産婦人科の進歩
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最新号
産婦人科の進歩第76巻1号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
症例報告
  • 鈴木 裕紀子, 小菊 愛, 夏山 貴博, 森上 聡子, 近田 恵里, 石原 美佐, 成田  萌
    2024 年 76 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2024/02/01
    公開日: 2024/01/29
    ジャーナル 認証あり
    子宮頸管に多く発生する中腎癌(mesonephric carcinoma;MC)に類似する悪性腫瘍として, 中腎様腺癌(mesonephric-like adenocarcinoma;MLA)が2020年度版のWHO分類において新たに卵 巣癌および子宮内膜癌の組織学的分類に追加されたが,その発生母地については明らかになっていない.今回われわれは,MLAがミュラー管由来であることを示唆する卵巣癌の症例を経験したので報告する.症例28歳,卵巣腫瘍合併妊婦として当院に紹介となった.妊娠12週に撮像したMRI画像では囊胞内に壁在結節を認め,妊娠に伴う脱落膜様変化を第一に考えるものの,悪性の可能性も完全には否定できない所見であったため,妊娠初期における手術も提示したが希望されず,画像評価にて慎重に経過観察を行い妊娠継続とした.妊娠40週に妊娠高血圧腎症のコントロールが不良となったため帝王切開術を実施し,その際に右卵巣腫瘍核出術を行った.病理学的には脱落膜化変化を伴う子宮内膜症性囊胞を背景としてMLAと漿液粘液性境界悪性腫瘍が併存する像が認められ,MLAがミュラー管由来であることを示唆する所見であった.画像診断的に,妊娠中の子宮内膜症性囊胞は脱落膜様変化と卵巣癌合併の鑑別が難しく,今回も後方視的には卵巣癌合併の可能性をより強く考慮することが望ましかったかもしれないが,脱落膜様変化を背景としてMLAと漿液粘液性境界悪性腫瘍が混在したことは卵巣癌の鑑別をより困難なものにしたと推察された.今後症例を蓄積することによって,MLAの起源や予後,標準治療の確立が望まれる.〔産婦の進歩76(1):1―7,2024(令和6年2月)〕
  • 嬌 沈, 梅田 杏奈, 大谷 梓沙, 西沢 美奈子 , 安井 悠里, 堀江  稔, 西﨑 孝道, 大西 洋子
    2024 年 76 巻 1 号 p. 8-15
    発行日: 2024/02/01
    公開日: 2024/01/29
    ジャーナル 認証あり
    Fitz-Hugh-Cuitis症候群(Fitz-Hugh-Curtis syndrome;FHCS)は骨盤内腹膜炎(pelvic inflammatory disease;PID)に伴う肝周囲炎で,PIDの12.0―13.8%にみられる.主な病原体は性的接触を介し感染するクラミジアおよび淋菌である.今回,性交歴がないFHCSの1例を経験した.症例は37歳女性,0妊0産.良性卵巣囊腫に対し腹腔鏡下卵巣囊腫摘出術(total laparoscopic-cystectomy;TLC)を実施 し,術中観察では肝周囲にviolin string 状の索状物を伴った著明な線維性癒着を認めた.同所見はFHCSのDefinitive Criteriaである.TLCを行う数カ月前に,本例は臍周囲の腹痛および虫垂炎に伴う右側腹部痛のエピソードがあった.臍周囲の腹痛はPIDによる可能性があるため,本例は非性感染性PIDまたは虫垂炎にFHCSが併発または続発したと考えられる.〔産婦の進歩76(1):8―15,2024(令和6年2月)〕
  • 髙岡 幸, 服部 瑞貴, 宇田 元, 松山 達也, 笹野 智之, 富家 真理, 尾崎 公章, 森山 明宏
    2024 年 76 巻 1 号 p. 16-24
    発行日: 2024/02/01
    公開日: 2024/01/29
    ジャーナル 認証あり
