(1) 神奈川県内の河川水系あるいは土壌型を異にする18地区からミズガヤツリ20系統を採集し, 3~5年間ポットで育成した。1976年に18系統を水田枠内で均一栽培し, それぞれの地区内の5クローンについて7形質を調査した。また1977年には, 20系統を同様均一栽培し, 生態・形態特性20形質を調査し, 多変量解析法の一つである主成分分析法により系統の分類を行った。
(2) 1976年の実験では, 11地区内のクローン間には有意な形質差はみられなかったが, 他の7地区内クローン間には1~3形質で有意差が認められ, 地区によっては, 同一水系50~数百mの小地区内に表現形質の異なるクローンが混生していることが推察された。
(3) 1977年の実験では, 塊茎出芽始期, 出穂始期の他, 茎葉の栄養体6形質, 種子繁殖器官5形質及び塊茎に関する7形質計20形質全てについて, 系統間差異が1%の有意水準で認められ, 供試20系統内には, 何等かの形質特性が著しく異なる系統が存在すると考えられた。
(4) 20形質の中, 出穂始期や葉幅, 花茎直径の他, そう果数, 塊茎個体重, 塊茎直径及び塊茎全重等の13組形質間で0.80以上の高い相関が認められ, 出穂が早い系統, あるいは茎が太く葉幅の広い系統は, 種実生産数が多く, 大型の塊茎を生産する傾向があるなど, 栄養器官と繁殖器官の特性との関係が明らかとなった。
(5) 20系統の20形質の相関係数に基づく主成分分析の結果, 第1~3主成分までで全体の73%の情報を説明でき, 高い精度で系統の分類を行うことができた。また, 主成分の形質別因子負荷量 (主成分と形質との相関) から, 出穂始期, 葉幅, 花茎直径, 花茎数, 小穂数, そう果数, 塊茎盛径, 塊茎数及び塊茎個体重などは, 第1, 第2主成分でその変動の多くを説明できた。
(6) 第1~第3主成分についての20系統のスコア散布図の相互の位置により, 供試20系統をI~VII群に分類した。このスコア散布図中の群間の距離により, I, III, IV及びVの4群は相互の形質差が顕著で隔りの大きいグループとみられ, IIとVIIの2群は調査形質について類似度の高いグループと推察された。
(7) 気象条件的に大きな差がない狭い本県水田地域に, 防除上関係の深い生態・形態特性に顕著な差異を示すミズガヤツリ系統の存在が認められたが, このことは, 防除効果のふれの判断や正確な防除試験実施の上で, あるいは適確な防除法確立の面で, 種の変異性, 多様性という従来とは違った観点からの検討の必要性を示唆するものと考えられる。
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