日本外科系連合学会誌
Online ISSN : 1882-9112
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35 巻, 4 号
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原著
  • 猶本 良夫, 山田 英司, 田邊 俊介, 藤原 康宏, 櫻間 一史, 野間 和広, 元木 崇之, 高岡 宗徳, 白川 靖博, 山辻 知樹
    2010 年 35 巻 4 号 p. 509-515
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     目的:胸部食道癌に対する頸部郭清の意義と手術侵襲の軽減を目的とした頸部郭清簡略化の妥当性を検討した.方法:1997年1月1日から2006年12月31日までの当院における胸部食道癌425例を対象とした.当院での胸部食道癌に対する頸部郭清の基準は,Ut症例,Mt・Ltのうち術前の画像診断でリンパ節転移が疑われる症例,術中迅速病理診断で#101あるいは#106recが陽性の症例にのみ#104の郭清を施行している.結果:Mt・Lt症例について,#104の郭清を行った89例中39例(43.8%)にリンパ節転移を認めた.#104の郭清を行わなかった254例中6例(2.4%)に同リンパ節に転移を認め,3例に追加郭清を行い良好な結果であった.予後をみると,#104郭清の有無で有意差は認めなかった.結語:FDG-PETなど術前の画像診断と術中迅速病理診断により,Mt・Lt食道癌における頸部郭清の簡略化は可能と考えられた.また頸部転移に対しては追加郭清が有効であった.
  • 上田 順彦, 小坂 健夫
    2010 年 35 巻 4 号 p. 516-522
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     進行胆嚢癌の外科的治療成績の向上を目的として,系統的リンパ節郭清施行例25例を対象としてリンパ節郭清の適応と至適範囲について検討した.リンパ節の群別転移率はpN1(+)10例(40%),pN2(+)9例(36%),pN3(+)5例(20%)であった.pN別5年生存率はpN0 73%,pN1,pN2はそれぞれ50%であった.pN3では4例中1例は5年以上生存したが,5年生存率は25%であった.またpN2またはpN3のうちpBinf(-)でリンパ節郭清目的にPDを付加した2例のみ,5年以上無再発生存が得られた.以上の結果より,リンパ節郭清範囲は転移頻度が高く郭清効果がある程度認められる第2群までのリンパ節郭清が標準と考えられた.またPDの適応は,pT2またはpT3でリンパ節転移を主な進展様式とする進行胆嚢癌症例で,No.16リンパ節に転移がなく,PDを付加しないと第2群リンパ節の完全郭清が危ぶまれる症例と考えられた.
  • 佐川 まさの, 勝部 隆男, 村山 実, 山口 健太郎, 五十畑 則之, 浅香 晋一, 吉松 和彦, 塩澤 俊一, 成高 義彦, 小川 健治
    2010 年 35 巻 4 号 p. 523-528
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     [目的]消化器癌手術において,臓器別に栄養スクリーニングの指標を設定することを目的とした.[対象と方法]対象は2005年1月から2009年1月に切除された食道癌70例,胃癌107例,大腸癌165例,膵臓癌26例.栄養スクリーニングの指標は,年齢70歳以上,血清アルブミン(Alb)値3.6g/dl未満,body mass index (BMI)18.5未満,糖尿病(DM)併存あり,%肺活量(%VC)80%未満,一秒率(FEV1.0%)70%未満の6項目とし,臓器別に合併症発生率や術後在院日数との関連を検討した.[結果]合併症発生率や術後在院日数と関連する指標は,食道癌では年齢70歳以上,BMI 18.5未満,%VC 80%未満,FEV1.0% 70%未満,胃癌では年齢70歳以上,Alb値3.6未満,大腸癌では年齢70歳以上,Alb値3.6未満,DM併存あり,%VC 80%未満,膵臓癌ではAlb値3.6未満であった.[結論]これらを指標に,臓器別により効果的な栄養スクリーニングを施行し,適宜栄養療法を行って合併症の減少,術後在院日数の短縮に努めたいと考えている.
