産婦人科の進歩
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75 巻, 1 号
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研究
原著
  • 横江 巧也, 北 正人, 角 玄一郎, 佛原 悠介, 久松 洋司, 中井 英勝, 松村 謙臣, 岡田 英孝
    2023 年 75 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2023/02/01
    公開日: 2023/02/03
    ジャーナル 認証あり

    子宮頸癌に対する術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy;NAC)の症例と緩和的全身化学療法の症例で,TC(paclitaxel+carboplatin)療法とBevacizumab(Bev)の併用療法とBevによる維持療法の効果と安全性を比較検討する目的で,後ろ向き多施設共同研究を行った.関西医科大学附属病院および近畿大学医学部附属病院で,2016年から2019年までの間に子宮頸癌に対して化学療法が実施された患者のうち,他の化学療法や放射線療法の治療歴がない36例を対象とした.NACと腹式広汎子宮全摘術が実施された患者25例をNAC群,進行期子宮頸癌に対して化学療法を実施した患者11例を緩和的化学療法群とした.Bev併用はNAC群で8例(32%),緩和的化学療法群で4例(36.4%)であり,NAC群は4例,緩和的化学療法群では全例がBevによる維持療法に移行した.腫瘍減量効果,副反応等について,Bev併用の有無での比較・検討を行った.術前・術後補助化学療法の期間中にはBev併用による有害事象は認められなかったが,Bevの維持期間中に腸穿孔を含む有害事象を認め,治療の中断を要した.Bev併用療法群はベースライン時にリンパ節腫大を伴う症例を多く含んでいたが,術中出血量・手術時間・Down Stage率・病理学的な再発リスク因子はBevの有無で有意差を認めなかった.子宮頸癌に対するBev併用療法は,許容される安全性で実施可能であり,とくに長期間のBev維持期間は有害事象のマネジメントが重要であるが,NACや緩和的全身化学療法の有効性を向上させる可能性が示唆された.〔産婦の進歩75(1):1-9,2023(令和5年2月)〕

  • 田村 年規, 濵西 潤三, 千草 義継, 山ノ井 康二, 砂田 真澄, 堀江 昭史, 山口 建, 万代 昌紀
    2023 年 75 巻 1 号 p. 10-15
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/03
    ジャーナル 認証あり

    本邦において2018年にMSI-High固形がんに対して,抗PD-1抗体ペムブロリズマブが薬事承認されたが,本邦における婦人科がんに対する治療効果や有害事象に関係する報告は少ない.そこで当科においてMSI-Highの婦人科がんに対してペムブロリズマブを投与した患者背景,治療効果,有害事象および治療経過と末梢血中の好中球/リンパ球比(neutrophil-to-lymphocyte ratio;NLR)との関係について後方視的に評価した.その結果,再発婦人科がん128例のうちMSI検査陽性率は9.4%(12例)であり,ペムブロリズマブを投与した8例の年齢中央値は71歳,最良治療効果は,完全奏効(CR)1例,部分奏効(PR)3例,増悪(PD)3例,評価不能1例で奏効率は50%(4/8例)であった.また無増悪期間(PFS)中央値は10カ月,奏効例の奏効持続期間(DRR)中央値は12.5カ月であった.有害事象は,関節痛1例,浮腫1例,視力低下1例,皮膚掻痒感1例を認め,いずれもgrade 1であった.また8例のうち6例では,治療効果や腫瘍マーカーと末梢血中のNLRの変化が連動していた.本結果よりMSI-High婦人科がんに対してペムブロリズマブの一定の有効性と安全性を確認するとともに,NLRの変化を評価することで治療効果を推測する補助診断に有用となる可能性が示された.〔産婦の進歩75(1):10-15,2023年(令和5年2月)〕

  • 喜多 ともみ, 谷村 憲司, 施 裕徳, 内田 明子, 今福 仁美, 出口 雅士, 蓬莱 政, 寺井 義人
    2023 年 75 巻 1 号 p. 16-25
    発行日: 2023/02/01
    公開日: 2023/02/03
    ジャーナル 認証あり

