腹膜妊娠は異所性妊娠のなかで1%以下の頻度であり,比較的稀な疾患である.腹膜妊娠は大量出血を起こす可能性があるが,術前の診断は困難であることが多い.今回,われわれは異所性妊娠の破裂疑いで腹腔鏡下手術を施行し,術中に膀胱子宮窩腹膜への原発性腹膜妊娠と診断し腹腔鏡下に治療し得た症例を経験したので報告する.症例は29歳1経妊1経産.血中hCG高値(40907 mIU/ml)のため近医より精査加療目的に当科を紹介受診予定であったが,腹痛を認めたため当院救急外来を受診した.診察所見では腹膜刺激症状を認めた.超音波で子宮内に胎嚢を認めず,腹腔内出血,子宮体下部前面に約18.6 mmの胎児様像を認めた.また血中hCG値は5742 mIU/mlまで低下していた.異所性妊娠破裂疑いとして同日に緊急腹腔鏡下手術を施行した.腹腔内所見で多量の血液貯留を認めた.両側卵巣・卵管には異常所見を認めず,左円靭帯から膀胱子宮窩腹膜の部位に凝血塊を伴った胎嚢を認めたため周囲腹膜を含めて摘出した.摘出部位を病理組織に提出したところ,絨毛組織を認め異所性妊娠と矛盾しない結果であった.術後経過は良好であり術後6日目で退院した.その後,外来管理で血中hCG値の陰性化を確認した.〔産婦の進歩69(4):355-359,2017(平成29年10月)〕

  • 福井 薫, 鮫島 義弘
    2017 年69 巻4 号 p. 360-364
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/30
    ジャーナル 認証あり

    子宮内膜症の悪性化の多くは卵巣子宮内膜症に由来するとされているが,子宮腺筋症に関連した癌化の報告も散見される.今回,子宮腺筋症より発生した可能性があると診断した子宮体部漿液性癌の症例を経験したので報告する.症例は56歳,左下腹部痛のため,近医消化器内科で実施した造影腹部CT検査で子宮筋腫の変性もしくは肉腫を疑う所見があり,当科受診となった.骨盤造影MRI検査でも子宮肉腫を強く疑わせる所見で腹水貯留も認め,ダグラス窩や左下腹壁直下に播種を示唆する濃染腫瘤も認めたが,子宮内膜は菲薄で異常を認めなかった.以上より,術前診断は子宮肉腫の疑いとして,腹式単純子宮全摘出術および両側付属器摘出術および腹膜播種病変切除術を実施した.術後病理診断は子宮体部の漿液性癌であった.腫瘍は子宮内腔側には露出しておらず,子宮内膜には肉眼的に病巣を認めなかった.病理学的に子宮腺筋症と漿液性癌が極めて近接していたため,子宮体部筋層に認められた子宮腺筋症からの発生病変という可能性が考えられた.ただし,卵管采の詳細な病理学的検討は行っていない.術後追加治療法としてTC療法6コースを実施し,化学療法最終投与から1年4カ月経過しているが,現在のところ再発所見は認めていない.〔産婦の進歩69(4):360-364,2017(平成29年10月)〕

  • 森内 芳, 千草 義継, 近藤 英治, 伊尾 紳吾, 谷 洋彦, 濵西 潤三, 松村 謙臣
    2017 年69 巻4 号 p. 365-372
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/30
    ジャーナル 認証あり

    羊水塞栓症はおおむね10万分娩に5例と比較的まれな疾患であるが,高率に母体死亡をきたしうる,周産期診療領域における最も重篤な疾患の1つである.羊水塞栓症には,羊水あるいは胎児由来成分が母体の肺動脈を塞栓することで急激な心肺虚脱,呼吸不全が生じる心肺虚脱型羊水塞栓症の他,近年,弛緩出血とdisseminated intravascular coagulation;DICとを主症状とするDIC型羊水塞栓症の概念が普及しつつある.今回,当院で経験した,異なる出血の様相を呈した臨床的羊水塞栓症3例について文献的考察を加えて報告する.症例1は27歳の初産婦で,妊娠38週重症妊娠高血圧腎症,子癇発作を認め,吸引分娩を施行された.分娩直後から非凝固性の出血(14000 ml),呼吸不全を認め,脳出血のため死亡した.症例2は34歳の初産婦で,妊娠41週分娩誘発中に断続的な性器出血(675 ml/3h)と呼吸不全を呈した.緊急帝王切開開始と同時に心停止となり,経皮的心肺補助装置を用い自己心拍が再開したが,出血量9500 ml,多臓器不全のため死亡した.症例3は34歳の1経産婦で,妊娠41週吸引分娩2時間後から非凝固性の出血(6400 ml)と呼吸不全を認め心停止となるも,積極的な輸血と呼吸循環管理により後遺症なく救命しえた.過去10年間の羊水塞栓症症例報告数は63例あり,分娩中の発症が33例(52%)と最も多かったが,分娩後1時間以上を経過してからの発症例も6例(9.5%)存在した.したがって,分娩経過のどの時期であっても,非凝固性の多量の出血を初発症状とし呼吸不全を伴う場合には常に羊水塞栓症を念頭に置き,一次医療機関にあっては時期を逸することなく初期治療を開始するとともに,高次医療機関への搬送を行い,高次医療機関にあっては集中的治療を展開することが,母体救命のために必須である.〔産婦の進歩69(4):365-372,2017(平成29年10月)〕

  • 栗谷 佳宏, 竹田 満寿美, 金尾 世里加, 直居 裕和, 三好 愛, 三村 真由子, 長松 正章, 横井 猛
    2017 年69 巻4 号 p. 373-377
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/30
    ジャーナル 認証あり

