産婦人科の進歩
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69 巻, 3 号
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研究
原著
  • 矢田(橋本) 奈美子, 甲村 弘子, 川口 晴菜, 清水 彰子, 光田 信明, 倉智 博久
    2017 年 69 巻 3 号 p. 245-252
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル 認証あり

    近年,小児期発症の慢性疾患を抱えた成人患者に対する医療について,小児科での継続診療か転科かといった「移行(transition)」が話題となることが多い.患者の多くは小児科で継続診療されているのが現状であるが,女児の場合は思春期以降,無月経や不正出血,月経不順など婦人科的問題が出てくることがあり,小児慢性疾患を背景にもつ患者の婦人科的診療の必要性は高いと考えられる.このような背景から,われわれは総合周産期母子センターにおいて平成9年より小児婦人科診療を行っている.婦人科診療を要した患者のうち,知的障害または発達障害を伴う患者は88例,中央値16.4 (9~34歳.基礎疾患は多発奇形・奇形症候群が15例(17%),てんかん,21trisomy等の染色体異常がそれぞれ12例(14%)ずつであり,知的障害の原因が不明なものは11例(13%),発達障害は6例であった.受診理由は月経周期異常が27例(31%),原発性無月経19例(22%),月経困難症13例(15%)などであり,82例(93%)が何らかの月経異常を訴えていた.月経異常に対する治療では13例が対症療法,34例が内分泌療法を要したが,薬物療法を要さないものも多かった.一方,4例が治療困難もしくは治療中止となっていた.知的障害または発達障害を伴う患者は増加傾向にあり,月経異常をきたしやすいとされる.しかし,月経時の対応が難しい場合もあることや,基礎疾患のため薬剤の選択に制限がある症例もあり,従来のホルモン療法が困難な場合があった.また1例ではあったが性虐待の症例もあり,注意が必要であるといえる.〔産婦の進歩69(3):245-252,2017(平成29年8月)〕

  • ─近畿産科婦人科学会腫瘍研究部会調査─
    岩井 加奈, 川口 龍二, 小林 浩
    2017 年 69 巻 3 号 p. 253-261
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル 認証あり

    【目的】Bevacizumab(BEV)は国内で2013年11月に卵巣癌に対し保険適用となった.しかし,施設により適応などに相違があり,また有害事象について,国内でのまとまった報告はない.今回,卵巣癌におけるBEVの実際の使用状況と有害事象を明らかにするために,BEVに関するアンケート調査を行った.【方法】第133回近畿産科婦人科学会第101回腫瘍研究部会において,BEVに関する発表を行った24施設を対象にアンケート調査を行った.【結果】24施設中18施設からの回答を得ることができ,アンケートの回収率は75.0%であった.BEVが使用された患者数は合計232例であり,卵巣癌の初回治療患者が107例(46.1%),再発治療患者が125例(53.9%)であった.BEVの適応は,初回治療のみに使用する施設が1施設(5.5%),再発治療のみに使用する施設が3施設(16.7%),初回治療・再発治療どちらにも使用する施設が14施設(77.8%)であった.初回卵巣癌治療患者ではBEVの併用化学療法のレジメンはPaclitaxel+Carboplatin(TC)が88例(82.2%)と最も多かった.再発卵巣癌治療患者ではBEV投与前の化学療法のレジメン数は0レジメンが14例(11.2%),1レジメンが62例(49.6%),2レジメンが24例(19.2%),3レジメン以上が25例(20.0%)であった.再発卵巣癌治療患者のBEVの併用化学療法のレジメンは,プラチナ製剤を含むレジメンとしてはTCが26例(20.8%),Gemcitabine+Carboplatin(GC)が19例(15.2%)と多く,単剤化学療法としてはPegylated Liposomal Doxorubicin(PLD)が30例(24.0%),Gemcitabine (GEM)が13例(10.4%)と多かった.効果判定可能例ではResponse Rateは52.4%であった.有害事象としてはGrade 2以上の高血圧は61例(26.2%),Grade 3以上の蛋白尿は14例(6.0%)であった.またGrade 2以上の消化管穿孔は6例(2.6%)であった.【結論】今回のアンケート調査により,本邦におけるBEVの実際の使用状況と有害事象を明らかにすることができた.有害事象に関しては既存の臨床試験との頻度の差は認めなかった.今回の検討はアンケート調査であるため,限られた検討となっており,今後本邦での大規模なBEVの治療成績や有害事象の検討が望まれる.〔産婦の進歩69(3):253-261,2017(平成29年8月)〕

