産婦人科の進歩
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75 巻, 3 号
産婦人科の進歩75巻3号
選択された号の論文の29件中1~29を表示しています
原著
  • 繁田 直哉, 松村 有起, 田中 稔恵, 谷口 茉利子, 中尾 恵津子, 清原 裕美子, 大八木 知史, 筒井 建紀
    2023 年 75 巻 3 号 p. 203-211
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル 認証あり
    分娩予定日超過や母体合併症などに対する分娩誘発の際の子宮頸管熟化処置として,薬物療法であるプロスタグランジンE2製剤のジノプロストン腟用剤が2021年4月より本邦でも使用可能である.今回,当院での2020年4月から2021年12月までの使用症例73例(ジノプロストン腟用剤使用群)の使用成績を報告し,使用症例の選択に関して考察する.ジノプロストン腟用剤使用例での経腟分娩率は,初産婦例では,76.7%(46/60),経産婦は100%(13/13)であった.子宮頸管熟化成功例(12時間以内に経腟分娩となるかBishop scoreが7点以上に上昇)は39.7%(29/73)であった.2019年4月から2020年3月までのジノプロストン腟用剤保険収載前の分娩誘発症例(従来群)103例と分娩成績を比較したところ,前期破水を除く初産婦での経腟分娩率に有意差はなかったが使用群で高く(使用群:従来群;74.5%:65.7%,p=0.46),経産婦では両群で100%であり変わらなかった.分娩誘発開始から分娩までの時間は,従来群が使用群よりも初産婦および経産婦共に有意に短かった(p<0.05).初産婦でのジノプロストン腟用剤使用例の中で経腟分娩例と帝王切開例を比較したところ,経腟分娩成功の因子としてジノプロストン腟用剤による陣痛発来が抽出された.ジノプロストン腟用剤留置時間を2時間ごとに区切って子宮頸管熟化成功率をみると,留置8時間未満とそれ以上で成功率に有意差を認めた(p<0.001).以上からジノプロストン腟用剤による分娩誘発は,ジノプロストン腟用剤のみで陣痛発来する症例で経腟分娩成功が期待できる.また上記を踏まえて,今後,経腟分娩率の上昇を期待して初産婦の未破水例での使用や,医療介入の軽減を期待して分娩誘発目的の入院当日にジノプロストン腟用剤を8時間程度留置する使用法等が検討される.〔産婦の進歩75(3):203-211,2023(令和5年8月)〕
  • 濱田 寛子, 濱田 盛史
    2023 年 75 巻 3 号 p. 212-220
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル 認証あり
    当院では,2019年から切迫早産の入院患者26例に頸管ペッサリー(アラビンペッサリー)を使用して治療を行った.この頸管ペッサリーはシリコン製で柔らかく,頸管ペッサリー装着後は痛みを訴えることは少ない.低侵襲で着脱が簡単である.子宮内感染を伴う症例,前期破水を伴う症例,すでに疼痛を伴う規則的な子宮収縮がある症例,性器出血がある場合は使用できない.当院ではTocolysis Index 3点以上で入院加療している.2016年から2018年に切迫早産で入院加療した45例と2019年から2021年に入院加療して頸管ペッサリーを装着した26例を比較検討した.受診時,TocolysisIndex 5点以上で加療不能と判断し,母体搬送した症例は比較検討から除いている.切迫早産での母体搬送症例は,2016年から2018年は5例,2019年から2021年は4例だった.受診時34週から36週未満で,Tocolysisが不可能で当院で分娩に至ったのは,2016年から2018年は7例,2019年から2021年は7例で,これも比較検討から除いている.両群とも母体年齢,Tocolysis Index,入院時子宮頸管長,分娩週数,出生体重,Apgar score,臍帯動脈血pH,分娩時の出血量に有意差はなかった.入院日数は,頸管ペッサリー不装着群は29.78±5.49日で,頸管ペッサリー装着群は9.04±2.88日で大きく差があった.今回,切迫早産症例に頸管ペッサリーを装着して,入院日数を大幅に短縮できた.ほぼ全例に退院後帯下の増量を認めたが,早期の退院が可能となった.退院後は,比較的安静の指示の下,リトドリンの経口投与と抗菌剤腟錠の定期的投与を妊娠36週まで行った.〔産婦の進歩75(3)212-220,2023(令和5年8月)〕
  • 胡 脩平, 安田 立子, 渡邊 隆弘, 徳永 詩音, 城  道久, 村越  誉, 岡田 十三, 吉田 茂樹
    2023 年 75 巻 3 号 p. 221-229
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
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    卵巣腫瘍茎捻転では術中の卵巣壊死所見によって卵巣温存の可否を判定して術式を決定するが,しばしば肉眼的壊死所見と病理学的壊死診断が乖離することが問題となっている.それゆえ,術前検査で病理学的壊死を予測できれば病理学的壊死診断の精度をより向上させ,患者利益に寄与する術式選択ができると考えるが,術前画像検査と病理学的壊死の関連を検討した報告は検索する限り確認できない.そこで今回,術前単純CT検査のCT値と病理学的壊死・出血との関連および術中肉眼的壊死所見と病理学的壊死との関連を検討した.結果は術前CT値から病理学的壊死は予測できなかったが,肉眼的壊死所見がある場合に病理学的出血を91%に認め,病理学的壊死は29%に認めるのみであったことから,卵巣腫瘍茎捻転の術式選択において卵巣温存をさらにはかれる可能性があると考えられた.〔産婦の進歩75(3):221-229,2023(令和5年8月)〕
