腎不全における活性型ビタミンD製剤への考え方は, 時代とともに変遷してきた. 慢性腎不全においては腎機能の低下に伴うリンの蓄積, ビタミンDの活性化の低下により二次性副甲状腺機能亢進症が引き起こされ, 維持透析患者の予後を悪化させる重要な一因となっている. 1980年代の初頭より経口1α(OH)D_3が投与されるようになり, さらに次々と新規ビタミンD製剤が登場し, 上昇したに副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone;PTH)を抑える手段が格段に増えてきた. ところが一方, 過度にPTHを抑制してしまう医原性の機能低下も, 現在の臨床の場で問題となってきている. 以上のことをふまえ, 単にPTHのレベルをコントロールする手段としてだけでなく, 維持透析患者のアウトカムにどのような影響を与えているかが, 医療従事者の興味の的となっている. 2003年N Engl J Med誌に次のような報告が掲載された. 1999年から2001年の三年間にparicalcitol(19-nor-1,25(OH)_2D_2)使用患者29,021名とcalcitriol(1α, 25(OH)_2D_3)使用患者38,378名の36ヶ月の生存率についてhistrical cohort研究が行われた. その結果, paricalcitolによる治療を受けた患者の死亡率は0.180/人, 年であったのに対し, calcitriolによる治療を受けた患者の死亡率は0.223/人, 年であった(P<0.001). 生存率の差は投与後12ヶ月で有意であり, 継時的に有意性は増加した. 補正後の解析では, paricalcitolによる治療を受けた患者ではcalcitriolによる治療を受けた患者より死亡率が16%低かった. なお, 12ヶ月目のCa値およびP値は, paricalcitol群ではそれぞれ6.7%および11.9%増加したのに対し, calcitriol群ではそれぞれ8.2%および13.9%増加した(P<0.001). これらの結果より, 新しいビタミンD誘導体の有用性が臨床の場においても証明された. また, T. Shojiらは死亡原因を心血管系と非心血管系に区別し, ビタミンD(alfacalcidol;1α(OH)D_3)内服との関連を検討した論文を発表している. 242名の透析患者コホートにおいて, 超音波による頚動脈IMT(intima-media thickness)や頚動脈石灰化の有無も評価している. その結果, ビタミンD内服群において心血管系死亡のリスクが有意に低いこと, ステップワイズの多変量Coxモデルを用いると他の因子で調整してもなお有意性を証明している. 以上の研究から, 活性型ビタミンD製剤の投与の有無や選択された製剤により, 透析患者のアウトカムに差があり, 特に心血管系死亡との関連が強いことが示唆された. 現在のビタミンD製剤使用の主な目的はPTHのコントロールであるが, PTHを介さない透析患者の予後への効果についても, さらなる関心と研究の進捗が期待される. 文献 1) Teng M, Wolf M, Lowrie E, Ofsthun N, Lazarus JM, Thadhani R (2003) Survival of patients undergoing hemodialysis with paricalcitol or calcitriol therapy. N Engl J Med 349, 446-456 2) Shoji T, Shinohara K, Kimoto E, Emoto M, Tahara H, Koyama H, Inaba M, Fukumoto S, Ishimura E, Miki T, Tabata T, Nishizawa Y (2004) Lower risk for cardiovascular mortality in oral I a-hydroxy vitamin D3 users in a haemodialysispopulation Nephrol Dial Transplant 19, 179-184
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