  • 濱田 啓義, 中山 貴弘, ダハール 佐知子, 立入 智恵子, 山出 一郎, 井上 卓也, 矢野 樹理, 畑山 博
    2017 年 69 巻 3 号 p. 262-268
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル 認証あり

    【目的】平成28年度より不妊治療に対する特定治療支援事業では43歳以上の患者が対象外となった.その一方,43歳以上で不妊治療により妊娠・出産に至る例を少なからず経験するところであり,43歳以上に対する治療について検討することは喫緊の課題といえる.今回,その一助とすべく当院での不妊治療による43歳以上の妊娠症例を解析,検討した.【方法】2011年から2013年に当院で不妊治療を行い妊娠が成立した3743例のうち,43歳以上の118例について治療歴,治療内容,転帰を検討した.【成績】妊娠成立時の年齢は平均44歳2カ月,最高齢は48歳8カ月であった.治療開始から妊娠成立までの日数は平均508日(27~2260日)であり,40歳以下に比べると有意に長かった.69%(81例)が初回治療であり,71%(84例)に流産を含む何らかの妊娠歴が認められた.妊娠成立時の治療内容はタイミング法13%(15例),人工授精(以下IUI)3%(3例),体外受精および顕微授精(以下ART)85%(100例)であった.他院治療歴のある症例(37例)の95%(35例)と,妊娠歴のない症例(32例)の94%(32例)はARTにより妊娠していた.ARTでの卵巣刺激法はクエン酸クロミフェン周期が54%(54例)と最も多く,36% (36例)がGnRH agonist short protocol(以下short法)であった.また凍結融解胚移植が約半数(49例)を占めた.妊娠の転帰は生産34%(40例,うち帝王切開26例),自然流産58%(68例),3例が異所性妊娠,5例で人工妊娠中絶が行われていた.【結論】今回の検討では85%の症例がARTにより妊娠していた.他院治療歴ありと妊娠歴なしの症例では大多数がARTでの妊娠であり,43歳以上の患者の治療選択において治療歴と妊娠歴が重要と考えられた.またARTの卵巣刺激法ではクエン酸クロミフェン法やshort法を積極的に使用しても良いと考えられた.ただし妊娠の転帰は厳しく,中期中絶症例があることも今後の課題と考えられた.〔産婦の進歩69(3):262-268,2017(平成29年8月)〕

症例報告
  • 小西 博巳, 田吹 邦雄, 加藤 綾華, 服部 智子, 小林 正直, 永野 雄三, 岡崎 審
    2017 年 69 巻 3 号 p. 269-276
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル 認証あり

    後方可逆性脳症症候群(posterior reversible encephalopathy syndrome;PRES)と可逆性脳血管攣縮症候群(reversible cerebral vasoconstriction syndrome;RCVS)の臨床的特徴,画像所見は多くの重なりを示し,共通の病態生理基盤をもつ可能性が指摘されている.われわれは妊娠高血圧症候群,HELLP症候群に伴う子癇発作を認めた妊婦に,画像上PRESと診断し,RCVSと同様の可逆性脳血管攣縮を認めた症例を経験したので報告する.症例は35歳の4経妊2経産.妊娠40週時に2日前から続く下痢,心窩部痛を認めたため当院を受診した.入院後に雷鳴様頭痛が出現し,その後全身強直性の痙攣発作を認めた.血液検査はT-bil 0.89 mg/dl, LDH 1788 IU/l, AST 699 IU/l, Plt 85000 /mm3でHELLP症候群と診断した.頭部CT検査を施行し,左シルビウス裂,右前頭葉高位円蓋部,半球間裂の脳溝に高吸収を認め,くも膜下出血と診断した.母体保護を優先して,全身麻酔下に緊急帝王切開術を行った.術直後のMRI検査で,FLAIR画像で左側尾状核,両側の被殻,両側後頭葉中心に皮質,皮質下に高信号域を認め,PRESの診断であった.術後3日目のMRA検査で,両側前大脳動脈,中大脳動脈近位に血管攣縮を認め,RCVSが疑われた.術後7日目の頭部MRI検査では,FLAIRで左右被殻の高輝度領域は減少し,拡散強調画像の高輝度もほぼ消失した.MRA検査で両側前・中大脳動脈の狭窄の改善を認めた.術後23日目に軽度の頭痛,記憶障害は残るものの全身状態が落ち着いたため退院となった.今後,さらなる症例の集積・検討が必要である.〔産婦の進歩69(3):269-276,2017(平成29年8月)〕