    近年,精神疾患の患者数は増加しており,妊娠に合併することもまれではない.精神疾患合併妊娠では妊娠中・産後の原疾患の増悪や周産期事象への悪影響が問題となる.そこで,精神疾患合併妊娠における妊娠中・産後の原疾患増悪に関連する誘因,精神疾患が妊娠と児に与える影響を後方視的に検討した.2017年から2019年の間に当院で分娩した精神疾患合併妊娠を対象とし,妊娠中と産後それぞれで精神疾患増悪有り群と無し群に分けて臨床背景を比較し,さらに,精神科医が増悪誘因と考察した事象,妊娠・分娩帰結と児所見についても検討した.当該期間中の精神疾患合併妊娠は116症例であり,妊娠中の増悪は29症例(25.0%)に認められ,妊娠中の増悪有り群では妊娠中の増悪無し群に比し,向精神薬を中止した割合(31.0% vs 10.3%,p<0.05)と定期投薬有りの割合(82.8% vs 47.1%,p<0.005)が高かった.また,精神科医が妊娠中の増悪誘因と考察した事象は,向精神薬の中断・減量15症例(51.7%),パートナーとの不仲7症例(24.1%)などであった.一方,産後増悪は12症例(10.3%)に認められたが,産後の増悪有り群と産後の増悪無し群で臨床背景に差を認めなかった.精神科医が増悪誘因と考察した事象は向精神薬の中断2症例(16.7%),不明10症例(83.3%)であった.また,妊娠中増悪29症例中9症例(31.0%),産後増悪12症例中6症例(50.0%)で精神科病棟への入院を要した.また,早産27症例(23.3%),妊娠糖尿病12症例(10.3%),妊娠高血圧症候群8症例(6.9%)などの産科異常症を認めた.分娩帰結は,帝王切開術48症例(41.3%),緊急帝王切開術33症例(28.4%)であった.さらに,11症例(9.5%)で児に形態異常を認めた.精神疾患合併妊娠は,早産,先天性形態異常などのリスクがあることに加え,投薬中止・減量が増悪につながり,医療保護入院を要する場合もあるため産科,精神科,新生児科が密に連携する施設での管理が望ましい.〔産婦の進歩75(1):16-25,2023(令和5年2月)〕

  • 本多 秀峰, 瀧内 剛, 辻 沙織, 後藤 剛, 伊藤 風太, 伴田 美佳, 三宅 達也, 木村 正
    2023 年 75 巻 1 号 p. 26-31
    発行日: 2023/02/01
    公開日: 2023/02/03
    ジャーナル 認証あり

    昨今,次世代シーケンサー(Next Generation Sequencing;NGS)の登場により微量な検体量でも染色体解析を行うことが可能になった.今回われわれは,流産絨毛組織などの検体に対しG分染法とNGS法を用いた染色体解析を行い,その性能を比較・検討した.また,母体血液から抽出した核酸DNAを用いて母親細胞の混入(maternal cell contamination;MCC)の確認のため,STR(short tandem repeat)分析を行った.対象は臨床的に流産と診断され,流産物を回収できた症例とした.評価項目は,G分染法とNGS法の染色体異数性検査結果の一致率,検査を実施・解析できた割合の比較,母体組織の混入によるMCC発生率を評価した.今回,G分染法とNGS法と比較した症例は全10症例であり,そのうち4症例でSTR分析を実施した.NGS法では全症例で染色体解析に成功した.G分染法では培養不成功のため,検査を実施できなかった症例が2症例であった.G分染法およびNGS法の両方で解析し得た8症例のうち,染色体検査の一致率は87.5%(7/8例)であった.G分染法(47,XY,+14)とNGS法(mos 48,XY,+13,+14/47,XY,+14)で検査結果が異なった例を1症例認めた.NGS法にて染色体異数性と判明した割合は70%(7/10例)であった.一方,染色体が正常核型であった症例は30%(3/10例)であった.STR分析を実施した4症例のうち2症例で,MCCが疑われた.NGS法による流産絨毛染色体異数性解析は,G分染法において検査実施が困難となる症例においてもNGS法で解析することが可能であることが示され,STR分析を加えることで,母体血液または母体組織の混入による偽陰性を除外することが可能であった.〔産婦の進歩75(1):26-31,2023(令和5年2月)〕

