日本臨床外科医学会雑誌
Online ISSN : 2189-2075
Print ISSN : 0386-9776
ISSN-L : 0386-9776
57 巻, 6 号
選択された号の論文の46件中1~46を表示しています
  • 松野 正紀, 佐竹 克介
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1287-1294
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
  • 麦谷 達郎, 谷口 弘穀, 高田 敦, 増山 守, 田中 宏樹, 小山 拡史, 保島 匡和, 高橋 俊雄
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1295-1301
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肝切除術71例を対象に自己血輸血法の有用性を検討した.貯血式自己血輸血を44例に施行した.術前貯血量は, rh-エリスロポェチン併用群で550g(平均値)とrh-エリスロポエチン非併用群より有意(p<0.05)に多く,採血後のHct値の低下はrh-エリスロポエチン非併用群と同程度に留まった.術中輸血法に関しrh-エリスロポエチン非併用自己血, rh-エリスロポエチン併用自己血,同種血,無輸血に分類し,術後の変化を検討した.術後Hct値は,同種輸血群で回復遅延を認め,第14病日に29.4%と他の3群より低値であった.術後総ビリルビン値,血中肝逸脱酵素は,同種輸血群で第1病日に他の3群に比し有意な上昇を認めた.自己血輸血の2群は無輸血群と同様の経過を示し,総ビリルビン値の上昇も1.20と軽度で,肝切除術には同種輸血は避け,自己血輪血が望ましいと考えられた.また,術前貧血の無い場合,術前貯血量800g, 術中出血量1,500g以下が同種輸血なしに自己血輪血のみで行える指標になると考えられた.
  • 久保 正二, 金沢 景繁, 木下 博明, 広橋 一裕, 田中 宏, 塚本 忠司, 三上 慎一
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1302-1305
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肝切除術前後にInterleukin-6 (IL-6)や急性相反応物質を測定,それらに対する予防投与抗生剤の影響を検討した.対象は肝部分切除施行12例で,これらをFlomoxef 4g/日, 3日間投与群(FMOX群6例)とImipenem/Cilastatin 1g/日, 3日間投与群(IPM/CS群6例)に分類した.これら症例においてIL-6,顆粒球エラスターゼ, Pancreatic secretory trypsin inhibitor (PSTI), CRPとフィブリノーゲンを測定した.両群間の年齢,術前肝機能検査値,手術時間および術中出血量に差はなかった.いずれの値も術後上昇したが, IPM/CS群のそれらはFMOX群に比較し低値であった.したがって術後のサイトカインなどの変動は抗生剤によっても影響を受け,この結果は重症感染症に対する抗生剤選択の一つの指標を与えると考えられた.
  • 山本 尚人, 宮内 充, 藤田 昌宏, 渡辺 一男, 川上 義弘, 中島 伸之
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1306-1311
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳癌術後,超大量補助化学療法の適応としての至適リンパ節転移個数を予後より求めた.対象は1973年から1992年までに当センターで根治術施行したStage IVを除く原発性乳癌998例中n1β以上であった182例である.リンパ節転移個数(n(+)個数)に順次cut off値を設けそれ以上,未満の2群間で10年健存率の有意差検定を行った.単変量解析の結果, cut off値11個で2群間に最も強い有意差を認め, n(+)個数11個以上群の10年健存率は28.5%で, n(+)個数10個以下群の56.2%より有意に予後不良であった(p<0.0001).さらに,腋窩のみn(+)症例126例に限り検討しても同様の結果であった.又, {7〓n(+) 個数〓10}群の中で硬癌の10年健存率は32.3%で, n(+)11個以上群と同様に不良であった. n(+)11個以上,又はn(+)10個以下でもn(+)7個以上で硬癌の場合は再発率が約70%と非常に高く,今後予後向上のため術後補助療法として超大量化学療法の必要性が示唆された.
  • 足立 孝, 横山 正義, 板岡 俊成, 大貫 恭正, 小山 邦広, 舘林 孝幸, 桑田 裕美, 新田 澄郎
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1312-1315
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Cabrol手術において,冠動脈吻合用の人工血管遠位側にDacron製スカートを付けて冠動脈と縫合固定する方法を考案し1987年より施行してきた.スカートを付けた本法5例とスカートを付けない原法で行つた1例について,術中術後管理および術後早期・遠隔期の成績を検討した.
    手術時間・体外循環時間,出血量は本法で610±150 (mean±SD), 320±90分と2,840±1,420mlであった.原法の1例ではそれぞれ810, 310分および, 5,000mlであった.いずれの因子も原法と比較し差は認めなかった.スカートを付けた本法で行った5例中3例が術後の再開胸や仮性動脈瘤の発生もなく,最長8年9カ月(平均7年5カ月)の現在も良好に経過している.
  • 奈良 智之, 吉野 邦英, 河野 辰幸, 遠藤 光夫
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1316-1320
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1985年から1993年の過去9年間に当教室で切除再開された胸部食道癌症例476例のうち,連絡可能な約300例に退院後の様子についてアンケート調査を行った.回答の得られた163例を対象に食道癌術後のQOLについて検討した.
    全163例でみると,食事摂取状況,生活状態,栄養状態(体重変化)はほぼ満足できる結果であった.身体症状では消化器症状が主で,とくに排ガスが多い,という訴えが最も多かった.
    術式別に検討すると,早期の症例が多いこともあるが,総じて後縦隔再建例で術後のQOLが良好と思われた.経過年数別の検討では,身体症状は経過年数にあまり関係ないが食事摂取状況,生活状態は術後1年以降,体重変化は術後2年以降改善し,いずれも術後5年以降で最も良かった.
  • 楯川 幸弘, 金廣 裕道, 中島 祥介, 藤井 久男, 中野 博重, 豊坂 昭弘
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1321-1328
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    過去15年間に当科にて手術した小児虫垂炎95症例について,手術所見から非穿孔例,穿孔例に分類し,年齢を5歳以下, 6~15歳の2群に分け検討した.