臨床経験
  • 伊藤 元博, 熊澤 伊和生, 西尾 公利, 森川 あけみ
    2010 年 35 巻 4 号 p. 529-533
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     【目的】Malignant bowel obstruction(MBO)症例に対する,オクトレオチドの有用性を検討する.【方法】2007年9月から2008年8月までに当科に入院したMBO症例7例を対象に,retrospectiveにオクトレオチドによる悪心,嘔吐の症状緩和効果,有害事象を検討した.嘔吐の評価法はJapan Clinical Oncology GroupのToxicity Scaleを用い,Grade低下が認められた場合に有効と判定した.【結果】原疾患は胃癌5例,結腸癌1例,膵癌1例.性別は男性3例,女性4例.年齢は38歳から81歳で平均年齢は61.7歳であった.投与は全例0.3mg/day持続皮下注射で,平均投与期間は19.1日であった.悪心・嘔吐に対して71.4%に改善効果を認め,ほぼ満足すべき治療効果が得られた.有効例では全例MBO発症時よりオクトレオチドを使用し,3日以内に改善傾向を認めた.有害事象としては,1例にγ-GTPの上昇がみられた.【結語】MBO症例に対してオクトレオチドは有効で,発症早期からの投与が重要である.
手技・機器の開発
  • 金 達浩, 塩澤 俊一, 碓井 健文, 土屋 玲, 猪瀬 悟史, 会澤 雅樹, 吉松 和彦, 勝部 隆男, 成高 義彦, 小川 健治
    2010 年 35 巻 4 号 p. 534-538
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     目的:肝胆膵領域の手術における術後創感染の予防を目的とした創閉鎖法を工夫し,その有用性について検討した.対象と方法:平成20年1月から当科で施行した肝胆膵疾患の開腹手術例のうち,新しく工夫した創閉鎖法(皮下組織の加圧洗浄,閉鎖式持続吸引ドレーンの皮下留置,真皮埋没縫合による皮膚閉鎖:真皮縫合法)を行った31例と,従来からの手技で閉腹した34例(従来法)について,術後創感染の発生頻度を比較検討した.結果:術後創感染の発生は,真皮縫合法では従来法に比べて少ない傾向にあり,とくに正中切開で開腹した症例では,真皮縫合法で有意に創感染の減少を認めた.結語:本法は術後創感染の予防に有効な手技と考えられる.
症例報告
  • 坂下 文夫, 佐治 重豊, 竹内 賢, 山本 淳史, 松永 研吾
    2010 年 35 巻 4 号 p. 539-543
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     症例は68歳,女性.右乳癌にて2007年5月に乳房扇状部分切除術と腋窩郭清を施行した.病理診断はscirrhous carcinoma,p,nuclear grade 3,ly3,v3,n1,ER(-),PgR(-),HER2(3+).術後残存乳房への照射とUFT内服を行った.2008年3月頃から残存乳房の発赤・腫脹・糜爛,右上肢から頸部にかけての疼痛・浮腫がみられtrastuzumab/letrozole併用療法を開始したが9月頃より局所に米粒大結節が出現し,生検にて乳癌局所再発と診断した.Trastuzumab/docetaxel併用療法に変更したが,皮膚炎は増悪し潰瘍を形成して出血するようになった.TS1/paclitaxel併用療法に変更し,局所治療を追加して良好な上皮形成がみられ潰瘍出血が制御できた.局所の結節は消失し,右上肢から頸部の疼痛・浮腫も改善した.CT,PETでも奏効を示した.
  • 地曵 典恵, 清水 忠夫, 中野 雅行
    2010 年 35 巻 4 号 p. 544-549
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     症例は60歳,女性.26年前,他院で左乳癌に対して拡大乳房切除術+植皮術を受け,術後20年間経過観察,再発は認めていなかった.2008年4月腰痛が出現,脊椎MRIでTh12からL1レベルで腫瘍による脊髄後方圧排所見がみられ,脊椎転移と診断した.また,前胸部正中に3cm大の皮下腫瘤を認め,針生検で乳癌局所再発と診断,ER陽性,PgR陽性,HER2(2+)であった.胸部造影CTでは多発肺転移,左胸水貯留,癌性胸膜炎を認め,腫瘍マーカーはCEA 38.6ng/ml,CA15-3 307U/mlと上昇していた.全身治療としてホルモン療法を,脊椎転移に対して腰痛緩和を目的に放射線治療を開始したが,急激な脊髄麻痺症状が出現したため,腫瘍摘出+後方除圧固定術を施行した.術後は独歩可能となり,患者のQOLは著明に改善し,術後5カ月目には胸水も消失した.術後1年6カ月の現在,前胸部の再発巣も縮小し,自立した生活が可能で良好なQOLを維持している.ホルモンレセプター陽性乳癌晩期再発症例は予後が期待できる場合があり,脊髄麻痺症状を伴う脊椎転移症例に対しても,積極的な手術治療を考慮してよいと考える.