    妊娠18週に巨大絨毛膜下血腫(subchorionic hematoma;SCH)を呈したが,抗凝固療法を継続し正期産で生児を得た抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome;APS)合併妊娠の1例を報告する.36歳7妊0産.連続する3回を含む自然流産5回,異所性妊娠1回.他院における不育症精査でAPSと診断された.体外受精胚移植で妊娠成立し,アスピリン・ヘパリン併用療法を開始したうえで当院に紹介となった.妊娠初期に性器出血やSCHを認めていなかったが,妊娠18週6日に誘因なく多量の出血を認め,緊急入院後に赤血球濃厚液4単位を輸血した.MRIでは子宮内腔の3分の1を覆う巨大SCHを認めた.羊水過少や胎児発育不全は認めなかった.出血のリスクを説明し,アスピリンのみ中止しヘパリンは継続した.その後性器出血は徐々に減じた.妊娠22週に総合周産期母子医療センターへ転院した.血腫はその後縮小・消失し,妊娠38週に骨盤位のため選択的帝王切開で正常発育の児を出産した.胎盤の病理組織学的検査はSCHに矛盾しない所見であった.APS合併妊娠では,アスピリン・ヘパリン併用療法により生児獲得率が上昇する.一方で,抗凝固療法により易出血性となり,SCHを形成する症例を散見する.アスピリンはSCHと関連するが,ヘパリンは関連しなかったとの報告がある.また,アスピリン単独療法とヘパリン単独療法の比較では,ヘパリン単独療法の方が生児獲得率は高いとの報告もあることから,本症例では多量出血を認めた時点でアスピリンを中止し,ヘ パリンのみを継続したところ,最終的に生児を得ることができた.抗凝固療法中のAPS合併妊娠に性器出血やSCHを認めた場合,出血の程度やそれまでの妊娠分娩歴,抗体の種類などに応じて,個々の症例で抗凝固療法を再検討する必要がある.〔産婦の進歩76(1):16―24,2024(令和6年2月)〕
  • 徳重  悠, 岩見 州一郎, 中川 江里子, 芦原 隆仁, 水野 友香子, 福井 希実, 福田 真優, 野々垣 多加史
    2024 年 76 巻 1 号 p. 25-31
    発行日: 2024/02/01
    公開日: 2024/01/29
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    妊娠中の付属器腫瘍手術術式は,腹腔鏡下手術が開腹手術と比して術後疼痛の減少,術中出血量低下や術後入院期間の短縮等のメリットがあるとされる.当院では妊娠中の卵巣腫瘍手術に対し腰椎麻酔下でのGLLA(gassless laparoscopy assisted surgery;吊り上げ式腹腔鏡補助下手術)を用い,全身麻酔や気腹を用いずに低侵襲手術を行ってきた.当院で2015年3月から2023年2月までの8年間に,妊娠中に付属器腫瘍手術を施行した症例は9例であり,GLLAが3例,開腹手術が4例,GLLAで開始し開腹移行とした症例が2例であった.妊娠中に腹腔内手術を施行する最適時期は第2三半期初期とされ,第3三半期には腫大した子宮により術野確保が困難なことが問題となり,開腹手術を要することが多いとされる.GLLA群は手術施行時期が第1,2三半期であり,GLLA→開腹群は第3三半期であった.GLLAは第1,2三半期における腰椎麻酔での妊娠中の卵巣手術術式として,全身麻酔の薬剤や二酸化炭素による気腹の影響を避けられる術式であり,開腹手術と比すると手術切開創の短縮や手術時間短縮が得られるなど利点が多い術式と考えるが,第3三半期の症例や卵巣腫瘍が子宮背側に位置し腹腔内操作が困難な症例,緊急手術などにより腸管の拡張を伴っている症例では,開腹手術を要する場合が多いと考える.ただし,こういった症例でも先にGLLAを施行し腹腔内を観察しておくことで,より低侵襲に手術を施行できる可能性があると考えられた.〔産婦の進歩76(1):25―31,2024(令和6年2 月 )〕
  • 栗谷 佳宏, 久保田 哲, 澤田 真明, 高尾 徹也, 森重 健一郎, 竹村 昌彦
    2024 年 76 巻 1 号 p. 32-37
    発行日: 2024/02/01
    公開日: 2024/01/29