    今回われわれは,尖圭コンジローマに対するレーザー治療時の脊髄くも膜下麻酔後に頭蓋内硬膜下血腫(intracranial subdural hematoma;SDH)を発症した稀な1例を経験したので報告する.症例は30歳,0経妊,子宮頸部と外陰部の尖圭コンジローマに対して脊髄くも膜下麻酔および静脈麻酔併用下でレーザー治療を行った.術後3日目に臥位でも軽快しない激しい頭痛と嘔吐が出現し,当院に救急搬送となった.頭蓋内病変除外のため頭部磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging;MRI)を撮影したところ,左前頭葉の急性硬膜下血腫と診断された.出血範囲が約6 mmと小さかったため,外科的治療の適応はなく安静臥床と止血剤・鎮痛剤投与で保存的加療を継続した.入院中は血腫の増大なく経過,入院後27日目に退院となった.脊髄くも膜下麻酔は産婦人科でたびたび行われる手技であるが硬膜下血腫合併の頻度は非常に低いため,あまり認知されていない.診断の遅れが病変の拡大につながる可能性もあるため,本合併症を常に念頭に置き,診察にあたる必要がある.〔産婦の進歩69(4):373-377,2017(平成29年10月)〕

  • 勝部 美咲, 佐原 裕美子, 橋本 公夫, 村上 暢子, 登村 信之, 近田 恵里, 川北 かおり, 竹内 康人
    2017 年69 巻4 号 p. 378-385
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/30
    ジャーナル 認証あり

    子宮筋腫摘出後,腹壁に平滑筋腫瘍の再発を繰り返し,病理学的に良性平滑筋腫,STUMPと摘出時期によって異なる診断をされた症例を経験したので報告する.症例は未経妊で36歳時に他院で腹式子宮筋腫核出術(下腹部横切開)を施行した.41歳時から過多月経があり,前医を受診した.鉄欠乏性貧血を認め,MRIにて子宮後壁に100mmの内部に水腫様変性を伴う筋腫を指摘され,当科紹介受診となった.術前にGnRHa療法を行い,腹式子宮筋腫核出術(下腹部正中切開)を施行したところ,変性平滑筋腫であった.44歳時に,MRIにて子宮体部右背側筋層内に94mmの強い変性を伴う腫瘤と下腹部正中切開創部付近の腹直筋筋膜上に55mmの腫瘤を認めた.腹式単純子宮全摘出術と腹壁腫瘤摘出術を施行した.また腹膜腫瘤も切除した.子宮体部にみられた腫瘤は変性した腺筋腫であった.腹壁と腹膜の腫瘤は同じ組織像を呈し,核分裂像2-3/10HPF(high power field)であったが,Ki-67が10%弱のやや高い指標を示し,STUMPの診断となった.45歳時に,左右卵巣にそれぞれ51mm,70mmの多房性嚢胞性病変と5mm程度の腹壁小結節を認めた.偽嚢胞を疑い,GnRHa療法を3クール行ったが,両側卵巣嚢胞性病変は増大傾向で,卵巣腫瘍の可能性が否定できず,腹式両側付属器摘出術と腹壁腫瘤摘出術を施行した.両側卵巣病変は偽嚢胞で,腹壁小結節は平滑筋腫再発であった.46歳から下腹部正中創付近の腹直筋筋膜上に小結節再発と右腹直筋下に嚢胞性腫瘤を認めた.アナストロゾール療法は無効であり,49歳時に腹壁再発腫瘍切除術を施行したところ,STUMP再発であった.本症例では,原発子宮腫瘍と腹壁平滑筋腫あるいはSTUMPが同一のクローンであることは検討していないが,臨床経過から子宮から発生し転移能を有した平滑筋細胞が,転移先において異なるKi-67 labeling indexを示したと考えている.〔産婦の進歩69(4):378-385,2017(平成29年10月)〕

  • 松原 翔, 安川 久吉, 小川 憲二, 永井 景, 平松 惠三, 赤田 忍
    2017 年69 巻4 号 p. 386-392
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/30
    ジャーナル 認証あり

    肺血栓塞栓症は,妊娠中の母体死亡の原因となる重篤な疾患であり,近年増加傾向にある.今回われわれは,妊娠悪阻を契機に妊娠11週で肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism;PTE)を発症し,妊娠13週で遺伝子組み替え組織プラスミノゲンアクチベーター(recombinant tissue plasminogen activator;rt-PA)静注療法を施行した後に妊娠37週で生児を得た症例を経験したので報告する.症例は29歳,1回経妊1回経産.妊娠10週ごろから悪阻症状を認めており,連日補液を施行していた.妊娠11週ごろから息切れならびに咳嗽症状があり,造影CT検査で肺血栓塞栓症と診断した.肺血栓塞栓症に対してヘパリンによる抗凝固療法,経カテーテル血栓吸引術を施行したが右心負荷所見の改善を認めなかったため,妊娠13週でrt-PA製剤を投与した.rt-PA製剤使用後は呼吸苦ならびに右心負荷所見の著明な改善を認め,その後全妊娠期間においてヘパリンによる抗凝固療法を継続し,妊娠37週6日で陣痛誘発を行い経腟分娩にて生児を得た.児は3040gでApgar scoreは9点(1分値),10点(5分値)で明らかな奇形を認めなかった.母児ともに経過良好で産褥10日目に退院となった.rt-PAは妊婦に対しての使用は相対禁忌となっており,妊婦に対する投与は検索した限り本邦で8例目であった.これまで本邦におけるrt-PAの妊娠中の使用において重篤な合併症の報告はなく,高分子量体であるため胎盤を通過しないことから母体救命を目的とした使用は許容されると考えられた.〔産婦の進歩69(4):386-392, 2017(平成29年10月)〕

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