産婦人科の進歩
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68 巻, 1 号
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研究
症例報告
  • 千葉 大樹, 池野 慎治, 田中 あゆみ, 三村 治, 野原 当, 藤原 卓夫
    2016 年 68 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/30
    ジャーナル 認証あり
    大腸癌合併妊娠の発生頻度は妊娠10万例に対し1~2例とまれである.われわれは,産後1カ月健診での内診が発見の契機となった腸重積症を伴ったS状結腸癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.症例は29歳,1回経妊1回経産.妊娠39週1日に男児を経腟分娩した.産褥23日目に水様性下痢および血便の訴えがあり内診したところ,子宮左方に軽度の圧痛を認めた.産褥29日目の産後1カ月健診で便秘および粘血便の訴えがあった.内診でダグラス窩に軟らかな腫瘤を触れた.直腸診を行ったところ,肛門縁から約5cmの部位に表面平滑な腫瘤を触れた.MRIで直腸内に長径40 mm程度の腫瘤を認めた.内視鏡検査で頂部に潰瘍形成を伴い大部分が正常粘膜で覆われている隆起性病変が直腸内腔全体を占拠していることを認めた.以上より,腸重積症をきたした直腸腫瘍と診断し,近医外科に紹介した.潰瘍面からの生検で腺癌と診断され,S状結腸切除術が施行された.病理診断はStageIIIbのS状結腸癌であった.術後早期に肝転移で再発し,肝切除術が施行された.初回手術後22カ月経過した現在,化学療法が継続されており,画像上肝転移病変は消失している.近年,大腸癌の罹患数が増加しているのに加え妊娠・出産年齢が高齢化していることから,今後大腸癌合併妊娠の頻度が高くなることが予想される.自験例のように内診を契機に大腸癌を発見することもあることから,産婦人科医は注意深い問診や内診を行い,大腸癌を疑ったならば時期を逃さずに適切な検査を行うことが重要である.〔産婦の進歩68(1):1-6,2016(平成28年2月)〕
  • 脇本 裕, 衣田 隆俊, 堀 理照
    2016 年 68 巻 1 号 p. 7-12
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/30
    ジャーナル 認証あり
    低用量経口避妊薬/低用量エストロゲン・プロゲスチン(oral contraceptives/low dose estrogen-progestin;以下OC/LEP)は避妊目的や子宮内膜症,月経困難症,月経前緊張症,月経周期異常などの改善目的で使用されているが,OC/LEPの副作用の1つに深部静脈血栓症があり,重篤な例としては肺塞栓症をきたすことがある.近年,OC/LEP内服中の患者が血栓症により死亡に至る症例が報告されており,2014年1月に厚生労働省から注意喚起がなされた.しかし血栓症の発症頻度が少ないことや女性のQOLの向上と女性特有の疾患に対して副効能も認められることから,重篤な副作用があるにもかかわらず,ベネフィットが上回るとされているのが現状である.今回,われわれはOC/LEP内服開始から1年以内に血栓症を発症した3症例を経験したので報告する.3症例は全例とも血栓症と診断される1カ月前から下肢痛や下腿浮腫を自覚していたが,自己判断で経過観察をしていた.受診時は全例で下肢深部静脈血栓が認められ,血栓の進展は下肢深部静脈のみ,下大静脈まで及ぶもの,肺動脈へ至るものと重症度が異なっていた.治療法は抗凝固療法,血栓溶解療法, IVC(inferior vena cava)フィルターの留置を要した症例など臨床病態によって異なり,3症例とも現在は外来経過観察中となっている.3症例ともに血栓症を発症する前から自覚症状があったが,自己判断または下肢静脈血栓症を精査されることなく経過観察をされていることより,OC/LEPを処方する際には,下肢深部静脈血栓症の初期症状を見逃さないように患者指導を十分に行い,早期発見,早期治療を行うことが重要である.〔産婦の進歩68(1): 7-12, 2016(平成28年2月)〕
  • 門上 大祐, 瀬尾 晃司, 出口 真理, 自見 倫敦, 南口 早智子, 辻 なつき, 弓場 吉哲, 永野 忠義
    2016 年 68 巻 1 号 p. 13-19