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    早発卵巣不全(premature ovarian insufficiency;POI)は40歳未満の女性において4カ月以上 の無月経および血中FSH(follicle stimulating hormone)値が25 IU/Lを超える病態である.頻度は約 1.1%で原因は多岐にわたり,医原性,感染,酵素欠損,染色体異常,遺伝子変異,自己免疫疾患など がある.低エストラジオール血症と高ゴナドトロピン血症の状態となり,不妊症,骨密度低下,心血 管障害,抑うつなどを生じることがある.臨床の現場では不妊治療に苦慮することは多い.エストロ ゲン補充は血中LH(luteinizing hormone)値とFSH値を低下させて,卵胞の成熟および排卵を促進す ることが報告されている.当センターにおけるエストロゲン療法での卵胞発育率,妊娠率を明らかに することを目的とし,3症例,36周期について検討した.POIの原因は医原性(卵巣子宮内膜症性囊胞 摘出術後2例,乳癌化学療法後1例)であった.結合型エストロゲン製剤(製品名:プレマリン錠0.625 mg)を使用し,経腟超音波断層法検査によって胞状卵胞を認めた場合はゴナドトロピン製剤(製品 名:HMG注射用「フェリング」)300 IU/日を投与して卵巣刺激を行った.卵胞発育まで至ったのは卵 巣子宮内膜症性囊胞摘出術後1例,乳癌化学療法後1例,これら2例の7周期であり,タイミング療法1周 期,人工授精5周期,採卵1周期を実施した.採卵では1個の成熟卵子を得たが体外受精後に分割胚で発 育停止となり,凍結に至らなかった.36周期における卵胞発育率は19.4%であった.妊娠成立例はい なかったが早期に治療を開始すれば卵胞発育は得られやすかった.POIの症例においては積極的に生殖補助医療を勧めてもいいかもしれない.〔産婦の進歩76(1):32―37,2024(令和6年2月)〕
  • 北村 幸子, 上田 匡史, 星本 泰文, 藤田 浩平
    2024 年 76 巻 1 号 p. 38-44
    発行日: 2024/02/01
    公開日: 2024/01/29
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    卵巣癌・卵管癌・腹膜癌はスクリーニング検査方法が確立していないが,人間ドック等で測定 したCA125値の高値を理由に婦人科紹介を受け,対応に苦慮することが少なくない.今回CA125値の 高値を理由に婦人科を受診してから,悪性腫瘍の診断確定までに半年以上を要した2症例を経験した. 症例1は53歳で,妹が45歳で卵巣癌を発症していたが遺伝子検査は施行されていなかった.CA125値の 高値と,造影CT検査で腹膜肥厚と傍大動脈リンパ節腫大を認め婦人科を受診した.経腟超音波断層法, 骨盤部造影MRIで病変を指摘できず,造影CT検査の再検で腹膜肥厚の改善を認めたことから炎症性腹 膜炎として経過観察が選択された.初診から約半年後に造影CT検査で傍大動脈リンパ節腫大が依然認 められたことから施行したPET-CT検査で多発リンパ節転移が疑われ,頚部リンパ節生検の結果,腹 膜癌の診断となった.遺伝子検査でBRCA2病的バリアント保持者であることが判明した.症例2は70 歳で,55歳で乳癌の罹患歴があったが詳細は不明であった.人間ドックで過去4年間に測定したCA125 値は正常値であったが,3桁に上昇を認めたため婦人科を受診した.経腟超音波断層法,造影CT検査 では子宮と両側付属器に病変は指摘できなかった.半年後の造影CT検査でも骨盤部に病変を指摘でき ず,CA125値は低下傾向にあったことから終診となったが,1年後の人間ドックでCA125値の再上昇を 認め,造影CT検査,造影MRI検査で癌性腹膜炎が疑われた.審査腹腔鏡検査を施行したところ,卵管 癌の診断となった.遺伝子検査でBRCA2病的バリアント保持者であることが判明した.一般集団にお けるCA125値を元にしたスクリーニング検査の意義は確立していないが,CA125値の高値を契機とし た産婦人科受診は既往歴,家族歴聴取による卵巣癌の罹患ハイリスク者を拾い上げる機会となる.〔産婦の進歩76(1):38―44,2024年(令和6年2月)〕
  • 別宮 史子, 増田 望穂, 安堂 有希子, 佐藤  浩, 田口 奈緒, 廣瀬 雅哉, 角井 和代
    2024 年 76 巻 1 号 p. 45-53
    発行日: 2024/02/01
    公開日: 2024/01/29