  • 中川  郁, 浮田 真沙世, 千草 義継, 滝  真奈, 山ノ井 康二, 山口  建, 濵西 潤三, 万代 昌紀
    2023 年 75 巻 3 号 p. 230-237
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
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    [目的]高齢化率の増加に伴い高齢子宮体がん患者は急増しているが,高齢者のがん治療においては併存症などを考慮し医師の経験的な判断により治療強度を縮小することがある.そこで,当院で治療を行った高齢子宮体がん患者の背景や治療内容および治療強度による予後への影響について検討を行うこととした.2009-2018年に初回治療を行った70歳以上の子宮体がん患者を後方視的に検討した.子宮全摘出術,付属器摘出術,骨盤リンパ節郭清術を基本術式とし,再発中・高リスクと推定される症例では傍大動脈リンパ節郭清術を追加し,再発中リスク群以上では術後化学療法を行うことを標準治療と定義した.①手術を縮小した症例,②術後化学療法を省略した症例,③主治療を放射線治療とした症例を縮小治療群と定義した.[結果]対象は84例で,標準治療群は40例,治療縮小群は44例であった.病期や組織型の分布に偏りはなかったが,標準治療群で年齢が若く(p<0.0001),performance status 0-1の患者が多かった(p=0.003).早期癌においては,治療強度による全生存率に差はなかったが,進行癌においては,治療縮小群で予後不良な傾向を認めた.また,組織型の悪性度を加味すると,早期癌では高悪性度の組織型であっても治療強度の生存への影響はなかったが,進行癌においては,高悪性度の組織型では,治療縮小群は有意に予後不良であった(p=0.03).[結論]高齢子宮体がんにおいて,約半数に何らかの縮小治療が行われている実態が明らかとなった.早期癌では組織型の悪性度によらず治療強度が予後に与える影響は少ないことがわかった.今後は,積極的な治療に適合する患者を事前の高齢者機能評価によって,適切に抽出することが課題となってくると考えるが,今回の検討は,高齢者の生活機能をも維持した治療選択において治療適応判断の一助となるものと考える.〔産婦の進歩75(3):241-248,2023(令和5年8月)〕
  • 峯川 亮子, 吉田 貴則, 緒方 洋美, 緒方 誠司
    2023 年 75 巻 3 号 p. 238-248
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
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    子宮卵管造影検査は不妊治療において方針決定に重要な検査であり,当院では利便性および被曝の観点から超音波子宮卵管造影検査(フェムビューTM)を行っている.同検査に伴う痛みの実態を把握することを目的として,2019年1月から2020年3月にフェムビューTMを受検し,次回診察時に同意を得たうえで,アンケート用紙を配布した156名を対象としてアンケート調査を実施した.痛みの強さは0=痛みなし,10=想像できる最大の痛み,とした数値評価スケール(NRS)を用いた.検査中・後の痛みスコアの比較では,ともに予想よりも実際の痛みが少なく,中等度以上(スコア4以上)の痛みの有無で比較したところ,痛みのあった群ではクラミジア感染既往を有意に多く認めた.通過性の所見に基づき3群(両側通過・片側異常・両側異常)で比較した結果,所見の異常と検査中の痛みの強さに相関関係があり,両側通過群でのみ検査中の予想と実際の痛みに有意差を認めた.元来,痛みに強い方であるかとの質問に基づき,3群(強い・普通・弱い)で上記NRSを比較検討したところ,痛みに弱いと答えた人で予想と実際の痛みの間に有意な低下を認めた.鎮痛剤を検査後全員に処方し,27.8%の症例で実際に服用した.実施時に介助以外の看護師の付添いがあった62名のうち57名(92.0%)が,疼痛緩和や安心感から付添いが効果的であったと回答し,付添いの有無での比較でも検査中の痛みが予想よりも低下していることが示された.今回のアンケート結果により,超音波卵管造影検査はイメージに比べて実際の痛みは少ない傾向であることが確認された.実施前の情報提供や鎮痛剤の処方,実施中の付添により不安を和らげるなどの工夫が重要であると考えられた.〔産婦の進歩75(3):230-240,2023(令和5年8月)〕
症例報告
  • 赤坂 往倫範, 三宅龍太 , 岡本 美穂, 大西 俊介, 市川 麻祐子, 成瀬 勝彦, 木村 文則, 赤坂 珠理晃
    2023 年 75 巻 3 号 p. 249-254
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル 認証あり
    症例は32歳,妊娠22週に二絨毛膜二羊膜双胎の一児に口腔内腫瘤が見つかり,上顎体が疑われた.腫瘤は増大傾向であり,妊娠30週に羊水過多をきたした.分娩について,関連各診療科と協議のうえ妊娠34週に選択的帝王切開術を行った.患児は気道確保困難であり,蘇生に反応せず死亡した.腫瘤の病理組織学的検査ではglia細胞の増生などが認められ,脳瘤と診断するのが妥当とされた.胎児期にみられる口腔内腫瘤の多くは,上顎,口蓋,喉咽頭に発生する奇形腫である上顎体であることが多いが,本症例では,病理組織学的検査と出生前の画像検査により脳瘤と診断することが妥当と判断された.口腔前面の腫瘤は,気道閉塞をきたすほど巨大なものでは出生直後より重篤な呼吸障害を呈し死亡する場合がある.上顎体は摘出されればその後の成長発達に支障をきたさないとする報告が多い.しかし本症例のように病理組織学的検査で脳瘤の可能性が指摘される場合は,気道確保に成功したとしても神経学的予後不良の可能性がある.〔産婦の進歩75(3):249-254,2023(令和5年8月)〕
