変形性股関節症 (osteoarthritis of the hip: hip OA)は歩容異常が顕著に出現するため,歩容改善を目標に理学療法が展開されることは多い.その治療対象には運動器が挙げられることが一般的であり,“注意”という中枢神経系での処理は,あまり着眼されていないのが現状である.本研究では, hip OA患者の二重課題( dual-task)下での歩行特性を検討した.対象は hip OA患者 52名,比較対象のための健常者 29名とした.自由歩行( single-task)と serial-7sを行いながらの歩行( dual-task)を指示し,その際の体幹加速度を測定し, RMSを求め,体幹動揺の指標とした.さらに single-taskから dual-taskへの ΔRMSを求め, serial-7sに関しては坐位から歩行への Δserial-7sを求め,これらの健常者との比較,および患者間での関係を検討した.結果,健常者との比較では, hip OA患者で ΔRMS,Δserial-7sともに有意に増加し,患者間の関係では重回帰分析によって股関節機能が同等であれば ΔRMSが増大すれば Δserial-7sが減少し, ΔRMSが減少すれば Δserial-7sが増大することが示唆された.これらのことより, hip OA患者では“注意”という中枢神経系の処理機構が歩容に大きな影響を及ぼすことが示唆された.