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    巨大卵巣腫瘍は血栓症の合併や腫瘍摘出時の循環動態の変動,術後の再膨張性肺水腫による呼 吸不全など周術期管理に留意が必要である.今回,呼吸や循環動態へ影響を及ぼす可能性のある巨大 卵巣腫瘍を3例経験したので報告する.手術は全症例で局所麻酔下に小開腹し,腫瘍内容液を緩徐に吸 引し循環動態の安定などを確認後,全身麻酔に切り替えた.症例1は52歳,1妊1産.腹部膨満,体動困 難で前医に搬送され,CTで直径約40 cmの卵巣腫瘍を指摘された.呼吸状態悪化し気管挿管され,当 院に転院搬送された.十二指腸潰瘍による高度貧血も合併していた.腫瘍内容液を約20 L吸引し右付 属器摘出術を施行した.術後抜管するも喀痰排出できず気管切開した.また,術後に廃用症候群を発 症し,リハビリ目的に転院した.症例2は44歳,0妊.自覚症状はなく,異常な腹部突出を周囲に指摘 され受診した.MRIで直径約46 cmの右卵巣境界悪性腫瘍の疑いで,合併症は認めなかった.腫瘍内 容液を約20 L吸引し右付属器摘出術を施行した.術中迅速検査で粘液性境界悪性腫瘍のため根治術を 行い,術後経過は良好であった.症例3は86歳,2妊2産.腹部膨満,食思不振で前医に搬送され,肺炎 の診断で入院した.CTで巨大卵巣腫瘍,深部静脈血栓症を指摘され当院に転院搬送された.MRIで直 径約30 cmの右卵巣良性腫瘍の疑いであった.手術時は循環器科でIVCフルターを挿入し,卵巣腫瘍内 容液を約10 L吸引し,両側付属器摘出術を施行した.術後経過は良好でリハビリテーション目的に転 院した.巨大卵巣腫瘍の周術期管理を安全に行うためには,術前の深部静脈血栓症の評価やIVCフィ ルター留置の必要性,手術時の循環動態変動,術後の再膨張性肺水腫や廃用症候群の対応を検討する必要がある.〔産婦の進歩76(1):45―53,2024(令和6年2月)〕
  • 赤田  将, 谷口 茉利子, 田中 稔恵, 繁田 直哉, 清原 裕美子, 大八木 知史, 筒井 建紀
    2024 年 76 巻 1 号 p. 54-59
    発行日: 2024/02/01
    公開日: 2024/01/29
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    臍帯動脈瘤はまれな疾患ではあるが臍帯血流へ影響を与えることによって,胎児死亡を引き起 こしうる病態である.われわれは臍帯の動脈瘤が死因となった可能性がある死産症例を経験した.症 例は30歳の1妊0産で自然妊娠であった.妊娠初期より近医で妊婦健診を行われ,妊娠35週より当院で の周産期管理を開始した.前医,当院での胎児超音波検査で明らかな異常所見はなかった.妊娠39週1 日に陣痛発来し当院を受診したが,胎児心拍を確認できず子宮内胎児死亡と診断した.促進分娩を実 施し,死産児および胎児付属物を娩出した.臍帯は2本の臍帯動脈と1本の臍帯静脈で構成されていた が,臍帯動脈に1.8cm大の腫瘤の形成を認めた.胎盤は580 gで血腫の付着はなく,臍帯は中央付着で あった.児は体重3166 g,身長51.5 cmの男児であり,明らかな外表奇形はなかった.臍帯・胎盤の病 理学的検索を実施したところ,2本の臍帯動脈の一方に動脈瘤を認め,内部に血栓を伴っていた.臍帯 動脈瘤に近接する臍帯静脈内部およびその血流の下流にも血栓を伴っていた.以上の所見から,臍帯 動脈瘤によって隣接する臍帯静脈の血流異常が引き起こされ,子宮内胎児死亡となった可能性が示唆 された.臍帯動脈瘤は18トリソミーや単一臍帯動脈との関連も示唆されているが,本症例は染色体検 査を行っていないものの児に18トリソミーを疑う所見はなく,臍帯も単一臍帯動脈ではなかった.臍 帯動脈瘤を妊娠中に認めた場合の管理方法は確立されていないが,分娩方法に関しては経腟分娩によ る臍帯へのストレスを防ぐため,帝王切開が選択される傾向にある.分娩時期は,妊娠週数や臍帯動 脈瘤の長径,児の他の合併奇形や胎児発育などを総合的に判断して,慎重に決定されることが求められる.〔産婦の進歩76(1):54―59,2024(令和6年2月)〕
  • 清水 優作, 宮武  崇, 松木 貴子, 吉村 明彦, 濱田 真一, 山嵜 正人, 村田 雄二, 米田 玄一郎
