疫学研究および動物実験から高い塩分にもかかわらず味噌の摂取は血圧を上昇させず, 肥満防止等の代謝異常改善作用があることが示されている。最近, 味噌・醤油中に通常の短鎖ペプチドの他, アミノ末端のAsp残基がL/D-α/β型となった異性化ペプチド, アミノ基を持たないピログルタミルペプチド, 環状ジペプチドであるジケトピペラジンの存在が見出された。味噌の水抽出物をラットに投与したところ, 通常のペプチドは小腸管腔内でも血中でも有意に増加しなかったが, いくつかの修飾ペプチドは管腔内のみならず, 血中でも有意に増加した。pyroGlu-Leuは回腸からのホスト抗菌ペプチドの分泌を増加させ高脂肪食誘発の腸内細菌叢の乱れを改善し, 高脂肪食誘発の肥満も抑制した。また血中で増加した修飾ペプチドはアンジオテンシン転換酵素1を阻害した。これらの生体利用能の高い修飾ペプチドの機能が味噌の有益な機能を担っていることが示唆される。
食酢は調味料として欠かせないものであるが, 食品として使用されてきただけでなく, 医療目的にも利用されてきた。米酢のうち, 茶褐色の黒酢は壺を用いる伝統的な方法もしくは, 屋内の設備を用いて製造される。前者に相当する壺造り黒酢は陶器の壺に蒸し米, 地下水, 米麹を充てんし, 屋外で製造される。経験的に知られていた壺造り黒酢の健康効果は科学的にも明らかにされてきた。食酢の成分は共通の主成分である酢酸以外は原料や製法の違いにより大きく違っている。壺造り黒酢は, 他の食酢と比較して窒素化合物の含有量が多く, 逆に炭水化物は非常に少ない。窒素化合物の大部分はアミノ酸である。さらに壺造り黒酢にはアミノ酸が結合したペプチドやアミノ酸誘導体などが含有されている。酢酸以外に微量の乳酸などの有機酸も含有されており, これらの有機酸は壺造り黒酢特有の香味などに影響している。壺造り黒酢にはポリフェノール, 脂肪酸類も含まれていて, これらの微量に含まれる物質が機能性をもたらすと考えられている。壺造り黒酢の機能性には酢酸が有する血圧低下作用や疲労回復効果だけでなく, 抗酸化効果, 脂質・糖質代謝や循環器機能の改善, 抗腫瘍効果などの機能が報告されている。本総説ではおもに壺造り黒酢の生理機能を紹介する。
発酵乳は古代より利用されてきた食品であり, 保存性や嗜好性に加え, 近年では健康機能性に注目が集まっている。発酵乳とは, 乳を乳酸菌あるいは酵母で発酵させたものであり, 特にヨーグルトは代表例である。発酵に関与する乳酸菌には多様な種類が存在し, その中には整腸作用, 免疫調節作用, 血圧降下作用, 睡眠の質の改善など, 多様な機能性を持つものがある。乳酸菌の機能性は菌株ごとに異なるため, 個別の評価が必要である。近年では, 植物由来の代替ミルクを用いた発酵食品も開発されており, ヴィーガンやアレルギー対応, 環境配慮の観点からも注目されている。本総説では, 発酵乳および乳酸菌の基本とその機能性を概説し, 植物性ミルクの発酵についても紹介する。
納豆は大豆を原料とする日本の伝統的な発酵食品であり, 発酵過程で生成されるナットウキナーゼやビタミンK2などの代謝産物によって, さまざまな健康効果が期待されている。日本国内で実施されたコホート研究では, 納豆の摂取が心血管疾患, 骨粗鬆症, 認知症などの疾病リスクの低下と関連することが報告されている。我々はこれまでに, 認知機能低下を呈するマウスモデルを用いた試験により, 納豆および納豆由来ペプチドの摂取が認知機能に及ぼす影響を検討してきた。本稿では, 発酵過程における成分変化や機能性成分の生理作用に加え, 認知機能への影響に関する研究成果を紹介し, 納豆の摂取が健康維持や疾病予防に寄与する可能性について概説する。