アンドロゲン不応症(androgen insensitivity syndrome;AIS)は,染色体が46,XYを示す性分化疾患(disorders of sex development;DSDs)の1つで,アンドロゲン受容体遺伝子変異によりアンドロゲン作用が障害される疾患である.今回,異なる経過をたどった完全型アンドロゲン不応症(complete androgen insensitivity syndrome,CAIS)の2症例を経験した.一般にCAISは原発性無月経が診断の契機となることが多く,低頻度であるが性腺の悪性化をきたすため,予防的性腺摘出が望まれる点が管理上重要である.症例1は思春期の無月経を契機にAISと診断され,成人期に予防的性腺摘出術がなされた.症例2は思春期に無月経にて他院を受診した際Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser(MRKH)症候群疑いとされていたが,成人期に卵巣悪性腫瘍が疑われて手術を受け,摘出組織の病理所見からAISと判明した.CAISの診断において,とくに鑑別を要するのがMRKH症候群である.原発性無月経,子宮の欠如,腟盲端の3徴はいずれにも共通する.CAISではミュラー管由来の臓器は存在せず,MRKH 症候群では卵巣と痕跡子宮が存在するものの,今回のように精巣が卵巣様に認められることもあり,画像所見だけでなく腋毛や恥毛の発育程度やホルモン値等もあわせて総合的に判断すべきである.さらにCAISと鼠径ヘルニアとの関連にも留意すべきで,鼠径ヘルニア罹患児においてはCAISの有病率は1.1%であり自然発生率の40倍以上と報告されている.このことから鼠径ヘルニア既往の原発性無月経患者に際しては積極的にCAISを疑うべきである.2006年の国際会議での合意事項(シカゴコンセンサス)を契機にDSDについての認知が広まり,各国で診療指針が策定されている.DSD患者の診療には,産婦人科,泌尿器科,内分泌内科,精神科の医師を主軸とし,臨床心理士,新生児科医,臨床遺伝学,生化学,倫理学,福祉の専門家も交えた多分野の専門家で構成されたmultidisciplinary team(MDT)で対応すべきとされ,欧米では広く普及している.しかし本邦ではいまだ整備中であり,早急な対応が望まれる.〔産婦の進歩68(1): 20-28, 2016(平成28年2月)〕
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