  • 井上 寛章, 平野 明, 清水 忠夫, 上村 万里, 小倉 薫, 金 直美, 瀬戸口 優美香, 大久保 文恵, 小川 健治, 藤林 真理子
    2010 年 35 巻 4 号 p. 550-554
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     乳腺悪性葉状腫瘍は比較的稀である.今回,急速に増大した巨大悪性葉状腫瘍の1例を経験したので報告する.症例は53歳の女性.5カ月前より大きさ5cm弱の右乳房腫瘤を自覚し,1カ月前から急速に増大したため当科を受診した.来院時,右乳房に皮膚の菲薄化と発赤を伴う18.0×13.5cm大の巨大腫瘍を認めた.超音波では充実成分と液体成分の混在する巨大な低エコー腫瘤で,葉状腫瘍が疑われた.造影CT,MRIでは内腔に突出する充実成分を有する嚢胞内腫瘍と右腋窩リンパ節腫大を認めた.針生検では壊死組織を認めるのみで確定診断は得られなかった.臨床経過と画像診断より悪性葉状腫瘍を強く疑い,右乳房切除術,腫大した腋窩リンパ節摘出を施行した.病理診断は悪性葉状腫瘍,切除断端は陰性,リンパ節転移はなかった.
  • Siller Jiri, Havlicek K., Cerny M., Sakra L., Cervinka V.
    2010 年 35 巻 4 号 p. 555-559
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    Introduction Subclavian vein cannulation is associated with a number of complications. Hemothorax occurs in approximately 2% of cases. Immediate surgical revision of the chest cavity is indicated in case of large blood loss or insufficient circulation. The management of hemorrhage in the pleural apex is extremely demanding due to its bad accessibility and conventional surgical procedures are often insufficient. In such situations the local application of topical hemostats can be used instead.
    Case report The report presents a 36–year–old patient with a massive, left hemothorax developing after subclavian vein catheterization. Surgical review detected a source of bleeding in the superior thoracic aperture area that could not be stopped with conventional surgical procedures. As a result, TachoSil and Arista preparations were applied with good effects.
  • 成高 義彦, 五十畑 則之, 浅香 晋一, 島川 武, 山口 健太郎, 勝部 隆男, 横溝 肇, 吉松 和彦, 塩澤 俊一, 小川 健治
    2010 年 35 巻 4 号 p. 560-565
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     近年,悪性食道狭窄に対する治療として,食道ステントの挿入が広く行われているが,時に挿入困難な症例に遭遇する.今回,操作性が改良された新型Niti-STM食道ステントを使用し,良好な結果を得た1例を経験したので報告する.
     症例は80歳の女性,主訴は摂食障害,肺門部から縦隔内に進展する肺癌により食道狭窄をきたし,食事摂取を可能にする目的でNiti-STM食道ステントを用いて食道内挿管術を施行した.本ステントの特徴はデリバリーシステムの外径が16.5F(約5.4mm)と細く,高度狭窄例に対しても容易に挿入留置できることである.約15分で挿入が可能で,ステント挿入直後から狭窄症状は改善された.また固定性もよく術後約2カ月で原病死するまで6分粥の摂取が可能であった.
     以上,新開発されたNiti-STM食道ステントは,従来挿入困難であった高度狭窄例への挿入留置が容易で固定性も良好であった.今後,食道内挿管術において広く使用されることが期待される.
  • 藤田 正一郎, 和田 亜美, 渡辺 康則, 中口 和則, 甲 利幸
    2010 年 35 巻 4 号 p. 566-570
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     症例は76歳,男性.胸部下部食道癌にて胸部食道切除術を施行した.病理検査の結果,stage IIIであったため,術後補助化学療法を施行し,経過観察中であった.術後8カ月に全身検索のためCT,MRI,FDG-PETを施行した.胸部CTでは胸骨背側に1.5cm大の造影で濃染される腫瘤があり,FDG-PETで同部位に高吸収域,MRIの拡散強調像でも同部位に高信号を呈する腫瘤像を認めた.胸骨後面に食道癌の転移性病変を疑い,診断目的で切除術を施行した.胸骨縦切開にて開胸すると,右肺中葉に2cm大の弾性硬,表面凹凸で,辺縁は肺の胸膜を引き込む形の腫瘤を認め,右肺部分切除術を施行した.術後経過は順調で第13病日に退院となった.病理組織は中分化型扁平上皮癌で,食道癌の肺転移と診断された.今回われわれは,食道癌術後の肺転移の診断にMRIの拡散強調像が有用であった症例を経験した.今後症例の蓄積は必要であるが,食道癌の再発転移の診断にMRIの拡散強調像が有用である可能性が示唆された.