  • 松井  萌, 加藤  徹, 中川 公平, 武田 和哉, 山谷 文乃, 脇本  裕, 福井 淳史, 柴原 浩章
    2023 年 75 巻 3 号 p. 255-261
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル 認証あり
    Asherman症候群の主たる原因は子宮腔内操作である. 弛緩出血に対して行うuterine compression suture(UCS)後にも発症することが報告されている.今回われわれは,UCSを施行後Asherman症候群と診断した症例に対し,外来で細径硬性子宮鏡を用いた子宮腔内癒着剥離術が有用であった症例を経験したので報告する.症例は31歳,2妊0産,自然流産1回.既往歴として,3歳時の臍ヘルニア手術と青色強膜,骨密度低下があり,関節可動域が広く反跳膝と反復関節脱臼があった.家族歴にも妹に先天性股関節脱臼があることから,マルファン症候群等の遺伝性結合組織疾患も疑われていた.里帰り分娩目的に妊娠19週で当院紹介となり,関連各科と相談の上で分娩方式は帝王切開とすることとし,妊娠38週4日に選択的帝王切開術を施行した.児娩出後に弛緩出血を認めたが,子宮体部前後壁を貫いて縦方向に3針のUCSを行うことで子宮を温存し得た.分娩後10カ月で月経は再来したが,分娩前と比べて経血量は減少していた.分娩後11カ月でUCSの影響を評価するため子宮鏡検査を施行したところ,子宮底部中央に中隔様の索状癒着を認めAsherman症候群と診断した.索状部は局所的であり,細径硬性子宮鏡を用いて索状構造を鋏鉗子で切除可能であった.2カ月後に子宮鏡検査で子宮内腔に異常のないことを確認し妊娠許可とした.UCSはAsherman症候群の原因となり得るため,術後の慎重な経過観察が必要である.局所的な子宮腔癒着に対する治療法として,外来細径硬性子宮鏡下手術は低侵襲で有用な手段である.〔産婦の進歩75(3):255-261,2023(令和5年8月)〕
  • 北村 圭広, 貴志 洋平, 北岡 由衣
    2023 年 75 巻 3 号 p. 262-268
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル 認証あり
    子宮筋腫は一般に女性の20-25%に存在するとされるが,巨大化に伴い多彩な変性所見を示し診断を難しくする.今回,術前に卵巣腫瘍と診断した巨大変性子宮広間膜内筋腫のまれな1例を経験したため文献的考察を加え報告する.症例は43歳女性で3妊2産,月経は26日周期で整順かつ随伴症状なく,既往歴はない.約1年前から増悪する腹部膨満感を主訴に当院内科を受診,腹部CT検査で卵巣腫瘍を疑われ当科紹介となった.恥骨から季肋部に至る弾性硬の腫瘤を触れた.腫瘍マーカーの上昇は認めなかった.骨盤部MRI検査では境界悪性以上を疑う左卵巣腫瘍の診断であったため開腹手術を行った.術中所見で腫瘍は子宮広間膜下に発育しており,子宮との連続性を認めた.摘出腫瘍重量は約17 kgに達した.病理組織学的診断は変性平滑筋腫であり,術中所見と合わせて変性子宮広間膜内筋腫と診断した.骨盤内に巨大卵巣腫瘍を疑った際には子宮広間膜内筋腫も鑑別に挙げることが重要である.〔産婦の進歩75(3):262-268,2023年(令和5年8月)〕
  • 川西  勝, 徳山  治, 駿河まどか , 長辻真樹子 , 安部 倫太郎, 村上  誠, 川村 直樹
    2023 年 75 巻 3 号 p. 269-274
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル 認証あり
    Von Willebrand病(VWD)は,von Willebrand因子(VWF)の量的質的な異常により,血小板の機能障害を引き起こし,出血傾向をきたす先天性の凝固異常症である.後天的にVWFの異常をきたす病態は複数あり,後天性von Willebrand症候群(acquired von Willebrand syndrome;aVWS)と総称される.症例は72歳,2妊2産で閉経は53歳.既往歴に半月板損傷,帯状疱疹,下肢静脈瘤がある.X年2月に不正性器出血を自覚し前医を受診し,子宮内膜癌endometrioid carcinoma G1の診断で,当科に紹介となった.術前子宮体癌IA期と診断し,ロボット支援下子宮全摘出術,両側付属器摘出術を施行した.術前検査で凝固系の異常は認めず,術中出血量は少量で止血も問題はなかったが,術後に創部や腟断端部から持続出血を認めたため,血液内科に対診を依頼した.精査の結果,VWFが著明に低値であり,aVWSが疑われた.術後断続的に出血を認めていたため,VWF含有乾燥濃縮人血液凝固第VIII因子製剤を投与し,出血傾向が改善した.今回のエピソード以前に止血困難や出血傾向の既往はなくaVWSと診断した.術後診断は子宮体癌IB期,pT1bNXM0,endometrioid carcinoma G2であった.術後化学療法を4コース施行後,現在までに再発は認めていない.〔産婦の進歩75(3)269-274,2023(令和5年8月)〕
  • 倉橋 寛樹, 甲村 奈緒子, 山下 紗弥, 田中 あすか, 増田 公美, 荻田 和秀, 横井  猛
    2023 年 75 巻 3 号 p. 275-283
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル 認証あり