    非穿孔例は59例,穿孔例は36例. 6~15歳の穿孔例33%に対し, 5歳以下の穿孔例58%と多かった.全体の主訴は腹痛が最も多かったが,穿孔例では嘔気・嘔吐の率が高くなり,特に5歳以下では腹痛より多くみられた.腹部所見では,筋緊張・筋性防御だけが穿孔例に有意に多く認められたが, 5歳以下では所見が捉え難く有意差はなかった.白血球数は, 5歳以下では穿孔例で少なく,逆に6~15歳では穿孔例で多かった.体温は,穿孔例で有意に高かった.穿孔例で48時間以内に手術した症例23%, 48時間以後63%と増加し,時間の経過につれ穿孔をおこしやすいと考えられた. 48時間以内の手術例で, 5歳以下の穿孔例50%は6~15歳の穿孔例17%より多い傾向がみられ,病態の進行が早いと考えられた.
  • 高瀬 眞, 炭山 嘉伸, 長尾 二郎, 斉田 芳久, 原 砂織
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1329-1334
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    左側大腸癌イレウスに対する治療方針としてQOLの向上のために使用した金属ステント挿入について検討した.
    過去10年間の教室での大腸癌術後合併症は,イレウス症例の術後創感染が待期手術で23.5%,緊急手術で41.9%であった.金属ステント挿入症例では1例もなく,また術後縫合不全は,イレウス症例待期手術で11.8%,緊急手術で16.1%であった.一方金属ステント挿入症例では, 1例6.7%みられた.また金属ステント挿入後バリウムによる注腸にて1例に多発癌が発見された.さらにQOLの低下を招く人工肛門造設は,金属ステント挿入症例で4例26.7%みられた.しかし宿便に伴う人工肛門造設はなかった.
    以上,金属ステント挿入により術後合併症は減少し,また宿便に伴う人工肛門の造設は行われなくなった.つまり金属ステント挿入により患者のQOLは明らかに向上した.
  • 棚田 稔, 横山 伸二, 高嶋 成光
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1335-1339
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1985年1月より1994年12月までの10年間に当院外科で切除した胆管細胞癌13例を対象とし,その進展様式と対策について検討した.
    病理組織学的所見では,肝内転移を4例,門脈侵襲を12例,静脈侵襲を7例に認めた.リンパ節転移は5例に認められ,その部位は,肝十二指腸間膜内リンパ節,総肝動脈幹リンパ節,大動脈周囲リンパ節であった.手術は2区域以上の肝切除を行ったが,切除断端癌浸潤陽性例が4例あった.再発は, 11例に認め,初回再発部位は膵頭後部リンパ節,大動脈周囲リンパ節と,残肝の頻度が高かった.予後は, 1, 3, 5年生存率85%, 34%, 25%と不良であった.
    以上より,胆管細胞癌は,血行性,リンパ行性転移の頻度が高く,手術に際しては充分な安全域をもった肝切除と広範なリンパ節郭清が必要である.
  • 上村 佳央, 西岡 清訓, 宮田 博志, 青木 太郎, 請井 敏定, 宮内 啓輔, 寺島 毅, 金子 正, 水谷 澄夫, 岡川 和弘
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1340-1344
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    下肢静脈瘤硬化療法における代表的な硬化剤2剤の治療効果を検討する目的で,硬化療法(静脈結紮を併用)施行後6カ月間のfollow upを行った症例を対象に, 3%ポリドカノール治療群(P群), 14.6%高張食塩水治療群(C群)に分け治療成績を比較検討した.静脈瘤の残存・再発率はP群5.9%に対しC群38.1%と有意に高率で, 14.6%高張食塩水無効症例が多かった.一方,合併症に関してはC群に特記すべきものはなかったのに対し, P群で29.4%に早期合併症(高度血栓性静脈炎,軽度深部静脈血栓症)が発症し,また6カ月後においても硬化部の硬結,色素沈着の程度が強かった.しかしながら,自覚症状の消失率は80%以上で治療に対する患者の満足度も高かった.
    以上より, 3%ポリドカノールを使用する場合は合併症および後遺症の発生率を抑えること, 14.6%高張食塩水では硬化作用を改善させる工夫が重要であると考えられた.
  • 漆原 直人, 中川 賀清, 川嶋 健, 藤本 誠, 栗原 信, 江口 直宏
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1345-1348
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    新生児期に発症する先天性梨状窩瘻は比較的稀である.今回,増大する左頸部腫瘤により呼吸障害を呈した新生児梨状窩瘻を経験したので報告する.症例は生後5日,女児.生後4日目より発熱と頸部腫瘤を認め,生後5日目には呼吸障害も出現し当科入院となった.腫瘤は空気をいれた嚢胞で,穿刺造影および気管硬性鏡検査で嚢胞と梨状窩との交通が確認された.またHelical CTを施行し3-dimensional CT像を作成し嚢胞形態を確認した.生後20日に先天性梨状窩瘻の診断で手術を施行した.嚢胞は上方では気管食道の後方まで伸び,下方では甲状腺左葉に強固に癒着していた.さらに甲状腺に続く索状物も認め甲状腺を一部合併切除した.嚢胞後面から伸びた瘻孔を確認し梨状窩に向かって剥離を進め瘻孔を完全切除した.単層から重層扁平上皮で覆われた嚢胞で壁周囲に甲状腺組織と副甲状腺組織を認めた.新生児例では呼吸障害をきたすものが多く,また嚢胞内に空気を含むことが多いのが特徴である.
  • 斉藤 真悟, 小林 展章, 河田 直海, 植田 規史
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1349-1351
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回われわれは肉腫様組織を伴った病理組織上極めて稀な乳癌の1例を経験したので報告する.症例は60歳女性,左乳房の腫瘤を主訴に当院を受診した.腫瘤は左乳房のCD領域にあり,約3.5cm大であった.手術は定型的乳房切断術を施行した.病理組織学的所見では上皮性の悪性組織というよりは非上皮性の肉腫を思わせる所見であったが,病理組織形態上からは乳癌を否定することは困難で,分化の悪い肉腫様変化をとった乳癌と最終的に診断された.このような乳癌の報告は少なく非常に興味深い症例であると考えられる.