  • 伊田 昂平, 川﨑 薫, 森内 芳, 大須賀 拓真, 松坂 優, 滝 真奈, 山口 綾香, 千草 義継, 最上 晴太, 近藤 英治, 万代 ...
    2023 年 75 巻 1 号 p. 32-38
    発行日: 2023/02/01
    公開日: 2023/02/03
    ジャーナル 認証あり

    後期早産(妊娠34週0日-36週6日)が予測される妊婦へのステロイド投与は新生児呼吸障害を低下させると報告されているが,本邦における投与指針は確立していない.本研究では,2014年から2015年の間にステロイドを投与されずに後期早産に至った49例(非投与群)と,2016年から2020年の間にステロイド投与後に後期早産に至った31例(投与群)の2群間で比較検討を行った.2群間で新生児一過性多呼吸(transient tachypnea of the newborn;TTN)や新生児呼吸窮迫症候群(respiratory distress syndrome;RDS)の発症やサーファクタント製剤の使用に有意差は認めなかった.分娩週数ごとの比較でもTTN,RDSの発症やサーファクタント製剤の使用に有意差を認めなかった.合併症として新生児低血糖の発症は2群間で有意差を認めなかった.またステロイド投与による母体合併症も認めなかった.今回の単施設後方視的検討では,late Pretermにおける経母体ステロイド投与の効果は示されなかった.今後本邦での多施設共同研究による検討が望まれる.〔産婦の進歩75(1):32-38,2023(令和5年2月)〕

症例報告
  • 秋田 絵理, 谷口 武, 鈴木 史明, 富山 俊彦, 根来 英典
    2023 年 75 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 2023/02/01
    公開日: 2023/02/03
    ジャーナル 認証あり

    双胎は一卵性双胎から発生し,胚発生のきわめて後期に,胚盤が不完全に分離あるいは異常分離することによって生じるとされている.今回われわれは,単一胚盤胞移植後に生じた結合双胎の症例を経験したので報告する.症例は33歳,両側卵管閉塞のため体外受精を施行した.アンタゴニスト法で採卵施行,7個の胚盤胞を得て全凍結した.IVF(in vitro fertilization)後118時間で凍結した胚盤胞を単一融解胚移植し,妊娠成立した.妊娠6週で心拍を1つ認めたが,妊娠10週で多量の性器出血を生じ,妊娠11週で胎児臍帯ヘルニアと頸部右側を中心に著明な皮下浮腫を認めた.妊娠12週で胎児水腫と胎児心拍停止が確認され,流産処置を行ったところ,娩出された児は頭胸腹部結合双胎であった.染色体検査では46XY,染色体異常は認めなかった.〔産婦の進歩75(1):39-44,2023(令和5年2月)〕

  • 大和 奈津子, 窪田 詩乃, 金子 めぐみ, 荻野 美智, 松本 培世, 平久 進也, 船越 徹
    2023 年 75 巻 1 号 p. 45-50
    発行日: 2023/02/01
    公開日: 2023/02/03
    ジャーナル 認証あり