    妊娠中に発見される卵巣悪性腫瘍の頻度は,1/10,000-50,000分娩と非常にまれである.今回われわれは,妊娠36週に判明した卵巣悪性腫瘍合併妊娠の1例を経験したので報告する.症例は44歳,3妊0産,IVF-ETにより妊娠成立した.前医で妊婦健診を行い,妊娠合併症を認めず経過していたが,妊娠36週の血液検査でLD上昇(904 IU/L)を認め,当センターへ紹介となった.超音波検査で右季肋部に13 cm大の充実性腫瘍,胸腹水およびDouglas窩腫瘤を認めた.画像検査結果より右卵巣由来の悪性腫瘍を疑い,妊娠37週4日に選択的帝王切開術とともに一次的腫瘍減量手術を行った.帝王切開術により3100 gの男児をApgar score 8/9で娩出した.続いて腹腔内を観察したところ,右卵巣は16 cm大に腫大し,子宮漿膜表面,Douglas窩腹膜,右肝表面,左側腹部壁側腹膜に播種を疑う腫瘤を認めた.子宮漿膜表面の播種病変を術中迅速病理検査へ提出したところ腺癌の診断であり,最大径3 cm大までの腹膜播種を含めて肉眼的完全切除を達成した.摘出標本の最終診断は類内膜癌,ⅢC期(pT3cNXM0)であった.術後補助化学療法としてパクリタキセル・カルボプラチン初回投与時に過敏性反応を認めたため,ドセタキセル・カルボプラチン・ベバシズマブ療法に変更し6コース行った.HRD(相同組換え修復異常)検査にてtumor BRCA1病的変異を認め,ベバシズマブとオラパリブ併用の維持療法中である.現在,術後9カ月再発なく経過している.妊娠中の卵巣悪性腫瘍の合併は非常にまれであり,診断自体が困難かつ標準治療が確立していないのが現状である.そのため妊娠週数,推定される組織型,進行期などを踏まえ,患者家族への十分な病状説明のもと,分娩時期や原発巣の治療方針を個々に検討する必要がある.〔産婦の進歩75(3)275-283,2023(令和5年8月)〕
  • 岩田 隆一, 横田 浩美, 黒瀬 苑水, 笹森 博貴, 冨田 純子, 高原 得栄, 河邊 公志, 高田 秀一, 青木 昭和
    2023 年 75 巻 3 号 p. 284-290
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル 認証あり
    Polypoid endometriosisは,画像および臨床経過上悪性腫瘍との鑑別を要するまれな子宮内膜症である.われわれは,子宮腺筋症から発生したようにも考えられる巨大なpolypoid endometriosisの症例を経験した.患者は53歳,G2P2,既往症として39歳時に右卵巣子宮内膜症性囊胞にて右付属器摘出術を施行していた.患者は急速に増大する右下腹部腫瘤を主訴に来院した.内診上,子宮の右側に新生児頭大の腫瘤を認め子宮との可動性は不良であった.MRIで子宮筋層から連続した内部に蜂巣状を呈する腫瘤を認め,CA125も532.9 U/mLと高値で悪性腫瘍の可能性が否めなかった.これに対して,腹式子宮全摘術および左付属器摘出術を施行した.骨盤内は子宮内膜症によると思われる凍結骨盤の状態で,腫瘍は子宮右後壁から連続しており,周囲の組織と強固に癒着していた.摘出標本の病理組織学的検査にて腫瘤の腺管,間質は子宮内膜類似の腺管,間質と考えられ,polypoid endometriosisの診断に至た.Polypoid endometriosisは臨床上,悪性に類似の経過をとることもあるが,臨床経過や画像所見上の特徴を把握することで鑑別診断に挙げることができれば,過剰侵襲を避け,適切な治療の選択につながると考える.〔産婦の進歩75(3):284-290,2023(令和5年8月)〕
  • 加藤 愛理, 隅蔵 智子, 海野 ひかり, 久保田 哲, 松崎 聖子, 岩宮  正, 志岐 保彦, 竹村 昌彦
    2023 年 75 巻 3 号 p. 291-300
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル 認証あり
    子宮筋腫はまれに子宮から分離し他の臓器から栄養血管を得て生着しうることが知られており,Parasitic myomaと称される.医原性のものとしては腹腔鏡下手術における電動モルセレーターを使用した症例で多く報告されているが,今回,電動モルセレーターを使用しなかった腹腔鏡手術後に発症したParasitic myomaを経験した.症例は47歳未妊.4年前に子宮筋腫に対する全腹腔鏡下子宮摘出術(TLH)の既往がある.子宮はメスを用いて腹腔内で切開し腟から体外に搬出した.今回性器出血と水様性帯下を認めて他院を受診し,MRIで骨盤内に9×7×5 cmの筋腫様充実性腫瘤と腟断端に4×2 cmの囊胞状腫瘤を指摘された.当センターに紹介されて,Parasitic myomaの診断でGnRHa療法後に開腹下に摘出術を行った.回盲部裏側の上行結腸間膜に付着した栄養血管を有する5×4×2 cmの腫瘤を認めた.腹膜に覆われ,周囲との癒着は認めなかった.また腟断端に連続して3 cm大の囊腫を認め,内部には粘液貯留を認めた.病理組織診断ではそれぞれ平滑筋腫と肉芽様囊胞であった.Parasitic myomaは元々有茎性漿膜下筋腫が何らかの理由で子宮から脱落し,子宮以外の臓器に生着したものとして知られてきたが,近年腹腔鏡下手術での電動モルセレーター使用後の発症が多数報告されており,その発症頻度は0.12-0.95%と報告されている.一方で電動モルセレーター未使用の術後での発症は限られているが,開腹および腹腔鏡での子宮全摘出術,筋腫核出術,帝王切開術後などで報告されている.筋腫小片が腹腔内に残存する可能性があるという点では,電動モルセレーター以外で細切する場合にもParasitic myomaの発症の危険性は常にあると考え,腹腔内の洗浄と小片の回収を丁寧に行う,細切を回収袋の中で行うなどの工夫は考慮の余地がある.〔産婦の進歩75(3):291-300,2023(令和5年8月)〕
  • 神谷 章子, 金 美娘, 田中 江里子, 城戸 絵里奈, 中江  彩, 角張 玲沙, 三好 ゆかり, 雨宮 京夏
    2023 年 75 巻 3 号 p. 301-307
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル 認証あり