  • 鈴木 尚子, 今井 更衣子, 川原村 加奈子, 佐藤 浩, 矢野 紘子, 田口 奈緒, 廣瀬 雅哉
    2017 年 69 巻 3 号 p. 277-281
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル 認証あり

    子宮内避妊具(IUD)は,可逆的で有効な避妊法として普及している.わが国においては近年,レボノルゲストレル放出型子宮内システム(LNG-IUS)の使用が,月経困難症および月経過多に対し保険適応となったことに伴い,今後使用頻度が増加していくことも考えられる.一方で,子宮外への迷入,他臓器損傷等の重大な合併症も起こりうるため,慎重な取り扱いが必要である.今回,われわれはIUDが子宮を穿孔し腹腔内に迷入したため,これを腹腔鏡下に摘出した1例を経験した.症例は41歳の3回経産婦で,第3子出産後3カ月の時点で前医にて銅付加IUDを挿入された.2年後に定期検診目的で受診時に,超音波検査で子宮内にIUDを認めず,腹部単純X線検査にて左腸骨窩付近にIUDがみられたことから腹腔内への迷入を疑われ,当科へ紹介受診となった.当科での超音波検査,腹部単純X線検査,腹部CT検査の結果からIUDの腹腔内への迷入と診断した.注腸X線造影検査,大腸内視鏡検査で腸管穿孔の可能性は低いことを確認し,腹腔鏡下手術でIUDを摘出した.IUD挿入の合併症を防ぐには,症例ごとの適切なリスク評価,挿入時期の考慮,挿入後の定期検診の確実な実施と,子宮外への迷入時の正確な診断などを心がける必要がある.〔産婦の進歩69(3):277-281,2017(平成29年8月)〕

  • 脇本 裕, 澤井 英明, 亀井 秀剛, 森本 篤, 浮田 祐司, 脇本 剛, 田中 宏幸, 柴原 浩章
    2017 年 69 巻 3 号 p. 282-287
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル 認証あり

    筋ジストロフィーは筋線維の変性・壊死を主病変とし,進行性の筋力低下をもたらす遺伝性疾患である.われわれは異なる病型である筋強直性ジストロフィー(myotonic dystrophy;DM)および顔面肩甲上腕型筋ジスロトフィー(facioscapulohumeral muscular dystrophy;FSHD)の2症例の周産期管理を経験した.DM合併妊娠の症例は羊水過多で経過し,胎児機能不全を認めたため妊娠34週2日に帝王切開で児を娩出した.出生後,新生児は呼吸循環動態の増悪をきたし,日齢123日で死亡した.一方,FSHD合併妊娠の症例は子宮内胎児発育不全,羊水過少で経過した.妊娠39週1日,経腟分娩を試みたが分娩進行停止したため帝王切開で娩出した.新生児のFSHD罹患の有無は不明であるが,良好な状態で退院した.2症例とも切迫早産の治療において,リトドリン塩酸塩に比べ横紋筋融解症の発症リスクが低い塩酸イソクスプリンを投与した.横紋筋融解症の発症や原疾患の増悪を伴わずに妊娠管理することができ,FSHD合併妊娠の患者は生児を得たが,DM合併妊娠の児は乳児死亡した.〔産婦の進歩69(3):282-287,2017(平成29年8月)〕

  • 小山 美佳, 水谷 靖司, 鈴井 泉, 佐藤 麻夕子, 松本 典子, 中山 朋子, 中務 日出輝, 小髙 晃嗣
    2017 年 69 巻 3 号 p. 288-292
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル 認証あり