  • 前川 博, 渡部 脩, 片見 厚夫, 岡原 仁志
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1352-1355
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は57歳,女性. 1993年11月より左頬部から左耳介にかけて発赤腫脹が出現. 1994年7月より左乳房の発赤腫脹も出現した.左耳介および左乳房の皮膚生検を施行したところ,印環細胞癌の皮膚転移と診断された.左乳房は全体に発赤と硬化が著明で,左腋窩にリンパ節を触知した.乳房X線撮影検査,超音波検査,胸壁CT検査から左炎症性乳癌が疑われた.消化管,婦人科系を検査したが,他に原発巣を疑わせる病変はみられなかった. 9月16日単純乳房切除術を施行,術後は化学療法を施行したが術後3カ月で死亡した.乳腺内には1.0cm×0.3cm×0.3cm大の粘液癌の病巣を認め,乳腺から真皮にいたる広範囲に印環細胞の脈管侵襲を認めた.自験例は印環細胞癌による炎症性乳癌で,また皮膚転移も皮下への脈管侵襲によるという例はこれまで調べた範囲でみなかった.また乳腺原発の印環細胞癌は本邦ではまれであり,文献的考察を加えて報告した.
  • 西村 秀紀, 町田 恵美, 村上 真基, 林 賢, 宗像 康博, 矢満田 健
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1356-1359
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は66歳の女性で, 30歳頃に食道憩室を指摘され,そのころより肺炎様症状を繰り返し,飲水時に咳嗽が出現することもあった.食道内視鏡検査で門歯より約30cmの右前壁に食道憩室を認め,その底部に瘻孔が存在し,造影剤を注入すると右中間幹気管支が描出されたため,食道憩室を伴う食道気管支瘻と診断された.後側方切開,第6肋間開胸下に瘻管切除を施行したが,肺切除は行わなかった.術後経過は良好で,飲水後の咳嗽は消失した.
  • 筑波 貴与根, 斎藤 貴生, 掛谷 和俊, 内野 眞也
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1360-1364
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    食道癌切除例で術前照射非施行の82例のうち絶対非治癒切除例(CO)および術中臓器転移(M1)の症例を除き,術後3カ月前後までのごく早期に再発の見られた3症例個々に対し,臨床病理学的検討,並びに核DNA量,hst-1癌遺伝子増幅, p53異常蛋白発現を検索し,その悪性度について多角的に検討した. 3例とも術後4カ月以内に肝臓,肺骨など血行性に臓器再発を認め1年以内に癌死したが,いずれも術中所見で頸部や上縦隔などの遠隔リンパ節に転移が認められており,超進行癌症例であった.核DNA量は3症例すべてAneuploid例で,hst-1遺伝子増幅およびp53異常蛋白の発現も,全例に認められた.以上より,食道癌において核DNA量の変化や癌遺伝子異常は,生物学的悪性度を反映していると推察され,臨床病理学的因子と共に総合的に悪性度を検討することにより,個々の症例に見合った治療方針選択の一助になりうる可能性が示唆された.
  • 河崎 幹雄, 佐藤 滋, 高木 融, 黒田 直樹, 逢坂 由昭, 高木 真人, 中山 俊, 田村 和彦, 星野 澄人, 青木 達哉, 小柳 ...
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1365-1370
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は66歳男性.平成5年1月食道癌にて非開胸食道抜去,後縦隔経路頸部食道胃管吻合術を施行した.平成6年10月網膜前膜症にて入院,術後3日目に突然胸痛を生じた.血液検査上,白血球21,600 103/μl, CRP 11.3mg/dlと上昇し,胸部X線写真にて両側胸水貯留,心陰影左外側に空気像を認めた.胸部CTにおいては両側胸水貯留および心嚢内に気腫像が認められた.この原因として再建胃管の心嚢穿通を考え,上部消化管内視鏡施行したところ胃管前庭部前壁に瘻孔を伴う潰瘍を認め,上部消化管造影にて心嚢腔が描出され再建胃管の穿通性潰瘍による胃心膜瘻と診断した.鎮痛・鎮痛剤,抗生剤,グロブリン製剤および抗潰瘍剤の全身投与にて保存的に治療し発症より約3カ月後,上部消化管内視鏡および上部消化管造影にて穿通孔が閉鎖したことを確認し食事を開始した.食道癌術後再建胃管の潰瘍性病変で胃心膜瘻を呈した症例は珍しく,しかも保存的療法にて治癒した症例は極めて稀で,文献的考察を加え報告する.
  • 宗行 毅, 玉置 久雄, 三田 孝行, 河村 勝弘, 大橋 直樹, 湯浅 浩行, 石原 明徳
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1371-1373
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は60歳,男性.下血を主訴としショック状態にて入院.胃内視鏡検査で胃体上部大彎側後壁に不整形の潰瘍を伴った粘膜下腫瘍様の小隆起を認めた.内視鏡的に一時止血し得たが再出血し,緊急手術を施行した.胃体部全体に多数の出血性びらんと体上部後壁に潰瘍を伴った母指頭大の腫瘤を認め,さらにトライツ靱帯より約50cm肛門側の空腸に母指頭大の硬結を触知した為,胃全摘術,小腸部分切除術を施行した.摘出標本では体上部後壁に2.5×1.5cm大の腫瘤を認めその中心には5mm大の潰瘍があり潰瘍底には血管が露出していた.病理組織学的所見では胃および小腸の病変はともにアニサキスによる好酸球性肉芽腫で,胃体上部の肉芽腫にはU1-IIの潰瘍を伴っており,潰瘍底には直径2mmの異常な太い血管が露出,破綻していた.本症例はアニサキスの胃壁内迷入によって形成された好酸球性肉芽腫により太い動脈が挙上されDieulafoy潰瘍を発生し大量出血をきたした稀な1例と考えられたので報告した.
  • 中島 仁一, 渡部 高昌, 仲川 昌之, 佐道 三郎, 土井 新也, 向川 智英, 高濱 靖, 池田 直也, 本郷 三郎, 宮本 洋二, 松 ...