    臍帯卵膜付着は臍帯圧迫されやすく,また,破水や胎動に伴って卵膜上の血管が断裂することがあることも知られ,児の予後は非常に不良である.今回,未破水の状態で緊急帝王切開を行い,臍帯血管断裂を認めた臍帯卵膜付着症例を経験した.症例は28歳,2妊1産.妊娠経過中に特記すべき異常を認めなかった.妊娠40週0日の妊婦健診時の胎児心拍数モニタリングで心拍数基線180 bpm,基線細変動の減少および遅発一過性徐脈を認め胎児機不全と診断し緊急帝王切開術を施行した.血性羊水を認め,胎盤は分葉胎盤で臍帯がマングローブ状に卵膜付着しており臍帯血管の一部断裂を認めた.病理組織検査で絨毛膜羊膜炎の所見も認めた.新生児はHb7.8g/dLと著明な貧血となっていたが,早期娩出と輸血により救命し得た.精査鑑別により,新生児貧血の原因は臍帯血管断裂と考えられた.経過と胎盤所見より,臍帯血管自然断裂の誘因として,卵膜付着した脆弱な血管に血栓形成を伴う臍帯炎が発生したことが示唆された.〔産婦の進歩75(3):301-307,2023(令和5年8月)〕
  • 松村 有起, 田中 稔恵, 繁田 直哉, 清原裕美子 , 大八木 知史
    2023 年 75 巻 3 号 p. 308-314
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル 認証あり
    低Na血症はオンコロジーエマージェンシーのために緊急な対応を必要とすることがある.今回われわれは,再発子宮体癌に対するAP療法中に低Na血症をきたした2例を経験した.症例1は72歳,未妊の女性.再発子宮体癌(StageIA期)に対してAP療法(DXR,CDDP)を施行した.投与翌日より嘔気・嘔吐のため経口摂取困難となり,尿量も著明に低下した.投与3日目に意識障害をきたし,精査を行ったところ低Na血症が原因と考えられた.症例2は69歳,2妊2産.再発子宮体癌(StageIVB期)に対してAP療法を施行した.投与3日目より嘔気が出現,投与5日目には食事摂取不良となり,投与6日目の血液検査で低Na血症を認め,上記症状の原因と考えられた.両者ともに薬剤性抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(syndrome of inappropriate antidiuretic hormone secretion; SIADH)が考えられた.DXRによるSIADHの報告は過去にないので,CDDPが原因と考えた.CDDPを用いた化学療法を実施する際には,SIADHなどによる低Na血症を念頭におき,早期発見,予防に努める必要がある.〔産婦の進歩75(3):308-314,2023(令和5年8月)〕
  • 小西 莉奈, 永昜 洋子, 大門 篤史, 布出 実紗, 澤田 雅美, 杉本 敦子, 藤田 太輔, 大道 正英
    2023 年 75 巻 3 号 p. 315-321
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル 認証あり
    2020年1月に世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを宣言した.妊婦への感染例も多く報告されており,早産や死産,preeclampsia発症のリスクが増大するといわれている.今回,胎児発育不全を呈したCOVID-19陽性の抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome;APS)合併妊娠の1例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.症例は,35歳であり6妊1産(4回流産)であった.自然妊娠で妊娠成立し当院で妊婦健診を行っていた.妊娠前よりAPSと診断しており,バイアスピリン,ヘパリンおよびプレドニゾロン(以下PSL)5 mg/日の投与を行った.妊娠31週時に感冒症状を認めたがSARS-CoV-2 PCR検査は施行しなかった.妊娠32週の妊婦健診では経過良好であり,COVID-19が流行していたため,次回健診を3週間後とした.妊娠35週1日の妊婦健診時に,胎児推定体重-1.9 SD,AFI 2.7 cmと胎児発育不全および羊水過少を認めた.同日,胎児心拍モニタリングで胎児機能不全と診断し,緊急帝王切開術を施行した.術前のSARS-CoV-2 抗原検査は陰性であったが,翌日SARS-CoV-2 PCR陽性と判明し隔離を行った.児は1606g,女児,Apgar score1分値0点,5分値1点,臍帯動脈血ガスpH 7.222,BE -7.0 mmol/L,SARS-CoV-2 PCRは陰性であった.以後,NICU管理となり日齢21で経過良好につき退院となった.今回,COVID-19と胎児発育不全との関連は不明であるが,COVID-19流行中は,病院への来院が感染リスクになるというデメリットがあり,受診を控えがちである.APS合併妊娠のようなハイリスク妊婦は,より厳重な管理が必要であると考えられた.〔産婦の進歩75(3):315-321,2023(令和5年8月)〕
  • 岡嶋 晋加, 村上  誠, 安部 倫太郎, 長辻 真樹子, 川西  勝, 徳山  治, 井上  健, 川村 直樹
    2023 年 75 巻 3 号 p. 322-329
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル 認証あり