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/30
    ジャーナル 認証あり
    今回われわれは,右卵巣成熟嚢胞性奇形腫と内膜症性嚢胞の合併症例に対して腹腔鏡下右卵巣腫瘍摘出術を施行後,10カ月で大量腹水が発生し悪性所見を認めた症例を経験したので報告する.症例は32歳未経妊,検診で右卵巣腫瘍を指摘され当科受診した.超音波検査にて長径約8cm大の2房性嚢胞性腫瘤を認めた.血液検査ではCEA,CA19-9,CA125の上昇認めず,MRIにて成熟嚢胞性奇形腫と内膜症性嚢胞の合併と診断した.腹腔鏡下右卵巣嚢腫摘出術を施行し,病理検査にて術前診断同様の最終診断に至った.術後10カ月目に腹部膨満が出現した.画像診断にて多量の腹水貯留,骨盤腔内に散在する多数の腫瘤陰影を認めた.腹水の性状は血性であったが,細胞診は陰性であった.血清腫瘍マーカー検査ではAFP,CA125が著明に上昇していた.MRIにてとくに右卵巣周囲に拡散制限を示す腫瘤を多数認め,PET/CTでは骨盤腔内にSUVmax10.6-15.9の異常集積を認めた.消化管内視鏡検査では悪性所見なく,卵巣癌もしくは腹膜癌の疑いと診断し手術を施行した.術中所見では骨盤腔内に多数の腫瘍塊を認めた.右卵巣は腫瘍と一塊となって胡桃大に腫大しており,術中迅速検査で右卵巣未熟奇形腫と診断した.腹水細胞診は偽陽性であり,妊孕性温存を考慮して右付属器切除,腫瘍減量術を行い,手術を終了した.病理検査にて右卵巣,腹腔内播種成分ともに未熟奇形腫G3との最終診断に至り,術後11日目よりBEP療法を4コース施行した.現在最終抗癌剤投与より7カ月経過しているが再発所見や腹水再貯留は認めず,AFP,CA125は正常化して寛解状態である.初回手術標本を再検鏡するとSALL4,Oct3/4陽性の未熟な神経組織をわずかに認め,初回手術時に未熟奇形腫が腫瘍内に存在していた可能性が示唆された.成熟嚢胞性奇形腫は高頻度に認める卵巣腫瘍であり多くは腫瘍摘出術が選択されるが,このような微小な悪性病変が存在していることもあり十分注意して診断にあたるべきである.〔産婦の進歩68(1):13-19, 2016(平成28年2月)〕
  • 坪内 万祐子, 江口 雅子, 森崎 秋乃, 舟木 紗綾佳, 大井 仁美, 山田 義治, 山本 浩之, 藤原 葉一郎
    2016 年 68 巻 1 号 p. 20-28
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/30
    ジャーナル 認証あり
    アンドロゲン不応症(androgen insensitivity syndrome;AIS)は,染色体が46,XYを示す性分化疾患(disorders of sex development;DSDs)の1つで,アンドロゲン受容体遺伝子変異によりアンドロゲン作用が障害される疾患である.今回,異なる経過をたどった完全型アンドロゲン不応症(complete androgen insensitivity syndrome,CAIS)の2症例を経験した.一般にCAISは原発性無月経が診断の契機となることが多く,低頻度であるが性腺の悪性化をきたすため,予防的性腺摘出が望まれる点が管理上重要である.症例1は思春期の無月経を契機にAISと診断され,成人期に予防的性腺摘出術がなされた.症例2は思春期に無月経にて他院を受診した際Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser(MRKH)症候群疑いとされていたが,成人期に卵巣悪性腫瘍が疑われて手術を受け,摘出組織の病理所見からAISと判明した.CAISの診断において,とくに鑑別を要するのがMRKH症候群である.原発性無月経,子宮の欠如,腟盲端の3徴はいずれにも共通する.CAISではミュラー管由来の臓器は存在せず,MRKH 症候群では卵巣と痕跡子宮が存在するものの,今回のように精巣が卵巣様に認められることもあり,画像所見だけでなく腋毛や恥毛の発育程度やホルモン値等もあわせて総合的に判断すべきである.さらにCAISと鼠径ヘルニアとの関連にも留意すべきで,鼠径ヘルニア罹患児においてはCAISの有病率は1.1%であり自然発生率の40倍以上と報告されている.このことから鼠径ヘルニア既往の原発性無月経患者に際しては積極的にCAISを疑うべきである.2006年の国際会議での合意事項(シカゴコンセンサス)を契機にDSDについての認知が広まり,各国で診療指針が策定されている.DSD患者の診療には,産婦人科,泌尿器科,内分泌内科,精神科の医師を主軸とし,臨床心理士,新生児科医,臨床遺伝学,生化学,倫理学,福祉の専門家も交えた多分野の専門家で構成されたmultidisciplinary team(MDT)で対応すべきとされ,欧米では広く普及している.しかし本邦ではいまだ整備中であり,早急な対応が望まれる.〔産婦の進歩68(1): 20-28, 2016(平成28年2月)〕