  • 今田 慎也, 平尾 素宏, 藤谷 和正, 安井 昌義, 宮本 敦史, 池永 雅一, 宮崎 道彦, 三嶋 秀行, 中森 正二, 辻仲 利政
    2010 年 35 巻 4 号 p. 571-575
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     症例は57歳,男性.嚥下障害で近医受診した.食道癌と診断され当院紹介された.上部消化管内視鏡で切歯から36~38cmに半周性の2型病変を認め,また切歯から25cmにヨード不染帯を認め,いずれも中分化扁平上皮癌と診断された.また,胃体中部後壁に2型病変を認め,高分化腺癌と診断された.入院後の精査で右下咽頭梨状窩に腫瘍を認め,生検で中~低分化の扁平上皮癌と診断された.3重複癌に対して化学療法を行った後,手術を施行した.手術は食道全摘+胃全摘+下咽頭喉頭摘出術を施行した.再建は,右結腸を用いた有茎結腸再建を行った.術後,重篤な合併症なく退院した.病理結果は,化学療法の効果判定は下咽頭癌のみGrade 3であった.食道癌に胃癌・下咽頭癌を合併した3重複癌に対する一期的切除症例について報告する.
  • 石井 淳, 山崎 有浩, 田村 晃, 谷島 聡, 前田 徹也, 大嶋 陽幸, 野崎 達夫, 渋谷 和俊, 島田 英昭, 金子 弘真
    2010 年 35 巻 4 号 p. 576-581
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     症例は60歳代の男性.特発性血小板減少性紫斑病に対し10年前に腹腔鏡下脾摘術を施行したが,その後も血小板減少がみられ,プレドニン内服加療中であった.経過中,胃幽門前庭部大彎に0-IIc早期胃癌を認め内視鏡的粘膜下層剥離術を施行したが,病理組織検査結果から追加手術が必要と判断した.術前に腹腔動脈造影検査を行い,脾動脈から分岐する後胃動脈および左胃大網動脈を確認した.濃厚血小板輸血後,両動脈を温存した腹腔鏡補助下幽門側胃切除術(D1+β)を施行した.術中止血に難渋することなく,残胃の色調にも変化はみられなかった.特発性血小板減少性紫斑病を合併した胃癌に対する治療では,まず血小板減少による出血傾向への対策が必要である.さらに幽門側胃切除適応症例においては,脾摘を行うことで生じる残胃の血流低下に十分に留意しなければならない.
  • 豊崎 良一, 野崎 功雄, 小畠 誉也, 大田 耕司, 久保 義郎, 棚田 稔, 栗田 啓
    2010 年 35 巻 4 号 p. 582-587
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     症例は70歳,男性.前医で前庭部の多発胃癌に対し,一括切除によるendoscopic submucosal dissection(ESD)が施行された.病理診断は0-IIc,tub1>tub2,4cm,sm,ly1,v1,LM(+),VM(-)であったが,経過観察された.ESDから2カ月目にCEAが10.9ng/mlと上昇し,上部消化管内視鏡検査にて局所再発を認めた.当院に紹介され,胃切除術を行ったが病理組織学的に胃局所再発と幽門下リンパ節転移を認めた.胃切除術後3カ月目にCEAが61.2ng/mlと上昇し,CTにて多発肝転移を認めた.早期胃癌の内視鏡治療は,endoscopic mucosal resection(EMR)からESDへ進歩し,日常診療に普及しつつある.外科的切除に比べ低侵襲性で,その適応は拡大傾向にあるが,慎重であるべきと思われる.