    卵巣卵黄囊腫瘍は悪性胚細胞腫瘍の一種で,若年者に発症することが多い.今回,閉経後に上皮性卵巣癌と体細胞由来と考えられる卵巣卵黄囊腫瘍の1例を経験した.症例は62歳,未妊で,造影MRI検査および造影CT検査で右卵巣に一部濃染される充実成分を伴った多房性囊胞性腫瘍および腹膜播種を認め,血中AFP,CA125,CEAの上昇を認めた.腫瘍減量術を行ったが,多数の残存腫瘍を認めた.組織学的には粘液を有する円柱状の異型細胞と淡明な細胞質を有する立方状の異型細胞が増生する領域を認めた.前者はalcian blue(+),SALL4(-),AFP(-),glypican3(-)でありadenocarcinomaと診断した.後者はSALL4(+),AFP(+),glypican3(+),Napsin A(-)でありyolk sac tumorと診断した.術後初回化学療法を開始したが1サイクル目day3時点で全身状態と腎機能低下の増悪を認め治療を中止した.以降腫瘍の急速な増大,病状の進行に伴い術後46日目原病死となった.閉経後であっても上皮性卵巣腫瘍と関連して本疾患が発症する可能性を考慮し,速やかな診断,治療につなげる必要がある.〔産婦の進歩75(3):322-329,2023(令和5年8月)〕
  • 平林 知子, 永昜 洋子, 大門 篤史, 布出 実紗, 澤田 雅美, 杉本 敦子, 藤田 太輔, 大道 正英
    2023 年 75 巻 3 号 p. 330-335
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
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    羊水過少の妊娠中期における頻度は0.5-5.5%であると報告されている1).妊娠中期の羊水過少の原因は前期破水や胎児腎尿路障害などがあり,原因不明の羊水過少に対し人工羊水注入は原因の診断に有用である2).今回われわれは,重度羊水過少症に対して羊水注入行い正期産児を得た1例を経験したので報告する.症例は28歳,2妊0産であり,自然妊娠で妊娠成立した.妊娠19週5日の胎児超音波では胎児発育および羊水量に問題を認めなかった.妊娠23週1日,胎動減少を主訴に前医を受診したところ重度の羊水過少および胎児発育不全と診断され,当院へ搬送となった.原因不明の羊水過少に対し,インフォームドコンセントのうえ,診断目的に羊水注入を行ったところ羊水量は増加し以後減少は認めなかった.以後,胎児心拍モニタリングにおいても改善を認めた.妊娠26週2日に胎児の腹部腫瘤の出現を認め,以後は羊水量および腹部腫瘤ともに著変なく経過した.骨盤位のため妊娠37週0日に選択的帝王切開を行った.児は2257 g(-0.9 SD)で出生した.同日,手術所見より囊胞性胎便性腹膜炎と診断し,緊急開腹術および囊胞ドレナージを施行した.以後,児は経過良好であり術後16日目に退院となった.現在,2歳であり発育は順調である.今回の症例は妊娠中期の重度羊水過少に対し,人工羊水注入を行った.その後の胎児発育は良好であり,羊水量を維持し正期産児を得ることができた.〔産婦の進歩75(3):330-335,2023(令和5年8月)〕
  • 久保田 哲, 栗谷 佳宏, 海野 ひかり, 隅蔵 智子, 森重 健一郎, 松岡 圭子, 竹村 昌彦
    2023 年 75 巻 3 号 p. 336-343
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
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    卵巣境界悪性腫瘍に対して,初回手術で妊孕性温存手術として片側付属器摘出を行った後,温存した卵巣に再発すると残存卵巣摘出が必要となり妊孕性は廃絶する.再手術の際に術中採卵を行ったうえで胚または未受精卵子の凍結を行うことは,妊孕性温存のための1つの手段となりえる.23歳でStage IB(FIGO 2014)の卵巣漿液性境界悪性腫瘍に対して,左付属器摘出術+右卵巣腫瘍摘出術+大網部分切除術による妊孕性温存手術を行った患者が27歳(未婚,0妊)で残存卵巣への再発が強く疑われた.この症例に対して残存付属器摘出術を実施し,同時に術中採卵を行った.術中に卵巣以外の腹腔内病変は認めなかった.調節卵巣刺激は手術日に合わせたランダムスタートアンタゴニスト法とした.採卵は直視下およびエコーガイド下に行い,成熟卵子7個を回収してこれらを全て直ちに凍結保存した.腫瘍を有する卵巣からの採卵が必要になった際に,従来の経腟採卵では腫瘍穿刺および破綻の危険性がある.それを確実に回避するためには術中採卵を行い,エコーガイドを併用することが有用である.境界悪性腫瘍に対する片側付属器摘出術後に対側卵巣への再発による対側付属器摘出が必要となった場合,胚または未受精卵子の凍結保存による妊孕性温存の選択肢がありえることは事前に検討してよい.〔産婦の進歩75(3):336-343,2023(令和5年8月)〕
  • 山内 綱大, 佐藤 幸保, 細部 由佳, 吉田 晶琢, 櫻井 梓, 赤松 巧将, 門元 辰樹, 後藤 真樹
    2023 年 75 巻 3 号 p. 344-351
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
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    閉経前に両側卵巣を摘出した女性のQOLを維持するため,術後ホルモン補充療法(HRT)を行 うことが推奨される.一方で,子宮内膜症のために子宮および両側付属器を摘出された女性に対してHRTを実施すると,内膜症病変の再発やその悪性転化が起こる可能性が報告されている.症例は49歳経産婦.43歳時に両側卵巣子宮内膜症性囊胞に対して子宮全摘出術および両側付属器摘出術を施行した.49歳時に更年期症状を訴えたため,骨盤内に腫瘍性病変がないことを確認したうえでエストロゲン単独療法を開始した.更年期症状は速やかに改善したものの,7カ月後に骨盤内に8 cm大の不整形腫瘤が出現し,MRIで腫瘤内腔に造影効果を伴う壁在結節を認めた.Positron emission tomography/computed tomography(PET/CT)で同部位に有意な18-fluoro-2-deoxy-D-glucose(18FDG)の集積を認め(SUVmax=5.17),悪性腫瘍が強く疑われた.開腹腫瘍摘出術を行ったが,腫瘍は周辺臓器と強固に癒着しており,直腸合併切除を要した.術後病理結果は直腸壁を全層性に浸潤する子宮内膜症で,悪性所見はなかった.閉経前に両側卵巣摘出を受けた女性では,たとえ子宮内膜症の合併・既往があったとしても,術後早期からHRTを導入することがそのQOL維持につながる.子宮内膜症の合併・既往がある女性に対するHRTでは子宮摘出後であっても,術前の子宮内膜症の重症度が高く残存病巣の可能性が高い症例については,子宮内膜症の再発を最小限にするためにエストロゲン・プロゲストーゲン併用療法(EP療法)を選択することも考慮される.ただしEP療法でも子宮内膜症の再発は起こりうるため,厳重な経過観察が必要である.〔産婦の進75(3):344-351,2023(令和5年8月)〕
