ゲラニルゲラノイン酸(GGA)は, レチノイド受容体に対するリガンド活性から, 当初は非環式レチノイドのひとつとして認識されたが, その化学構造からメバロン酸経路を経由して動物細胞でも生合成できる可能性があると考えられる.そこで我々は, 哺乳動物細胞におけるGGAの生合成の研究を開始し, GGAの生物活性のメカニズムの研究をヒト肝がん細胞におけるGGAの細胞死誘導作用を中心に行った. その結果、GGAがラットの肝, 脳, 精巣などほとんどの臓器に内因性の脂質として検出され, さらにいくつかのヒト肝がん由来細胞株においてメバロン酸経路を介して生合成されること, その代謝経路にモノアミン酸化酵素B(MAOB)が関与していることなどが明らかになった. 一方, GGAの生物活性については, ヒト肝がん由来細胞株において, 脂質誘導性アンフォールドタンパク応答(UPR)がオートファジーの不完全応答の上流プロセスであり, Toll様受容体4(TLR4)を介したパイロトーシスがGGA誘導細胞死に関与している可能性があることを明らかにした. GGA誘導性UPRによりカスペース4(CASP4)が直ちに活性化され, ガスダーミンD(GSDMD)はGSDMDのN末端断片を産生した後, 細胞膜にトランスロケーションされた. その後, 細胞内Ca
2+濃度の緩やかな第二のアップレギュレーションに続いてCASP1の活性化が起こり, GGAがインフラマソームを活性化したことが示唆された. GGA による CASP1 活性の上昇と細胞死は、オレイン酸、VIPER(TLR4の阻害ペプチド), MCC950(NLRP3 インフラマソームの選択的阻害剤), または CASP4 阻害ペプチドの共処理によって阻害された. 以上のことから, 本研究の結果は, ヒト肝がん由来の HuH-7 では, GGAがメバロン酸経路を介してMAOBの関与により生合成されること, そしてそのGGAがマイクロモル濃度に達すると肝がん細胞に対して TLR4 シグナルを介してパイロトーシスによる細胞死を引き起こすことを強く示している.
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