    前置血管は1万妊娠に2-6例発生するが,超音波断層装置の性能向上と普及に伴い,妊娠中期に93%が診断可能でlate pretermでの帝王切開が生児獲得率を高めるとされる.今回,子宮口全開大時に前置血管が顕在化したため緊急帝王切開を施行した症例と当院で過去に経験した5例を報告する.症例は35歳,3妊2産で自然妊娠し妊娠30週に胎児心奇形を疑われたため妊娠34週に当院を紹介受診した.胎児心エコーで三尖弁閉鎖Ic型と診断されたが,それ以外に異常を認めず,妊娠39週に社会的適応のため計画分娩を行った.メトロイリンテル留置前後の経腟超音波検査で異常を認めなかった.分娩第2期に入り臍帯因子によるCTG異常を認めたため施行した内診時に胎胞上に索状物を触知し,経腟超音波検査で児頭先進部より尾側の胎胞内面を走行する血流像を認め腟鏡診で血管様索状物を視認したため前置血管と診断した.緊急帝王切開にて2904 g女児,Apgar score 1分値6点/5分値9点で娩出した.胎盤所見は臍帯卵膜付着であり,臍帯付着部より臍帯動脈と臍帯静脈がおのおの約10 cmと約12 cm卵膜上を走行しており前置血管(type 1)であった.当院で経験した前置血管5例を含めいずれも臍帯付着部異常を認めたため,臍帯付着部未確認例は前置血管のリスク因子であると考える.さらに,本例のように初診時および入院時,そしてメトロイリンテル留置前後の経腟超音波検査で前置血管を認めていなくても,子宮口の開大とともに前置血管が顕在化する例も存在するため,臍帯因子によるCTG異常が認められる際は,とくに注意深い内診ならびに経腟超音波検査が重要である.〔産婦の進歩75巻(1):45-50,2023(令和5年2月)〕

  • 松本 培世, 平久 進也, 金子 めぐみ, 窪田 詩乃, 荻野 美智, 船越 徹
    2023 年 75 巻 1 号 p. 51-56
    発行日: 2023/02/01
    公開日: 2023/02/03
    ジャーナル 認証あり

    多胎妊娠で第1子娩出後,妊娠が継続し第2子の出産までに24時間以上期間が空くことをdelayedinterval delivery(DID)という.DIDに関するいくつかの報告はあるが,双胎1児減胎術後に起こったDIDの症例は報告がない.今回,二絨毛膜二羊膜双胎で1児減胎術後11週間妊娠が継続し,妊娠28週で死亡児が娩出となりその4日後に第2子が早産となった症例を経験した.症例は32歳,日本人女性,1妊0産.排卵誘発法で妊娠成立後二絨毛膜二羊膜双胎と診断された.妊娠15週で第1子に脳瘤を認めたため当院に紹介となったが,予後が不良であることを説明すると自己判断で妊娠17週6日に他院で減胎術を受けた.妊娠28週4日に突然,死亡児が娩出となり第2子の胎胞形成を認めたため,子宮収縮抑制剤,黄体ホルモン,抗菌薬の投与を行い,妊娠継続をはかり母体にベタメタゾン投与を行ったが4日後の妊娠29週1日陣痛抑制困難となり経腟分娩となった.1172 g,女児,Apgar score5/7点であった.胎盤病理で第1子の胎盤に絨毛膜羊膜炎を認めた.出生児は経過良好で日齢76で退院となった.妊娠週数が早い場合DIDを施行したほうが第2子の予後が改善するとの報告はあるが,第1子出産週数によっては予後に差がないとの報告もある.また,第1子が胎内死亡後のDIDに関する決まった指針はなく,絨毛膜羊膜炎の原因となる可能性も存在する.DIDを行うかどうかは妊娠週数,感染徴候などに注意して本人・パートナーに十分な説明を行ったうえで決定する必要がある.〔産婦の進歩75(1):51-56,2023(令和5年2月)〕

  • 野田 拓也, 和田 卓磨, 植村 遼, 林 雅美, 長嶋 愛子, 中川 佳代子, 田中 和東, 西尾 順子
    2023 年 75 巻 1 号 p. 57-61
    発行日: 2023/02/01
    公開日: 2023/02/03
    ジャーナル 認証あり