  • 河野 恵美子, 弓場 健義, 赤丸 祐介, 森本 芳和, 藤井 眞, 山崎 芳郎
    2010 年 35 巻 4 号 p. 588-592
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     症例は77歳の女性,嘔吐を主訴に近医を受診.上部消化管内視鏡検査で食道胃接合部直下小彎に2型病変を認め,生検にて胃癌と診断され,当科に紹介となった.来院時Hb 4.2g/dlと高度の貧血を認め,濃厚赤血球を18単位投与した後,胃全摘術(D2郭清,Roux-en Y再建),脾臓摘出術を施行した.病理組織学的診断は低分化型腺癌で,f-T2(SS),N0,H0,P0,M1(左副腎),stage IVであった.手術翌日に左不全片麻痺が出現し,頭部CTとMRIを施行したところ,右頭頂部に硬膜下血腫を認めた.発症2週間後の造影MRIでは,右頭頂部硬膜の不整な肥厚と造影効果を認め,右頭頂部硬膜転移と診断した.術後42日目より総量30Gyの全脳照射を施行した.左不全片麻痺は改善を認め,術後85日目に退院となった.胃癌硬膜転移は稀であり,予後不良とされる.自験例のように放射線治療で症状が改善し,退院に至った症例は検索しえず,文献的考察を加えて報告する.
  • 西尾 乾司, 小林 慎二郎, 櫻井 丈, 牧角 良二, 月川 賢, 大坪 毅人
    2010 年 35 巻 4 号 p. 593-597
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     症例は77歳,男性.既往歴に鼠径ヘルニアで手術歴があった.腹痛を主訴に当院の消化器内科を受診し,イレウスの診断で入院となった.入院後イレウス管を挿入され腸管の減圧状態は良好であったが,イレウス管挿入から5日目に突然の腹痛が出現した.CT検査を施行したところイレウス管の先進部を中心とした小腸に同心円状の多層構造が認められ,小腸内に腸間膜脂肪および腸管が巻き込まれていた.腸重積と診断し,陥入腸管の循環障害が疑われたため手術を施行した.口側腸管が肛門側腸管に順行性に約100cmの長さにわたって陥入していた.また重積部位から1m以上肛門側小腸に策状物による内ヘルニアが生じており,これがイレウスの原因と考えられた.イレウス管が原因となった腸重積症のこれまでの本邦報告例を集計し,文献的考察を加えて報告する.
  • Yutaka Kojima, Masaki Hata, Makoto Takahashi, Yukihiro Yaginuma, Michi ...
    2010 年 35 巻 4 号 p. 598-602
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    Breast cancer metastasis to the small intestine is relatively rare. Herein, we report a case of breast cancer metastasis to the small intestine that was found by preoperative small–bowel endoscopy 19 years postoperatively. The patient was a 65–year old female who underwent radical mastectomy for Stage III A (T3a, N1a, M0, ER(+), PgR(–), HER2 (+1)) left breast cancer in 1990. She developed epigastric pain in January 2009, and visited a local physician. CT scan revealed the presence of an abnormal chest shadow and the serum CA 15–3 level was elevated to 124 U/ml, so the patient was referred to our hospital. A close examination at the outpatient department was initially scheduled, but she was hospitalized with the diagnosis of ileus in late March. Enteroscopy revealed circumferential stenosis of the jejunum, approximately 50 cm from the Treitz ligament, and a biopsy indicated metastatic adenocarcinoma (ER(+), PgR(–), HER2 (+1)). Laparoscopic–assisted partial small bowel resection was performed based on the diagnosis of breast cancer metastasis to the small intestine. Furthermore, disseminated disease, approximately 10 mm in length, in the greater omentum was also isolated. A histopathological examination revealed that it was infiltrating lobular carcinoma.
  • 高橋 祐輔, 中川 国利, 小林 照忠, 遠藤 公人, 鈴木 幸正
    2010 年 35 巻 4 号 p. 603-606
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     症例は53歳の男性で,右下腹部痛を主訴として来院した.腹部CT検査では小腸に連続した径4cm大の腫瘤が存在し,内部に低吸収構造を認めた.膿瘍を伴うMeckel憩室炎を強く疑い,腹腔鏡下に観察した.回腸末端から約60cm口側の回腸に,憩室が存在した.そこで自動縫合器を用いて,回腸の一部を含めて憩室を切除した.切除標本では憩室の粘膜は壊死し,内部に膿が存在した.術後経過は良好で,術後7日目に退院した.Meckel憩室炎に対する腹腔鏡下手術は大変有用で,確定診断から治療までを一貫して施行できた.