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1374-1378
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃原発性非ホジキンリンパ腫を合併した胃サルコイドーシスの1例を経験した.
    症例は40歳,男性.平成3年6月,上腹部不快感,嘔気,嘔吐を主訴に当院受診.多発性胃潰瘍の診断にて経過観察されていた.平成6年11月,潰瘍部の生検が行われ,胃悪性リンパ腫と診断されたため,当科にて胃全摘術およびD2リンパ節郭清を施行した.病理組織学的に,胃のほぼ全域と所属リンパ節より,ラングハンス型巨細胞を伴う類上皮細胞からなるサルコイド結節を認め,また胃体部の3カ所から粘膜下層に浸潤する悪性リンパ腫を認めた.サルコイドーシスと悪性リンパ腫の合併は,欧米では比較的多く報告されているが,本邦では少なく,また両疾患が胃に限局されており極めて稀な症例と考えられた.
  • 小林 聡, 山口 晃弘, 磯谷 正敏, 堀 明洋, 金 祐鎬, 前田 敦行, 高野 学, 山口 竜三, 河合 正己
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1379-1383
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    われわれは門脈塞栓をきたした進行胃癌の1例を経験したので報告する.症例は74歳,男性.腹部膨満感,食欲不振で発症し近医で胃癌と診断され当院紹介となった.精査したところ, CT, USで胃癌の門脈塞栓と診断され手術を施行した.腫瘍から左冠状静脈,脾静脈を介し門脈まで腫瘍栓がつながっていた.手術は胃全摘,膵体尾部脾合併切除,門脈切開腫瘍摘出術,胆嚢摘出術を施行した.
    門脈腫瘍塞栓をきたした胃癌は,本邦で29例しか報告されておらず稀である.画像診断の進歩により近年報告例が増加してきたが,いずれも進行胃癌や肝転移をしている例が多く予後不良である.しかし門脈合併切除により5年生存し得た症例も報告されており,積極的な拡大手術により予後の改善につながると考えられた.
  • 西土井 英昭, 石黒 稔, 工藤 浩史, 村上 敏, 正木 忠夫, 谷口 遥
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1384-1387
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃の腺扁平上皮癌は現在までに160例報告されているが,早期のものはきわめてまれである.われわれは胃角部に発生した早期腺扁平上皮癌の1例を経験したので報告する.症例は80歳男性で,健康診断のための胃透視にて異常を指摘され当科に紹介となった.諸検査の結果,早期胃癌と診断され,胃部分切除術が行われた.病変は0.8×0.4cmのIIc型を呈し,病理組織学的に腺扁平上皮癌と診断された.文献的には早期の胃腺扁平上皮癌は自験例を含めて6例にすぎず,腺扁平上皮癌の発生を考える上からもきわめて貴重な症例と考えられた.
  • 田中 穣, 高橋 宏明, 矢嶋 幸浩, 岡村 一則, 小坂 篤, 水本 龍二
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1388-1392
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    再生不良性貧血に合併した十二指腸潰瘍穿孔の1例を報告する.症例は23歳女性. 1993年3月から再生不良性貧血の診断で他院にてステロイド投与を受けていた. 1995年1月21日心窩部痛を主訴に来院した.理学的所見では腹部は板状硬で上腹部に圧痛および反跳痛を認めた.血液検査では白血球数2,900/mm3,赤血球数135万/mm3,血小板数2.3万/mm3と汎血球減少症を示していた.腹部単純X線でfree airを認めず,腹部USおよびCTでも液体貯留像はみられなかったが,ステロイド投与の既往と腹部理学的所見から消化性潰瘍穿孔を疑い,赤血球および血小板輸血後に緊急手術を施行した.手術所見では十二指腸潰瘍穿孔を認め,穿孔部を縫合閉鎖し大網被覆を行った.術後血小板輸血26単位とG-CSF投与を行ったところ,白血球数および血小板数は良好に回復し術後経過は順調であった.再生不良性貧血の周術期管理には出血と感染症対策が重要であり,血小板輸血とG-CSF投与が有用と考えられた.
  • 堀口 淳, 澤田 富男, 小川 哲史, 棚橋 美文, 池谷 俊郎, 塩崎 秀郎, 饗場 庄一, 伊藤 秀明, 大和田 進, 飯野 佑一, 森 ...
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1393-1397
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    穿孔をきたした小腸Crohn病の1例を報告する.患者は24歳の女性で,腹痛と発熱を主訴に当院を受診した.保存的に治療したが症状は改善せず,腹部レントゲンで小腸ガスの増加を認めた.腹部超音波検査で多量の液体貯留を認め, Douglas窩穿刺で膿性腹水を吸引したため,腹膜炎の診断で緊急手術を行った,腹腔内には大量の膿性腹水があり,回腸末端から約2m口側の回腸が穿孔していた.狭窄部位はなかった.穿孔部を含めて約1mの小腸を切除した.肉眼的に縦走潰瘍と粘膜隆起を認め,病理組織学的にCrohn病の診断を得た. Crohn病における小腸穿孔は比較的稀なことから文献的考察を加えて報告した.
  • 小森 康司, 中井 堯雄, 松浦 豊, 河野 弘, 佐藤 達郎, 吉原 秀明, 西垣 美保, 浜野 浩一, 石川 和夫, 横山 真也
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1398-1402
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は, 52歳の男性.腹痛,下痢を主訴として当院を受診した.右下腹部に小児手拳大の腫瘤を認め,同部に圧痛を認めた.腹部超音波検査にてpseudo kidney sign, multiple layer signを呈し,腹部CT検査では同心円状の層状構造を認めた.ガストログラフィンによる注腸検査にて回盲部の腸重積症と診断し,手術を施行.手術所見では,回盲弁より38cm口側の小腸腫瘍を先進部とした回腸回腸結腸型(5筒性順行性)腸重積症であった.用手的に重積を解除した後,小腸腫瘍摘出術を施行した. 4×3×1.5cm大の亜有茎性のポリープであり,表面は分葉結節状であった.病理組織学的には腺管絨毛腺腫と診断された.