    2024 年 76 巻 1 号 p. 60-68
    発行日: 2024/02/01
    公開日: 2024/01/29
    ジャーナル 認証あり
    卵巣成熟囊胞性奇形腫の悪性転化の80%は扁平上皮癌であり,甲状腺乳頭癌への悪性転化はき わめてまれである.今回われわれは,両側卵巣囊腫核出術後の病理診断で甲状腺乳頭癌への悪性転化 を認めた卵巣成熟囊胞性奇形腫の1例を経験したので報告する.症例は26歳,未妊未婚,既往歴,家族 歴には特記事項なし.下腹部痛を主訴に前医を受診し経腟超音波検査,骨盤MRI検査で両側卵巣腫瘍 を認めたため紹介受診となった.血液検査ではCA19―9・SCCの基準値からの上昇を認め,MRI検査で は両側卵巣に10cm大の囊胞性腫瘤が認められ,T2強調像にて高信号と低信号が混在していた.T1強 調像では内部に高信号部分を呈する箇所が認められ,脂肪抑制で高信号は消失し,両側成熟囊胞性奇 形腫と診断された.腹腔鏡下両側卵巣腫瘍摘出術を実施した.両側とも術中被膜破綻した.病理組織 所見にて左卵巣腫瘍から扁平上皮組織とともに甲状腺濾胞様構造の増生と散存性に乳頭状構造を示す 部分を認めた.濾胞上皮は腫大した核を有し,核溝や核内封入体を有するものを認め,成熟囊胞性奇 形腫の甲状腺乳頭癌への悪性転化と診断した.診断後の血中甲状腺ホルモン値は正常範囲内であった. 年齢および挙児の希望を考慮して,再発リスクを説明したうえで妊孕性温存の方針とした.追加術式 として,腹式左付属器摘出術,大網切除術を実施した.術後進行期分類はstageIC1期 pT1cN0M0.追 加切除標本に残存腫瘍は認めず,術後補助化学療法は行わない方針とした.術後17カ月の時点で再発 徴候は認めず,外来観察中である.本症例のように術後病理診断で悪性腫瘍と診断された場合には, 年齢,妊孕性温存の希望,術中所見や残存腫瘍の有無などから治療方針を決定する必要があると考え られる.甲状腺乳頭癌への悪性転化はきわめてまれであり,確立した治療方針はなく,今後さらなる知見が必要である.〔産婦の進歩76(1):60―68,2024(令和6年2月)〕
  • 浅井 麻由, 吉岡 弓子, 水田 結花, 小薗 祐喜, 奥田 亜紀子, 関山 健太郎, 本庄  原, 樋口 壽宏
    2024 年 76 巻 1 号 p. 69-78
    発行日: 2024/02/01
    公開日: 2024/01/29
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    粘液炎症性線維芽細胞肉腫(myxoinflammatory fibroblastic sarcoma;以下MIFSとする)は中 年成人の四肢末端に好発する緩徐発育性の肉腫であり,外陰を原発とした報告例はまだない.今回60 代女性の外陰に生じたMIFSを経験したので報告する.症例は,5年前より徐々に増大する疼痛を伴う 外陰腫瘤を主訴として当院受診となった.陰核右頭側に長径5cm弱の充実性の腫瘤を認め,造影MRI では良性軟部腫瘍が疑われ,確定診断を兼ねた外陰腫瘍摘出術を施行した.病理組織診断は難渋し, 病理形態学的特徴と免疫組織学的検索の結果,他施設へのコンサルテーションも行ったうえで,最終的にMIFSと診断した.切除断端は陽性であり,追加切除の方針とした.残存腫瘤を陰核とともに切除し,外陰欠損部に対して陰部大腿皮弁を用いた再建術を施行した.病理組織診断は初回手術と同様にMIFSであった.現在,再手術後より18カ月が経過しているが,局所再発や遠隔転移は認めていない.MIFSの免疫組織学的特徴,遺伝子的特徴はいくつか報告されているが,いずれも特異的なものではなく診断に難渋した.確定診断のためには,より強力な遺伝学的または免疫組織化学的特徴の特定が待たれる.MIFSは高い局所再発率が報告されており,初発から5年以後の晩期再発も報告されている.一方で,頻度は低いもののリンパ節転移や肺転移例も報告されている.画像検査も含めた長期間のフォローアップが必要である.〔産婦の進歩76(1):69―78,2024(令和6年2月)〕
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