骨量の維持には, ビタミンDやPTHなど内分泌的なカルシウム(Ca), リン代謝調節だけでなく, 重力や筋肉などによる骨への荷重負荷が重要である. 安静臥床や神経麻痺など不動による骨への荷重負荷の減少は, 腸管Ca吸収低下および骨量減少をもたらすが, その詳細は明らかではない. そこで, 不動による腸管Ca吸収低下機構について解析を行った. 不動動物は12週齢雄ラットの四肢をボールマンケージにより固定拘束して作成し, 腸管カルシウム吸収率, 腰椎骨密度, ビタミンD標的遣伝子群の発現を検討した. その結果, 不動群では, 対照群に比べ腸管Ca吸収率および腰椎骨密度が有意に低下した. さらに, 不動群において血中PTH, 活性型ビタミンD濃度の低下および小腸十二指腸においてビタミンD依存性Ca吸収に重要なTRPV6およびCaBPD9kの発現低下を確認した. そこで副甲状腺摘出(PTX)ラットを用いて不動による腸管Ca吸収低下に対するPTHおよび活性型ビタミンDの関与を検討した. その結果, PTX-不動群では1α-水酸化酵素および24水酸化酵素の発現は変化せず, 血中活性型ビタミンD低下を示さなかった. しかしながら, 小腸十二指腸のTRPV6およびCaBPD9kの発現は活性型ビタミンD濃度が低下しないにも関わらず有意に減少した. 以上のことより不動に伴う腸管Ca吸収の低下には, ビタミンD標的遺伝子であるTRPV6およびCaBPD9kの発現低下が原因であるが, PTHおよび活性型ビタミンDとは異なる別の因子を介したCa吸収調節経路が重要であることが明らかになった. 〔論議〕<岡野委員>以下の点についてお教えください. 1)小腸でのビタミンD受容体の発現は, 不動化モデル, PTXモデルで変化は見られたのでしょうか. 2)同様のカルシウム吸収機構を持つ小腸と腎臓で, 不動化によって異なる反応が現れる理由についてお教えください. 3)不動化によって誘導されるunknown factorは, 小腸で産生されるものか, local factorとして小腸以外の組織で産生され, 小腸Ca吸収に影響を及ぼすのでしょうか. <山本浩範氏>1)確認しましたが, 不動化モデル, PTXモデルでは変化ありませんでした. 2)わかりませんが, 腸管特異的な因子が関与しているためだと考えております. 3)不動応答因子の産生組織の同定はできていませんが, 小腸以外の組織で産生されていると考えています. <加藤委員>1)リン代謝調節因子の発現等は影響を受けているのでしょうか. 2)血中リン酸濃度に変動はあったでしょうか. <山本浩範氏>1)現在検討しているところです. 2)血中リン酸濃度は変化ありませんでした. <須田委員長>不動化モデルはボールマンケージを使って動物を固定している. 固定に伴って動物にはストレスが加えられ, 内分泌系にも変化がおこると思われるが, 対照群はその影響をどのように考慮しているか. <山本浩範氏>対照群は, 自由行動ラットを使用しています. 不動動物モデルとして, tail-suspension, 坐骨神経切除モデルなどがあるが, 腸管Ca吸収に関しては結果が一定しておらず, 不動性腸管Ca吸収低下モデルとしては, 適していないと考え, ボールマンケージを使用しました. ストレスの影響として, ドーパミンおよびカテユラミンを測定したところ, tail-suspensionモデルと同程度であり, ストレスの影響は少ないと考えています. 顕微組織学的には全く影響はありませんでした.
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