    回腸腺腫は極めて稀な疾患であり,文献的報告例で記載が明らかなものは7例をみるにすぎない.自験例を含む8例の本邦集計成績を中心に文献的考察を加えた.
  • 小関 啓太, 八重樫 寛治, 今城 眞人, 西村 久嗣, 星野 直明, 三島 好雄
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1403-1406
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    59歳の男性で,腹痛を主訴に来院した.腹部単純X線所見などから腸閉塞と診断し,イレウスチューブを挿入して減圧したが,症状は改善しなかった.並行して進めた腹部超音波, CT検査にて膀胱上部正中で腹壁に接した約5cmの嚢胞状の腫瘤が存在し,内腔には腸管を認めた.腹腔内へ開口した嚢胞への小腸の嵌入による腸閉塞の診断にて開腹したところ,膀胱上部に尿膜管嚢胞が存在し,その一部が穿破して嚢胞内へ回腸が嵌入を起こし絞扼されていた.嚢胞と絞扼回腸の切除術を施行した.術後経過良好で軽快退院した.尿膜管嚢胞の合併症は,感染がほとんどであり,腸閉塞を合併することはまれと考えられ,尿膜管嚢胞との炎症性の癒着性腸閉塞の報告が散見されるのみである.腸閉塞の原因が尿管膜嚢胞内への嵌入であった症例は極めて稀で,検索した限り自験例が1例目と思われる.
  • 石川 真, 宮田 知幸, 関野 昌宏
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1407-1410
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    小腸原発の悪性腫瘍は稀であり,術前に診断することは非常に困難であるといわれている.今回われわれは,術前診断可能であった回腸悪性リンパ腫と,穿孔によって発症した回腸悪性リンパ腫の2例を経験したので報告する.症例1は, 63歳,女性,右下腹部痛を主訴に来院し,注腸検査を施行され,回腸末端に陰影欠損を指摘され,大腸内視鏡検査の結果悪性リンパ腫と診断された.症例2は, 71歳,女性,急激な右下腹部痛を主訴に来院し,筋性防禦が見られたために緊急手術を施行した.開腹すると回腸に腫瘤を認め,同部位が穿孔しており汎発性腹膜炎の状態を呈していた.病理組織診で悪性リンパ腫と診断された.小腸原発悪性リンパ腫は腸閉塞や穿孔など急性腹症で開腹されはじめて診断されることが少なくなく,今回の診断可能症例は非常に稀な症例であると思われる.
  • 池田 剛, 須崎 真, 酒井 秀精, 町支 秀樹, 梅田 一清
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1411-1415
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回,われわれは術前腹部超音波検査,および腹部CT検査により診断し得た盲腸癌による腸重積症を経験したので報告する.
    患者は90歳女性. 2日前より間欠的な右下腹部痛が出現し,増強したため入院した.右下腹部に可動性のある手拳大の腫瘤を触れ,圧痛を認めた.血液検査では,軽度の貧血とCA19-9が110U/mlと上昇を認める以外は正常であった.腹部US検査,腹部CT検査で右下腹部の腫瘤に一致して,多層構造を有する類円形の腫瘤像を認め,右上行結腸の腸重積と診断し,腰椎麻酔下に緊急手術を施行した.開腹すると上行結腸で回腸結腸型の腸重積を認め,重積状態のまま回盲部切除術, D2郭清を施行した.腫瘍は盲腸に存在する4×3cmの潰瘍浸潤型で,組織所見は高分化腺癌で201リンパ節に転移を認め, se, n1(+), P0, H0, M(-), stage IIIaであった.術後経過は良好で, 1年8カ月後の現在再発の兆候なく健在である.
  • 関根 庸, 岡原 仁志, 溝渕 昇, 長濱 徴, 榊原 宣
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1416-1420
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    盲腸癌術後にきわめてまれな孤立性脾転移を認めた症例を経験したので報告する.症例は58歳,男性. 1993年12月,盲腸癌,イレウスにて右半結腸切除術(P0, H0, ss, n1(+), M(-), stage IIIa,高分化腺癌)を施行した.外来通院中,腫瘍マーカーのCA19-9が著明に上昇したため, 1994年10月,腹部CT検査を施行した.脾臓に長径9cm大の境界明瞭な腫瘍像を認め,同年11月当院入院となった.腹部超音波検査では脾臓内に内部不均一な類円形のエコー像を認めた.血管造影X線検査では同部位にavascular areaとして描出された.以上より転移性脾腫瘍を疑い手術を施行した.病理組織学的には盲腸癌と同じであり,他に癌再発の所見を認めなかったことより,盲腸癌術後の孤立性脾転移と診断した.
  • 中崎 隆行, 飛永 晃二, 武冨 勝郎, 君野 孝二, 仲宗根 朝紀, 岸川 正大
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1421-1424
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は21歳女性.肛門部痛,肛門部腫瘤を主訴として来院した.肛門部後壁に小手拳大の硬い腫瘍を触知した.注腸検査,大腸内視鏡検査にて直腸下部の半球状の隆起性病変を認めた. CT検査で直腸後方に径6cmの腫瘍を認めた.腫瘍摘出術を行い,病理組繊学的所見では横紋筋肉腫,胞巣型であった. 7カ月後腫瘍の再発のため腹会陰式直腸切断術を施行した.
    術後局所再発,大動脈周囲リンパ節が出現し化学療法,放射線療法行うも効果なく,術後1年1カ月で死亡した.肛門部横紋筋肉腫は現在まで12例が報告されているにすぎず,極めて稀な疾患と考えられ報告した.
  • 津田 一郎, 伊藤 毅, 宇根 良衛, 波江野 力, 小池 雅彦, 生田 圭司, 内野 純一
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1425-1428
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    鈍的肝損傷後の胆道出血と遷延する発熱はbilomaの感染を強く示唆し,予後不良の兆候と考えられる.著者らはこのような病態を有する救命例を経験した.
