放線菌症はActinomyces属によるまれな慢性化膿性肉芽腫性感染症である.骨盤内の発症は少ないが,骨盤放線菌症の罹患女性の多くが子宮内避妊器具(IUD)の長期使用歴があり,骨盤放線菌症の発症にIUDの長期装着との関連が知られている.今回われわれは術前のPET検査で強陽性を示し,悪性腫瘍との鑑別に苦慮した骨盤放線菌症の1症例を経験したので報告する.症例は55歳,2経産,IUD装着歴があった.左下腹部痛ならびに便秘を主訴に近医内科受診し,左下腹部に可動性不良な腫瘤性病変を指摘され,精査加療目的に当科受診となった.MRIでは子宮底左側に造影効果のある骨盤内腫瘍とリンパ節腫大を認め,S状結腸は壁が肥厚し骨盤内腫瘍と一塊となっていた.PET/CTでは腫瘤に一致してFDGの強い集積を認めた.下部消化管内視鏡検査ではS状結腸の腸管狭窄が著明であったが,狭窄部位の生検では悪性所見を認めなかった.血液検査では白血球数の増多,CRPの上昇を認めたが腫瘍マーカーの有意な上昇は認めなかった.骨盤内悪性腫瘍を疑い,腹式単純子宮全摘術,両側付属器摘出術,S状結腸切除術,人工肛門造設術を施行した.術後病理組織診断で左卵巣に放線菌塊を含む膿瘍の形成が認められ,骨盤放線菌症と診断した.ペニシリンによる抗菌薬治療を追加し治癒した.骨盤内に腫瘤があって画像検査で卵巣悪性腫瘍が疑われる場合には,骨盤放線菌症についても念頭に置きIUDの装着歴,あるいはその既往について注意深い問診を施行する必要があると考える.〔産婦の進歩65(4):391-396,2013(平成25年11月)〕
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