現在,活性型ビタミンD_3(1)の研究領域は,骨粗鬆症をはじめとする骨疾患,白血病・乳がん・前立腺がん・結腸がんなどを主な対象とする腫瘍学,乾癬などの皮膚疾患,アルツハイマーなどの神経科学,免疫調節,ホルモン分泌,あるいは造血細胞系など,生命科学の幅広い分野に展開している.さらに,最近の活性型D_3研究を活性化しているのは固有の受容体(ビタミンD(D)レセプター:VDR)のクローニングであり,分子生物学的な作用メカニズムの解明に向かって急速に進展している.分子レベルで考える脂溶性シグナル分子としての活性型D_3の機能は,我々有機化学者にとっても大変興味深い.活性型D_3と有機合成化学のかかわりは1の構造が発表された当初から始まり,1そのもののエレガントな全合成研究と共に,千を越す誘導体の合成が現在までになされた.特に,D環部側鎖の構造修飾が製薬企業を中心に進み,乾癬,副甲状腺機能亢進症,骨粗鬆症,乳がんなどのすぐれた治療薬が生まれ,臨床に役立てようとしている.側鎖の構造活性相関に関する倫理的研究についてのすぐれた総説もある.一方,A環部の構造修飾については,C10(19)位のエキソメチレン基を欠くDeLucaらの19-nor体(2)に関する研究が活発である.一般に19-nor誘導体は,VDRへの結合親和性が低いにもかかわらず分化誘導能が高いことが知られ,多量投与で起こる高カルシウム血症を引き起こし難い薬物として臨床面から注目されている.19-nor体のA環前駆体の構築には,DeLucaらのキナ酸を利用する方法,〓〓らの不斉触媒を用いる立体選択的カルボニル_エン環化反応を用いる方法,また最近では佐藤らの光学活性5-hydroxy-2-cyclohexenoneから導く方法などが報告されている.さて,VDRへの結合親和性という観点からみると,CD環から側鎖部分の修飾以外に,天然体を上回るD_3構造は存在しなかった.VDRへの結合が多くのD作用発現の要であることから,我々はA環アナログの体系的合成によって,VDRとの結合親和性を指標とするD活性と構造の関連を明らかにする研究に着手した.
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