    症例: 23歳,男性.オートバイ事故受傷,日本外傷研究会分類のIIIa型と診断され肝縫合術にて止血した.術後第5病日CTにてbilomaを認め,その後増大傾向と発熱の継続をみたため第25病日経皮的ドレナージを施行した.第31病日に腹痛と共に吐血,下血,およびドレナージチューブからの出血を認め,胆道出血と診断し保存的に経過観察していたが軽快せず,第68病日に肝右葉切除を施行した.再手術後経過良好にて,第107病日に退院した.
    肝損傷に伴うbilomaが感染し,増大傾向を認めるときは,胆道出血の可能性が大である.かかる病態に対し,根治的には肝切除が適応となると考えられる.
  • 松村 有美子, 大平 雅一, 鄭 容錫, 須浪 毅, 小坂 博久, 坂手 洋二, 康 純明, 池原 照幸, 山下 隆史, 曽和 融生, 久村 ...
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1429-1435
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/20
    ジャーナル フリー
    57歳女性.平成6年7月,下痢および腹痛にて近医受診.血液検査にて異常を指摘され,当院血液内科受診.急性前骨髄球性白血病(Acute Promyelocytic Leukemia; APL)と診断され, BHAC-DMP療法を施行された. 1クール終了時より38~39°Cの発熱およびCRPの高値が持続し,腹部US, CT検査にて多発性脾膿瘍ならびに胆石症と診断され11月9日当科へ転科となった. 11月25日脾摘術および胆摘術を施行し,肝被膜部にも脾と同様の小結節を散在性に認めたため,小結節部を含めた肝生検を施行した.摘出脾重量は260g,割面では直径5~10mmの小膿瘍が多発しており,病理学的には真菌性脾膿瘍と診断された.また肝の生検組織像も同様であった.術後,抗真菌剤の投与を行い, 10日目に退院となった.白血病の化学療法中に発症した真菌性肝脾膿瘍に対する治療法は一定したものはなく,脾摘および抗真菌剤の全身投与が有効であった1例を経験したので,文献的考察を加え報告した.
  • 岡田 節雄, 前田 肇, 前場 隆志, 若林 久男, 濱本 勲
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1436-1439
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/20
    ジャーナル フリー
    エリスロポエチン産生肝細胞癌の1例を経験したので報告する.症例は55歳の男性で,腹痛を主訴に来院し,腹部超音波検査で肝に直径約10cmの腫瘤を指摘されて緊急入院した.入院時の血液検査で, RBC 787×104/mm3, Hb17.8g/dlと赤血球増多症を認め,血清のエリスロポエチン値は875(正常値: 8-36)mU/mlと高値であった.精査の結果,エリスロポエチン産生肝細胞癌と診断した.手術の45日前に右肝動脈に経カテーテル的動脈塞栓術を施行し,術17日前に門脈右枝に経皮経肝的門脈塞栓術を施行した後,肝右三区域切除術を施行した.術後29日目には,血清のエリスロポエチン値は31mU/mlと正常値となり,術後51日目に退院した.
  • 木村 雅美, 平田 公一, 三神 俊彦, 及川 郁雄, 向谷 充宏, 伝野 隆一
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1440-1444
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    慢性膵炎に起因する腹痛は,しばしば内科的治療に抵抗を示し,外科治療を要することがある.教室では1990年まで膵頭部に病変の限局した慢性膵炎症例(主として主膵管拡張非著明例)に対し,膵頭十二指腸切除術を適応としてきた.一方, 1980年にBegerらが十二指腸温存膵頭切除術(以下DpPHR)を報告して以来, Begerの手技に工夫を加えたDpPHRが報告されてきた.教室でも膵頭部に限局した慢性膵炎にDpPHRを施行し,良好な成績を得た代表的な2例を報告する.術式としては, Kocher授動術を施行せず,また後上膵十二指腸動脈,胆管を温存し,再建法としてRoux-Y型膵空腸吻合法を行った. 2例目の経験より,合目的的な血管温存が可能であれば, Kocher授動術も許容されるのではないかと示唆された. DpPHRは手技上の論議がなおあるが,消化管の持つ本来の機能をより温存し得る術式として解剖,生理学的に明らかになることが期待される.
  • 田中 俊行, 大和田 進, 中村 正治, 川島 吉之, 小川 哲史, 佐藤 啓宏, 綿貫 啓, 倉林 良幸, 福里 利夫, 森下 靖雄
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1445-1449
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    発生母地である近接膵正常組織の不完全切除のために早期に再発し,再切除し得た巨房型巨大膵粘液性嚢胞腺腫の1例を経験したので報告する.症例は47歳の女性.平成4年5月,他院で膵尾部の巨大嚢腫の切除術を受けた.腫瘍の大きさは31×26×15cmで,病理組織診断は粘液性嚢胞腺腫であった.術後3カ月の腹部CT検査で膵体尾部に2cm大の嚢腫を認め, 12カ月後には7×9cmの多房性嚢腫に増大した. ERCPや腹部CT検査で,膵粘液性嚢胞腺腫の再発または悪性転化と診断した.平成6年5月,膵体尾部切除,脾・横行結腸合併切除およびリンパ節郭清術を行った.切除標本は,透明な粘液を有する10×8×6cmの多房性嚢胞であった.病理組織診断は粘液性嚢胞腺腫であった.
  • 望月 文朗, 冨岡 一幸, 窪田 信行, 川上 新仁郎, 佐藤 史井, 小張 淑男
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1450-1453
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は76歳男性.腰痛および黄疸を主訴に来院.腹部CT上,膵頭部に嚢胞状の腫瘤を認め,膵頭部癌の診断で膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的には,大部分が扁平上皮癌で占められ,一部に腺癌が混在しており,診断は膵腺扁平上皮癌であった.膵腺扁平上皮癌は稀であり,本邦報告53例について検討した結果,画像診断でCT上の嚢胞性病変と,血管造影上のhypervascularityがあげられ,これが膵腺扁平上皮癌の特徴ではないかと考えられた.
  • 花岡 俊仁, 今治 玲助, 鈴木 栄治, 長井 一信, 石田 数逸, 河島 浩二, 三原 康生
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1454-1458
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    妊娠初期に腸重積をきたして発症した,回腸子宮内膜症の1例を経験したので報告する.