  • 森島 秀司, 杉野祥代 , 田邉 昌平, 市田 耕太郎, 新谷  潔
    2023 年 75 巻 3 号 p. 352-357
    発行日: 2023/08/02
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル 認証あり
    腹腔鏡下子宮全摘術(TLH)後の腟断端離開は重篤な合併症の1つである.TLH術後3カ月で腹膜炎および腟断端離開を発症し腹腔鏡下に修復し得た症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.症例は40歳,1妊1産,右乳癌手術歴がある.喫煙歴はない.月経困難症と増大傾向にある6 cm大の子宮筋腫に対しTLHを行った.手術時間186分,子宮重量272 g,出血は少量で,術後経過は良好で術後5日目に退院した.術後99日目の最初の性交渉時に少量の出血があった.術後106日目の3回目の性交渉時に下腹部痛があり,その後,発熱と黄色帯下が続くため救急受診した.腟断端右側に一指程度の離開があり膿様液が流出していた.緊急腹腔鏡手術を施行したところ,腹腔内に膿様腹水が多量に貯留していた.腟断端は小腸の癒着で覆われていたため,膀胱内にインジゴカルミン加生理食塩水を注入して膀胱損傷時のマーカーとし,腟から挿入した手指で腟断端離開部を同定しながら小腸と腟断端の癒着を剥離した.炎症により腟断端部は脆弱化しており,壊死組織を除去した後に,緩やかに結節縫合して腟断端を閉鎖した.再手術後6カ月で性交渉を許可し,その後の経過に異常はない.本症例では,最初の性交渉時に腟断端のわずかな損傷が起こり,その部位から細菌感染を発症し上行性に腹膜炎となり,感染増悪とともに腟断端は壊死し脆弱化していき,その後の3回目の性交渉を契機としてついに腟断端離開に至ったと推測される.術後に出血などの症状があった時には,早期に治療介入することにより腟断端離開発症を予防できる可能性が示唆された.〔産婦の進歩75(3):352-357,2023(令和5年8月)〕
  • 井淵誠吾 , 飯藤宰士 , 広田千賀 , 植木 健
    2023 年 75 巻 3 号 p. 358-364
    発行日: 2023/08/02
    公開日: 2023/08/01
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    子宮筋腫茎捻転は比較的まれな疾患である.閉経前に起こることが多く,閉経後の症例報告は少ない.今回,閉経後に子宮筋腫茎捻転を発症し腹腔鏡手術を行った2例を経験したので報告する.症例1は60歳,未妊.下腹部痛を主訴に近医を受診した.腹部超音波断層法で腹腔内腫瘤を指摘され当院紹介受診となった.MRI検査で10 cm大の漿膜下子宮腫瘤が認められ,腹腔鏡手術を施行した.手術所見では有茎性漿膜下腫瘤が720度茎捻転していた.術後病理診断はleiomyomaであった.症例2は70歳,2妊2産.下腹部痛を主訴に近医を受診し,腹部超音波断層法で子宮筋腫が疑われ当院紹介受診となった.造影MRI検査で6 cm大の内部に造影効果のない有茎性漿膜下腫瘤が認められ,茎捻転を疑い緊急手術を行った.手術所見では有茎性腫瘤が360度茎捻転しており,腫瘤は壊死性変化をきたしていた.術後病理診断はleiomyomaであった.閉経後の子宮筋腫茎捻転の報告は少ないが,閉経後女性の急性腹症の鑑別診断の1つとして念頭に置くべきである.〔産婦の進歩75(3):358-364,2023(令和5年8月)〕
  • 直 聖一郎, 恒遠 啓示, 永易 洋子, 藤田 太輔, 山本 和宏, 山田 隆司, 夫  律子, 大道 正英
    2023 年 75 巻 3 号 p. 365-371
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル 認証あり
    卵巣の硬化性間質性腫瘍(sclerosing stromal tumor;SST)は若い女性に発生する希少な卵巣の良性腫瘍である.SSTが妊娠中に発見されることは非常にまれであり,報告は限られている.今回,妊娠中に悪性卵巣腫瘍を疑われ,MRI,超音波検査併用で診断し得た症例について経験したので報告する.症例は30代の初産婦であり,妊娠20週に右側卵巣腫瘍を指摘され紹介となった.経腟超音波検査にて卵巣腫瘤は,約8 cmの充実性で腫瘤の内部に血流が非常に豊富にあった.3Dカラードプラ検査でも腫瘍の内部は血流が豊富であり,拍動係数(pulsatility index;PI),抵抗係数(resistive index ; RI)が非常に低かったため悪性腫瘍が疑われた.採血データでは腫瘍マーカー(CA125,CA19-9,SCC,AFP)は正常範囲内であった.骨盤単純MRI検査では右側卵巣は約7 cmに腫大していた.妊娠中のため造影MRI検査が施行できなかったが,ドプラ検査で腫瘤内に認めた豊富な血流や上記のMRI結果を合わせてSSTを推定する診断となった.病理学的な確定診断を得るために,受診日の翌日に手術加療の方針となった.悪性腫瘍の可能性が否定できない理由から,開腹で右側付属器摘出術を施行した.最終病理診断では浮腫の間質を背景に,異型性のない紡錘形細胞や細胞質が空胞化した円形細胞の増殖がみられSSTと診断した.術後は合併症なく経過し,経腟分娩で生児を出産となった.ドプラ検査やMRI検査で血流が豊富な卵巣腫瘍を認めた場合はSSTの可能性を念頭に置く必要がある.〔産婦の進歩75(3):365-371,2023(令和5年8月)〕