    腹膜妊娠は希少部位異所性妊娠に分類され,全妊娠の約0.01%で生じるとされている.異所性妊娠の多くを占める卵管妊娠と比較して死亡率が高いとする報告がある.今回,われわれはMRI検査にて術前に腹膜妊娠を疑い,腹腔鏡手術にて診断・治療し得た1例を経験したので報告する.症例は35歳,5妊1産であった.月経歴は初経が11歳で月経周期は整であった.既往歴に特記事項は認めなかった.妊娠反応陽性にて前医を受診し,経腟超音波検査で子宮腔内に胎囊を認めず,左卵管起始部付近に胎囊を認めたため,異所性妊娠の診断で当院紹介受診となった.最終月経からは5週0日であった.当院初診時の経腟超音波検査では左卵管間質部付近に胎囊を認め,左卵管間質部妊娠を疑ったが,MRI検査では胎囊と子宮内膜に連続性は認めずダグラス窩左側に胎囊を認めた.子宮漿膜もしくはダグラス窩腹膜妊娠の疑いと診断した.血中hCG値は20,930 mIU/mLであった.腹腔鏡手術を施行し子宮後壁に膜状に癒着する2.5 cm大の胎囊を切除した.術中所見と病理組織検査より子宮漿膜に着床した腹膜妊娠と診断した. 術後経過は良好で術後3日目で退院となった. 術後1カ月後の血中hCG値は0.5 mIU/mL未満と低下を認めた.腹膜妊娠はまれな疾患であり,卵管妊娠と比べると治療法が確立されているとは言い難い.また経腟超音波検査のみでは診断に苦慮することがあり,術前の着床部位の診断にMRI検査が有用であると考えられた.〔産婦の進歩75(1):57-61,2023(令和5年2月)〕

  • 堂前 有紀, 久米川 綾, 竹中 由夏, 矢本 希夫, 谷本 敏
    2023 年 75 巻 1 号 p. 62-70
    発行日: 2023/02/01
    公開日: 2023/02/03
    ジャーナル 認証あり

    子宮癌肉腫は子宮悪性腫瘍の5%未満と頻度の少ない疾患であり,子宮内膜悪性腫瘍の骨転移症例は少ない.今回われわれは,強い炎症所見を伴う子宮腫瘍に対して早急に手術を行い,術後の病理検査で子宮癌肉腫と診断され,術後に頭蓋骨転移が判明した症例を経験した.症例は69歳,2妊2産,主訴は不正性器出血と発熱であった.超音波検査で子宮体部に12 cm大の腫瘍を認め,子宮内膜組織診は類内膜癌を疑う結果であった.PET-CT検査で子宮腫瘍の辺縁および左前頭骨に異常集積を認めたが,その他に明らかなリンパ節腫大や遠隔転移は認めなかった.手術6日前の頭部MRI検査で左前頭骨に10 mm大の腫瘤および微小な脳梗塞巣を数カ所に認め,Trousseau症候群の診断で入院管理にてヘパリンを投与し,神経学的異常は発症しなかった.初診から約2週間後に腹式単純子宮全摘術,両側付属器摘出術,癒着剥離術を実施し,術後の病理検査で子宮癌肉腫と診断された.術後は早急に化学療法を開始する予定であったが,左前頭骨腫瘍は術後3週で35 mm大,術後6週で50 mm大まで増大した.左前頭骨腫瘍の経皮的皮下腫瘍生検で類内膜癌の病理所見を認め,術後7週で開頭下頭蓋骨腫瘍摘出術が実施され,術後病理検査で子宮癌肉腫の癌腫成分の転移であると診断された.現在はパクリタキセル,カルボプラチン併用療法にて加療中である.〔産婦の進歩75(1):62-70,2023(令和5年2月)〕

  • 今北 幸, 冨田 裕之, 高 一弘, 田中 梓菜, 松原 慕慶, 松下 克子, 藤原 潔
    2023 年 75 巻 1 号 p. 71-78
    発行日: 2023/02/01
    公開日: 2023/02/03
    ジャーナル 認証あり

