産婦人科の進歩
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72 巻, 1 号
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研究
総説
  • 水津 愛, 藤井 剛, 高 一弘, 前田 万里紗, 村上 寛子
    2020 年 72 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル 認証あり

    Xanthogranulomatous inflammation(XGI;黄色肉芽腫性炎症)は,脂質に富む胞体をもつ組織球の集簇を主体とした炎症性肉芽腫の総称で,女性生殖器領域での報告はまれである.われわれは急速に増大し子宮悪性腫瘍との鑑別が困難であったXGIの1例を経験した.症例は78歳,3産.全身倦怠感,嘔気,頭痛のため当院受診.肺炎の診断でタゾバクタム/ピペラシリンを投与された.短期間での子宮の増大を認め,当科を受診した.性器出血や腹痛はなく,帯下は黄濁色であった.子宮内膜細胞診negativeであり,腟分泌物培養検査でKlebsiella pneumoniaeが検出された.MRI検査では子宮角部から右卵巣まで連続する腫瘍性病変を認め,T2強調像で高~低信号が混在,T1強調像で辺縁に淡い高信号を認めた.同部位に著明な拡散制限と一部に強い造影効果を認めた.子宮悪性腫瘍を否定できず,開腹術を施行した.開腹時子宮体部は右子宮付属器と一塊となり,小腸・結腸に強固に癒着していた.洗浄腹水細胞診は陰性であり,腹式単純子宮全摘術,両側子宮付属器切除術,大網部分切除術,小腸部分切除術を施行した.腹水培養検査でタゾバクタム/ピペラシリンに感受性をもつKlebsiella pneumoniaeが検出された.摘出標本では肉眼的に右付属器から子宮体部にかけて黄白色の境界不明瞭な腫瘤を認めた.病理組織学的検査では泡沫組織球やリンパ球,形質細胞,好中球などの炎症細胞の集簇を認め,XGIの診断となった.病変の主座は右付属器であり,同部位から連続して子宮漿膜から筋層,および癒着していた小腸の漿膜側から粘膜下層にかけてもXGIを認めた.XGIは術前の悪性腫瘍との鑑別が困難であり,治療方針もいまだ確立されていないため,さらなる知見の集積が期待される.〔産婦の進歩72(1):1-7,2020(令和2年2月)〕

症例報告
  • 松田 洋子, 森下 紀, 種田 健司, 佐藤 浩, 田口 奈緒, 廣瀬 雅哉
    2020 年 72 巻 1 号 p. 8-13
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル 認証あり

    子宮頸部絨毛腺管癌はまれな子宮頸部腺癌の一亜型である.予後は比較的良好とされているが進行例では予後不良であり,早期診断治療が望まれる.本論文では,経過観察中に妊娠し,妊娠後の生検で子宮頸部上皮内絨毛腺管癌と診断した症例を経験したので報告する.症例は34歳の未産婦で,子宮頸部細胞診high-grade squamous intraepithelial lesion (HSIL)にて当院に紹介となり,コルポスコピー下組織診で病変を認めず経過観察としていた.半年後の受診時には前医ですでに妊娠と診断されていた.子宮頸部細胞診でHSILであったためコルポスコピーを行ったところ,子宮頸管腺領域に2-3mmのわずかに隆起する病変を認め,同部位の生検で絨毛腺管癌と考えられた.妊娠15週4日に子宮頸部円錐切除術と子宮頸管縫縮術を施行した.病理組織診断では子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)3と上皮内絨毛腺管癌を認めた.断端は陰性であった.分娩までは細胞診などで慎重に経過観察を行い,妊娠39週に自然経腟分娩となった.子宮頸部円錐切除術後10カ月が経過し,再発所見は認めていない.妊娠前の他院の細胞診を再検討したところ,一部にごく軽度の異型を呈する腺上皮細胞を認めた.コルポスコピーでのわずかな所見を見逃さず,初期の子宮頸部絨毛腺管癌を診断することができ,子宮頸部円錐切除術を行うことにより妊娠継続が可能となった.一方,妊娠前の子宮頸部細胞診では腺系の異型細胞が指摘されておらず,妊娠中の子宮頸部病変の管理については子宮頸部絨毛腺管癌の存在も念頭に置く必要があると考えられた.〔産婦の進歩72(1):8-13,2020(令和2年2月)〕

  • 山中 彰一郎, 杉浦 敦, 木下 雅仁, 橋口 康弘, 森田 小百合, 伊東 史学, 谷口 真紀子, 喜多 恒和
    2020 年 72 巻 1 号 p. 14-20
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル 認証あり