  • 橋村 茉利子, 澤田 真明, 竹田 満寿美, 三好 愛, 宮武 崇, 三村 真由子, 長松 正章, 横井 猛
    2016 年 68 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/30
    ジャーナル 認証あり
    成熟嚢胞性奇形腫は一般的には卵巣に認められる腫瘍である.卵巣以外には精巣,尾仙骨部,後腹膜,腸間膜,縦隔,頭蓋内にも発生するといわれているが,大網発生はまれである.今回われわれは卵巣嚢腫の診断で手術を行い,大網に存在した成熟嚢胞性奇形腫を認めた症例を報告する.症例は39歳,1経妊1経産.子宮前方に約6cmの腫瘤を認め,卵巣嚢腫を疑われ当科紹介.MRIでは右付属器に正常卵巣構造同定,左は同定できず,左卵巣成熟嚢胞性奇形腫と診断した.以上より腹腔鏡下左付属器摘出の適応と判断し,術を開始した.骨盤内に直径約6cmの嚢胞性腫瘤を認め,大網との交通を認めた.右付属器に肉眼的に異常は認めず.左付属器は索状に萎縮していた.大網腫瘍は両側卵巣とは離れて存在していた.大網腫瘍の栄養血管は明らかではなく,付着部位を超音波メスでの焼灼切離を行い摘出した.最終病理組織診断は成熟嚢胞性奇形腫であった.本邦では大網成熟嚢胞性奇形腫の報告は少なく,本症例含め十数例である.発生機序としては大網原発説,卵巣原発説に分けられており,明確な論拠に乏しい.また腹腔鏡で発見され,摘出した例は,検索下では本症例が初の症例であった.成熟嚢胞性奇形腫は悪性転化を起こす可能性があり,対応は慎重に行わなければならない.文献上の報告も含め,本症例に関して検討する.〔産婦の進歩68(1):29-35, 2016(平成28年2月)〕
  • 村山 結美, 田中 良道, 田中 智人, 恒遠 啓示, 佐々木 浩, 金村 昌徳, 寺井 義人, 大道 正英
    2016 年 68 巻 1 号 p. 36-41
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/30
    ジャーナル 認証あり
    Sertoli-Leydig細胞腫は性索間質性腫瘍に属する.非常にまれな腫瘍で全卵巣腫瘍の0.2~0.6%を占める.好発年齢は比較的若年の25歳前後で,30歳以下が75%を占めるのに対して,閉経後は10%に過ぎない.今回われわれは閉経後,男性化徴候を示したSertoli細胞腫の症例を経験したので報告する.症例は67歳,未経妊,子宮内膜症,痛風,高血圧症,C型肝炎の既往がある.腹部膨満感を主訴として前医を受診した.子宮頸部細胞診はNILMで異常なかったが,年齢に比して,表層~中層細胞優位な細胞像であった.骨盤MRI画像上,充実部を主体とした嚢胞成分を含む長径約25cm大の巨大骨盤内腫瘍を認めた.子宮は正常であったが内膜肥厚を認め,血中エストラジオール163.6 pg/ml,テストステロン5.6 ng/mlと高値であった.以上からホルモン産生卵巣腫瘍を疑い,腹式単純子宮全摘出術,両側付属器摘出術,大網部分切除術を施行した.病理組織標本では,腫瘍は嚢胞を有する右卵巣由来の充実性腫瘍であり,Sertoli細胞が胞巣状,索状に配列していた.核分裂像は1-2/10HPFと少なかった.腫瘍細胞はα-vimentin,PgRが陽性で,EMA(epithelial membrane antigens),CEA,AE1/AE3,CK7,CK20,CD30,AFP,ERが陰性,MIB-1は約1%が陽性であった.明らかなLeydig細胞は認められなかった.以上から右卵巣腫瘍,Sertoli細胞腫(中分化型:境界悪性腫瘍),pT1a NX M0 FIGO stage 1A期と診断した.血中のエストラジオール,テストステロンは術後速やかに陰性化した.術後補助療法なしで1年10カ月経過観察中であるが現在再発徴候なく経過中である.〔産婦の進歩68(1):36-41,2016(平成28年2月)〕
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