    卵巣平滑筋腫はまれな疾患で,良性卵巣腫瘍の1%と報告されている.今回,多発子宮筋腫に対してGnRHアンタゴニスト療法を行ったところ,縮小を得た卵巣平滑筋腫の1例を経験したため報告する.症例は36歳0妊.検診で多発子宮筋腫を指摘され受診した.経腟超音波検査および造影MRI検査で2 cm大の左卵巣囊腫と,子宮体部の筋層から漿膜下に最大8 cmでMRIにてT1およびT2強調像で低信号を示す筋腫様腫瘤を多数認めた.それとは別に,子宮背側に8×6 cmで前述の腫瘤と同様の信号を呈する境界明瞭な子宮筋腫を疑う充実性腫瘍を認めた.その頭側に浮腫状の右卵巣を認め,両側の卵巣が存在すると考えられたため,子宮背側の腫瘍は漿膜下子宮筋腫と診断された.無症状のため経過観察としていたが,妊娠中の変性や分娩障害などの可能性を考え初診から1年11カ月後にGnRHアンタゴニスト(レルゴリクス40 mg1日1回朝食前)内服による偽閉経療法を開始した.5カ月後に骨盤MRI検査を再検したところ子宮の底部筋層内の腫瘤は最大7 cmと縮小した.子宮背側の腫瘍も6×5 cmに縮小し,浮腫状の卵巣が子宮背側の腫瘍の周囲を包囲しているように見えたことから,右卵巣由来の 線維腫または莢膜細胞腫が疑われた.内服開始から6カ月後に腹腔鏡補助下子宮筋腫核出術および両側卵巣腫瘍摘出術を行った.子宮背側の腫瘍はHE染色で紡錘形の核を有する細胞が束状に増殖し,核異型や核分裂像は認めず正常卵巣組織と連続していたことから,卵巣原発の平滑筋腫と診断した.免疫染色では腫瘍細胞でdesmin,A-actin,M-actinがいずれも陽性で,平滑筋腫に矛盾しない所見であった.卵巣に充実性腫瘍を認めた場合,頻度の高い線維腫や莢膜細胞腫が鑑別に挙がるが,まれな腫瘍として卵巣平滑筋腫も存在する.通常卵巣子宮筋腫の病理学的診断はHE染色で可能なことが多いが,診断が困難な場合はdesminやactinなどの免疫染色も有用である.また,卵巣由来と思われる充実性腫瘍が,併存する子宮筋腫に対するGnRHアンタゴニストにより縮小した場合にも卵巣子宮筋腫を鑑別に挙げる.〔産婦の進歩75(1):71-78,2023(令和5年2月)〕

  • 坂元 優太, 山中 彰一郎, 岡本 美穂, 中澤 遼, 濱田 健吾, 三宅 龍太, 赤坂 珠理晃, 成瀬 勝彦, 木村 文則
    2023 年 75 巻 1 号 p. 79-84
    発行日: 2023/02/01
    公開日: 2023/02/03
    ジャーナル 認証あり

    症例は35歳,1妊0産.既往歴にうつ病があり,家族歴に糖尿病と高血圧症が指摘されていた.自然に妊娠が成立し、妊娠36週3日に重症妊娠高血圧腎症の診断で分娩誘発の方針とした.妊娠36週5日に分娩停止の診断で緊急帝王切開を施行した.術後3日目に38.0℃の発熱、炎症反応高値を呈したためセフメタゾールナトリウム2g/日の投与を術後5日目まで延長させて投与した.術後5日目に創部が離開した.腹部造影CTでは膿瘍形成はなかったが,治療抵抗性であった.徐々に創部に硬結,水疱が出現し,創上部の発赤が拡大した.その後抗菌薬を変更したが,硬結が癒合し,創部に潰瘍形成を認めた.創部培養検査は陰性であったことから,壊疽性膿皮症を疑った.術後10日目から抗菌薬と並行しプレドニゾロン30 mg/日の全身投与を開始したところ,徐々に創部の肉芽組織が増殖し,改善傾向となった.外来管理が可能となった術後50日目で退院となり,術後150日目に創部がほぼ上皮化したことからステロイド投与を終了した.壊疽性膿皮症は疼痛を伴う無菌性潰瘍を主徴とする好中球性皮膚症で,感染に対する治療は奏効せず,デブリドマンなどの外科的治療が行われるとかえって悪化する.術後の創部合併症において感染治療が奏効しない場合は,壊疽性膿皮症の可能性を考慮すべきである.〔産婦の進歩75(1):79-84,2023(令和5年2月)〕