    特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura;ITP) は若年女性に好発し,妊娠の0.3~0.4 %に合併するといわれている.今回,副腎皮質ステロイド療法および免疫グロブリン大量療法で改善せず,トロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA) を使用したが治療抵抗性を示した難治性ITP合併妊娠の症例を経験したので報告する.症例は30歳,未経妊,不妊治療目的に前医を受診した際に血小板数7.5万/μlと低下を認めたが,自己免疫機序での血小板減少が疑われ経過観察となっていた.6カ月後,妊娠8週で当科を初診した際の血小板数は5.3万/μlまで低下していた.その後徐々に血小板減少が進行し,骨髄穿刺にてITPと診断された.ステロイドパルス療法とγグロブリン大量投与を開始したが効果が乏しく,TPO-RA投与,血小板輸血を連日行い,妊娠36週5日に血小板数が6.3万/μlまで上昇した時点で帝王切開術となった.産後は速やかに血小板数の上昇を認めた.今回の症例は難治性でありTPO-RAを使用するまでに至った.難治性ITP合併妊娠では,各治療法の効果を考慮し綿密な治療計画を立て出産時期を検討することが重要である.〔産婦の進歩69(3):288-292,2017(平成29年8月)〕

  • 古形 祐平, 平松 敦, 村山 結美, 船内 祐樹, 仙波 秀峰, 加藤 俊
    2017 年 69 巻 3 号 p. 293-299
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル 認証あり

    卵巣成熟嚢胞性奇形腫の悪性転化はまれであるが,そのなかでも腺癌への悪性転化をきたした報告はきわめて少ない.今回自然破綻を伴う卵巣成熟嚢胞性奇形腫に腺癌への悪性転化を疑った症例を経験したので報告する.症例は46歳,未経妊.心窩部痛,発熱,下痢を主訴に救急診療所を受診,急性腸炎の診断で投薬を受けるも改善せず,その2日後に総合病院内科を受診,腹部CT検査で卵巣腫瘍破裂を疑われ,同日当科へ緊急紹介となった.腹部CT検査で骨盤内に充実部分を伴う8 cm大の嚢胞性腫瘍と,肝周囲まで及ぶ脂肪成分を含む腹水の貯留を認め,卵巣成熟嚢胞性奇形腫の自然破綻と診断し腹腔鏡下右付属器摘出術を施行した.術後病理組織検査では,endometrioid carcinomaとclear cell carcinomaが混在し,腺癌への悪性転化を疑う卵巣成熟嚢胞性奇形腫と診断され,二期的に根治的開腹手術を施行した.最終診断は卵巣癌FIGO stage IC2,pT1c N0 M0の診断で,術後補助化学療法としてTC療法を6コース施行し,術後2年再発なく経過している.〔産婦の進歩69(3):293-299,2017(平成29年8月)〕

  • 久野 育美, 田原 三枝, 福本 まりこ, 山田 詩緒里, 松田 真希子, 英 久仁子, 康 文豪
    2017 年 69 巻 3 号 p. 300-305
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル 認証あり

    症例は28歳の初産婦で既往歴,家族歴に特記事項はない.妊娠5週より当科で周産期管理を行っており,妊娠35週0日に自然経腟分娩となった.産褥経過に問題はなく6日目に退院した.妊娠中の随時血糖値,尿糖,分娩直前の血糖値,産褥4日目の尿糖に異常を認めなかった.産褥23日目に感冒様症状,下腹部痛を認め,翌産褥24日目に症状の増悪と頻呼吸を自覚するようになり当科に救急搬送された.入院後の血糖値は549 mg/dl,動脈血液ガス所見ではpH 6.955,HCO3 1.5 mmol/l,BE-31.8 mmol/lと著しい代謝性アシドーシスを認め,糖尿病性ケトアシドーシスと診断した.インスリン投与,脱水補正等により血糖値は正常化した.血中,尿中Cペプチドは低値であり,膵島関連自己抗体は陰性であった.発症様式から劇症1型糖尿病と考えられたが,HbA1cは9.2%(NGSP値)であり,劇症1型糖尿病の診断基準を満たさなかった.HLAタイピングは妊娠関連劇症1型糖尿病,および急激なβ細胞破壊に関連するものと一致していた.臨床経過やHLAタイピングは劇症1型糖尿病に合致するにもかかわらず,診断基準を満たさなかった症例であり,劇症1型糖尿病やさらに妊娠中の劇症1型糖尿病の病態を解明するうえで重要な症例であると考える.〔産婦の進歩69(3):300-305,2017(平成29年8月)〕

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