    症例は, 35歳の女性で腹痛,嘔吐,下痢を主訴に当院を受診した.下腹部に腫瘤を触知し,腹部超音波およびCT検査にてtarget-like appearanceを認め,腸重積によるイレウスと診断し緊急手術を施行した.回腸末端部より70cmの部に腫瘤を認め,回腸切除術を施行した.摘出標本にて,漿膜面は軽度陥凹し赤色の小嚢胞を認め,粘膜面は平滑で粘膜下腫瘤を認めた.病理組織学的検索にて,回腸子宮内膜症と診断し,妊娠初期に一致した子宮内膜腺の分泌像と間質の脱落膜化が認められた.回腸子宮内膜症が腸重積をきたし,妊娠中に発症したことより,きわめて稀な1例と考えられた.妊娠による発症予防効果が認められなかったことより,腸管子宮内膜症は器質的な硬結,瘢痕性狭窄が進行すると,ホルモン療法では効果が不十分で,外科的切除が必要であると考えられた.
  • 楠 信也, 石田 武, 西村 良彦, 大野 耕一, 脇田 和幸, 藤原 英利, 山口 俊昌, 細井 順, 辻本 嘉助, 光野 孝雄, 武田 ...
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1459-1462
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腸閉塞および急性虫垂炎をきたした回腸子宮内膜症ならびに虫垂子宮内膜症を経験したので報告する.症例1は46歳の女性. 2年前より嘔吐・腹痛などの腸閉塞症状を繰り返し,今回も同様の症状にて来院.精査にて回腸末端部の狭窄を認め回盲部切除術を施行した.症例2は44歳の女性.嘔吐・腹痛にて来院.開腹手術.穿孔性虫垂炎に対し虫垂切除術を施行した.症例1, 2ともに術後の病理診断で消化管の筋層内に腺管構造を認め,回腸および虫垂子宮内膜症と診断した.腸管子宮内膜症のうち,本邦では自験例を含め回腸子宮内膜症は14例,虫垂子宮内膜症は11例と少なく,他の疾患との鑑別が困難だが,成熟期の女性の消化器症状には本症も念頭におく必要があると思われた.
  • 大川 卓也, 関 誠, 上野 雅資, 猪狩 功遺, 柳沢 昭夫
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1463-1468
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    小腸間膜原発神経鞘腫の極めて稀な1例を経験したので報告する.症例は65歳,女性,無症状で検診目的に近医受診し腹部超音波にて発見された.腹部超音波, CT, 腹部血管造影等の術前画像診断にて,空腸間膜に中心部嚢胞化を伴う境界比較的明瞭な腫瘤を認め,神経鞘腫を最も疑って腫瘍核出術を施行した.腫瘍のの大きさは65×50×45mm, 弾性硬,重量85gで,厚さ3mmの被膜内に黄白色の充実性部分とその中央に嚢胞化部分を認めた.組織学的にはAntoni A型とB型の混在型の神経鞘腫であった.
    腸間膜腫瘍の術前診断は困難なことが多いが,本症例のように画像上腫瘤の中心に嚢胞化を認めた場合,神経鞘腫も念頭において手術に臨むべきであると思われた.
  • 松山 智一, 吉住 豊, 森崎 善久, 杉浦 芳章, 寺畑 信太郎, 田中 勧
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1469-1475
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腸間膜線維腫症は稀な腫瘍でGardner症候群との合併や,手術,外傷,妊娠などとの関連が報告されている.われわれは胃癌術後29カ月に発見された腸間膜線維腫症の1例を経験したので報告する.
    症例は56歳男性. 1990年4月6日,幽門部早期胃癌にて幽門側胃切除, Billroth-II法再建術を行った. 1992年9月,左上腹部にクルミ大で可動性良好な腫瘤を触知し,胃癌の限局性腹膜再発を疑い開腹術を施行した. Billroth-II法吻合部から肛門側約60cmの空腸腸間膜に,クルミ大弾性硬の腫瘤を認め,腸間膜根部のリンパ節も示指頭大に腫脹していた.腫大リンパ節を含めて空腸を約1m切除した.病理所見では腫瘍は紡錘型の細胞からなり束状に増殖し,空腸粘膜下層まで浸潤していた.免疫染色ではビメンチン陽性, S-100陰性であった.以上より腸間膜線維腫症と診断した.術後約26カ月経過した現在も再発なく健在である.
  • 三宅 秀則, 西 正晴, 成岡 純二, 余喜多 史郎, 田代 征記, 広瀬 隆則
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1476-1480
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    後腹膜に発生した気管支性嚢胞は非常に稀な疾患である.今回われわれは本邦5例目にあたると考えられる1例を経験したので報告する.症例は56歳,女性で心窩部の鈍痛を主訴として来院した.腹部CT, MRI,エコー検査等で後腹膜腫瘍の診断のもと,摘出術を施行した.摘出した腫瘤は10×7.5×3.5cm大で,内部に灰白色で粘稠な160mlの内容液を認めた.組織学的には嚢胞壁は多列円柱上皮で被われ,一部に気管支腺様の腺構造,および島状の軟骨組織が認められ,気管支性嚢胞と診断された.術後経過は良好で術後15日目に退院し,術後1年の現在再発の兆候はない.
  • 駒田 尚直, 土屋 英人, 今村 敦, 奥野 雅史, 權 雅憲, 上辻 章二, 上山 泰男
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1481-1486
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    難治性の術後ストレス潰瘍による穿孔性腹膜炎に対し内視鏡下にフィブリン糊を注入し,潰瘍穿孔部が閉鎖し治癒し得た1例を経験したので報告する.症例は47歳,男性.膵体部癌にて膵尾側亜全摘を施行したが,術後9日目に汎発性腹膜炎となり膵断端部縫合不全の診断にて再開腹しドレナージ術を施行した.術後の上部消化管造影にてストレス潰瘍穿孔性腹膜炎と診断され,保存的治療にて潰瘍穿孔部の閉鎖を見ず,腹腔内膿瘍の形成とエンドトキシンの高値が持続するため,内視鏡下にカテーテルを用いて穿孔部をフィブリン糊にて被覆したところ,潰瘍が治癒し軽快退院した.難治性潰瘍の修復に内視鏡によるフィブリン糊の局所的使用は有効と考えられた.