  • 仲尾 有美, 松山 佳奈子, 上田  豊, 吉村 明彦, 濱田 真一, 宮武  崇, 山嵜 正人, 村田 雄二
    2023 年 75 巻 3 号 p. 372-377
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル 認証あり
    子宮体部原発扁平上皮癌はきわめてまれな腫瘍であり,本邦において子宮体癌で占める割合は 0.5%未満とされている.今回われわれは,術前に子宮体部原発扁平上皮癌を疑い,術後確定診断した1例を経験したので報告する.症例は65歳,3妊0産.2年前からの不正性器出血で近医を受診,骨盤MRI画像で子宮体部に2 cm大の不整腫瘤を認め,子宮体癌が疑われ当科紹介となった.子宮内膜組織診で角化を伴う扁平上皮癌を認めており,画像検査上子宮頸部に明らかな腫瘍性病変がないことから,子宮体部原発の扁平上皮癌を疑った.腫瘤は内子宮口と近接しており,準広汎子宮全摘術,両側付属器摘出術および骨盤内リンパ節郭清を実施した.摘出子宮の肉眼所見では体下部から内腔に突出する隆起性病変を認めた.組織所見では角化を伴う扁平上皮癌を認め,腺癌成分は含まなかった.腫瘍と子宮頸部扁平上皮との間に連続性はなく,子宮頸部に病変は認めないことから,子宮体部原発扁平上皮癌と最終診断した.腫瘍組織にはp16の高発現が見られた.pT1aN0 Stage IAであり,術後追加治療は実施せず,現在術後1年半再発なく経過している.子宮体部原発扁平上皮癌は疾患の希少性から術前診断に苦慮する場合があり,診断や治療法の確立を目指して今後さらなる症例の蓄積が必要である.〔産婦の進歩75(3):372-377,2023(令和5年8月)〕
  • 仲尾 有美, 吉村 明彦, 松山 佳奈子, 松木 貴子, 濵田真一 , 宮武  崇, 山嵜 正人, 村田 雄二
    2023 年 75 巻 3 号 p. 378-383
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル 認証あり
    稀少部位子宮内膜症における腹壁子宮内膜症は非常にまれな疾患である.発症には産婦人科手術が関連するといわれており,手術瘢痕部に発生する場合が多い.また瘢痕部に発生する内膜症は,皮膚または皮下脂肪層に発生することが多いとされている.今回われわれは,帝王切開術後瘢痕部から離れた腹直筋内に内膜症を発症した症例を経験したので報告する.症例は32歳,2妊2産.24歳時に妊娠38週で分娩停止のため緊急帝王切開術,27歳時に妊娠29週に子宮内感染のため緊急帝王切開術を施行した既往がある.子宮内感染の補助診断として羊水検査を実施していた.月経困難症状はなく内膜症の既往はない.30歳ごろから臍下右側の腫瘤感と,月経に一致した同部の疼痛を自覚し,32歳時に当院紹介となった.臍下右側に可動性不良の弾性腫瘤を触知し,MRI検査で腫瘤に一致した腹直筋内に,T2高信号域の囊胞を伴う境界明瞭な2 cm大の腫瘤を認め,腹壁子宮内膜症が疑われた.ジエノゲストを6カ月間投与したが,腫瘤の大きさに変化はなく,疼痛の増強を認めたため,外科的切除を実施した.病理検査で腹直筋内に出血を伴う子宮内膜組織を認め,切除断端に病変組織は認めなかった.術後再発予防目的にジエノゲストを2年間内服し,明らかな再発徴候や合併症なく経過た.〔産婦の進歩75(3):378-383,2023(令和5年8月)〕
  • 砂田真澄 , 山ノ井康二 , 奥宮明日香 , 滝真奈 , 堀江昭史 , 濵西潤三 , 山口建 , 万代昌紀
    2023 年 75 巻 3 号 p. 384-390
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル 認証あり
    Varicella zoster virus(VZV)感染症は一般的なものだが,まれに重症化して内臓播種性水痘 帯状疱疹ウイルス感染(visceral disseminated varicella zoster virus infection;VD-VZV)を起こす.今回われわれは,絨毛癌に対する多剤化学療法中に発症したVD-VZVの1例を経験したので報告する. 症例は46歳.絨毛癌に対しEMA/CO療法を7クール行うも不応となり,EP/EMA療法に変更して4クール施行.5クール目の入院時に強い心窩部痛の訴えがあった(治療開始から9カ月経過).第4病日の血液検査と画像検査にて,膵逸脱酵素上昇と膵頭部の炎症性腫大を認めて特発性急性膵炎と診断,治療を開始した.第6病日に発熱と全身に及ぶ水疱病変が出現した.皮膚病変VZV抗原検査で陽性を認め,再活性化によるVD-VZVと診断,アシクロビル投与を開始した.その後全身状態は徐々に改善し,画像所見・血液所見も改善を認めた.第23病日に化学療法を再開,感染の悪化がなかったため第26病日 にアシクロビル投与を終了した.その後多剤化学療法を継続し現時点で14カ月経過しているが,VZVの再活性化は認めていない.固形癌治療中に発症したVD-VZVの報告はきわめてまれであるが,とくに絨毛癌のように長期間多剤化学療法を要する場合は,そのリスクがあると考えられる.VD-VZVの初期は皮膚症状が出現せず腹痛から始まるため,その診断は時に難しいものとなる.強い腹痛の際はVD-VZVも鑑別診断に挙げ,精査を速やかに行うことが重要と考えられた.〔産婦の進歩75(3):384-390,2023(令和5年8月)〕
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