    子宮肉腫と子宮筋腫を術前に鑑別することは困難である.今回,術前診断に有効と思われるMRI所見を検討し,その有用性を検討した.子宮肉腫を疑う特徴的な所見として,(1) T1強調像での高信号域,(2)腫瘍と周辺組織の境界不明瞭,(3)拡散強調像での高信号,(4)著明な造影効果の4項目に着目し,後方視的に有用性を検討した.2012年4月から2018年7月の間に術前に造影MRI検査を施行し,術前診断が子宮肉腫もしくは子宮筋腫として手術を施行した159例を対象とした.術前診断が子宮肉腫であった症例は17例,術前診断が子宮筋腫であった症例は142例であった.最終診断が子宮肉腫であった症例は10例,子宮筋腫であった症例は149例であった.(1)の所見は子宮肉腫,子宮筋腫それぞれにおいて90.0%(9例/10例),15.4%(23例/149例)で認め,同様に(2)の所見は60.0%(6例/10例),2.0%(3例/149例),(3)の所見は100%(10例/10例),33.6%(50例/149例),(4)の所見は60.0%(6例/10例),18.1%(27例/149例)で認め,子宮肉腫では平均3.1項目,子宮筋腫では平均0.63項目を認めた.造影MRI検査にて周囲への浸潤像を認める症例,または,特徴的所見を3項目以上満たす症例は悪性である可能性が高く,術前診断に有用な所見と考えられた.〔産婦の進歩72(1):14-20,2020(令和2年2月)〕

  • 豊田 進司, 杉浦 敦, 伊東 史学, 谷口 真紀子, 喜多 恒和
    2020 年 72 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル 認証あり

    漿液性子宮内膜上皮内癌(serous endometrial intraepithelial carcinoma, 以下SEIC)は,子宮漿液癌の前駆病変と推定され,核のp53過剰発現が特徴で腹腔播種が多く予後が不良とされる.子宮内膜は菲薄で生検採取量が少なく,SEICの術前診断が困難なことが多い.米国では子宮内膜細胞診検査の精度は低いとされるため,子宮内膜癌のスクリーニング方法として子宮内膜吸引組織診が示されたものの,内膜の薄いSEICの術前診断においては生検では検出されにくい.今回,内膜細胞診が重要な術前診断の役割を示したSEICの3症例を報告する.症例1は59歳で主訴は検診の異常結果で,塗抹法による子宮内膜細胞診で腺癌,内膜生検では子宮内膜異型増殖症であった.子宮内膜異型増殖症を術前診断として腹式単純子宮全摘出術を施行した.術後進行期はpT1aNxM0であった.予後は子宮摘出34カ月後に腹腔内播種のため死亡した.症例2は67歳で主訴は不正性器出血であり,子宮内膜液状細胞診では腺癌の診断であり,p53染色は過剰発現を示した.なお,生検は不十分な検体量であった.SEICを術前診断として腹式単純子宮全摘出術,両側付属器切除と骨盤リンパ節郭清術を施行した.術後進行期はpT1aN0M0であった.術後補助化学療法を施行し,予後は術後26カ月で無病生存である.症例3は72歳で主訴は不正性器出血であり,子宮内膜液状細胞診が腺癌で内膜生検では良性萎縮内膜組織の結果であった.子宮内膜異型増殖症を術前診断とし,腹腔鏡下単純子宮全摘出術を施行した.術後進行期はpT1aNxM0であった.術後補助化学療法を施行し,予後は術後21カ月で無病生存である.以上より,子宮内膜細胞診検査の精度は低いともいわれているものの,内膜の薄いSEICにおいては生検では検出されにくく,細胞診が重要な術前検査と考える.〔産婦の進歩72(1):21-28,2020(令和2年2月)〕

  • 井村 友紀, 馬淵 亜希, 田中 佑輝子, 藁谷 深洋子, 北脇 城
    2020 年 72 巻 1 号 p. 29-33
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル 認証あり

    29歳,1妊0産.妊娠21週頃より腹痛,頻回の下痢下血,経口摂取量の低下を認め,近医内科を受診した.潰瘍性大腸炎(UC)疑いで妊娠23週3日当院消化器内科に紹介受診となり,精査目的に入院,産科併診となった.下部消化管内視鏡検査でUCと診断し,治療を開始した.5-ASA製剤のみでは症状改善みられず,プレドニゾロン(PSL)60mgも追加した.頻回の下血により重症貧血を認め,赤血球製剤の輸血を施行した.PSL開始以降症状は改善傾向でPSLを漸減した.減量後も症状増悪なく寛解維持でき,妊娠32週3日に退院となった.退院後も病勢は安定しており,胎児発育も順調であった.妊娠38週4日に陣痛発来,経腟分娩に至った.母児ともに経過は問題なく,6日目に退院となった.退院後も寛解状態を維持できており,PSLは中止し5-ASA製剤のみでの寛解維持を行っているが,現在産後6カ月で症状の再燃は認めていない.妊娠中期にUCを発症し,消化器内科と連携し内科的治療を行いながら妊娠を継続し,経腟分娩に至った1例を経験した.妊娠中に初発のUCについては今後も研究が必要と考えられるが,本症例のように内科との綿密な連携をはかることで母児ともに良好な経過を得ることができると考える.〔産婦の進歩72(1):29-33,2020(令和2年2月)〕