  • 田村 暢一朗, 池田 博斉, 守本 芳典, 大目 祐介, 河本 和幸, 岡部 道雄, 伊藤 雅
    2010 年 35 巻 4 号 p. 607-610
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     今回われわれはS状結腸癌に対しS状結腸切除術を施行し,術後約1年目に吻合部肛門側腸管に虚血性腸炎を発症した1例を経験した.症例は60歳代,男性.S状結腸癌に対し,2008年9月にS状結腸切除を施行した.術後病理結果はp SS N0 M0 stage IIであった.術後補助化学療法は行わず,外来にて経過観察していたところ,2009年8月初旬より水様性下痢が出現した.CTと下部消化管内視鏡検査の結果,吻合部肛門側の虚血性大腸炎と診断.消化管手術後の吻合部虚血性腸炎の報告例は稀である.若干の文献学的考察を加えて報告する.
  • 高坂 佳宏
    2010 年 35 巻 4 号 p. 611-615
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     症例は66歳,女性.2週間前より続く右腰背部痛と38℃台の発熱を主訴に来院した.腹部超音波,CTにて右後腹膜膿瘍と診断し,入院後全麻下で後腹膜切開排膿ドレナージ術を行い,軽快した.手術2週間後に施行したCTでは著明な縮小がみられた膿瘍腔と虫垂の先端部が連続する所見があり,今回の原因は虫垂炎による後腹膜膿瘍と考えられ,interval appendectomyの方針とした.術後1カ月半後よりドレーンからの排液が腐臭のある漿液性へと変化し量も多量で増加傾向あったため,CTを施行したところ術前の右後腹膜膿瘍腔に一致するように腫瘍が置換していた.腫瘍の切除生検を行い,中分化腺癌であったため,全身検索を行ったが原発と考えられる臓器はなく,CTをretrospectiveに検討し原発性虫垂癌からの後腹膜播種と診断した.右後腹膜膿瘍の原因には原発性虫垂癌も常に念頭におく必要があると考えられた.
  • 鳥越 貴行, 厚井 志郎, 中山 善文, 山口 幸二
    2010 年 35 巻 4 号 p. 616-620
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     馬蹄腎が並存したS状結腸癌に対して腹腔鏡下S状結腸切除術を施行した1例を報告する.症例は72歳,女性.近医にて便潜血陽性を指摘される.精査にてS状結腸癌と診断され,当科に紹介となった.腹部CT検査で馬蹄腎が並存したため,3D-CT血管造影検査で過剰腎動脈の有無を確認した.術前診断cSS,cN1,cP0,cH0,cM0にて腹腔鏡下S状結腸切除術(D3郭清)を施行した.馬蹄腎は先天的異常を伴うことが多いため,術前に尿管の走行,過剰腎動脈の有無を把握し,術中の副損傷に十分注意することで,安全な腹腔鏡下手術が可能となる.
  • 橋本 拓造, 板橋 道朗, 柴田 亮行, 谷 英己, 曽山 鋼一, 神戸 知充, 小林 槇雄, 亀岡 信悟
    2010 年 35 巻 4 号 p. 621-626
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     症例は68歳の男性で,主訴は貧血と左下腹部痛.既往歴・家族歴に特記すべき所見はなかった.CTと注腸造影検査にて,S状結腸に全周性狭窄を伴う腫瘍を認めた.急性腹症の治療として横行結腸で一時的人工肛門を造設した.下部消化管内視鏡検査では主病巣以外にも全結腸にわたって悪性腫瘍を疑う病変を複数観察した.内視鏡的切除が困難と思われる腫瘍の存在と異時性発癌のリスクを考慮して大腸全摘出術,J型回腸嚢―肛門管吻合術を施行した.摘出標本には脾彎曲部を境に右側結腸で6個の腺腫と1個の腺癌,左側結腸で4個の腺腫と7個の腺癌がみられた.左結腸曲を境に,右側と左側でp53陽性率に有意差を認めた.本症例の発癌過程において,adenoma-carcinoma sequenceの関与に加え,病変部位による腸内環境の違いも影響する可能性が示唆された.
  • 三賀森 学, 池永 雅一, 安井 昌義, 辻江 正徳, 宮本 敦史, 宮崎 道彦, 平尾 素宏, 藤谷 和正, 三嶋 秀行, 板東 裕基, ...