  • 前田 万里紗, 下地 彩, 水津 愛, 岩見 州一郎, 岡田 能幸, 野々垣 多加史
    2023 年 75 巻 1 号 p. 85-92
    発行日: 2023/02/01
    公開日: 2023/02/03
    ジャーナル 認証あり

    妊娠中に水腎症をきたすことは古くから知られている.今回われわれは,小児期に膀胱尿管逆流症(vesicoureteral reflux;以下VUR)手術を受けた妊婦が高度水腎症を繰り返し,治療に難渋したので報告する.症例は36歳,3妊1産.5歳時にVURに対する逆流防止術の既往があった.第1子妊娠中,妊娠17週で左腰痛が出現し左水腎症が判明し,妊娠26週には高度左水腎症と腎盂内の血腫を認めるようになり入院管理となった.輸血と抗生剤投与を行い経尿道的左尿管ステントと膀胱留置カテーテルを挿入した.経過中,膀胱留置カテーテルを抜去後にenterococcus faecalis起因の敗血症をきたしたため,膀胱留置カテーテルと抗生剤を再開した.妊娠38週時に再度尿路感染徴候を認めたため,分娩誘発にて健児を経腟分娩し,膀胱留置カテーテルは分娩直前に抜去した.分娩後水腎症は速やかに改善し尿 管カテーテルも抜去できた.36歳時に第2子を妊娠し,左水腎症が出現したため妊娠11週で経尿道的左尿管ステントを留置した.抗生剤内服を継続したところ,水腎症は第1子妊娠時よりも高度であったが疼痛および尿路感染管理は良好であった.妊娠38週時に分娩誘発を行い,健児を経腟分娩した.第2子分娩後,尿管カテーテルを抜去し水腎症はしばらく残存していたが約6カ月後には消失した.一般的に妊娠水腎症による疼痛の多くは一過性で保存的治療により改善することが多いが,一方で尿管ステントや腎瘻などによる尿ドレナージが必要になる症例が存在する.とくにVURなどの先天的腎尿路疾患既往を有する妊婦を管理する際は,高度水腎症や尿路感染症のリスクを念頭に置き,その徴候がみられた際には早期に尿ドレナージおよび抗生剤投与を開始し継続することが感染の重症化を防ぎ,腎機能保護に寄与すると考えられた.〔産婦の進歩75(1):85-92,2023(令和5年2月)〕

  • 吉田 篤史, 澤田 雅美, 布出 実紗, 大門 篤史, 永昜 洋子, 杉本 敦子, 藤田 太輔, 三好 拓児, 大道 正英
    2023 年 75 巻 1 号 p. 93-99
    発行日: 2023/02/01
    公開日: 2023/02/03
    ジャーナル 認証あり

    妊娠中に急性白血病を発症することはきわめてまれである.今回われわれは,妊産婦死亡に至った急性白血病合併妊娠の1例を経験したので報告する.症例は,45歳,2妊1産の経産婦であった.鼻出血を主訴に来院し,リンパ性白血病と診断され,同時に妊娠17週であることが判明した.著明な血小板数低下と貧血を認め,DICの状態であったため,輸血と化学療法を優先し,血液データの改善を待って人工妊娠中絶の方針となった.しかし造血不全は改善せず,妊娠18週5日に子宮内胎児死亡と破水を確認したため,輸血を行いながら妊娠19週0日にゲメプロスト腟坐剤を用いて死産児を娩出した.出血増加や子宮内感染は認めなかったが,全身状態が改善しないまま,産後16日目に死亡退院となった.急性白血病は診断後早急に治療を開始しなければならないが,妊娠初期の場合は,治療により流産や子宮内胎児死亡に至る頻度が高く,人工妊娠中絶を選択せざるをえないことが多い.しかし病状によっては,人工妊娠中絶自体のリスクが高く,白血病の病態にも影響する場合もある.症例によっては,本症例のように白血病の治療を優先させて,よりリスクの低い時期に処置を行う必要がある.白血病合併妊娠の治療や産科的処置のタイミングについては,血液内科と連携しながら,適切に判断することが必要である.〔産婦の進歩75(1):93-99,2023(令和5年2月)〕

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