  • 金田 好和, 西 健太郎, 杉 和郎, 守田 信義, 江里 健輔
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1487-1489
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    上腹壁ヘルニアは本邦では比較的まれな疾患である.われわれは連続携行式腹膜灌流法(以下CAPD)施行中に上腹壁ヘルニアを発症した1例を経験したので報告する.
    症例は62歳の男性でCAPDで惹起されたと思われる腹膜炎の治療目的で当院に入院した. 2年前より慢性腎不全に対し, CAPDを施行中であるが, CAPD開始時より上腹部の腫瘤に気付いていた.腫瘤に対する不快感があるため手術を施行した.局所麻酔下,腫瘤上に正中切開をおき,ヘルニアを露出した.ヘルニア門は直径3mmで臍より約3cm頭側の白線上に存在した.ヘルニア嚢は腹膜でヘルニア内容は認められなかった.ヘルニア嚢の高位結紮およびヘルニア門の縫縮を施行した.
    術後経過は順調であった.
  • 塩見 尚礼, 渡辺 英二郎, 梅田 朋子, 小玉 正智, 森川 暁, 岡本 行功, 川崎 恭, 中尾 宰子, 田北 武彦
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1490-1493
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    術前診断しえた急性虫垂炎を合併した右側閉鎖孔ヘルニアの1例を報告した.症例は85歳女性,右下腹部痛にて来院した.虫垂炎疑いにて術前検査を施行中,右大腿内側痛を訴え,骨盤部CTにて急性虫垂炎を合併した右閉鎖孔ヘルニアと診断し,手術を行った.術後経過は良好で1年2カ月を経過した現在,再発の兆候を認めない.
    閉鎖孔ヘルニアは1927年から1994年までの間に387例の文献報告を見るが, 1992年から1994年までの3年間とそれ以前とを比較すると骨盤CT検査により術前診断率が向上し,死亡率の低下を認めている.
    本症例は高齢者が多く,全身状態の良好なうちに注意深い問診と術前検査により早期に診断をつけ,手術するのが望ましいと思われた.
  • 伊藤 浩信, 西成 尚人, 吉田 徹, 旭 博史, 寺島 雅典, 高金 明典, 斎藤 和好
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1494-1497
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    本邦では比較的まれな白線ヘルニアの1例を経験したので文献的考察を加え報告する.症例は69歳,女性.上腹部腫瘤と疼痛を主訴とし来院した.受診時,上腹部に手拳大の軟らかい腫瘤を触れた.用手圧排により容易に腹腔内に還納が可能で,白線ヘルニアと診断し,手術を施行した.ヘルニア内容は小腸で白線に径2cmのヘルニア門を認め,これを縫縮した.術後経過は良好で再発はみられていない.
  • 瀬尾 泰雄, 有地 茂生
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1498-1501
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    非常に稀とされているSpigelヘルニア(半月状線ヘルニア)の1例を経験したので,本邦報告12例の集計と文献的考察を加えて報告した.
    症例は左下腹部の限局した膨隆と疼痛を主訴に来院した75歳の女性である.立位で左下腹部に3×2cm大の柔らかい膨隆を認め,仰臥位で還納し,同部に母指頭大の腱膜欠損を触知した.超音波, CT検査で,膨隆部直下の腱膜は欠損し,その部より腹腔内容が腹壁皮下に脱出し,内容は流動性で小腸と思われた. Spigelヘルニアと診断し手術を施行した.外腹斜筋腱膜を開くと,菲薄化した内腹斜筋の直下に,腹膜前脂肪織に被われた4×3cm大のヘルニア嚢があり,ヘルニア門は2.5×2cmで,ヘルニア嚢を頸部で結紮切除し,ヘルニア門を結節縫合閉鎖した.術後2カ月の現在,再発の徴候はない.
  • 多田 真和, 金丸 洋, 堀江 良彰, 出月 康夫
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1502-1505
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    通常診療の対象となる鼠径部ヘルニアは内・外鼠径ヘルニアが多く,大腿ヘルニアは比較的少ない.われわれは今日までに25例の腹腔内アプローチによる腹腔鏡下大腿ヘルニア修復術を施行し,うち2例の大腿ヘルニアを経験し良好な結果を得た.内視鏡下手術は胆嚢摘出術,鼠径ヘルニア修復術に代表される腹腔内手術をはじめ,胸腔内手術,さらには婦人科手術にまでその技術は応用され,術後疼痛の軽減,早期社会復帰,また美容上優れているという点から今日次第に普及しつつある.腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術では腹腔内よりヘルニア門を観察できるため診断が容易であり,また合併するヘルニアに対してもポリプロピレン製メッシュを用いて同時に治療することが可能であり,従来の腹壁外からのアプローチによる手術法と比較しても遜色がないと思われる.
  • 石引 佳郎, 南塚 俊雄, 大坊 昌史, 高田 方凱, 杉山 義樹
    1996 年 57 巻 6 号 p. 1506-1510
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2009/02/20
    ジャーナル フリー
    腎細胞癌の術前検査中,早期食道癌を発見し,両者ともに根治術を施行した同時性重複癌の1例を経験したので報告する.
    症例は55歳,男性.血尿を主訴に来院.腹部CT, 超音波,血管造影検査で左腎細胞癌T2N0M0, Robson分類Stage Iと診断された.
    術前検査として行われた上部消化管内視鏡検査で切歯より約28cmから34cmにかけ, 9時方向を中心に浅く不整な陥凹性病変を認めた.同部位はルゴール散布により約1/3周性の不染帯を呈し,生検で中分化型扁平上皮癌であり,早期食道癌と診断した.
    以上の診断から,左腎摘出,食道抜去術を施行した.病理組織学的には,腎癌はclear cell type, pT2, また,食道癌は中分化型扁平上皮癌,深達度mm, ly0, v0であった.
feedback
Top