    2010 年 35 巻 4 号 p. 627-631
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     症例は73歳,女性.直腸癌の診断で全硬麻下に低位前方切除術,一時的人工肛門造設術を施行した.術後5日目に硬膜外カテーテルを刺入部の液漏れにより抜去した.同日夜に下腹部痛と振戦を伴う発熱が出現し,術後6日目にカテーテル抜去部に皮膚発赤と腫脹を伴う感染徴候を認め,その後に頭痛・項部硬直を認めた.腹部CT検査で縫合不全を認め,髄液検査で細胞数5,072/3mm3,糖36md/dl(血糖値107mg/dl),蛋白108mg/dlと異常値を示し髄膜炎と診断した.抗生剤の投与により軽快した.本症例ではカテーテル挿入時の感染や縫合不全による血行感染が原因と考えられた.持続硬膜外ブロックによる感染は,皮下での軽微なものから硬膜外膿瘍や髄膜炎などの重篤な病態までが起こりうる.感染症の危険があることを絶えず念頭に置き,挿入時およびその後の管理に於ける感染対策を十分に行うことが重要である.
  • 猪瀬 悟史, 熊沢 健一, 高岡 和彦, 梅原 有弘, 藤本 崇司, 宮内 竜臣, 塩澤 俊一, 吉松 和彦, 勝部 隆男, 成高 義彦
    2010 年 35 巻 4 号 p. 632-636
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     症例は75歳,男性.S状結腸癌,同時性肝転移(S3)の診断で手術を施行した.術前検査で明らかではなかったが,術中エコー検査で門脈本幹付近の左枝に及ぶ腫瘍栓を認めた.S状結腸切除術のみ施行し,肝転移,門脈腫瘍栓に対しては化学療法を行う方針とした.切除標本所見ではS状結腸癌と連なる形で下腸間膜静脈にも腫瘍栓を認めた.大腸癌の病理組織所見はtype 2, 4.5×4.0cm, tub1, pSE, int, INFβ, ly2, v2, pN2であった.術後,l-LV+5-FUを6コース施行したが,肝転移巣,門脈腫瘍栓ともSDであった.FOLFOX4に変更し6コース施行したところ,門脈腫瘍栓は著明に縮小し肝外側区域切除術を施行した.病理組織所見では肝転移巣,門脈腫瘍栓の組織学的効果判定は各Grade 1a,1bであった.切除断端は両者とも陰性で,根治切除が得られた.術後,FOLFOX4を7コース施行した.肝切除術後2年2カ月(初回手術後3年)の現在,無再発生存中である.
  • 高坂 佳宏
    2010 年 35 巻 4 号 p. 637-640
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     症例は85歳,女性.朝突然の心窩部痛を主訴に近医受診後,同日精査加療目的で当院紹介受診となった.右上腹部に鶏卵大の腫瘤を認めたが,圧痛はなかった.血液学的検査所見に異常はなかった.腹部CTにて,壁肥厚し腫大した胆嚢の右側壁に胆嚢管がみられた.MRCPでは胆嚢管の途絶像と総肝管の右側への偏位と途絶像を認めた.以上より胆嚢捻転症と診断し,同日腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.胆嚢はGross II型の捻転で鬱血のみで壊死には陥っていなかった.術後経過は順調で第3病日に退院した.胆嚢捻転症は高齢者に多く,早期退院のために迅速な診断治療が必要と考えられた.
  • 豊崎 良一, 大田 耕司, 小畠 誉也, 野崎 功雄, 久保 義郎, 棚田 稔, 栗田 啓
    2010 年 35 巻 4 号 p. 641-646
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     症例は,76歳,男性で,左腎細胞癌,膀胱癌,前立腺癌の既往歴があった.平成19年12月に術後経過観察目的に行われた単純CTで,膵尾部に径28mmの類円形嚢胞腫瘤を指摘された.経過観察されたが,平成20年3月の造影CTでは同病変は径40mmと増大していた.嚢胞内の一部に充実部分が混在しており,充実部分は膵実質と同程度の造影効果を認めた.また,充実部分はPETにてFDGの集積を認めた.鑑別診断として,神経内分泌系腫瘍,腎細胞癌転移,後腹膜腫瘍,膵管癌が挙げられたが,いずれも非典型的であった.同4月,膵体尾部切除術を施行された.病理組織学的診断にて腫瘍細胞は好酸性の胞体をもち,ジアスターゼ抵抗性PAS陽性の微小な顆粒を有している所見から膵腺房細胞癌と診断された.
     膵腺房細胞癌は膵腫瘍の1~2%を占める稀な疾患であるが,さらに本症例のように嚢胞を伴ったものは非典型的であり報告する.