  • 尹 純奈, 田伏 真理, 梅澤 奈穂, 梶本 恵津子, 清原 裕美子, 大八木 知史, 筒井 建紀
    2020 年 72 巻 1 号 p. 34-39
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル 認証あり

    後屈嵌頓子宮とは,後屈子宮のまま妊娠子宮が増大し,小骨盤腔内に子宮底が嵌頓した病態をいう.18世紀に初めて報告され,分娩前に診断されると周産期予後は良好であるとされるが,産婦人科医がその病態を認識していない場合,分娩まで診断されないこともある.後屈嵌頓子宮の原因の1つに,骨盤内癒着が挙げられる.今回,卵巣子宮内膜症性嚢胞破裂術後に自然妊娠し,妊娠後期に至っても後屈嵌頓子宮が継続し,選択的帝王切開術にて分娩に至った症例を経験したので報告する.症例は35歳1妊0産.既往歴として,右卵巣子宮内膜症性嚢胞の破裂に対し,腹式右卵巣嚢胞摘出術が実施されている.術後3年目より9年間ジエノゲストを内服し,挙児希望のため内服中止後に自然妊娠が成立.妊娠初期には子宮は後屈であり,妊娠19週時の経腟超音波にて後屈嵌頓子宮を認めた.既往歴から子宮内膜症および術後の骨盤内癒着が後屈嵌頓子宮の原因と考え,整復術などの積極的な治療を行わずに経過観察とした.妊娠 33 週時に骨盤 MRI を撮像したところ,妊娠子宮が過度に後屈し,小骨盤内に子宮底部が嵌頓していること,また子宮頸管は著明に進展し,内子宮口は頭側に偏位していることを確認した.妊娠38週0日,硬膜外麻酔併用脊髄クモ膜下麻酔下に選択的帝王切開術を施行.術中超音波検査にて子宮切開部位を確認し,子宮体下部横切開を行った.胎位は横位であり,3656gの男児を骨盤位にて娩出した.術後経過良好で,術後8日目に退院となった.後屈嵌頓子宮は妊娠早期あるいは術前に診断し得た場合,重篤な合併症を回避できる可能性があり,病態の早期認識が重要であると考える.〔産婦の進歩72(1):34-39,2020(令和2年2月)〕

  • 松本 有紀, 小林 弘尚, 中妻 杏子, 砂田 真澄, 佐々木 聖子, 藤本 真理子, 田中 崇洋, 上野 有生
    2020 年 72 巻 1 号 p. 40-45
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル 認証あり

    大腸憩室炎による結腸腟瘻は本邦ではまれであり,治療報告例は少ない.今回われわれは,S状結腸憩室炎による結腸腟瘻に対して腹腔鏡下手術により根治手術を施行したため報告する.症例は53歳,4妊1産(帝王切開),中期中絶を含む3回の人工妊娠中絶歴がある.高度肥満,糖尿病,高血圧を合併しており,約2年前に保存的に治癒したS状結腸憩室炎の既往がある.1年前から続く便状帯下を主訴に近医より当科紹介となった.腟鏡診で腟内に便汁を認めたが瘻孔は同定できなかった.注腸造影検査でS状結腸多発憩室および腟壁への穿通像を認め,瘻孔の存在が示唆された.透視下の下部消化管内視鏡検査で瘻孔部にインジゴカルミンを注入し腟鏡診を行ったところ,腟円蓋付近からインジゴカルミンの漏出を認めたが,肉眼的に瘻孔を同定することはできなかった.以上の経過より,S状結腸腟瘻の診断で消化器外科と合同で腹腔鏡下子宮全摘術,S状結腸切除術を施行した.術中所見では,S状結腸とダグラス窩腹壁との間に強固な癒着を認め,同部位を剥離すると少量の膿汁排出とともに瘻孔が確認された.術後経過は良好で術後8日目に退院となった.結腸腟瘻の原因として分娩時の損傷,子宮全摘術などの手術既往,放射線治療後などが報告されているが,今回の症例では,糖尿病を背景としたS状結腸憩室炎による慢性腹膜炎の波及が腟穿孔を生じ,瘻孔形成に至ったと考えられた.術前に瘻孔部位が特定できなかったことや癒着が高度であったことから手術は容易ではなかったが,腹腔鏡下に根治術を行うことができた.〔産婦の進歩72(1):40-45,2020(令和2年2月)〕

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