  • 中西 章, 浦出 雅昭, 佐々木 省三, 中野 達夫, 上田 順彦
    2010 年 35 巻 4 号 p. 647-652
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     症例は57歳の男性.飲酒後の腹痛,悪心,嘔吐を主訴に近医を受診したが改善せず,精査目的に当院内科に入院した.DUPAN-2が356IU/mlと異常高値を示した.腹部CT,MRIにおいて膵体部で径約40mm大の腫瘤を認め,腹腔動脈への浸潤が疑われる所見を認めた.ERCPでは膵体部で膵管が途絶しており,PET-CTでも腫瘍とその周囲に及ぶFDGの異常集積を認めた.以上の所見より腹腔動脈幹に浸潤した根治切除困難な膵体部癌と診断し,定位放射線および塩酸ゲムシタビンによる放射線化学療法を施行することとした.治療後,腫瘍マーカーは正常化,画像上,腫瘍は縮小し,PET-CTでのFDG異常集積も消失した.治療開始より4年7カ月たった現在,再燃は認められていない.
  • 川上 義行, 藤井 秀則, 土居 幸司, 青竹 利治, 廣瀬 由紀
    2010 年 35 巻 4 号 p. 653-660
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     特発性大網捻転症は明らかな器質的疾患を伴わずに大網の一部,またはすべてが捻転状態となり,捻転部より末梢側の大網が循環不全,壊死をきたす疾患である.本邦での報告は自験例を含め76例で比較的稀な疾患であるとされている.今回,術前診断により腹腔鏡下に切除しえた特発性大網捻転症の3例を経験した.症例は57歳男性,52歳男性,39歳男性.主訴は各々右上腹部痛,右下腹部痛,心窩部痛で,理学所見ではすべての症例で高度の圧痛,限局性の筋性防御を認めた.腹部US検査で疼痛部位に腹腔内低エコー腫瘤影,腹部CT検査で腹壁下低吸収域,および中心部に特徴的な渦巻き状高吸収域(whirling pattern)を認め,特発性大網捻転症と診断し腹腔鏡下大網切除術を施行した.これまでに自験例を含め9例の報告があるが,本症例においても良好な術野展開および手術操作が可能で,低侵襲に治療を行うことができたと考えられた.
  • 長谷川 和住
    2010 年 35 巻 4 号 p. 661-664
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     45歳,男性.2006年10月,右Spigelヘルニアに対し,他院で手術施行した.2009年11月上旬より術創部の腫脹を認め,同月当院を受診した.腹部所見上,右下腹部の前回手術創周囲に膨隆を認め,陰嚢内に達していた.腹部CTで右下腹部より腸管の脱出を認め,また外鼠径ヘルニアも認めた.再発性Spigelヘルニアおよび外鼠径ヘルニアの診断にて手術を施行した.手術所見では,ヘルニア嚢は外腹斜筋腱膜下に存在し,前回腹腔内に留置されていたメッシュの辺縁より脱出していた.ヘルニア嚢を剥離し腹膜前腔に空間を作成した.外鼠径ヘルニア(I-2型)に対してはヘルニア嚢を内鼠径輪の高さで結紮切離した後,ULTRAPRO HERNIA SYSTEM(UHS)を用いてSpigelヘルニアと鼠径ヘルニアを修復した.稀な再発性Spigelヘルニアの1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
  • 森 隆太郎, 簾田 康一郎, 江口 和哉, 仲野 明
    2010 年 35 巻 4 号 p. 665-669
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     症例は61歳の男性.平成18年6月,胃GISTに対し胃部分切除を施行し外来経過観察中であった.平成20年10月,腹部造影CT検査で仙骨前面に径6cm大の腫瘤を認めた.追加したMRIでは内部不均一に描出され,CTガイド下に生検を施行したが確定診断には至らず,仙骨前腫瘤の診断で手術を施行した.明らかな直腸壁との交通を認めず,また辺縁も明瞭であったため局所切除可能と判断し経仙骨的にアプローチすると,弾性軟な嚢胞性腫瘤で,一部壁を損傷したが完全に摘出しえた.内容は灰褐色,粥状で,嚢胞壁に腫瘍性部分を認めず,類表皮嚢胞と診断した.術後合併症なく経過し,10日目に退院した.仙骨前部には胎生期にcaudal endが存在し多数の胎児期組織が集合しているため,さまざまな腫瘤が発生しやすいとされる.しかし,前仙骨部腫瘤は成人には稀であるため,文献的考察を加え報告した.
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